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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第9章 卒業課題

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第188話 望まない展開

「セレナ先輩、黎明祭(プリマルクス)の決勝に出す魔導具って決まってるんですか?」


 十一月のとある日。

 机で魔導具辞典を眺めていた私は、突然ティミナからそんな質問を受けた。


「あれ、今年の書類審査の締め切りとっくに過ぎてるよね? 私今年は出るの辞めようと思って、出さなかったんだけど」

「先輩、今年の大会要項何も見てないでしょ? ほら、ここ」


 ティミナが大会要項の一部を指さしたので読んでみると、


『※なお、前年度優勝者は決勝大会から参加の優先出場となるので、申し込みは不要。辞退の場合のみ連絡のこと』


 と、書いてある。

 えっ、去年こんなの書いて……あ、去年は初だからあるわけないか。

 でもこんなルールを作った記憶はないけど。

 まさか……。


「これ、ティミナたちが考えた?」

「はい、先輩を逃さないようにと思って」

「これ、私が辞退の連絡してたらどうしてたのよ」

「大会本部で見なかったことにして、破り捨てます」


 そうかそうか、ティミナも強くなったなぁ。

 とりあえず私はティミナを私の前に立たせ、足で腰を挟みお仕置きし(くすぐっ)た。

 そろそろ私のこういう行動にも慣れたようで、一年生たちもティミナの奇声にビクッと反応してこちらを見たが、すぐに各自の作業に戻る。


「ひゃひゃひゃ、や、やめて! セレナ先輩、アハハッ、んんっ! ハァ、あははっ!……」


 さすがにあまり長い間後輩の前で、あられもない声を上げる先輩を晒すのは申し訳ないので、軽めに終わらせる。


「ハァッ、ハァッ……ご、ごめんなさい」

「よろしい――もー、しょうがないなぁ。落華摘粉(フロス・プルヴィス)でいっか。水筒は卒業課題だから出せないし」


 私は研究室の片隅で今日も元気にハニーミルクを作ってる、落華摘粉(フロス・プルヴィス)に目をやった。

 今のところ特に問題もなく稼働してくれている。

 なぜ今動かしてるかというと、粉末の保存方法を変えて保管し、どのくらいの間飲めるのかを検証しているからだ。

 ……まあ後はちょっと楽しくなって、色んな飲み物を作ってるというのもある。

 昨日はオレンジジュースを試してみたし。


 ちなみに出来た粉末は、製造日をメモした紙をくっつけてアミーカにも送っている。

 彼女のリクエストの粉末を作ってるからということと、ハニーミルクの出来栄えを確認してもらうためだ。

 おかげでハニーミルクだけは頭一つ抜けて品質が上がっている。

 これでルーカスに文句を言わせないもの……いや、喜んでもらえるものが出来たと思う。


(はぁ、なんだかなぁ。なんであんなヤツのこと好きになってんだろ?)

(ふふっ、一度認めたんだから素直になりなさいよ)

(澪……だってさぁ、なんか私っぽくないじゃん。しおらしく寄り添うとか)


 私は手を頭の後ろで組んで、研究室の天井を見上げた。

 真っ白に塗り上げられ、シミ一つない天井は、私の濁った心とはあまりに違いすぎて見えてしまう。

 魔導具のことやルーカスのこと、研究室のみんなや私の進路のこと。

 それらがぐるぐる混ざりあって、私の心で色々な色を見せてくる。


(あなたが動けば、それが『あなたらしさ』よ。セレナがしおらしくしたいと思ったなら、それもまたセレナっぽいんじゃない?)

(そんなものかねぇ? まあいいや。まずはプレゼントの水筒を頑張ってみるよ。材料待ちだけど)

(ルキウスさんならきっとセレナのためにすごいものを仕上げてくれるわよ。頑張ってね)

(うん、ありがと)


「セレナ先輩? 何ボーッとしてるんですか?」

「うん? 人をハメてくれた後輩にどういうお仕置きしようかなーって」

「これ以上!?」


 涙目のティミナはクーラに任せ、私は気が乗らなくなって来たので、帰ろうかなと考えたその時。

 研究室のドアがノックされた。

 ちょうど近くにいた私がそのままドアを開けると、用務員さんが顔を見せた。


「研究室宛に荷物が届いてたから持ってきたよ」


 そう言って持っていた箱を手近な机に置いた。

 私はお礼を伝えて用務員さんを見送り、あらためて荷物に目をやる。

 送り主は……ルキウス・シルヴァーノ。

 パパだっ!


 私は急いで箱を開けて中身を取り出した。

 そこにはつや消しされた黒い金属のカバーと、鈍く光る銀色の筒が入っていた。

 後は……なんだ、この黒いぶよぶよしたやつ?

 円形なのでたぶん水筒に被せるものだと思うけど。

 荷物の底に手紙が添えられていたので、中身を開き、目を通す。

 あぁ、この書き方はパパっぽいなぁ。


『セレナっ! やっと出来たから水筒送るぞ。部品には魔導具の処理は施してないから、あとはお前の仕事だ。ルーカスくんのために、お前のありったけの想いを込めてやれ。セレナなら大丈夫だ』


 へぇ、もっと不満たらたらかと思ったら、すごく前向きに応援してくれるとは意外だった。

 我慢して書いてくれたんだろうなぁ。

 パパの不器用な愛情に頬が緩む。

 あれ? もう一枚あるな。


『硬化付与だけじゃパキンッと割れるわよ、考え足りな過ぎ。パパの薬剤とスライムの素材を混ぜ込んだ、新しい衝撃吸収の素材を入れといたから、それを水筒に巻いておきなさい。蓋と底が直撃したら諦めることね』


 ……うん、ママっぽいね。

 せっかく緩んだ頬がピキッと固まった。

 でも、こうして憎まれ口を書きながらも、私の水筒のために動いてくれるあたりも、とてもママらしい。

 ありがとう、二人とも……。

 私はママの手紙を胸に抱えて目を閉じた。


「あらっ、何これ?」


 いつの間にかそばに来ていたマリーナが、机に置いてたパパの手紙を取り上げて目を通す。

 マズイッ!

 そっちは、マズ過ぎる!!


「こ、こら、マリーナ! それ私宛の手紙よ、勝手に読まないで!!」


 しかし、たいした文章量があるわけでもなく、一瞬で目を通したマリーナは、ニヤァと過去一の悪い笑顔を浮かべた。


「リディアー、ティミナー、これこれっ。面白いことが書いてあるよー!」


 普段たいして運動神経がいいわけでもないのに、マリーナはこういう時だけカリウス並みの瞬発力を見せる。

 くっ、危機意識が足りなすぎたっ!

 こうなったら私に出来ることはただ一つ。

 研究室奥に置いたカバンのことは諦めて、箱だけ抱えて逃げようとドアを開けた。

 すると、ドンッと何かにぶつかった。


「なんだ、この箱は?」


 よりによってこのタイミングで、レオニス先生が研究室にやってきた。


「ちょっ、先生どいて。急いで、早くっ!」

「何を慌てている? っ……! 今度は何をしでかした?」


 あー、日頃の行い大切!

 今日に限っては何もしてない!

 それどころか私がこれからしでかされる(・・・・・・)方だ!!


「何もしてない、ほんとっ、お願い、はや……」


 ガシッ。

 箱を持つ私の両手を、リディアとティミナが握りしめた。

 ……終わった。



 その後、沈黙の箱(ピクシスムータ)を使ってまで、マリーナ、リディア、ティミナ、クーラだけに素直に話をした上で、最後に伝えた。


「もし誰かにバラしたら……分かってるわね? 私は手加減なんてしないから」


 マリーナだけがニコニコと笑っていたが、他の三人は青い顔で頷いていたから、これで大丈夫だろう。

 マリーナはもう罪を犯したので、夜、泣いても許さないほどにくすぐり続けることは確定している。



 さて、と。

 せっかくパパとママが、私のためにこんなにもしてくれたんだ。

 私も、私に出来る最高の仕事をしなくては。

 そう考えた時、自然とその決意が固まった。

 今度の休み。

 誰もいないところで、やろう。


 私の心の奥底で、澪が静かに微笑んだ気がした。


 ティミナの成長にきっちりハメられたセレナでしたが、その後のマリーナにまでやられましたね。まぁ、さっさと素直になりましょうというお告げでしょう(笑)

 

次回、第189話「最高の想いを込めて」


 黎明祭(プリマルクス)のウルヴィス予選大会当日。誰もいない研究室にセレナが一人。いよいよ、あの力を使う時です。

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