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再開

ロイドはサークレットという脳波測定器を頭にかぶった。

動け!という念を送り、歩くイメージを起こす。


ガイン、ガイン


それに呼応するかのように黒い巨人は前に向かって一歩、二歩と前に向かって歩く。次に腕にはめたガントレットを操り、腕部の動きと感触も確認する。

「いつも通りの動きだ」

周りに人がいないのを確認して、背中に背負った、だんびらの剣バスターを構えると、軽く素振りする。

「どうだい、調子は?」

外から修理を担当したTB専門技師が声をかけてきた。

「ばっちりだ!」

ロイドはハッチを開けると技師に向かって親指を上に挙げた。

あれから数日、ロイドは自分のTBの修理のためにフロンティアコロニー、『フォールキャニオン』とどまっていた。

いつもはロイド自身がTBの整備や修理をするのだが、たまたまトライルブレイザー通称TBの製造元Zui-on社の技師が立ち寄っていて、ドラゴンと戦って戻ってきた機体を是非に見たいとお願いされた。

そしてそのお礼にと修理までしてくれたのだった。

「本当にタダでいいのか?フレッド」

「ついでじゃから、気ににするな。」

一仕事やり終えたと、満足げに、フレッドはくわえたタバコに火をつけて深く吸い込みむふぅーと紫煙を鼻から噴いた。

「それにしても、またえらい旧式じゃな」

「ああ、親父のお古だからな。これでも色々自分でカスタマイズはしてるんだぜ。」

と、自分の黒いTBを見上げる。タバコの白い煙がその色を引き立たせる。

「まぁ、たしかに大事に使っているのは伝わってきたわい。」

「それに新しいTBを買う余裕なんて今の俺には全然ないしな。」

自分のTBに手をかけながら困ったようにロイドは言った。

「まぁ何も新しいければいいってもんじゃないわい。何を、いつ、どう、使うかじゃよ。」

ニッ、と笑いながらフレッドはそう言うと、短くなったタバコを足でキュキュッと踏み消した。

「じゃあ、わしはそろそろ行くかな。すまんな、送っていってやれなくて。」

「いや、フレッドがこれから行くコロニーは、俺が戻って行くほうと逆方向だから仕方ない。それに帰り道でおもわぬ収穫があるかもしれないしな。」

「わははは、たくましいな。」

転んでもわらを掴んで立ち上がる、それがハンターだ。


「じゃあ、こいつらはもっていくぞ。」

Zui-on製新型高速飛空挺デア・ブルーグ号にグレーのTBの残骸とTB専用斧が積み込まれていく。

あれから、あたりを捜索したところ、コロニー入り口から2キロ先で見つかったものだった。本社持ち帰ってリサイクルするらしい。

開拓が進みどんどん資源は増えていっているが、どんなものでも使えるものはリペア&リサイクル。ネジ一本でも無駄にはしない。

乗り込む前に、ロイドとフレッドは握手を交わした。

「これも何かの縁だ。もしも中央都の本社に寄ることがあったら是非尋ねてきてくれ。じゃあ、達者でな。」

「ああ、ありがとう。フレッドも元気で!」

ぐんぐんと飛空挺は空高く舞い上がっていってやがて点になって空へと消えていった。

「さて、俺もそろそろ行くか!」

フレッドを見送ったあと、コロニーでお世話になった人たちに挨拶をし、ロイドは『フォールキャニオン』を後にしたのだった。





たいした収穫はなかったが、ロイドは無事に拠点とするフロンティアコロニー『ドゥム・スピーロー』に到着することが出来た。

平原にあるここ『ドゥム・スピーロー』は、そこを流れる運河の中州に本陣を構え、それを囲む分厚く高い壁によって猛獣や氾濫した川の水から人々を守っていた。

また、運河を利用した交易が盛んで、他のコロニーに比べ、人も物も豊富で活気付いていた。それ以上に自分の父親たちが開拓し作ったこのコロニーは、ロイドにとって自慢であり、また誇りだった。


ロイドは、TB格納庫にTBを収納すると、コロニーの中央にある『ギルド』に向かった。

ギルドはコロニーの自治を担う中枢であり、コロニー内外の治安だけでなく、人が集まりやすいためにいち早く情報を仕入れることが出来る。そしてまた仕事の依頼斡旋なども請け負っているためハンターのロイドにとっても重要な場所だ。

まだ日は暮れていないが、ギルドに続く道は人通りが多く夕飯の買出しや仕事帰りの人たちとすれ違う。道の脇に立ち並んだ家の煙突からは煙が立ち上り、美味しそうな香りが漂ってきた。

にぎわう露店街をぬけ、その奥のギルドに付くと、ロイドは右奥のカウンターに向かった。

コンコンコン

『仕事係り』と書かれた板をたたくと、キィと椅子のこすれる音がし、ぬっと禿げた頭出てきた。

「ファン爺、戻ったぜ。」

「おお、ロイドか。聞いたぞ、大変だったんだってな。」

ロイドの際出したカードを受け取ると、ピーっと機械に通し、ぬっと節くれだった手でまた返してきた。

報告終了ー。

事務的手続きはそれで終わった。

報酬はすでに依頼主に貰っていたため、本当はそこで仕事は終わりだ。報告したからといって追加報酬が出るわけではない。

だが、戻ってきたときは報告するのが礼儀というも。また報告することにより、間接的ではアルがお互いの情報交換にもなるため、暗黙の了解になっていた。

「ドラゴンとやりあったって聞いて心配したぞ。」

ファン爺はロイドの父親とは古いなじみで、昔から何かとロイドを気にかけてくれた。

「ああ、ダンとタッグがやられちまった。」

「そうだってな。残念なことだ・・・。」

ロイドにとって初対面だった彼らも、受付をするファン爺にとっては見知った間柄なはずだ。危険と死と隣り合わが日常だとしても、ファン爺の声からは悲しみが感じられた。

「まぁお前さんだけでも無事でよかった。」

「まぁな、でも俺もTBが故障してり大変だったんだ」

「でも修理は終わってるんだろ?まぁTBが無事でも中身が死じまったら元もこうもないけどな。」

わはははと笑うファン爺に、

「とこでファン爺、話がかわるんだが、いつもよりコロニーの人が多い気がすんだが、俺の気のせいか?」

ロイドはさっきから気になっていた違和感を確かめるためにファン爺に尋ねた。

「ああ、惑星中央政府からお役人さんやその護衛のTB部隊がきているだよ。何でも、北東の山脈地帯で鉱山が発見されたらしい。」

禿げ上がった頭を撫でながらファン爺は答える。

「鉱山か・・・・。」

「まぁいずれ、機材の運搬や護衛などの依頼がくるだろうから、そのうち行く機会があるかもな。」


ロイドはファン爺と別れると、次の仕事を物色しに仕事以来掲示板に向かった。めぼしい依頼の書かれたのを何枚かその束から取っていく。仕事は受付に申請して初めて受理されるのもなので、難易度や期限に関わらずとっていく。

「次はどれにしようか・・・」

そう思案するロイドは後ろから肩をたたかれ振り返った。

「よぉ。ロイド!聞いたぜ、ドラゴンとやりあったんだって!よく帰ってこれたもんだ。」

「ほんっと、つくづくお前は悪運が強いよな!」

そう声をかけてきたのは、ハンター仲間のライとボーンだった。二人とは歳が近いという事もあって何度も仕事を共にした仲だ。その二人の顔を見るとロイドの顔に笑みが浮かぶ。

3人はギルドの中に設けられたバーに肩をお互いに組んで向かう。

「さぁ。ロイドの生還と、我々の再開を祝って、かんぱーい!」

持ったジョッキをお互いにぶつけて勝ち鳴らし、一気に喉へと注ぎ込む。キンキンに冷えた黄金の水は喉ではじけ、泡となり体中に染みわっていく。

・・・ああ、帰ってきたんだ・・・

ロイドがようやく身も心も開放された瞬間だった。


「そうか、ダンのおっさんは逝っちまったんだな。」

「ああ、目の前でドラゴンもろとも・・・・」

ライはダンとは何回か組んだことがあったらしく、死んだことを聞くと遠い目をして思いにふけった。

ライが黙ったのをみて、今度はボーンが

「俺はタッグとよく組んでいたんだが、あいつも、・・・そうなのか?」

「ああ。直接死に際を見たわけじゃないが、その後見つかったTBがあんな状態じゃぁ、万が一つにも生きてはいないだろう。」

「そうか・・・」

ボーンも黙る。


シーーーーーーン


と3人は黙りこくってしまった。

ちびちび飲んでいると、突然ライが大声を出した。

「うおぉぉーし、今夜はダンとタッグの分まで飲んで飲んで飲み明かすぞ!かんぱーい!」

「ほら、ロイドもどんどんのめぇ~!ボーン、一気だぁ~!」

すっかり暗くなった外をバーの窓からはライの声と光があふれ出した。

夜はまだまだ始まったばかりだった・・・・。



「ただいまぁ~ケプッ」

ふらふらになってロイドが自宅に帰ってきたのは夜も白んだ明け方だった。

ギィ

扉を開けるとフィーンと何かが近づいてきた。

「あらまぁ、ロイドお帰りなさい」

優しい声でロイドを出迎えたのは、ブルーのアイランプを点滅させたお手伝アンドロイドのマリアだった。

メイド服をあしらったボディに、頭部のツインテールに髪を縛ったようなピコピコ動く二つの耳と、発音器から流れる女性の声から女性型アンドロイドだということがわかる。

反重力という技術で移動するため脚部はなく、メイド服裾から出たツルンとした球面を下に地面スレスレに浮いていた。

「マリア、ただいま。」

そういいながら上着をテーブルの横の椅子の背もたれにかけるとどかっと座る。

「水ー」

「はいはい」

そう言うであろうと、マリアはすでに持ってきた水の入ったカップををロイドに渡す。

ごくごくごく・・・ふぃ~。

一気に飲み干し一息つく。

「ロイド!帰ってくるの遅いぞ!」

マリアの胴体から今度は元気はつらつとした声が、オレンジのアイランプの点滅と共に聞こえてきた。

「ああ、レイ、ただいま。ボーンとライのやつに、飲まされちゃって、あたた頭が痛い。」

頭を抱えるロイドに

「ロイド、飲みすぎ注意。」

とピンクのアイランプがランプが点滅。

「くそう、久しぶりに飲んじまった。ソフィア、げんきにしてたか?」

「明日、絶対二日酔い。」

「もうロイド、本当に心配したんだからね、何日も家を空けて、おまけにドラゴンに襲われたんだって?マリア姉なんか、同じ洗濯物をそのまま五回洗濯しちゃったんだぞ!ちゃんと謝れ!」

「もう、レイったら、恥ずかしいから内緒にしてっていったのに。」

恥ずかしそうにブルーのアイライトをピカピカさせた

「いや、本当に悪い悪い。でもお前たちの声を聞くと本当に我が家に帰ってきたんだと心底感じるよ!」

そう頭をぐりぐり撫でると、アイランプをブルー、オレンジ、ピンクに点滅させながら

「あらあら、まあまあ、」

「ごまかすなー」

「むぅー」

三種三様の答えが帰ってきた。

そう、これは一体のアンドロイドの中に3つの人工知能をが入っているのだ。

昔、ロイドが父親にどうしてこうなのかを聞いたところ、にぎやかだからいいじゃない、とあっけらかんとした答えがかえってきた。

早くに母親をなくしたロイドのために、ある日父はアンドロイドをどこからともなく用意してきた。しかし再婚しなかった父は、一人っ子のロイドが寂しくないようにしたかったんだろう。

今でさえも高いアンドロイドだ、母親と兄弟、遊び相手と三体用意は出来なかったのだろう。それでもと、一体で3つなんてむちゃくちゃな考えだが、どうにかしようとしたその父の愛情をロイドは痛いほど感じている・

そんな父が亡くなってかれこれ10年、ロイドにとって彼女たちはまさにかけがえのない大事な大事な家族だった。


「もう、限界~うぃ~っくねるわぁ~」

自分の部屋の扉を開け、脱皮するかのように服を脱ぎ真っ裸になるとどーんとベットに仰向けになって

ぐぉ~

高いびきをかき始めた。

「いたずらしちゃおっか」

「あらまぁ、だめですよ」

ロイドの裸に手を伸ばし、いたずらをしようとするレイをたしなめ、マリアはロイドに布団をかけた。

そして今さっきロイドが脱ぎ散らかした衣類を拾い始める。


コトン、


ズボンを拾うとしたときにポケットから何かが転がり落ちた。

「落し物、発見。」

ソフィアが拾うとそれは透明な四角柱の水晶だった。とんがった両端の片方に丸いリングが付いていた。

ピンクのアイライトが水晶に反射した。

「お土産かな?」

とオレンジのアイライトを点滅させながらわくわくする、レイ。

「さぁ、まぁとりあえず洗濯しなくちゃだから、しまっときましょう」

胸にある小さな備え付けの収納をあけると、丁寧にしまう。

「さて、おせんたく~おせんたく~」

久しぶりの洗濯物にどこかうれしそうによろこびピコピコ耳だか、お下げだかを羽ばたかせるマリア。


そして次の日、ロイドはソフィアが言ったとおり二日酔いで寝込むハメになったは言うまでもなかった。





ロイドが故郷『ドゥム・スピーロー』に戻ってきて3ヶ月、あれ以来ドラゴンと遭遇する事もなく、TBに乗って辺境の地を駆け回り、順調に依頼をこなしていく毎日を送っていた。

そんな、ある日・・・


「さて、どこだ?」


今回の依頼は『タケキノコの採取』だった。なぜロイドがキノコ取りを引き受けたかというと、その報酬が高かったからだった。なぜ、高いかというと、独特の食感と共に表現が出来ないその美味しい味もさることながら、その生息地が生息地だったためである。

ロイドが今いるのは『ドゥム・スピーロー』から北東に行った、人間とドラゴンの勢力圏のぎりぎり境目の山間だった。ドラゴンばかりでなく、いまだに未知の生物が多い森の中は深い木々が立ち並び、あの日の護衛を思い出しそうになる。

しかし今回は、あのときとは違い、単体行動。危険だとおもったらさっさと逃げることが出来る。

ロイドはいつ襲われてもいいように、TBに載ってせっせと木の根っこ辺りを覗き込んでは丁寧に落ち葉を掻き分け、探す。


「これか、あったぞ!」


腕のはめたガンドレットを使ってTBの握力を伸長に調節しながら右手でゆっくりと地面から発見したものを引き抜いた。

「タケキノコ、ゲットダぜぇ~!」

かれこれ3時間、当てもなく森をさまよい、やっとお目当てのものを見つけたロイドは、年甲斐にもなく勝どきををあげた。そう、確かこれは昔見たテレビアニメ、辺境でかわいい妖精を見つけて手なずけ、ポケットに常に忍ばせては、ライバルたちと見せ合いその可愛さを競う「ゲッチュー・フェアリー☆」の主人公の少年が言っていた名台詞だったことを思い出した。マリアたちがものすごくこのアニメを気に入っていて、本当のところロイドは裏番組の「TB戦記」を見たかったのだが、常にテレビを先取りされてしまい、強制的に見せられる羽目になったのだ。

 ・・・・・マリアたちの熱狂振りは異常だったな、確かあの胸の収納にそれぞれが気に入っている妖精のフィギュアが一体ずつ入っていたはずだ・・・。

周りから見ればアンドロイドがフィギュアを?とおもうかもしれないが、ロイドはそんな考えにはまったく至らない。家族愛というものだ。

マリアたちのことを思い出し、早く帰ろうとせっせとタケキノコを探すのだった。


「2、4、6・・・・・18よしもう十分か。」

TBの左手に入ったタケキノコを数え終わると、袋を縛り辺りをさっと確認してハッチを空けると袋ごとタケキノコをコクピットに入れる。

「12本だったから、あまりの6本はマリアにでも料理してもらおう」

焼いてもよし、煮てもよし、炊き込みご飯にしてもよしのこのキノコは肉厚でジューシーなのだ。前に一度だけ食べたその味を思い出し、よだれが出て来そうになった。

「よし、今夜はライとボーン、ファン爺も呼んで酒盛りだ!」

今からなら、日の入りまでには間に合うだろう、あたしを警戒しながらいそいそと帰路に着く。

 

 ビービービー


突然、エマージェンシーのアラーム音と共に、モニターにレーダーの捕らえた2つの生命反応が点滅する。遅れて、森の向こうから紅蓮の炎が上がるのが見えた。

「あの炎はドラゴンの?何かと戦ってるのか?」

残量エネルギーと背中のだんびらの剣バスターを確かめると、炎の上がったほうに向かった。


ロイドがたどり着いた場所は森の中にぽっかりと空いた空き地だった。

少しはなれたところからモノアイに付いた望遠カメラで覗くと、ドラゴンと・・・若干形は違うがあれもドラゴン?とがお互いに牙と爪を躍らせて戦っていた。

ドラゴンのほうは白い色だった。もう片方は茶色のような山肌のような色をしていた。

「まさか・・・・。」

ロイドは3ヶ月前に出会ったドラゴンの少女を思い出した。


・・・・・フリューレ・・・・


いやいやと頭を振る。ドラゴンだって人間と同じように何体もいるのだ。白色のドラゴンなんて5万といるだろう。

・・・・・だが、もし彼女だったら・・・・

手助けをしたほうがいいのかどうかと迷っていると、それまで均衡していた戦局が一気に傾くのを見た。

同時にブレスを吐き、真ん中で火球がぶつかり合いはじけ飛ぶ。しかし、その勢いが激しすぎて火の粉が白色の竜の目に入ってしまった。


キシャァアアー、


苦しそうにもがき目を押さえる姿を見た岩肌色のドラゴンが踊りかかる。

気配でよけようとした白い背中に、鋭い爪が突き刺さり赤い鮮血が舞う。

そしてさらに、よろめきがら空きになった白い首筋に鋭い牙で追い討ちをかけようとする。


ぐぐぐ・・・・


何とか前脚でその顎を掴み押し返そうする白色のドラゴン。しかし、傷が痛むのか、どんどん前脚が逆に押され始め・・・・そしてとうとう押し倒されてしまった。


グアアアァアアアアアア!!!


白い顎と胸を押さえつけこれから噛み付こうというのだろうか、ひときわ空に向かって高くその黒い口を上げてほえる


ロイドの頭の中に突然、あの日夕日の中で名前をささやきながら微笑んだフリューレの顔が浮かんだ


バンッ、とはじかれるようにして背中のバスターを構えると、ロイドはバーニアを全開にして森の中から飛び出した。

「うおおおおりゃああぁ」

無意識のうちに雄たけびを上げて、今その白い首に噛み付こうとしていた茶色の首に向かって、剣を振るう。

「はぁああああ!」

   斬!!!

気を込めて振った腕に確かな手ごたえがあり、それと共に、かっと見開いた目はそのままに宙に舞う頭が見えた。


どすん


何が起こったかわからないまま息を引き取ったであろう、その岩肌のような巨体は背を地にして倒れこんだ。


ビービービー

コクピット中はバーニアの強制冷却を知らせるアラートが鳴り響いた。


はぁはぁはぁ


無意識に一瞬にして飛び出していったために、息があがり、心臓がバクバクしていた。


息を整えながらも背中に気配を感じ、アラートの音を切って後ろを振り向く。

すると目の前に白いドラゴンが立ち上がっていた。さっきの戦闘で体のあちこちに怪我はあるものの、その眼光は鋭かった。

「くそ、」

あわてて剣を構えようにも、腕が震えておもうように握れず、杖のように地面に突き刺して片膝を付く。

グーンとTBに顔を近づけてくる。モニターいっぱいにひろがったドラゴンの顔を見て、

・・・「だめだ、やられる」・・・・・

噛身砕かれるとおもい目を瞑る。

「来るなら来い!}

いつ来るかとその瞬間を、早くくるなら来いと思ったが、いつになってもその瞬間は訪れなかった。


「う、ぅ?」


おそるおそる目を開けると、ドラゴンはTBに鼻を押し付け、クンクンとにおいを嗅いでいた。

・・・そうえばフリューレも最初あったとき、においをかいでだっけ・・・・

外部マイクのスイッチを押すとまさかと思いつつもきいてみた。

「もしかして、フリューレ、か?」

急に音がしたために驚いたのだろう、びくっとその白い首を引っ込める。

「あ、あ、俺はロイドだ、ほらあの谷であった。もしかして、あ、いや違ったらわるいんだが・・・フリューレか?」

なぜかどぎまぎして口がうまくまわらない。


グルルル・・・・・


低くうなると目を細めるドラゴン。


バシュッ


体が光ったかとおもうと、はじける様にしてドラゴンの輪郭がはじけ飛ぶ。

光が収まると、今までドラゴンが立っていたであろう場所に人がたっていた。

「フリューレ、か・・・・?」

金色の髪に青い瞳、とんがった耳とそして独特な民族衣装。あったときの格好と特徴を思い出すが、現れた姿はまったく違っていた。

そこには羽の付いた兜に鎧をまとった姿があった。まるで北欧神話に出てくるワルキューレのような格好をしていたのだ。

おもむろに兜に手をかけると


ふさぁぁぁぁぁぁ


キラキラと日に照らされ輝く金色の髪が、狭い兜の中からはじけるようにして広がった。

瞬きをしたまぶたの間から青い瞳が見えた。そして言った。


「ロイド、久しぶり」












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