それぞれの時間
ドラゴンの少女フリューレと別れた後、無事にロイドがフロンティアコロニーに着いたのはすっかりあたりが暗くなってからのことだった。
谷間のフロンティアコロニー『フォールキャニオン』 岩壁にぽっかり明いた洞窟の中にあった。
入り口は岩に偽造した合金の扉で、トライルブレイザー通称TBのセンサーなければ気がつかないほど巧妙に隠されていた。
TB格納庫に誘導されたロイドは、そこで作業している人たちを見て今度こそ本当に緊張を解くことが出来た。
「今日は本当に大変だったな・・・。」
ロイドがTBから降りると一人の男が駆け寄ってきた。
「あ、あんた生きてたのか!」
よく見るとそれは、今回護衛してきたトラックのドライバーだった。頭に包帯を巻いているがどうやら無事に到着することが出来たらしい。
「あんたたちのおかげで、何とか荷物を無事に運ぶことが出来たよ。」
ロイドは今までのことをかいつまんで説明した。あんなことがあった後だ、ドラゴンの少女フリューレを助けたことは省いてだ。
「そうか、ダンさんもか・・・」
と、目を伏せる。
いくら死と隣りあわせが日常だといっても、雇った側として後味が悪かったに違いない。
「ダンもってことは、・・・そういえばタッグは?」
もう一人のグレーのTBの操縦者を思い出す。確か護衛としてトラックについていったはずだ。
「なんとか入り口までは来れたんだが、追ってきたドラゴンにこのままではコロニーの場所がばれてしまうからと、囮になってそれから・・・」
フリューレを迎えに来た緑色のドラゴンを思い出す。いまだ帰ってこないということはタッグは無事ではないだろう。
「まぁ、なんにせよ、あんただけでも無事でよかったよ。今回は事が事だけに、出来るかぎりのことはさせてもらうつもりだよ。何でも言ってくれ。」
沈んだ雰囲気を振り払うかのように男は努めて明るく声を張った。
じゃあ早速とばかりに、ロイドは今降りたばかりの黒いTBを振り向いて
「こいつの修理を頼めないか?どうやら限界だったらしい。ここに着いたとたん、全機能が止まっちまったんだ。」
とポケットの四角柱の水晶を確かめながら言った。
ここに着くとそれまで輝いていた光が消えて、それと同時に崖下に落ちた時と同じ状態に戻ってしまったのだった。
「そうだ、倒したタートルアリゲイターの甲羅がTBの背中に縛ってあるから良かったらそれも使ってくれ。」
「わかった。まぁ、じゃあとりあえずこっちで食事を用意してあるから来てくれ!」
歩き出し、着いてくるロイドを振り返り男は
「他に何か欲しい物はあるかい?」
その言葉にロイドは二カッと笑い言った。
「冷たいビール!」
~とき同じくして、そのころ~
「フリューレ、お入りなさい」
緑色のドラゴンに乗って帰ってきたドラゴンの少女フリューレは、足の手当てを終え一息ついたころで、族長に呼び出されていた。
部屋に入ると、数人が火をおこした囲炉裏のようなものを囲むようにしてにして座っていた。
「ただいま戻りました。」
お辞儀をすると、フリューレはここに座れとばかりに空いた席に腰を下ろした。
「お帰りなさい、フリューレ。足の具合はどうですか?」
正面のフリューレと同じ金色の髪と青い瞳を持つ女性が口を開いた。
「はい、だいぶ良くなりました、お母様。」
他よりも一段高い族長の座に座る母親を見ながら、フリューレは答えた。
「それはなにより。ザガンもちょっと怪我を負ったけれど、みんな無事で戻ってきてくれて本当に良かったわ。」
「ザガン、ああ、無事だったのね。」
青いTBの凄まじい爆発に巻き込まれた仲間の安否を知ってホッと胸をなでおろした。
「ところで話は変わるのだけれども、そういえばあなたは人間と一緒にいたそうですね?」
青い目を細めながらフリューレに尋ねる。
・・・やっぱりその話になる、か・・・
一瞬どう話そうかと迷ったが、正直に話す覚悟を決めた。
「はい、谷底で倒れていた私を助けてくれたんです。」
フリューレは気絶していた自分を介抱し、足の怪我に手当てをしてくれて、タートルアリゲイターから守ってくれたことを事細かく話した。
「そう。」
話が終わると、しばらく目を閉じ、そして再び目を開くとフリューレを見つめながら言った。
「今回は事が事だったから仕方ないけれど、これからは更に人間に対して警戒しなくてはいけません。かつて私たちの祖先は、人間がこの星にやってきたとき、彼らを迎い入れ、この星に住めるように手を差し伸べお互いに仲良く暮らしていました。 しかし、彼らはそんな私たちに恩を仇で返すような、どれだけ酷いことをしてきたのかあなたも知っているでしょう。もちろん、すべての人間がそうであるとまでは言いませんが・・・・、彼らがどれだけ貪欲で残酷であるかということを決して忘れてはいけませんよ。」
無言で頷くフリューレに
「さぁ、今日は初めての任務と実戦で疲れたでしょう。もう下がってゆっくり休みなさい。」
とねぎらいの言葉をかけたのだった。
部屋に戻り、明かりを消すとフリューレは重力に引っ張られるままベッドに取れこみ顔をうずめた。
・・・・本当に今日はたくさんのことがありすぎて、頭の中がぐちゃぐちゃだぁ・・・・
カサッ
息苦しくなって身を起こそうとすると、服のポケットに何か入っているのに気がついた。
なんだろうと取り出すと四角いものが出てきた。
「これは、あのときの・・・・・食べ物だっけ?」
透明なフィルムに包まれたそれをじっと見る。タートルアリゲイターに襲われてとっさにしまいこんだのを思い出した。
「お母様は、ああいってたけれど・・・」
手の中にあるそれを見ていると、ふとある言葉を思い出した。
・・・・・「ドラゴンも人間もないだろ?」・・・・・
そういって自分をドラゴンだとわかっていたのにもかかわらず、必死になって助けようとしてくれた青年のことをフリューレは思い返した。
パフン
ベットの上で仰向けになると両腕を真横に広げるようにして投げ出す。
広がった金色の髪が窓から差し込む月の光に照らされてキラキラと輝く。
胸元に目をやると2つの四角柱の水晶が付いたネックレスあった。
・・・3つのうちの1つをあげたんだっけ・・・
そしてあのときは気にもしなかったが、TBの中で膝の上に抱きかかえられ、そしてその青年の胸にしがみついていたことを思い出して、急に顔が熱くなるのを感じた。
「あたしったら、なに考えてるんだろう」
ふるふると頭を振って火照りを冷やす。
はぁー
目を閉じて深く息を吸い込み、そして吐く。
頭を空っぽにしようとじっと自分を包み込む静かな闇にに耳を澄ました。
ようやく溜まっていた疲れが出てきたのか、だんだん頭がボーっとしてくるのがわかった。
・・・・そういえば、名前なんていったけ、うーんと・・・
「ロイド、だ」
なんとか最後に思い出した青年の名前をつぶやくと、フリューレの意識はまどろみの中に溶けていくのだった。




