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笑顔を創る魔導具師セレナは、今日も世界をつないでいる  作者: 八坂 葵
第1章 幼き魔導具師、セレナ

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第1話 『一緒』を選んだ日

「私、魔導具作れる? ママみたいに、みんなを笑顔にする魔導具を作りたい!」


 ……幼かった私のこの想い。

 この日からママにパパ、様々な人に支えられ、私は魔導具師として、そして女性として育ってきた。

 そして今。


「さあ、セレナ行こう。みんなが待っている」

「そうね。あなたのことたーくさん自慢してあげるから、覚悟しといてよね」


 彼はいつもの困ったような笑顔を返してきた。


「お手柔らかに頼むよ」


 そして時は戻る。

 私の物語。その始まりの夜へ。


◇◆◇


 目を開けると、そこは花畑だった。


「んぅ……あれ? 私、ベッドに入って、それから……」


 あちこち見ても花しかない。

 少し強めに風が吹いているのに、揺れてもない変な花だ。

 まるで、そこだけ時間が止まってるみたい。

 なんでこんなとこにいるんだろ?


「ここどこぉ、パパぁ、ママぁ……」


 呼んでも返事はない。

 思わず座りこんで、泣きそうになる。

 すると、後ろで何か音が聞こえた。


 振り向くと、知らないお姉ちゃんが私を見ていた。 

 黒い髪に黒い目。

 私の家の近くでは見たことがない人だ。

 怖くなって逃げようとした時、


「あー! やっと来てくれた。遅いって」


 と、とてもホッとした顔で話しかけてきた。

 遅いって、私のこと?

 っていうか誰?


「あ、ごめんね。私、(みお)っていうの。んー、なんて言うのかな。他の世界で死んじゃって、今は……オバケみたいなもんかな?」


「ひっ!」


 思わず目を閉じて耳をふさぐ。


 私はオバケの話は大ッキライ!

 この前もそれでおどかしてきたパパと一週間口をきかなかったくらいだもん。


「あーごめんって。ウソウソ、オバケじゃないよ。――あ、あまり時間なさそうね。セレナちゃん、よく聞いて。このままだとセレナちゃんが消えちゃうの」


澪は少し表情をかたくして、周りの様子をうかがいながら、そう告げた。


「消え……ちゃう?」


「そう。本当は私がセレナちゃんの体に生まれるはずだったの。でもね、途中で迷子になっちゃって……。気づいたらね、もう五年も経ってて。その間にセレナちゃんが生まれてたの」


「だけど最近感じたの。少しずつセレナちゃんの心が小さくなってきてる。私がここにいるせいで、このままだとあなたが――いなくなってしまう」


 澪はそう言って困った表情を浮かべながら、後ろ頭をポリポリとかく。


「私、死ぬの? ヤダよ、パパぁ、ママぁ……」


 森で拾ってくれたパパやママにまだ何もお返し出来てないし、友達とだって遊びたい。


「うん。私だってそうするつもりはない。今はたぶん……セレナちゃんが小さいからだと思う。だから、私はセレナちゃんが育つまでここで眠りにつくよ。それならたぶん大丈夫」


 頭が熱い。

 なんで私のことを知らないお姉ちゃんに勝手に決められなきゃいけないの。

 いやだ、消えたくないよ。


 頭の中がぐちゃぐちゃになって、


「――出ていけばいいじゃん」


 するっと口から出た言葉に、お姉ちゃんはとても悲しそうな顔をする。


「出ていってあげたいんだけどさ、私、出ていったらもう消えちゃうんだ……」


 そう言って顔を下に向けちゃった。

 消えちゃう。

 もしかしてお姉ちゃんも……澪も死んじゃうの?


「……怖いんだ」


 澪は手をギュッと握った。


「私が出ていけばいい。消えればいい。分かってるんだけど……私だって消えたくない、死にたくないの!」


 そう叫んで澪は顔を隠して泣き出してしまった。


 ごめん、ごめんね。

 死ねばいいなんて、すごくイジワル言って。

 知らなかったの。

 泣かせるつもりはなかったの。


 泣いているのを見てたら、涙が出てきた。

 そして、


「うわぁぁん、ごめんね、澪ぉ。ひどいこと言ってごめんなさいぃ」

 

 謝りながら泣き叫んだ。

 すると澪が泣きながら、優しく私の背中をさすってくれる。


「ごめんね、泣かしちゃって。私はね、もうセレナの体で生きたいとは思ってない。ただ、セレナさえ良ければ、この中からセレナと一緒にこの世界を見てみたいだけなの」


 えっ?

 私は思わず泣き止んで、澪に聞いてみた。


「澪は遊んだり、走ったりしたくないの?」

「うーん、出来るならしたいよ? でもそうしたらセレナが消えちゃうもの。もし遊ぶなら、私はセレナとも遊びたい。だからそれでいいの」

「私が大きくなったら、澪はまた起きてこられるの?」

「うん、それは大丈夫。ちゃんと起きてこられるよ」 


 パパとママに拾ってもらえなきゃ、私だってきっと森で死んでた。それなら今度は、きっと私が拾う番。


「分かった。なら寝てて。私に優しくしてくれた澪が死んじゃうのはイヤだから」


 すると澪が私を抱きしめてきた。

 ポカポカ暖かいけど、少しだけ澪の体が震えてる気がする。


「いいの?」

「うん、二人で一緒にいよう」

「うん……うん! ありがとう」


 澪はそう言ってさらに力を入れて抱きしめてきたから、私もギューっと抱きしめ返した。


 ◇◆◇


「私が眠る前に、セレナに私の世界の知識を渡しておくよ」

「澪の世界?」

「うん。私が生きてた世界はこことは違うの。もしかしたらセレナの役に立つことがあるかもしれない。セレナが大きくなるまで私が力貸せないから、そのお詫びって思って」


 澪は私の頭を両手で挟むと、おでこを近づけ、当たる手前でピタッと止まった。


「いくよ。ちょっとだけ我慢してね」


 優しい笑顔でそう言うと、澪のおでこから一筋の光が伸びて私のおでこに当たる。

 すると、あっという間に光りは太くなり、私の頭の中に何かがもぞもぞ入るような感触があった。


 澪が我慢してといったワケが分かった。

 これは……頭の中でなにかが動いてるみたい。

 すごくむずむずしてくる。


「うっ!」


 思わず声が出てしまう。


「あと少しよ、頑張って」


 澪に励まされ、手を膝に当ててなんとかふんばる。


 すると、少しずつ光が細くなってきた。

 ホッとして胸を撫で下ろそうとした時、つい膝が曲がってコツンと澪のおでこに当たった。

 すると、澪のおでこからとても冷たい何かが入ってきた。


 ◇◆◇


「亜美、よけて!!」


『私』は体ごと亜美にぶつかりはじき飛ばす。

そして目前に迫るトラックのヘッドライト。


「澪っ!!」


 親友の悲痛な叫び。

 私はそれを聞いて


(良かった、助けられた……)


 と安堵し、そのまま闇に呑まれていった。


 ◇◆◇


 ギュウッと胸が締め付けられ、頬をつぅと涙が伝う。


「ごっ、ごめん!! それ渡すつもりなかったやつ!」


 澪が慌てて私の頭から手を離し、私の顔を見て不安そうにしている。


(体を張って友達を……澪はやっぱり優しい人なんだ) 


 今の出来事は、見たはずなのに……昔の自分の記憶みたいに胸に残っていた。

 澪の記憶が私の中に、すっと入り込む。

 消えるって、こういうことなんだ。


「澪?」

「澪がやりたいことは何?」

「やりたい? ……うーん、プログラミングかなぁ。でもこの世界パソコンもネットもないし。逆にセレナはしたいことないの?」

「私? 私はママの魔導具のお手伝いがしたいんだけど、難しくてよく分かんないの」


 と、私は知る限りの魔導具の説明をすると、


「ふーん、それならもしかしたらさっき渡した知識が役立つかもね。たぶん電子回路みたいなものでしょ」

「で、でんしかいろ?」

「そう。あっ、知識だけど人に教えたり、使い過ぎたりしないようにね。この世界では当たり前じゃない考えだから。まあしばらくは使いこなせないと思うけど」

 

 そう言って優しく頭を撫でてくれる。

 本当に澪は眠るしかないのかな……。

 すると、私の心配を見抜いたかのように、澪が私のほっぺを軽くつねってきた。


「こーら、お子様がいっちょ前に心配しないの! 自分で世界を回れないのは残念だけど、大きくなったらセレナがいろんなところへ連れてってくれるでしょう?」


 そう言ってニッコリ笑う。


「本当にそれでいいの?」

「だってさ、考えてみたら一つになったら迷った時や辛い時相談できないじゃん? セレナは私を世界へ連れてってくれる。私はセレナをたくさんサポートしてあげる。私たちは互いを頼れる、二人で一人。すっごくお得でしょ?」


 そう言ってニッと笑う。

 お得って、閉店前のお肉屋さんじゃないんだから。


 サワサワ……

 そんな音が聞こえた気がしたので、周りを見てみると、さっきまで全く動かなかった花々が小さく動き出している。


「うわっ、もう時間だ! もう一度言っとくよ。さっきあげた知識は使いすぎると、どう影響が出るか分からないから気を付けて」


 もう、行っちゃうの?

 もっと話したかった。

 せっかくお友だちに……なれたのに。


「そんなに悲しい顔しないで。眠ってても私はセレナと一緒。絶対に離れたりなんかしないから」


 そういって優しく笑う。

 不思議。

 さっき会ったばかりなのに、どこか懐かしい、安心する顔だ。


「うん、また澪が帰ってこられるよう、私も頑張る。だから、また必ず会いに来てね」


 そう言って澪の腰に抱きつく。

 その私を包み込むように澪が抱きしめてくれる。


「うん、絶対会いに戻るよ」


 そう言ったかと思うと、澪の身体は細かい光となって私の胸に飛び込んできた。


 とても優しくてあったかい。

 澪の優しさがそのまま温度になったような光、その光がすっかり胸におさまると、私は一粒涙をこぼした。


 ぐいっとそれを拭い、誰もいない黒い空を見上げて


「見てて! 頑張るからー!!」


 そう叫ぶと、私の意識もふっとそこで途切れた。


 ◇◆◇


 ……レナ、セレナ


 澪とは違う、優しく私を揺り起こす声。

 ああ、きっとママだ。

 起きなきゃ。


 なんか、頭が重い。

 きっとさっきの贈り物のせいだ。

 私は頭を押さえながら、ゆっくりと目を開ける。


「やっと起きたわね。セレナ、おはよう。今日はあなたの五歳の誕生日よ。おめでとう!」


 そう言ってギュッと私を抱きしめる。

 あぁこの温かさ、さっきの澪を思い出す。

 思わず涙がこぼれそうになった。


「さ、朝ごはんにしましょ。パパがいつも以上に気合入れて待ってるから覚悟したほうがいいわよ?」


 私から離れてそう言うと、ママはいたずらっぽく笑って部屋を出ていく。


 はぁ、今日はどうやってやりすごそうかな……。

 ただでさえ頭重いし、まだふわふわしてるところにパパのアレはきついんだよな。


 私は二重の意味で頭を抱えながら、それでも前を向いて部屋のドアを開けた。



 こうして私の物語は幕を明けた。

 澪と会えない期間は寂しいと思ったけど、ドアを開けた瞬間から、寂しいなんて言ってられない毎日が始まったんだ。


 お読みいただきありがとうございます。

 不思議な少女、澪との出会い、そして託された想い。

 ここからセレナの物語が始まります。


次回、第2話「魔導具師への覚醒」


 5歳の誕生日は朝からパパが全開!

 そして、澪からもらった「贈り物」が、セレナを新しい道へと導きます。


 セレナの中で眠りについた澪ですが、どういう印象でしたか?

 よかったら教えてくださいね。

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