破壊という恐怖の中で
翌朝・・・・・・・
ロイドはいつものように目覚めた。
ベッドの横にマリアたちが用意してくれた服に腕を通す。
そして、腰にガンスラッシュの入ったホルダーをベルトにつけた。
「よし・・・!」
台所に行くとテーブルの上の朝ご飯が美味しそうに湯気を上げていた。
「おはよう、おお、今朝もうまそうだな!」
「あら、ロイド、おはようございます。」
「ロイド、グッドモーニング!」
「ロイド、お早う。」
ロイドに気がついたマリア、レイ、ソフィアが挨拶をする。
「いよいよですね・・・。」
マリアはマグカップにコーヒーを入れながらロイドに話しかけた。
「ああ、」
朝ごはんを食べながらうなずく。
「なんだロイド、その気のない返事は!もしかしてビビッってるのか?!」
と、オレンジのアイライトを点滅させながらレイ。
「そ、そんなことはない。」
「ロイドなら、やれる!」
と頭の耳をピコピコさせてソフィアがロイドを応援する。
「お、おう、そうだな」
そして、ロイドは何かを振り払うかのように黙々と朝ごはんを口に運んだ。
朝食を済まし、支度を整えると
「そろそろ、行くか。」
頭にゴーグルを付けロイドは立ち上がり玄関へと向かう。そして立ち止まった。
「俺は、・・・・本当は怖いんだ。」
「ロイド・・・」
ロイドはマリアたちを振り返ると続けた。
「ずっとハンターをやってきて、いまさらかと思うかもしれない。でも、この家が、俺の戻ってくる場所がなくなってしまうと思うとその恐怖で胸が張り裂けそうなんだ。」
苦しそうに胸元を握り締めるロイドを見て、マリアは思い出したように
「忘れる所でしたわ、レイ、ソフィア、アレを渡しましょうか!」
と胸部の収納を開き中から何かを取り出した。
「うん?これは・・・?!」
出てきたのは、真ん中にフリューレからもらった四角柱の水晶をはさんで、両脇に2枚の鳥の羽のチャームが付いたネックレスだった。
「この日のために、みんなで作ったんですよ。」
ブルーのアイランプを点滅させてマリアがロイドの手にそっと握らせた。
羽根の裏側を見ると、一枚にはマリア、レイ、ソフィア、もう一枚にはロイドの名前が彫ってあった。
「力作なんだぜ、大事にしろよな!」
自慢げにオレンジのアイライトを点滅させ胸を張ってレイが言う。
「しかし、お前達の名前が入ってるのわかるんだが、何で俺の名前まで?」
するとソフィアがピンクのアイランプでじっとロイドを見つめ
「私達とロイド、いつも一緒!」
その言葉に、ロイドは、これから先のわからない戦いに立ち向かうロイドへと、このネックレスに込めたられたマリアたちの想いに気が付いた。
「マリア、レイ、ソフィア・・・」
ぎゅっとロイドはマリアたちを抱きしめる。
「ありがとう。俺は、俺は必ず守ってみせる、お前達をそして、この親父の作ったコロニーを!」
そして、照れ臭そうに離れると、ロイドはネックレスを首にかけた。
「じゃあ、行こう。マリアたちはギルドに避難するんだ。ギルドのは話を通してある。」
すると、
「いいえ、私たちはここに残りますわ。」
「でも、ここにいるよりはギルドの地下シェルターにいたほうがまだ安全だ。」
「あたしたちはここでロイドの帰りを待ってるよ。それにいざとなったら、どこにいても同じだろ?」
「ロイドの無事、家で待つ。」
ロイドは、はぁーとため息をついた。
「お前たちは一回決めると、テコでも動かないもんな。わかったよ。でも本当に危なくなったら逃げるんだぞ!」
「わかりましたわ!そのかわり、ご馳走を作って待ってますね!」
「ビシッと行ってバシッっと倒して来い!」
「ロイド、ガンバ!」
「それじゃあ、みんな、行ってくる!」
ロイドはマリア達に見送られ、家を後にしたのだった。
ズズズゥウン、ズズズゥウン
重々しい地響きと共に、だだっ広い平原にのっそりと山のような影が姿を現した。
「あれが、テラメノムか・・・」
ロイドたちは、フロンティアコロニー『ドゥム・スピーロー』から北東に20キロ離れた場所にある窪地で待機していた。その上には大小さまざまな大きさの飛空挺が何十艘も飛んでいる。
ロイドはトライルブレイザー通称TBのモノアイの望遠カメラでコクピットの中でモニター越しに初めてその姿を見た。山を背負って歩くその姿はまるで亀のようで、また、太く長い足をゆっくり動かしながら歩く姿は、昔読んだ『地球の動物達』に出てくる象という生き物にも似ていた。
オォォォォオン
時折、突き出した頭を左右に振り、そして空に向かって咆哮をあげた。
そろそろ作戦開始の時間だ・・・。
ロイドがモニターの端に表示された時計で時間を確認していると、通信が入った。
「諸君、後5分で戦闘を開始する。作戦は打ち合わせどうり、我々飛空挺部隊があのテラメノムに主砲で攻撃を仕掛ける。TB部隊はテラメノムと距離をとりつつ、飛来してくるであろうディノサウルの処理にあたってくれ。予測外のことが起きたら場合は、落ち着いて指示に従うように。以上。健闘を祈る。」
今回の作戦の指揮を執る飛空挺ブレイズの艦長マグナスからの通信が終わると
「いよいよ,始まるんだな・・・。」
「うっしゃぁ!頑張ろうぜ!」
ハンター仲間のライとボーンが通信を入れてきた。緊張しているのか、声がかすかに震えてる。
「ああ、全力で俺達のコロニーを守る!」
ロイドはガントレッドをはめたの手を握り締め、その感触を確かめた。
「艦長、作戦開始、1分前です!」
オペレーターの声が艦橋に響き渡る。
「まずはあの背中の山を破壊して丸裸にしてやろう!主砲の準備は大丈夫か?」
「いつでもいけます。艦長!」
「作戦開始30秒前、カウントダウンに入ります。30、29・・・」
「カウント0と同時に主砲発射、用意!」
「了解、カウント0と同時に主砲発射、用意!」
主砲担当の士官が復唱する。
5,4,3,2,1、・・・・0
「作戦開始!撃てぇー!!!」
空を切り裂いて、飛空挺から一斉にはなたれたレーザーが束になってテラメノムの背中に突き刺さった。
ドゴォォオオオオ
爆発と共に岩山の一部が吹っ飛んだ。
フォォオオオオン
突然の攻撃に驚いたのか、テラメノムは首を天高くそらし咆哮する。
すると、背中の爆煙の中から無数の黒い影が次々に飛び出してきた。
「TB部隊、ディノサウルに攻撃開始、飛空挺部隊は援護射撃および、主砲の再装填を急げ!」
次々に地上で待機していたTBがフライユニットを展開して飛んでいく。
「俺達も行こう!」
「おうよ、ちゃっちゃと終わらせちまおうぜ!」
「みんな無事でな!」
ロイドたちもそれぞれの背中のロケットエンジンを噴かせ空へと高く舞い上がる。
「なんて、大きさなんだ!」
上空からテラメノムを見てロイドははじめて目の当たりにするその大きさに、ごくりとつばを飲み込む。爆煙がはれて見えた岩山は、あれだけのレーザーが撃ち込まれたのにも関わらず、そのほとんどが残っていた。
・・・本当に倒せるんだろうか・・・
しかしロイドはすぐにそんな考えを振り払うかのように頭を振って気持ちを切り替える。
「今は、とりあえずディノサウルの相手だ!」
すでに衝突を始めたTB部隊とディノサウルの中にロイドは突っ込んでいく。
・・・・セーフティロック解除!・・・・
頭のサークレットに思念を送り、目の前に飛び出してきたディノサウルにライフルの銃口を向けた。
ズガン、ズガン、ズガン!
腹、首、翼に穴を開けて落ちてくディノサウル。
「思った以上の威力だ!」
フレッドが用意してくれた、対ディノサウル弾の威力にロイドは心強くなる。
「よし、どんどん来い!」
ロイドは銃口をひらめかせ、次々にディノサウルをしとめていく。
ゴォォオオ!
背後から放たれた火球のブレスを、空中でひらりとかわすとその頭を打ち抜く。
カシャン
空になったマガジンを交換して次の標的を探したときだった。
「これより主砲を発射します。射線上のTBは即座にその場から離脱してください。」
ロイドたちはすぐにその場から飛び去ると、レーザーの束が逃げ遅れたディノサウルたちを巻き込んでテラメノムに突き刺さる。
「どうよ、ロイドそっちは、」
空中で待機していると隣に来たライから連絡が入った。
「ああ、こっちは順調だ!そっちは?」
「こっちもばっちりだぜ、こいつは案外すんなりと決着がついちまいそうだな!」
そうライが余裕の言葉を発したときだった。
それまでただひたすら歩いていたテラメノムが、首をもたげ、そして思いっきり口を開く。
グオフォォオオオオオン
そして、今までにない雄たけびと共に、口から衝撃が放たれた。
「うわぁあああ」
突然の出来事でよけ切れなかったTBがその渦に巻き込まれてちぎれ爆発を起こす。
放たれた衝撃の渦がロイドたちにも迫る。
「やばい!」
ロイドはフルスロットルでロケットエンジンをふかすと、何とかぎりぎりで避けることが出来た。
「危なかった・・・・。」
額にかいた汗をぬぐってロイドが胸をなでおろした時だった。
「やばい、このままだと『ドゥム・スピーロー』に直撃するぞ!」
ボーンの声に後ろを振り返ったロイドの目に映ったのは、まさに激突する瞬間だった。
ドドォーン!
外周を囲んだ壁が吹っ飛び、地面をえぐり何もかもをなぎ倒していく。
コロニーの中心への直撃はまのがれたものの、その3分の1が吹っ飛んでしまった。
「あ、あそこは・・・・!」
ロイドは急いでアイカメラノ望遠レンズで被害のあった場所を見る。
土煙が収まりロイドの目に映ったのはえぐられた大地だった。
「お、俺の家が・・・」
そして同時にロイドの頭にマリアたちのが浮かび上がった。
「マリアァ、レイィ、ソフィアァ!」
「お、おい、どこへ行くんだロイド」
ロイドはライの呼び止める声を振り切って自分の家があったであろう場所に飛んでいった。
「マリア、レイ、ソフィア、どこだ!」
地面に着地すると、ロイドはわれを忘れてモノアイのカメラを縦横無尽にうごかし積みあがった瓦礫を押しのけて探すが、その姿はどこにも見当たらない。と、その中からジャケットが目に飛び込んできた。
「これは俺のジャケットだ。」
ロイドは瓦礫に挟まったジャケットを引っ張る。すると、その反対側の端を何かが握っているのが見えた。
それはマリアたちの手だった。
「今助けるからな!」
ロイドはTBから飛び降りると、ジャケットを引っ張りながら瓦礫をどかそうとした。次の瞬間、にジャケットがするりと抵抗もなく持ち上がった。そしてその端にはマリアたちの腕だけがぶらぶらと揺れていた。
「?!」
ロイドは声にならない声をあげてその腕をみた。
数分前、
「ふんふんふん~私はアンドロイド~あなたにー、して上げれることはー、かぎられるけどぉ~
この想いがいつかあなたに届くと信じてぇ~、たとえ~届かなくても~一緒にいられるだけで幸せだから・・・ふんふんふふふ~♪」
マリアは決まって洗濯するときはこの「アンドロイドの切ない恋」という歌を歌っていた覚えがある。
「マリア姉、そこ歌詞が違うよ!」
「音、外れてる。」
レイとソフィアが指摘するもなんのその、3人はいつもの時間をすごしていたはずだ。
そんなマリアたちにとっては一瞬の出来事だったに違いない。きっと何もわからなかったはずだ。
でも、その最後の一瞬までマリアたちはロイドの帰りを信じて、明日着るであろうジャケットを洗濯してしたいたのだ。
「だから、避難しろって言ったのに・・・」
冷たくひび割れた腕を握り締めてロイドはつぶやいた。
つつーと涙が頬を伝う。
・・・・・・・・・・・・
その腕をジャケットに包むとロイドは無言でTBに乗り込んだ。
「マリア、レイ、ソフィア・・・・。」
TBを飛ばしながら、いままでのマリアたちと過ごした日々を思い出す。
「俺はマリアたちを守るって約束したのに・・・」
ぎゅっと、ガントレットの中の手を握り締める。
ピピッ、
モニターにテラメノムが映し出される。それを目にしたロイドは心の底から何かが突き破って出てくるのを抑えることが出来なかった。
「よくも、よくも、」
そして沸々と湧き上がる怒りにまかせて、
ドォン!
ロケットエンジンの出力をMAXにして一気に飛ぶ。
「おぉおおおおお」
そして雄たけびを上げながら、テラメノム目指し疾走する。しかし、そんなロイドをディノサウルの群れが行く手をさえぎった。
「どけぇ、そこをどけぇ、」
ロイドはライフルを撃ちながらその群れに突っ込んでいく。
「ロイド、深入りしすぎだ、戻るんだ!」
ボーンは飛び出していくロイドに注意を呼びかけるが、ロイドには聞こえていなかった。
「くそう、くそう、マリアたちを、返しやがれぇぇえええ!」
ロイドは怒りのままに、ひたすら撃って撃ってうちまった。
今までもおおくの死を目にしてきた。朝笑って挨拶を交わした人が、夕方に物言わぬ屍になっていることなんてこの未開の辺境の地では珍しいことではない。
親しかった仲間も、もう何人も失ってきた。そしていつ自分がそうなるかもわからない。そう、いつ別れが来てもおかしくない・・・・・ロイドにはわかりきっていたことだった。
しかし、20年間ずっと一緒だった、唯一の家族を失った事実と、そしてその思い出がロイドの心を締めあげ、切り刻んでいった。
ガキンガキン
ライフルの弾が切れる。
「くっ、」
急いでマガジンを交換しようとする。それを見たディノサウルの一匹がこれ幸いと火球をロイドに向かって吐き出した。
ドォォン
とっさのことで反応が間に合わず、左肩のシールドで防御する。
しかし、衝撃で体制が崩れしまう。すかさす追い討ちをかけるようにディノサウルは尾を振り上げた。
バシィィイン!!!
よけることも出来ず鋭い尾の一撃を受けるロイド。
「うわぁぁああ」
ビービービー
急降下を告げるアラートがコクピットに鳴り響く。
「く、くぅ」
ガントレットをはめた腕を動かしてなんとか立て直そうとするが、きりきりと回転しながら落下する。
「ロイドォー!」
ライの叫び声もむなしく、ロイドはそのまま墜落して行ったのだった。
「族長、テラメノムと人間が戦闘を始めました。」
ロッシュは族長の部屋に入ると、ひざまずいて報告した。
「そうですか・・・。」
ドラゴンの族長はその青い目を閉じなから答えた。
「おまちください!」
制止の声を振り切って誰かが部屋に入ってきた。
「お母様!」
目の前には兜を脇に抱え、鎧に身をまとったフリューレが立っていた。
「フリューレ、その格好何ですか、あなたには今日一日の謹慎を言い渡しているはずですよ。」
「お母様、わたし行きます!」
「どこへ何をしに行くというのですか?」
「もちろん、テラメノムと戦いに!」
「行ってどうなるというのです。それに私達ドラゴンにとって、もうテラメノムの脅威は去ったんですよ。」
「でも、私は・・・」
フリューレの言葉を手で制し、
「あの青年を助けに行くのですね。いいでしょう、この際はっきり言います。あなたはドラゴン、人間の彼とは決して幸せにはなれない。万が一彼があなたの想いを受け入れて結ばれたとして、でも生まれてくる子供はどうするのですか?どちらからも受け入れられなく、不幸を背負うことは目に見えています。確かに昔は私達ドラゴンと人間の結婚はありましたし、生まれてきた子供は私達ドラゴンと人間との友好の象徴でもありました。しかし、いまは状況が違うのです。それにあなたはこの族長である私の娘。いずれは私の後を継いでドラゴンの長として皆を率いていかなくてはならないのですよ。」
そしてじっとその青い瞳に映るフリューレを見つめ
「それでもあなたは行くというのですか?」
と問いかける。
フリューレはそんな母の目を同じ青い目でじっと見つめかえし、
「彼は私のことを幾度となく助けてくれました。そしてわたしは、そんな彼をわたしは想い焦がれるようになっていました。たとえ、この想いが伝わらなくても、後悔だけはしたくないんです!たしかに、お母様がおっしゃたことは間違ってはいない。わかっています。・・・でも、それでも、わたしは、いえ、あたしはこの想いとともに彼の元へ行きます!」
兜をかぶると、フリューレは光に身をつつんだ。
「フリューレ!」
ドラゴンに変身したフリューレは母の制止を振り切るようにして、そのまま屋根を突き破り、飛び出していく。
「まるで、昔の族長を思い出すのう、あの頑固っぷりはそっくりですな。」
フリューレが飛び去った後、族長を囲んで座っている一人が言った。
「ふぉふぉふぉ、屋根を壊して行くところまで同じとはな・・・」
もう一人アゴに生えた髭を揺らしながら笑う。
「さて、どうしますかな?族長。」
丁度そこへフリューレを探しに来たオルガが入ってきた。
「失礼します。フリューレ様はこちらにおいですか?うお、これはいったい?!」
ぽっかり開いた屋根をみて驚くオルガに
「いま、飛んでいったわ。」
額に手を当てて族長は、はぁー、とため息をついた。
「な、なんと、それはいけませんな、今からすぐに追いかけて連れ戻してきます。」
そういって飛び出していこうとするオルガを呼び止めた。
「オルガ、お待ちなさい。それよりもあなたに折り入ってお願いしたいことがあるのです。」
「はっ、族長のお願いとあらば・・・!
かしこまるオルガに
「これから戦の準備をして、戦士団を率い『ドゥム・スピーロー』に向かってください。おそらくそこにフリューレも向かっているでしょうから。」
「でも、それでは、人間に加勢することに・・・」
「ええ、おそらく人間達は苦戦してるでしょう。ですから、ここでディノサウルを蹴散らし、彼らにわたし達の本当の強さを見せ付けるという意味でも絶好のチャンスになるはずです。」
「わかりました。そうとあればさっそく準備に取り掛かります!」
さっと、身を翻してオルガは部屋を出て行った。
「フリューレ、無事で帰ってきてくるんですよ。・・・」
そっと手を組んで娘の無事を祈るのだった。




