ファーストコンタクト
白色のドラゴンと共に崖下に落ちたロイド。奇跡的に助かるもののTBは故障。途方にくれるロイド。仕方なく近くのコロニーを目指すその途中で金髪碧眼の少女と出会うのだった。
「う、いたた・・・・。」
ロイドは暗闇の中で目を覚ました。
ボーっとする頭を振って何が起こったのかを思い出そうとした。
ドラゴン、爆音と爆風、そして掴んだ尻尾・・・・
・・・・そうだ自分はそのままあの白いドラゴンと絡まって落下したんだった。・・・・
ズキン
落下の衝撃で痛めたのか、体のあちこちが痛い。しかしその痛みがまだ死んではいない事を教えた。
・・・ダン、・・・
仕事終わりに一緒に冷たいビールを飲むはずだった、今朝あったばかりのパートナーの壮絶な死様に心が痛んだ。
そのほとんどが未開な惑星ドラコ。特に辺境では常に死と隣り合わせだ。さっき会ったドラゴンを始めとして、人類を脅かす生物は多い。
最もドラゴンとの不仲は人類が原因なのだが・・・。
ロイドはとりあえずトライルブレイザー通称TBを動かそうとガントレッドを握り締めると同時に動け,
とサークレットを通じて命令を伝えた。
しかし、いくら命じても、ガントレットを動かしても反応がない。
モニター横に備えられているスイッチを押して再起動を試みたが、まったく反応がなかった。
仕方なくガンドレットとサークレットを外す。
シートに備え付けのベルトを外すとハッチを調べ、開閉のスイッチを押してみる。 メインスイッチが入らないので当然自動では空かない。
手動開閉レバーに手をかけて一気に開けようとして手が止まった。
「まさかな・・・」
ロイドはある考えに至ったのだ、もしも崖の途中でひっかかてるとしたら・・・・・
つつーと冷や汗が頬をつたった。
今一度重力を確かめることにして後ろを振り返る。 地面と平行なはずのシートにサークレットが乗っているのを見て、どうやらコクピットの入り口は下に向いていはいないらしい。
少なくともハッチを空け手そのまま落下はない。
あとはハッチを開けた拍子に引っかかりが外れてTBごと落下・・・・。
「まぁ、どのみち、ここにいてもいずれは餓死するんだ。」
再度レバーを握りなおし、思いっきりハッチを開け放った。
さらさらさら・・・
水の流れる音とともに目の前に日の光を浴びてキラキラと川が流れているのが見えた。地面も発見し、
助かった・・・・・。
とりあえず落下死の危険を間逃れたロイドはコクピットシートの後ろから食料の入ったリュックと上着そして作業用のゴーグルを引っ張り出した。
本人曰くトレードマークのゴーグルを額の少し上のところまで引っ掛け、上着を着てリュックを背負うと腰のホルダーのガンスライサーを確かめた。
ガンモードとブレードモードの両方を持ち合わせたガンスライサー。小さいころに見た「開拓戦士フロンティマン」という特撮アニメの主人公が持っている武器、剣にも銃にもなる、無敵の武器。アニメと違って、それ一つでドラゴンや巨大生物を倒せないということを除けば、まったく同じだ。
そしてこれはロイドの父の形見でもあった。ロイドにとって武器以上にお守りでもあった。
「よっと」
TBは足を投げ出すようにして座っていたために、地面にすんなりと降りることができた。
垂れ下がった前髪を書き上げるその横顔には少年の面影がほんの少し残っていたが、その瞳には潜り抜けてきた苦労と困難を物語るような鋭い眼光があった。
後ろを振り返ると崖の岩肌を背もたれにして座っている黒いTBがあった。日の光を反射して頭部が光る。左肩のシールドと左脚のモモの部分を守るスカートがなくなっていた。他にもボディのあちらこちらに擦り傷や凹みが出来ていて崖にぶつかりながら落ちていったことを物語っていた。
上を見上げるとはるか上に四角い青い空が見える、崖の半分まできていたはずだが、上で見たときはまだ谷底まで結構あったはずだ。
・・・・よくこれで済んだものだ・・・。
ゾッと背筋がさむくなりそれ以上は考えるのはやめにした。そして気持ちを落ち着かせるためにリュックの中から水筒を出すと一口含んだ。
「ふぅ、さてこれからどうしようか」
バリバリと頭をかいて一時考えた。この辺境の地でTBも動かない今、助けがくることは無に等しい。
万が一あのトラックが無事に着いていたとしてもいやあの激しい戦闘の後だ、しばらく戻ってくることはないだろう。それにこのままここにいても、日がくれたらもっと危険だ。夜の水場は夜行性の猛獣がうろつく。闇にまぎれて活動するやつらは狡猾で素早い。
「とりあえずさっき向かうはずだった、フロンティアコロニーまでいくか」
腰のポーチから方位磁石を出す。
「確か崖は北のほうがくだりになっていたはずだ・・・・うーん、こっちか。」
川に沿って北に歩き始めた。
しばらく歩くと人が倒れているのをロイドは発見した。
駆け寄ってみると髪の長い女性がうつぶせに横たわっていた。金色の髪に見慣れない幾何学模様の入った民族衣装のようなものをまとっていた。
・・・この先のコロニーの住民だろうか・・・
ロイドはリュックをおろすと、それを枕にして仰向けに寝かせた。
呼吸と脈があるのを確認するとあらためてその顔を見つめた。目を閉じたまま苦しそうに眉をよせてているその顔はまだ幼さがのこっているもの整った顔立ちには気品が漂っていた。
きっと笑ったらすごく綺麗でかわいいのかもしれない・・・・。顔に付いた髪の毛を払おうとしたが、金色の髪の中から出てきた耳を見て手が止まる。
「とがった耳・・・」
それはこの少女の正体を教えるものだった。
・・・・ドラゴン・・・・・
おそらくさっき戦っていた3対のうちのいずれかだろう。そういえばと、ロイドは思い出す。ドラゴンは普段人間と変わらない姿をしていて、移動や有事の再にドラゴンに変身するということを・・・
思わず腰のホルダーに手をやって確かめてしまった。
「うっ・・・」
ドラゴンの少女が目を開けた。
「大丈夫か?」
とりあえずロイドは声をかけながら顔を覗き込んだ。
まだぼんやりとしているようだ・・・・碧い瞳をしばたいている。
そして鼻をヒクヒクさせて・・・・・
突然、カッと目を見開いたかとおもうと思いっきりロイドを突き飛ばして立ち上がった。
「ニンゲン・・・・」
ロイドを警戒した目で睨んでくる。ロイドも思わず身構えた。
「くぅ。」
しかしすぐにその少女はぐずれるように座り込んでしまった。。
ロイドは近づこうとしたがすぐにその青い瞳で睨まれる。
「近寄らないで!」
どうやら脚をいためてるようだった
はいずって逃げようとするその民族衣装のスカートの裾から赤く腫れた足が見えた。
ロイドはポーチから四角い白いものを取り出すと少女に近づく。そしてその腫れた部分を覆うように貼り付けた。
「な、何をするの!」
おびえと絶望の色が瞳に移る。しかし次第にそれが驚きと戸惑いの色に変わる。
「応急処置程度だが、それでも結構楽になるはずだ」
ロイドはリュックを空けると中から携帯食料を取り出し放った。
思わずキャッチするのを見ると、フイルムをはがして中身を頬張る。
すると恐る恐るドラゴンの少女は口を開く。
「どうして?」
「俺が食いたかったから、お前さんも腹減ってなら食べな、毒なんか入ってないからさ。」
ロイドは水筒を一口あおった。
「いや、そうじゃなくてどうしてニンゲンのあなたが、ドラゴンのあたしを助けるの?」
「助ける?どうしてかな。」
少し考えると、ロイドは眉をひそめる少女に水筒を渡しながら言った。
「俺はTBを失っておまけに一人ぼっち、お前さんは足に怪我して歩けない。お互い困ってて、しかもこんな辺境で人もドラゴンもなくないか?」
そういいながら納得いかない顔にロイドは手を差し出した。
「どうだ、歩けるか?もう少し先に行くとコロニーがあるはずなんだ。日がくれたらここは危険だ。そこまで一緒に行こう。」
少女は差し出された手につかまってもいいものなのかと思い悩む。
ザバーン!
いきなり川の中から黒い影が飛び出してきた。
ロイドは少女を背後にかばいながらホルスターからガンスライサーを引き抜き銃口を向けた。
グルルル
ワニのようなとんがった大きな口と背中には硬そうな甲羅を背負った生物ガそこにいた。
タートルアリゲーターと呼ばれる、四足歩行のそいつは全長4メートルぐらいでで若干大型だった。
恐ろしく獰猛で口に入るものなら何でも噛み砕いてしまう。
そして背負う甲羅はTBの装甲の材料にもなるくらい硬い。
カキューン、カキューン、カキューン
ロイドはトリガーを引くが撃った弾は案の定その甲羅にはじかれてしまった。
クレェェエエエ
ロイドをあぜ笑うかのように鳴いた。
ザバーン、ザバーン
新たに2匹のタートルアリゲイターが飛び出してきた。
ガチガチ鋭い歯を鳴らしてこれから食ってやるぞとばかりにロイドたちを威嚇する。
「くそ、こっちだ!」
リュックを掴むと反対側の手でドラゴンの少女の手を握って逆方向に走り出した。
「コロニーに入ってしまえば大丈夫だ!」
しかし必死に走った先に見えたのは、ロイドが乗り捨てた黒いTBだった。
今来た道をひきかえしてしまったのか・・・・
しかし気がついたときはすでにとき遅し、後ろからはその巨躯からは想像できないスピードで3匹が迫ってきていた。
「あっ」
少女が転んでしまった。
「もうだめ、」
ロイドはおもむろに抱きかかえると、TBの中に入りハッチを閉めた。
ハァ、ハァ、ハァ、
二人の荒い息がコクピットに響く。
思わずTBの中に逃げ込んでしまったが、このままでは八方ふさがりだった。いずれこの中から引きずり出されるのも時間の問題だろう。
「足大丈夫か?」
フルフルフルとひざの上で頸を振る少女、どうやら限界らしい。
「こいつはもう動かないし、いつ引きずり出されるかわからない。一瞬でもいいからドラゴンになって追っ払えないか?」
最後の希望にすがる思いで聞いてみる。
「駄目、パワーが足りない・・・。」
と頭をうなだれた。
「畜生、せめてこいつが動けばあのくらいなら蹴散らせるのに・・・」
念のためとガントレットとサークレットをつけて起動を試みるもやっぱり反応がない。
「ここでおわりかよ!畜生!」
ダン!と、こぶしを肘掛にたたきつける。
ガチンガチン、
外から挑発するように歯をかみ合わせる音が聞こえてきた。
「いざとなったら、俺がおとりになってやつらを引きつける。その間に這ってでもいい、出来る限り遠くに逃げるんだ!」
ロイドはホルスターからガンスライサーを抜き取ると、弾の残弾数を確認し始めた。
すると少女は意を決したように首からネックレスを外してロイドに手渡した。
「これを使って!」
そのネックレスには四角柱の水晶が三つ付いていた。
「これをつかえっていっても、とんがっているから武器にはなりそうだが、やつらにはまったく歯が立たないぜ!」
「そうじゃない、こうやって使うの!」
少女はモニターの角にネックレスを引っ掛けると手をかざしてささやいた。するとその中の一つが輝き始めた。
ブゥォン
突然、今までうんともすんとも言わなかったTBのモニターが動き出したのだった。
「どういうことだ・・・」
目を疑うロイドの瞳に、今にも飛び掛ってきそうな位置にいるタートルアリゲイターの画像が飛び込んできた。
そしてその中の一匹が飛び掛ってきた。
とっさに体をひねるイメージを送って、今までにないその反応の速さと軽さにロイドは驚いた。
しかし今は戦闘中、頭を素早く切り替えて各所の状況をチェック。あれだけの崖を落ちてきたのだからと覚悟はしていたが、オールグリーンとまではいかないものの、戦闘をするのには十分だった。
「これならいける!」
ガントレットの中のこぶしを握り締め、モニター越しのタートルアリゲイターを睨む。
「何か武器はないか・・・」
武器一覧を呼び出すが、一つもなかった。サブウェポンは搭載されているのだが、それらはすべて失ったシールドに搭載されていた。
飛び掛ってくるタートルアリゲイターをよけつつ何かないかと、あたりを検索すると、だんびらの剣バスターがその柄を川の中から突き出していた。
「あった!」
ロイドはTBを剣に向かわせた。
ザバーン!
いつの間に川に入っていたのか、一匹が勢い良飛び出してロイドたちに飛び掛ってきた。
「食らうかよ!」
勢いのまま、ズサーっとす、飛び出してきた影の下をスライディング、柄をつかむと剣のその広い腹を使っておもいっきり救い上げた。
ごろんと仰向けになり、ジタバタともがくタートルアリゲイター腹側にバスターを突き刺す。
ブシュー
腹の甲羅はおもったよりも柔らかく、血を噴出しながらずぶずぶと刺さっていく。
クレレレェエエ
力尽いたのを確認して、ぐったりとしたその体から剣を引き抜く。
ガチンガチンガチン
仲間を殺されて怒り狂ったタートルアリゲイターが歯を鳴らしながら迫ってきた。
グレレレレェ
残った2匹のうちの片方が身を躍らせてTBの足に噛み付こうとしてきた。
「あらよっと!」
さっとかわし、ガチンとかんだ顎を足で踏みつける。そして一閃、TBの腕がひらめいたかとおもうと、タートルアリゲイターの首と胴がすっぱりと分かれた。断末魔を上げることなく事切れた。
ブォン
剣についた血を振り払うと最後の一匹に向かって剣を構えた。
すると、それを見た最後の一匹はくるっと身を翻すと川の中にはいり、ものすごい速さで泳いで去っていってしまった。
ふぅー。
とりあえずの危機が去りホッと胸をなでおろした。
それもつかの間、ビービービーというエマージェンシーの音と共にロイドたちを巨大な影が覆った。
モニターに映し出されたそれはさっきロイドたちを襲った緑色のドラゴンだった。
「くそ、」
剣を構えなおすロイドに膝の上のドラゴンの少女が静止をかけた。
「大丈夫です。ハッチを開けてください」
今度は自動で開いたコクピットから少女は顔を出す。それを見たドラゴンはTBの前に静かに降り立った。
「立てるか?」
よろめくその姿にロイドは手を貸して彼女を支えた。
「忘れ物だ」
ドラゴンの差し出してきた手に乗り移ろうとした少女の首にロイドはそっとネックレスをかける。
プツン、
胸元に来た水晶でいまだ光っているものに手をかけ、はすしたそれをロイドに手渡す。
「これは・・・」
困惑の面持ちのロイドに
「ドラゴンは受けた恩を仇で返すようなことは決してしない」
と青い瞳でじっとロイドを見つめながら静かに言った。
最後にと、ドラゴンの手のひらに座り込んだ背中にロイドは声をかけた。
「ロイドだ、俺はロイドって言うんだ、君の名前は?」
夕暮れに焼けた空に飛び去っていくドラゴンの姿をモニター越しにロイドはつぶやいた。
フリューレ
それは去り際に笑顔と共にドラゴンの少女が残した言葉だった。




