第189話 最高の想いを込めて
今日は黎明祭のウルヴィス予選大会の日。
ティミナとクーラの二人が書類選考を通過したため、研究室をあげて応援に行っている。
そして私は後から少し遅れて行くと伝え、ティミナから研究室の鍵を預かり、一人ここにいる。
(澪……)
(うん、分かってるけど、本当にいいのね? どうなるか私も分からないよ?)
(いいの。全てのものには使わない。ただこの一つだけ)
(分かった。じゃあ一瞬だけこっちに来てね)
私は机の上に寄りかかって寝る準備をして、胸をトントンと叩いた。
すぐに澪からのお迎えが来て、意識が闇に溶けてゆく……。
◇◆◇
桜の園。
あの時もこの景色の中だった。
私も、パパもママも、緊張が張り詰めた家の中。
澪が、私の力を説明し、そして封じてくれた。
「セレナ……」
不安を隠すこともなく、私の後ろから澪が声をかける。
「ごめんね。どうしても、彼……ルーカスには、私の出来る全てで応えたくて」
「うん、いいよ、もう言わなくて。あなたの覚悟も、想いも、私なら分かるから」
ここでは互いの心は丸裸だ。
私の気持ちが澪に伝わっているように、澪が私を心配し、封印を解くことを躊躇していたことも分かる。
そして、彼女もまた覚悟を決めてくれたことも。
澪は私の額に自分の手のひらを添えた。
「行くよ?」
「……うん」
澪の手が青く光り、私の頭の中で締め付けられていた何かが、ゆっくりと緩んでいくような、そんな感覚。
澪の手が青から次第に赤に変わってゆく。
それに伴い、私の頭の中の開放感が増していった。
程なくして、澪の手の光が赤に変わりきり、私の頭も全てから解放されたような、そんな開放感に満ちていた。
「これで、使えるよ。調律者の力。セレナは、薄型魔導回路を使うことなく、あの効率的な回路を再現することが出来る」
「もう少し薄型魔導回路が一般的になったら気にならなくなるかなと思ったけど、好きな回路を生み出し放題だから、相変わらず強力よね、この力」
澪は寂しそうに微笑んだ。
「でも、約束して。これっきりにするって。でないと、この力のせいでセレナに不幸が起きたら……私が耐えられない」
「うん、分かってる。私のワガママに巻き込んじゃってゴメンね、澪」
「仕方ないわね、このじゃじゃ馬娘は。本当に誰の言う事も聞かずに、自分のやりたい事を貫いちゃうんだから」
ぎゅうっと私を抱きしめる澪の体の温かさに、胸にチクリと痛みを感じつつ、私もまた彼女を抱きしめた。
「じゃあ、行ってくるよ」
「ええ、終わったらまたすぐにいらっしゃい。また封印してあげるから」
「分かった、じゃあ」
澪の作ってくれた扉をくぐって私は元の世界に戻った。
◇◆◇
「さて、急がないと黎明祭終わっちゃう。ティミナたちに恨まれちゃうな」
描く回路は簡単だ。
火と氷の魔石から魔力を引き出し、それが合流する回路を作る。
あとはそれを中の筒の外側全体に走らせて、循環するようにするだけだ。
水の魔石もセットしようとしたが、手持ちのものがあるだろうし、その魔石と回路の分負担がかかるのでやめておいた。
あとは黒い外カバーの内側に耐熱付与を行う。
冷たさはそれほど気にならないと思うので、一旦何もしないが、ルーカスが気になるようなら、後から追加は出来るようにしておく。
部品を組み立てて水筒が出来たら、私のありったけの力で硬化付与を施し、ママが作ってくれた衝撃吸収材をはめて、完成だ。
「よし、いこう!」
私は筒に目を走らせ、これから描く回路をそこに思い浮かべる。
すると、頭の中で「ガチャン!」という鈍い音が聞こえた。
続いて目が温かくなってきて、一瞬燃えるように熱くなる。
「っ……!」
使うたびにこの状態になるのは、やめて欲しい。
本当に熱いんだからね!
しかし、次に筒に目をやると、引くべき線の太さ、深さ、曲げ方。
すべてがすでに焼き付けされたかのような、光の道が浮かび上がってきた。
「へぇ、焼き付け前だとこう見えるんだ。便利だね」
これなら、イケる!
同時制御を使い、一気に仕上げようとする……と、
ブワッ!
と、筒の周りすべてを魔力の線が覆った。
「うわあっ!」
あまりのことに驚いて集中を解いてしまい、魔力の線も消えてしまった。
「マ、マジで? 調律者ってこんなことも出来ちゃうわけ? でも昔は普通に焼き付けしてたけど……」
(たぶん、セレナの実力が伸びた分、能力もあがってるのよ。あの頃は同時制御なんて出来なかったでしょ?)
澪の言葉が頭に響いてきた。
なるほど、固定の能力じゃなくて、私の実力に合わせた能力なのね。
そういえば、そもそもこの能力が発現した時も、私の焼き付けの能力が上がった時だったっけ。
気を取り直して、あらためて同時制御を展開する。
筒の周りに広がった魔力の線を、そのまま収縮させて、筒の上に光る線にピタリと合わせていく。
ジュウッという音とともに、焼き付けが完了し、筒全体に回路が完成した。
「これいつも出来るようになったら便利なのになー」
(こんなの出来たら、またカイル様が大喜びね)
ブルルッ!
そうだった、危ない保護者がいるのを忘れてた。
うん、よし、終わったら即封印しよう。
続いて耐熱付与、硬化付与と処理していく。
こちらは回路ほどの特別な力はなかったが、いつもよりも強く魔力を入れられた気がする。
最後に組み立てを行い、衝撃吸収材をはめて完成だ!
「よし、出来た! ……焼き付けがあんな簡単に終わったから時間余裕だね。すごいわ、あれ」
(ふふっ、おめでとう。これはなんて名前にするの?)
名前?
そうか、全く決めてなかったな。
うーん、どうしよう。
その時、私の心の中に、とんでもない単語が浮かんできたので即座に打ち消した。
しかし、澪にはバレバレだ。
あの世界にいなくとも、私の心は澪には見通せてしまう。
……なんかズルくない?
(あら、ロマンティックでいいじゃない。ルーカスくんのだけ、その名前にして、他は普通の名前にしたらいいじゃない?)
「笑われない……かな?」
こんな名前をつけて、笑われたり、受け取ってもらえなかったら、相当ヘコむ。
(大丈夫、カリウスくんだって、あなたの気持ちを汲み取ってくれる、とても良い人だったじゃない。ルーカスくんを選んだ、あなたの目を信じなさい)
(付き合ったことないくせに……)
(なっ! わ、私はね、自分じゃ付き合ってないけど、恋愛相談なら誰よりも頼れるって評判だったんだからねっ!)
仕方ない、何を悩んだところでなるようにしかならないんだから、ここは正直にいくことにしよう。
「じゃあこれは『いつまでも共に』で……? えっ、あっ! どうしよう!」
(どうしたの?)
「ルーカス用に作らなきゃって思ってたけど、これあげちゃったら卒業課題に出すものなくなっちゃう」
(あのさ、調律者使ったのを卒業課題に出す方がマズイんだから、それはあげちゃって、もう一本作りなさいよ。今度は調律者なしでね)
「そうか、じゃあまたパパに頼んでおかないと」
すると、研究室のドアがノックされた。
誰だろ?
今日は学校にいる人なんてほとんどいないはずなのに。
ドアを開けると、用務員さんが見たことのある箱を抱えていた。
机に置いてもらい、またお礼を言って見送る。
箱を開けると、
「あれっ? また水筒来た!」
中の手紙を見ると、ママからだった。
『ラブラブセレナのことだから、ルーカスくんへの水筒ばっかり考えて、卒業課題で出す分忘れてたでしょ? まあ恋は盲目っていうから? 仕方ないからフォローしてやるわよ。感謝なさい』
……くくっ!
すべて図星だから何も文句が言えない。
とは言え助かった。
こっちはまた今度ゆっくり作ることにしよう。
時間を見ると、そろそろ始まる時間が迫ってきていた。
「澪、すぐ封印できる?」
(はいよー、五分くらいでいけるから、さっさといらっしゃい)
こうして私はなんとか黎明祭へ駆けつけて、ティミナたちの発表に間に合わせることが出来た。
私があげた、適当に作った掃除機もどきを、きちんと製品として完成させ、サイクロン機構を組み入れたティミナが一位、クーラは三位なんだけど……。
(ねえ、澪。あれさ……)
(うん、スクーターだね、もはや)
そうだなぁ、一人乗りのスクーターの横幅を広げて、車輪を四つにした形と言えば分かってもらえるだろうか?
車でもないし、スクーターでもないし。
しかもタイヤ部分が鉄っぽいから、あれ振動すごそうなんだけど。
と、講評を聞いていたらやはりその部分で減点されたらしい。
でも、もしかしたらママが作った、衝撃吸収材使ったら、化けないだろうか?
後で教えてあげよう。
そして、私はいよいよルーカスへあの水筒を渡しに行くこととなる。
冬休みの始まった次の日。
マリーナだけに私は行き先を告げ、一人――いや、まあキアネアちゃんは一緒だけど――王都へ旅立った。
成長する能力『調律者』。これ育っていったら、セレナ一人で量産も可能になりそうで怖いですね。そして出来上がった水筒。『いつまでも共に』。あとはこれをルーカスへ届けるだけです。
次回、第190話「いつまでも共に 前編」
さっそく届けに行くと、ルーカスは不在。連絡を待つ間に、セレナは準備を整えます。




