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セカンドライフ  作者: 禁中並イエローハット
16/18

暗澹

「先刻ぶりだね」


「・・・」


「いや、なかなかやるじゃないか。

 (さか)しらというか、何というか」


「・・・」


「おい、何か言ってくれない───・・・」


「───何故生きているッ!! 」


 がなる殺意を轟かせ、私は生きていた恩師に睥睨(へいげい)した。


「アンタはあそこで命を落とした! 絶対だ! それだけは確実に!」

「落とし物は拾う主義でね」


 言い終わるのとほぼ同刻に、私の刃は、師匠の首筋を舐めていた。

 追撃する様に、私もまた師匠を()めつけた。


「あまりふざけるな!さっさと言え!!」

「・・・怒るな、直ぐ教えてやる」


 すると師匠は、天を仰いで、眼を閉じ口を開いた。


「あの怪光線に呑まれた時、やはりお前の言うように死にかけた。

 だが、私は咄嗟に土魔術で、向かってくる光を受け流すように斜めの防壁を作った。 

 あの光線に対して垂直でに壁を作れば、まともに衝撃を受けて、防壁の体をなさんだろうから。

 

 そして目論見通り、最初光は受け流すことに成功していた。

 だが恐ろしいことにな、最上級の硬さで具現させた岩壁ですら、そう長くは持たなかった。


 じりと、じりじりと、次第に光輝に呑まれて行った。


 そして、光線も途切れるかというような時に盾は朽ち、今のような手傷を負ったと、そういう訳だ」


 滔々(とうとう)と、或いは淡々と師は語った。

 その表情から、色彩が失われた状態のまま。

 

「・・・なるほど、ちょうど途切れ目の時だけ喰らっていたから、その程度で済んだ訳か」

「そうだ」


 その肯定に苛立ち、喉元の刃を、そのまま押し出し()く裂いた。


 つもり、だった。

 

 鮮血を浴び損ねた白刃が、宙空でバツが悪そうに居所を失っている。


「鈍い」

「・・・チッ!」


 師匠は、そのまま背後に飛翔し距離を取り、再び私と相対した。


「・・・何故アイツ(名無し)を殺めた。いい加減殺すぞ」

「私を殺そうとしておいて、殺されたら文句を言うのか。 いささか都合が良すぎでは無いか?」

「都合が良い? 私がアンタを殺したいこの気持ちが、都合が良いってのかよ。    

『誰かを殺す』と言うことは、怨嗟の渦へ身投げする事、つまりは『()()()()()』と言うことだ。・・・アンタの教えだぜ」

「その『自殺行為』によって『生き』続けているのが私とお前だ。ならば、『生き』ようとする奴が『死ん』だところで、今更何も不思議は無かろうに」

「・・・ッ! 詭弁が過ぎるぞ!」


 畜生、口論ですら勝てんらしい。


 喋ってるだけで、だんだん体力が奪われていく気すらする。


 いや、昔っからのことなのだが、本当にこの人は私から、何から何まで奪ってきやがった。


 不自由だったり、時間だったり、辛さだったり、挙げ句の果てにはエマやアイツのことだって。


 とても許せることじゃ無い。


 そして私もまた、そんな彼に習うようにして、誰かの何かを奪い続けた。


 それこそ命だったり、時間だったり、自由だったり、幸せだったり。


 同じような事を、ずっと。


 いい加減、私は親離れをするべきだ。


 卒業するべきだ。

 成長するべきだ。


 ならば、何をすればいい。

 何を『奪え』ばいい?


 否。


 きっと、そういう事では無い。

 違うんだ。


 今こそ、エマに、夫に、ついぞできなかったあの事を。

 

 どれだけ願おうと叶わなかった、過去の夢を────。



「アンタに死を────『与えて』やる」

「おまえの命を────『奪って』やる」



 誰かに何かを『与える』。

 それが、私の贖罪だ。







 次の(またた)きには、死は濃度を格段に上げ、飽和していた。


 師匠が此方に肉薄し、白刃を振りかざしていた。

 既にそれは、眼前を塞ぐほどに切迫している。


 これは避けきれない─────わけではなかった。


 此方も、刃を上に振りかぶって一閃し、殆ど急死に一生を得ていた。


 そして今、凶刃を防がれた師匠と同様、私自身も大きく(からだ)の重心を崩している。


 眼前にまで迫る危機をとっぱらうためだ。

 多少重心を崩してでも防ぎに行くのは当然と言える。


 が、此処で如何に疾く攻めに転換できるか、それが肝要なことに違いはないのだ。


 故に、今の体勢はかなりの命取り。


 早々に対処せねばなるまい。


 だが、このまま素直に体勢を戻そうとすれば、出遅れるのは明白である。


 相手が師匠だからな。


 ので、私は体勢を、()()()()ことにした。


 私は崩れた体勢のまま、右の蹴りを繰り出した。


「はっ!」

 

 すると師匠の方も同様に、右脚で蹴り返して来た。


「・・・ッ! よし!」


 どうやらこの対処で正解だったらしいな。

 同じ条件で同じ行動をしたという事は、そういう事だ。

 

 嬉しさの前に、少し、虚しいが。


 お互いの蹴りが反発して吹き飛び、後方にてアクロバティックな着地を決めた。


 そして間髪入れずに、師匠は此方にナイフを投擲して来た。

 それを、()()飛んで軽く避けた。

 何泊か間を置いて、右の方にナイフが空を切り、地べたに刺さった。


「・・・!」


 普段の私なら、右に避けていた事だろう。

 危なかったな。


 なんて、流石に意図的にやっているがな。

 

 そう、師匠は私と戦う時、どうしても経験、つまり先入観

を頼りにしているきらいがあるのだ。


 長く戦い続けた相手というのは、癖がわかってしまうだけあって、戦い易いのだ。


 その場に応じて思考する必要がないからな。

 ノータイムで反応できる。


 だからこそ、揚げ足も取りやすい。

 相手が頼りにしきっている先入観を、俯瞰し、客観的に判断すれば、どれだけだけだって利用できるものなのだ。


「うおおおおおおああ!!!」


 今度は、私の方が駆け出した。

 師匠もまた、呼応するように足を回す。


 私は足を止めずに、右を大きく振りかぶった。


 そしていつかと同じように、師匠はその伸ばし切った腕の側面を目掛け、一撃を入れようとして来た。


 前回判断を間違えたのは、此処であえて一撃を受け入れるとだ。


 その後左でも殴りかかって、もう片手を使って防がせる事で両手を完封し、頭突きを仕掛けたのだ。


 が、師匠は頭に鉢金を仕込んでいた。

 このまま踏むのは、きっと同じ轍だ。


 ならば───!


「!?」


 師匠は目を剥いて、驚きのリアクションを取った。


 此方に走ってくる師匠の足元に、土魔術で凸を作りそれにつまずかせ、挙句彼の鉢金を火魔術で急速に熱したのだ。


 驚きもするだろう。

 

「・・・・」

「・・・・」


 今のところ、わたしが何をするにも一歩リードってところか。

 師匠が見ているであろう私の幻影(かこ)と、あらゆる乖離を果たす事での成功だ。

 これはなかなか、めでたい事であると同時に、恐ろしい難度を私に突きつけている。


 それは、成長する事。

 私に少し、荷が重い。







 白刃が一閃すれば、確実にどちらかが消耗した。

 あちらが右腕を斬られたら、こちらが左腕を穿たれていた。

 彼が激しく攻めた分だけ、私はそれ以上に盛り返した。


 本来なら、まず有り得ない光景だろう。


 アイツ(名無し)の必殺技が無ければ、確実に私が不利だった。


 だが今はどうだ。


 対等のレベルで戦えている。

 それどころか、少し上回ってすらいる。


 ()()()()()()、私は確実に勝てるだろう。


「だああああああ!!」


 火魔術を右手に溜め、掌底を幾度が打ち込んだ。


 魔術が云々とか以前に、有機物で構成された人間は火に弱い。


 人類が進化できたのは扱いに長けていたからであって、依然炎は天敵のままだ。

 アイツと違って直ぐに対処ぐらい出来るだろうが、隙が生じるのは不可避の事だ。


 そして今、師匠は刹那の混乱状態である。

 

 これは絶好のチャンスだ。

 絶好というにはあまりに泡沫(うたかた)だが。


 私には今 最大級の水魔石と、最上級の焔魔石がある。


 これを一度後方に下がり、師匠目掛けて投げる。


 なんて、ことはしない。


 そんな事をすれば彼はとっくに対処を終えて、次の攻勢へと出て来てしまうだろう。


 ならば、ならばどうすればいいのか、簡単だ。


 差し違えてでもこの近距離で、私自身も逃れられない様な爆炎をこの場に上げる。


 先程言ったとうり最上級の魔石だ。

 わざわざ距離を取って後方から投げでもしない限り、爆炎は生命を駆逐する。


 私も師匠も、絶対に生き残れはしない。


「はああああああっ!!」


 戦場に光輝が放逐され、眩い白が視界を潰した。


 そしてその光の中に、私と師匠がいた。


 それで、充分だ。


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