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庶民が食べるイタリアンチェーン店、と言えばこれだという店で、ドリアを食べきってもいないのに僕は圭吾にせかされていた。
小柄の僕からしたら、大柄の圭吾に詰め寄られるのは恐怖以外の何物でもなく、ペペロンチーノを先ほど豪快に2つ食べた圭吾の口臭も相まって(もっとも僕らは親友だったが)逃げ出したくなるような朝がはじまったというわけだ。
「ほら、次はラーメン屋行くぞ。頼人待たせてんだぞ」
いら立ちを隠せない圭吾に何度も叱られながらも、僕はドリアを咀嚼しのみこむという機械的な行為を繰りかえし続けていた。
小さな液晶画面はブルーライトを放出し続け、そして情けなさそうに追いやられてしまった片隅の10:00という文字など気にも留めないそぶりを見せた。
僕がやっとドリアを完食して、腕時計を見やったとき、何度目をこすっても10時17分としか読み取れなくて、レジに並んでいる圭吾にどう謝ったらいいのかわからず、そろりとその場を立ち去り、逃げようとしたところ、圭吾に首根っこをつかまれた。
「ひぃぃぃぃぃぃ!」
震えあがる僕はペペロンチーノ2杯を食べたばかりの恰幅のいい高身長の男の、親からの受け流し100%の説教を受けながら、この町で、フードファイターと言えば圭吾だろうな、とぼんやり思った。