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死球(DEADBALL)〜同じ悪夢を見る者たち〜  作者: Mr.ランジェリー


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最終話 次は一緒

ーー数十年後。


季節を、数えなくなって久しかった。


愛那の寿命を見届けてから、二年が経ったある夜。

静まり返った部屋で、通話の終わりを告げる音が小さく鳴った。


「……ジイジ、どうしたの?」


「いや、何でもないよ。風邪ひかないようにね。

 おやすみ。」


画面が暗くなり、海斗はしばらくそのまま座っていた。

部屋の灯りが不自然に瞬きをした。

天井を見上げ、部屋の隅の写真を見つめ、

誰もいない部屋で、ぽつりと呟く。


「……今から行くよ。」


首を軽く回し、両手を机につき、

膝に力を入れて立ち上がり、ゆっくりと玄関を出た。


夜の空気は、思っていたより冷たくなかった。

遠くに見える鉄塔から無数の点の光が見えていた。

海斗は足を止め、呟いた。


「こうして見ると、病院も以外と近く感じるな。」


海斗は静かに歩を進め、陸斗と愛那の写真をポケットに突っ込んだ。

やがて踏み切りの前で立ち止まり、目を細めた。


警報音が鳴り響き、遮断機が下りる。

向こう側には、昔と変わらないハンバーガーショップの灯り。


目を閉じる。


小学生の頃の、自分と陸斗、そして萌々。

高校生の頃の、自分と愛那。


人生の断片が、静かに重なっていく。


そして——目を開けた。


踏み切りの向こう、街灯の下に、

あの頃のままの陸斗が立っていた。


「海斗……やったな。」


喉が震えた。


「兄ちゃん。 迎えに来てくれたんだね…」


電車が通過し、視界が一瞬遮られる。

遮断機が上がると同時に、無数の光の粒が舞い上がった。


その中のひとつが、ゆっくり、ゆっくりと空へ昇っていく。


——気づけば、温度も、風も、時間もなかった。


どこまでも澄んだ、金色の世界。

足元は地面ではなく、光そのものだった。


海斗は一歩、また一歩と進む。


その先に——いた。


黄金の龍。


星の誕生と死を同時に宿したような瞳で、

静かに海斗を見下ろしている。


「ようやく来たか……。」


不思議と、驚きはなかった。

胸の奥で、この瞬間を待っていた気がした。


「……私で、最期ですね。」


龍は、雲のように尾を揺らす。


「時の川を渡り、ここへ辿り着いた魂は多い。」


かつての記憶が、光の粒となって舞った。

そこに悲しみはなく、ただ優しい余韻だけが残っていた。


「皆が、陸斗と萌々の幸せを願った。

 だが——

 私は、お前を待っていた」


海斗は息を呑む。


「……どうして、私なんですか?」


黄金の龍は、夜空のような静けさで答えた。


「確かに、皆の願いは深かった。

 だが——その中に、誰も、自分自身を含めていなかった。」


海斗の胸が、静かに締めつけられる。


「萌々ちゃんも……」


「萌々の願いは、“皆と陸斗の幸せ”だった。

 自分が陸斗と再び結ばれることを、一度も望まなかった。」


胸に手を当てる。

その優しさが、生涯消えなかったことを思い出す。


「だからこそ、願いは似ていても、

 “完全に同じ願い”ではなかった。」


龍は何も言わず、優しく見つめていた。


涙が、静かに溢れた。


「……そっか。

 だから、私が願うしかなかったんだ。」


黄金の龍は、ゆっくりと頷く。


「さあ、言え。

 お前の願いは、何だ?」


海斗は震える膝で立ち、深く息を吸った。

何度も息を吐き、ようやく言葉にする。


「……私の願いは、ただ一つです。」


「次は、この人生に兄ちゃんも入れてください。

 もう、誰も……」


言葉は、光となって空へ溶けていった。


黄金の龍の瞳が、わずかに柔らぐ。


「そうか、わかった。」


硬いはずの鱗が、優しく海斗を包む。


「お前の願いは、運命に刻まれた。

 もう、何も失うことは……」


視界が、ゆっくりと白く霞んでいく。


「ありがとう……

 兄ちゃん……」


光が、海斗を包み込む。


「……次は、一緒に進めるね。」


海斗の身体は淡い光となり、

黄金の龍の前で、静かに溶けていった。


——そして、運命は静かに繰り返される。



−−さあ、この日が来たぞ。思い出したか?−−


……その声を誰も聞くことはなかった。




END


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