61話 悪酔いは程々に
こんにちこんばんは。
色々と趣味に走らせて楽しかった仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
そうこう過ごしている内に私たちの番がやって来た。どうやら私と空は二人で一人という設定らしく、二人ともゴールしてようやくゴールという事になるらしい。
「頑張りましょうね!空!」
「うん。頑張ろう。姉さん。」
ニコニコと笑い合いながらそんな会話をし、前を向く。スクリーンの端に表示されているカウントダウンが3、2、1、と数が小さくなり、0になった瞬間、一斉に駆け出した。
その中で一番初めに籠を手にしたのは残念ながら私たちではなく、私の右隣を走っていた金髪ポニーテールの少女だった。
『一番乗りはエポナファミリアのトゥリア選手ね。』
『エポナファミリアと言えば瞬足で有名ですから。特に彼女は風の申し子として有名です。』
優香さんの解説に耳を傾けつつ、適当に籠を取って更衣室に入る。中は鏡が壁中に張られ、何処からでも自分の服装が見れるようになっていた。……と言いいますか、どちらかというと自然に目に入っちゃうようになってますよね!?これ!!
やっぱりこの競技の内容を考えた人は性格が悪いと思いながら取った籠を開ける。中から出てきた白い煙に包まれると、衣装は一変していた。
……浦島太郎ですかね……?
「おー。姉さん、すっごく似合ってるよ!」
「はい?いえ、空も似合っていますよ。」
煙に気を取られ、ぼんやりとしていると興奮した様子の空が私を見ていた。
当の空を見てみると、そこには小悪魔といった表現が正しい姿をした空がいた。背中から胸元を覆うだけのお腹や肩が丸出しの黒いトップスは胸元を紐で締め上げるようなデザインになっており、黒いレースが飾りとしてついている。それだけだとかなり際どい格好なのだが、黒い付け襟がある首元から肩は黒いレースに覆われ、腕にも同様の手袋をしている為、お淑やかな雰囲気を持つようにも見えなくはない。
また、黒いベルトを巻いた赤いチェックのミニプリーツスカートもいつもと色合いが変わらないからか違和感なく着こなしている。ガーターベルトを付け、黒い革のロングブーツが大人っぽく見えた。……が、それよりもツッコミたい所があった。
「……空、なんで触覚と尻尾と羽が生えているんですか!?リングは!?輪っかは何処へ!?」
「ん?知らないよ。それより、ほら、姉さんも見てみなよ。姉さんの格好、すっごく可愛いし似合ってるから。」
そう言われて問答無用に鏡の前まで引っ張っていかれる。そこには正に天使様がいた。
……正しくは、天使の格好をしたお人形さんがいた、ですが。
まず目に入ったのはいつものブラックブルーのゴシックなワンピースではなく、どちらかというと甘ロリとも言うべき白いワンピースだった。首元までつめたフリルのある襟に結ばれているのは淡いピンクのリボンタイ。二の腕に膨らみのある袖は同じく淡いピンクのリボンで止められ、指先に向かって次第に広がるような形をしている。フワリと広がる膝下丈のスカートにはレースやリボンといった飾りが付いており、淡いピンクのつま先が丸いローファーにも同様にレースやリボンがついていた。
何より、自分の意思で動かせる白い翼が背中にあった。
「……はい?翼……?ほ、本物の……!?」
「姉さん?どうしたの?気に入らないなら主催者に突撃してこようか?」
「ち、違います!空!私、ついに本物の翼をゲットしたんですよ!」
思わずニヤケながらも、これは仕方がないと心中で言い訳をする。何より、今はお着替えタイムですしね〜。ここはカメラの外……あっ。今、競技中なんでした!?
ハッと現状にようやく目が向き、空に慌てて声をかける。
「そ、空!急がないとダメなんでしたね!?忘れていました!」
「もう行くの?多分、まだ1人も外に出ていないから大丈夫だと思うんだけど。」
そう言った空の言葉に周りに目を向ける。確かに、見覚えのある人達がまだそこにはいた。
中でも特に葛藤しているのは先ほど一番で更衣室に入った少女、トゥリアさんだ。
「こ、これ、本当に大丈夫……?」
顔を真っ赤にさせて恥ずかしそうにモジモジとするその姿はとても可愛らしく、先程までの走り去るカッコ良さとは別の魅力を感じる。
その姿は如何にもお姫様といった格好だった。ピンクのドレスに銀色のティアラがきらりと光る服装はよく似合っているのだが、どうやら本人にとっては着慣れないものだったらしい。確かに、元々の服装もスポーティな印象を受ける服装だっただけに納得のいく反応かもしれなかった。……本人としては災難かもしれないが、周りの人達に比べればまだマシな服装だろう。
つまり、気にしなくてもいいですね。
「まあ、今リードしておけば優位に立てますからね。」
「それもそうだね。」
行こっかという声に頷き、カーテンの向こう側に出る。
そのまま飛び出し、次のコーナー、網抜けへと向かった。まだ前の組の人が残っていたが、そこを空いているスペースを選び、魔力糸で網を持ち上げて進んだ。実質トンネルを通るだけのような気分である。
こういう時、魔力糸って便利ですよね。
改めて自分の能力のありがたさを実感しながら次へと向かう。次はいよいよ飴玉探しだった。今までに見てきた状態異常は麻痺、毒、催眠、石化、凍結、混乱、盲目、獣化などと実に様々だ。
さて、何になるかと魔力糸で探り、飴玉を探しあててその上にリングを移動させ、吸い取る。
『えっ、エンプティ選手の口、そこなのね……?』
『彼女は人形族の中でも特に珍しいリング族という話です。本来は食事を必要としない種族なので、口も手足も存在しないんですよ。ふふふ。それをあんな方法で対策するなんて、素晴らしいセンスをしていますね。』
実に食べさせがいがありそうでという言葉に何故か背筋がヒヤリとしたが、そのままリングの中に取り込むと甘いイチゴ味の飴玉の味と共になんだか楽しくなってきた。
「姉さん、大丈夫?」
心配そうにこちらを見てくる空に更になんだか笑えてきてニヤニヤとする。
「えへへ〜。そーらぁ?なんれ、そんな心配そーなんれすか?」
フラフラふわふわと楽しくなってきて空に抱きつく。うわっと短い悲鳴が聞こえた気がしたが、気のせいだろう。
だって、空は私の妹ですし。家族なんですよ。家族とは、少しスキンシップが多くても許されるもの。そうでしょう?ずっと、ずーっと欲しかったんです。だから……。
ジーッと見つめると、空は焦ったように腕を引っ張り、何処かへと連れていこうとする。それもなんだか楽しくてヘラヘラと笑ってついて行った。
その先にはバイクやロバといったものが見えてくる。ああ。あれはいいですね。
「あははっ!そらー!お馬さんに乗りましょー!」
「うん。そのつもりだよ。ボクが後ろに座るから、姉さんはボクの前に座って。」
「はーいっ!」
ケラケラと笑いながらお馬さんに乗る。うん?ロバだって?いいえ。誰がなんと言おうと、これはお馬さんなのです。
私が頭に乗り、空が後ろに座って手綱を持つとロバはヒヒーンッと荒々しく鳴いて走り出す。前足で蹴り上げ、後ろ足で地面を吹っ飛ばす走り方は、まるでロデオのようだ。この状況にも面白くなってますますケラケラと笑う。
「あははっ!楽しいですね?そらぁっ!」
「そ、そうだね。……これ、姉さん、泥酔の状態異常を受けてるな。」
何やらボソリと呟く空は放置し、今はこのスリルを楽しむことにする。
ふふふ。良いですねぇ。グルングルンに回る景色!あはは!楽しぃです〜♪
『輪っかも酔うのかしら?でも、片割れは平気そうね。どうなっているのかしら?』
『確定で状態異常が発生する。それは種族スキルですらも無効にしてしまいますから。そして、あの片割れですが、独立装備のようなものなのでしょうね。生きた人形というものを聞いたことがあります。
だからこそ、影響を受けないのでしょう。……その割には、お喋りな上に自由意志が強すぎますが。』
『へぇ。つまり、例外の装備なのね。武器に状態異常は効かないからというのは納得だわ。』
何やらお喋りな声が聞こえた気がするが、その頃にはロデオも終わり、いよいよ最後の障害に辿り着いた。
「それじゃあ、姉さん。この中に手を入れて。」
「はい?……はぁい。よいしょっと……。」
目元を擦りながらも手を突っ込み、なんとなく手に取ったものを引き抜く。
そこには『他人には言いたくないけど知って欲しい大切なもの』と、書かれていた。
えーっと……?あー!これはもうあれしかないですねぇ?
うふふと笑いながら空を見る。よっぽど気になっている様子の空にはいっと紙を渡すと、中身を読んで顔を引き攣らせた。
「何?これ。完全にハズレでしょ。しかも、出題意図が意味わからないし!?誰!?こんなの入れたの……!」
「まあまあ〜。そらー。こんなの、持ってくるのは決まってるんですしぃ?そう怒らなくてもいーじゃないですかぁ。あははっ!」
「あー……それもそうだね。……そして、姉さんは悪酔いの方に入ったんだね。
オーケー。直ぐに転移しようか。」
「はぁいっ!」
相変わらず笑いながら空の言う通りに転移する。そこには神様がいた。そして、神様を視界に入れた瞬間に抱きつき、再び転移する。
「え」
神様が驚いていようが気にしない。今は私、酔っているのだ。多少怒られるかもしれないが、酔っ払いに何を言っても仕方が無いと思ってくれるに違いない。
そうして戻ってきて直ぐにお題の書かれた紙を台の上に置き、スクリーンを見る。
『あら。ものではなく人を連れてきたのね。面白いわ。お題は……「他人には言いたくないけど知って欲しい大切なもの」?』
『ふふふ。良いですね。甘酸っぱい予感……どうぞ。説明してください。』
不思議なものを見るようにきょとんとして首を傾げるサルーラさんに、愉快そうに口元を緩める優香さん。……優香さんからはどうも舌なめずりをするような気配を感じたが、気にしないこととする。
「はぁいっ!神様はですねぇ……あ。えっと、この方、アルベルト・テオズと言うんですが、私を受け入れてくれてぇ……。私の全てで、私の神様なんですよ〜!
えへへぇ。この方のためならなぁんでも出来るんです!なのでぇ……条件、満たしてますよね?」
隣で慌てている神様が目に見えたが、そこは知らない。
アイム酔っ払い。故にノープロブレムなのですよ!
自覚のある酔っ払いはいないとは言わせない。そうしてニコニコとしていると、アナウンスの人が困惑したように話しかけてきた。
『えっと、どの辺が他人に言いたくないのかしら?』
「え?こーんなに素敵な方なのですよー?言って知られたら取られちゃいますよね?でも、取られても文句言えないので言いたくない……ですが、知って欲しいんです。
私の神様なので。素敵で大切な方なので。皆に崇められれば敵は減りますよね?少しは恩返しになりますよね?
それなら、その素晴らしさを知って、大好きになって欲しいんですよ。全ては神様のために。」
こんな当たり前のことを聞かれ、何を言っているのだろうかと首を傾げる。すると、サルーラさんは頬を引き攣らせて呟いた。
『何、この子。甘酸っぱさも欠けらも無いのだけど。寧ろ、ドロドロね。……まあ、そんな愛もあるかしら。』
『ふふふ。いいじゃないですか。可愛い理由ですね。ええ。良いでしょう。合格です。お通りください。』
何故か微笑ましげに笑った優香さんに首を傾げながらもゴールし、グループの中では一番となった。
尚、神様は終わった後、暫く顔を真っ赤にさせて怒ったのは言うまでもない。よっぽど恥ずかしかったらしい。
とはいえ、いいじゃないですか。少しくらい。……私だって、恥ずかしかったんですから。
次回、応援合戦(予定)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




