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再会と放置プレイ

さて、久那妓さんと別れてから暫くは無言で皆山を下っていた。




登りよりも幾分かましではあるが、やはり道のりは険しく、途中休憩を挟みながらなんとか下山する頃には、皆汗だくになっていた。




だが、どういう訳かコンだけは涼しい顔をしていた。




曰く「神じゃなからな!えっへん!」と、無い胸を張ってどや顔をかましていたがのだが、そういうもんなのか…と、妙に納得して、子供の体力というのは凄まじいなと、しみじみ思っていた。




しかし、それが癇に障ったのかコンはまたふくれっ面で頬っぺを赤くしてこちらを睨んでいたが、間に入った花奈と樹が上手くなだめてくれたので丸く収まった。




「うぅ~…また子供扱いしておるな~おぬしぃ~!!」




八十年生きていようがこういう所が子供っぽいのである。




「ほら、コンちゃんこれあげるわ!グミ食べる?宝石みたいな綺麗なやつよぉ!」




花奈も負けずにカバンから駄菓子を取り出してコンの口に放り込む。




「ほら~ぁ、コンちゃんこれ最後までチョコレートたっぷりでサクサクしてて美味しいよ~?はい、あーん!」




と、次から次へと差し出すものだから口いっぱいに駄菓子を詰め込まれ、目を丸くして、ハムスターみたいに頬を駄菓子で膨らませていたコンだが、駄菓子を偉く気に入った様子で次々と頬張っていた。




「人間というのは凄いのじゃ!ぐみ…というのか?甘くて、ぐにぐにしてて、餅のようだが違くて…きらきらじゃ~!こっちのちょこれーと…?とかいうお菓子も甘くてちょっと苦くて、サクサクで…うまいのじゃ!」




むしゃむしゃ、ぽりぽりと美味しそうな音を立てて次々に駄菓子を口に詰め込んでいくコン。




と、そんな調子で目を輝かせてはしゃぐ様子を横目に俺は車に荷物を詰め込んでからばあちゃんに仕事が終わった事を報告する為、スマホを取り出し電話をかける。




空を見上げると陽はすっかり隠れてしまい、時刻は現在午後六時半。




辺りは暗くなってしまい、昼間と違い蝉達が寝静まり別の羽虫たちが合唱を始めており、昼とは違う喧しさがあった。




車の中も少し窓を開けていたおかげで幾らかましだったが、熱気が充満しておりくそ暑い。




エンジンをかけてエアコンの摘みを最大にして少し待っていると、ばあちゃんの携帯につながった。




「おや、四季頼んでた仕事は終わったのかい?」




「ああ、今終わったよ。本殿の掃除と草刈り。刈った草は束ねて一か所に置いておいたけど、それで良かったんだよね?」




「そうかい、助かったよ。草は後で管理人が纏めて燃やしてくれるから置いてて大丈夫だよ。何か問題は無かったかい?」




ばあちゃんの声の感じからして、すっかりいつもの調子を取り戻しているみたいだ。




「ああ、その事なんだけど実は…」




と、切り出し今日の事を報告することにした。




「ばあちゃんも人が悪いなぁ…神様の事、知ってたの?」




今日の本題だ。




掃除するだけかと思いきや、まさか奇妙な宿題まで押し付けられるとは思わなかった。




「そりゃ神社だから神様はいるさね。そう信じてお祈りしてるわけだからねえ…」




「ああ、あんな大きな狐がいるなんて思わなかったよ。だから稲荷寿司をお供えしてたんだね?」




「大きな狐?ああ、ご神体の事かい。そうそう、あの神社には大きなお狐様が祀られているのさ。ありがたい事さね」




いまいち話がかみ合っていない気もするが、気にせず続ける。




「その神様なんだけどちょっと頼み事をされてさ。ばあちゃん、ご神体の仙狐水晶って知ってる?」




「…四季、何か悪戯でもしたのかい!何でその名前を知っているんだい…?」




そう尋ねると、ばあちゃんの声音がワントーン低くなりこちらを訝しんでいる様だ。




だが、俺はありのままを伝える事にした。




「いや、今日掃除してたら本殿の中のミニ社の扉が壊されてて、んで、その後神様から直接”仙狐水晶を取り返してくれ!”ってお願いされちまってさ…」




そう言うと、電話越しに烈火の如く降り注ぐ雷鳴の様な怒りを孕んだ声が耳をつんざく。




「今なんて言った!四季、どういうことだい!説明をし!もし、本殿を壊したってんならただじゃおかないよ!」




「いや、掃除してたら久那妓さんっていう神様がでてきて直接頼まれたんだって!」




キーンと耳鳴りがするのを耐え、何とか返事をするとばあちゃんはしばし沈黙の後、なにやら深刻そうな声で訪ねてきた。




「…っ!四季、今の話は本当かい!?その名前は…誰から聞いたんだい!?」




なので努めて冷静に淡々と報告する。




「ああ、本人から直接聞いたよ。だから仙狐水晶を取り戻す為に協力しているところだよ…それでばあちゃんにもちょっと聞きたいことがあって…」




その名前を聞くと、電話口の声はどことなく震えている様子で…。




「…じゃ、じゃあ…四季、あんた…娘は!?その娘さんにも会ったのかい…?」




というので、電話口を今も喧しく騒いでいる三人の方へ向ける。




「たちゅきーこれはなんじゃー…?なんか変な感じじゃぞ~!しゅわしゅわしてて、ぱちぱちじゃが…いいにおいがするぞ!」




耳をぴこぴこ、尻尾をフリフリと樹と花奈から餌付けされているコンは、いつの間にか自販機で買ったであろう炭酸飲料を目の前にして、またも興味津々といった様子だ。




そんな様子に保護者二人は、完全に娘を甘やかす親モードでそれを勧める。




「ええ、これはコーラって言って甘くてしゅわしゅわでちょっと酸っぱいけど、とっても美味しいのよ。ほら、飲んでごらんなさい」




「そうだよ~こんちゃん、イッキにいっちゃいな~?」




と、促されるがまま素直なコンは花奈のにやつく表情を気にせずに「うむ、わかったのじゃ!」と、ペットボトルに口をつけると、中身を一気に煽っていく。




「ん、ん…ん…わぷっ!!けほ、けほ…こ、これは…しゅわしゅわで…あわあわで…けぷ!な、なんじゃ!げっぷが止まらぬ!けぷ!」




すると炭酸で咽たコンは、三分の一程を飲み干したところで盛大に吹き出してしまった。




その際、顔いっぱいにコーラを浴びて目を白黒させて樹に泣きついていた。




「うぅ…たちゅきぃ…けぷっ!」




「あはははは…!コンちゃん…可愛すぎる…!」




その様子を見て爆笑する花奈。




コンからコーラを受け取りよしよしと、頭を撫でてそれを宥める樹。




「ふふっ、コンちゃん…これはこうやって少しずつゆっくり飲むのよ。そしたらきっと甘くてすっきりするはずよ?」




自分の分のボトルを少し傾けてゆっくりと飲み干していく樹。




しかし、コンは花奈の方へと向き直り口の周りのコーラを袖で拭うと言い放つ。




「しかし、花奈はイッキにと言っておったぞ!」




それを見て花奈は砕けた様子で、両手をパンッ!と合わせて素直に謝罪した。




「ごめんね~…あまりにも可愛くて~…ちょっとだけ、いじわるしちゃった?」




「むぅ~…花奈、おぬしまで子供扱いするか~!」




瞳に涙を溜めながらほっぺを膨らませて樹にしがみつくコンを二人であやしている様は、本当に仲のいい家族みたいだった。




と、そんなやり取りを電話越しに聞いていたばあちゃんはというと…。




「—―ッ!」




「てなわけで、その娘さんのコンも何故か預かる事になったんだけど…」




「今すぐ!連れてきな!!」




「え?」




「今すぐ家に連れてきな!いいかい、寄り道せずすぐにこっちに来な!」




ばあちゃんは間髪入れずに続ける。




「いいかい、とにかくすぐ家に来な!」




と、ただならぬ様子だった。




「えと、とりあえずそっちに戻るのは分かった。俺も話したいことがあるからそうだな…まだ皆ごはん食べてないから何か作って置いててくれると助かるよ」




そう伝えると、ばあちゃんは短く「分かった」とだけ言って電話を切ってしまった。




「ふむ…まあ、直接会って言えば良いか…」




と、一人納得して帰り支度を整えたのだった。







「すまん、今日の焼き肉はまた後日ってことで…!」




そう告げると三人はこちらを向き直り口々に文句を言ってくる。




「ぶーぶー!焼き肉食べたかった~!」




「そうよぉ~半分は焼き肉の為にこんな山登りまでしたっていうのにぃ~…ちょっと、そりゃないんじゃないのぉ?」




この様子ではあるが、電話口でばあちゃんに「すぐに連れてこい!」と言われた事を説明すると、渋々ではあるが納得してくれた。




「すまん、必ず埋め合わせはするから!」




手を合わせて頭を下げて頼み込むと、何だかんだ言っていいやつらなのだ。




「代わりといっちゃなんだが、ばあちゃんがご飯は用意してくれてるみたいなんだ。だから一度仙狐水晶についての相談と、コンの顔合わせってことで一緒に来てくれないか?」




俺の方からそう提案すると、二人は「当ぉ然!」「あったりまえよお!」と、案外すんなりついてきた。




当のコンはというと。




「ハルに会いに行くのか?わかったのじゃ」




と、随分物分かりが良く、すんなりと樹が運転する車に乗り込んでいた。




ということで、皆で車に乗り俺の実家へ突撃する事になった。




夜桜山から家までは大体一時間くらいで着く距離だ。




後で花奈から聞いた話だが、コンは最初対向車を見て巨大なダンゴムシの強襲だと思ったらしく「シャーッ!」と、威嚇していたが暫くするとエアコンの快適さにすっかり魅了されて寛くつろいでいた。




「いいのぅ…えあこん。夏なのにひんやりしてて涼しいのじゃあ…!妖術か~?」




更に車を走らせると窓の外を見て光り輝く街並みに目を奪われ「これはなんだ?あれはなんだ?」と、指をさしてなんだなんだ攻撃を食らっていたらしい。




その間も樹は律儀に一つずつ答えていたそうだが、こいつの面倒見の良さはここまでくると凄まじいなと感心してしまった。




市街地にある実家に着く頃には時刻は八時を回っていた。




さて、一昨日も世話になった我が実家は一軒家だ。




二階建てで外には三台程駐車スペースがあり、一台分は既に先客がおり車が止まっていたが、残り二台分のスペースにそれぞれ駐車することが出来た。




見慣れたその軽自動車は母さんの物だろう。




車を降りて家に三人を招き入れようとすると、既に玄関前で足に白いギブスを巻いてはいるものの、筋骨隆々のゴリラばあちゃんが仁王立ちで出迎えてくれた。




「お帰り四季。さて、話は後だ。とにかく上がっておくれ」




「ああ、ただいま」




そう言って皆を手招きするばあちゃん。




しかし、樹たちの後部座席の方から降りてきた人影を目視する。




「ってか、暗いから気を付けてね~?そうそう、私の手掴んでいいからゆっくり降りて~…よっと!」




花奈が先に降り、その奥から金髪碧眼のケモミミ幼女ことコンが、花奈の手を掴んで元気良くぴょん!と飛び降りる。




軽快な足取りで着地すると、花奈の方を向き直るコン。




「車というものはすごいのじゃ!馬より早くてそれでいて全然揺れないのじゃ!人間というものは本当にすごいの!特にえあこん!これは素晴らしい物じゃ!夏なのに冷やっこくて…快適なのじゃ!」




と、無邪気にエアコンの凄さを力説するコン。




当然ながら俺らもその姿を見て和んでしまっていたのだが、ばあちゃんは少し様子が違った。




「しかし…人間の町というものはまたすごいのじゃ!あっちこっちぴかぴか光っておって、夜じゃというのに昼間みたいに明るいのじゃ!これは…妖術の類なのか?それともアレか!大量の蝋燭を燃やしておるのか!?」




と、尽きる事のない現代社会への興味を耳をぴこぴこ、尻尾ふりふりと軽快に動かしこちらの方など気にせず楽しそうに話続けるが…。




ばあちゃんはコンの姿を確認すると泣き出してしまった。




「―――っ!!」




声こそ押し殺しているが、瞳からは涙が次から次へと溢れ出しばあちゃんの頬に幾重もの筋が零れ落ちていた。




「なっ!?どうしたんだばあちゃん!」




正直今まで生きてきた中でばあちゃんが泣いている姿を見たことが無かった。




俺の問いかけにばあちゃんは何も答えず、涙を流し立っていた。




悲しいとか苦しいとかそういう表情をしておらず、呆然とその姿を見据えてただ立ち尽くしているだけだった。




「ばあちゃん?…ばあちゃんってば!」




と、呼びかけるとようやくばあちゃんはハッとした表情を浮かべ頬に手を当てると手の甲で涙を拭い呼びかけに答えた。




「―――っ…。すまないねえ、まさか生きてる間にまたお会いできるとは思ってなかったもんだからさぁ…みっともない姿みせちまったもんだよ、全く…」




と、若干涙声ではあるがいつもの調子に戻った様子のばあちゃん。




そんな様子を見た樹は車からティッシュの箱を持って来て、ばあちゃんの前に差し出す。




「どうぞ、使ってください」




「あ、ああ…ありがとう」




差し出されたティッシュを素直に受け取り、涙を拭うばあちゃん。




花奈もばあちゃんの方へ向き直ると頭を下げて一礼する。




「どもっす。お世話になります」




そんな様子二人の様子を見たコンもばあちゃんに気付いたのか、花奈の手を離し自慢の尻尾を左右に振りながらこちらに駆け寄ってくる。




そしてばあちゃんの目の前で停止するとにぱっと花が咲いたかの様な笑顔を浮かべ飛び着いた。




「ハル!久しぶりなのじゃー!また一段とデカくなってるのじゃ~!」




「―――っっ!!」




そんなコンを軽々と受け止めると、ばあちゃんもコンの背中にその太い腕を回ししっかりと抱きしめる。




「う、おお…!?うお!?ハル、苦しい!苦しいのじゃ!」




と、筋肉ゴリラばあちゃんの腕の中でわたわたと手足を上下に動かしながら藻掻いている。




時間にして十秒くらいだっただろうか。




ばあちゃんはコンを抱きしめると、ゆっくりと抱擁を解く。




若干苦しそうにしているコンだったが、嫌がっている訳ではない様だ。




「どうしたのじゃ?ハル…?」




と、無言で抱きしめられていて不安になったのかばあちゃんの顔を見上げるコン。




後ろを振り返り、俺や樹や花奈に助け船を出して欲しそうな顔をしているが、ばあちゃんがしゃがみ込み、コンに目線を合わせてもう一度軽く抱擁する。




今度はきつくないように優しく腕を回して、肩と頭に手を当てて身体を引き寄せる。




そして、ばあちゃんは口を開いた。




「…コン様、お久しゅうございます。またお会いできて、ハルは嬉しゅうございます…」




ばあちゃんがそう言うと、コンもそれに答えた。




「うむ、ハル久しぶりじゃの!こうして直接会うのはいつぶりじゃったかの?」




コンがそう言うと、ばあちゃんはゆっくりと抱擁を解き、目線を合わせたまま言葉を紡ぐ。




「ええ…コン様。以前にそのお姿でお会いしたのは七十年も前でございます。ささ、立ち話もなんですから上がってください。狭い家ですが、お食事も用意しておりますので…どうぞ」




食事、という言葉を聞いた途端にコンはまた目を輝かせて前のめりになる。




口を栗の様な形にして、ぶんぶんと激しく尻尾を左右に動かし尋ねる。




「アレは、アレはあるのか!?」




コンが期待を込めた視線を向けて尋ねると、ばあちゃんはニコリと笑いながら答える。




「ええ、もちろん準備しておりますよ。さ、こちらですよ?」




と、立ち上がりコンと手を繋いで家の中へと入って行く。




その際に完全に置いてけぼりを食らっていた俺と花奈と樹。




アニメや漫画ならひゅーっと風が吹いて木の葉が舞っている様なシーンにリアルに遭遇してしまった。




虚しさを感じたが、気にしない事にした。




家の前で突っ立っていると、不審者として通報されるかもしれない。




主にオカマが。




そうなる前に家の中に入るのが得策だろうと思い、先導して二人を家に招き入れた。




「…まあ、入ろうか?」




「ええ、そうね…」




「だね~…」




と、短く返事を返してくれた二人も肩を竦めて顔を見合わせて俺の後に続いて家の中へと入ってくるのだった。




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