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マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~  作者: 振木岳人
◆ ダンまち(ダンジョンで待ち伏せされた)編
38/85

38 挑戦者



 王立フェレイオ学園夏休みの一大イベント【ダンジョン祭り】はサンクトプリエンツェ郊外で行われる学内行事である為、別段街の人々に告知はしないのであるが、噂は独り立ちして巡り巡るもの。これを商機ととった街の商人たちがダンジョン敷地外を取り囲む様に店を並べ、祭り三日目だと言うのにさながらここはリトル・サンクトプリエンツェ……。小さな街へと様変わりしていた。

 武器や防具、鎧などの出張打ち直し店、回復薬などを扱う出張薬局、ダンジョン内でも夜を明かせるためのキャンプ道具店、食糧品店や機能性洋服店そして、自炊しなくても良い食堂やカフェテリアまでもが急ごしらえで出来上がり、それ目当ての住人も流入しての一大リゾートスポットに様変わりしている。


 ダンジョン入り口正面にある生徒会本部のテント前には、巨大なボードが設置され各部門の成績優秀者の名前が張り出されているのだが、その内容は刻一刻と更新されており、それを見守る学園生たちのどよめきが絶える事はない。

 そして祭り三日目の夕方、ダンジョン内で夜営せずキリの良いところで一旦地上に出ようと、ダンジョンから引き上げて来る無数のパーティーの中に、シリルたちの姿があった。


 ぜいっ、ぜいっと息を切らしながら歩く姿は、表情すら繕う事が出来ない程に疲労困憊と言ったところ。しかし先頭を行くエステバンも次に続くロミルダも、カティアもシリルもしんがりのジェイサンも、誰一人として「ああ、またやってしまった」と言う自責の念が身体から溢れる事は無く、日に日に進化する自分たちに驚きながらも自信をつけ始めている様な、充実しきった顔付きであった。


「はあっ、はあっ……。良かった、みんな良い動きをしていたと思うぞ」


 シリルたちを激励するのはロミルダ・デーレンダール。完全鎧を脱ぎ捨て、騎士剣と盾すら手にせず、まるで盗賊の様に革製のブレストアーマーを付け細身の曲刀を腰に下げた彼女は、身軽さとその視野の広さと的確な判断力をもって、名実共にパーティーのリーダーとなった。

 そして彼女が慣れないながらも戦闘中に時折り見せる風魔法の応用【フェイス・フォワード(前を向け)】は、思いのほか戦局を有利に導いている。


 ⬛️風魔法応用 フェイス・フォワード

 五大元素の風魔法を利用して、ロミルダがより実戦的に改良を加えた戦闘補助魔法。

 敵の身体をバッサバッサと切り落とすだけの巨大な「かまいたち」を作れないロミルダは、敵の顔の周りに無数の小さなかまいたちを発生させつつ一方向だけかまいたちの無い空間を作る。三百六十度かまいたちで囲むのではなく、三百度程度と考えれば良い。

 すると敵は、まぶたや耳をピシピシと傷付けるかまいたちから眼を守ろうと、かまいたちの存在しない空間に自然と顔を向けてしまうと言う、強制的な敵意獲得戦術……強引にタゲ取りを行うロミルダ苦肉の策。


 背後に仲間がいると言う安心感からか、「おりゃあ! 」「来いやあっ! 」「やるのか、コノヤロー! 」と吠えながら敵の前に立ち塞がるエステバンと、エステバンの背後にいる大事な仲間たちにターゲットが向かない様にと放つ、この応用風魔法フェイス・フォワードのおかげで、カティアとシリルの被弾率が格段に下がった。それはつまり、カティアが落ち着いて魔法攻撃が出来ると言う事であり、カティアを背負うシリルも暗い洞窟の中で全力疾走のまま右往左往しなくて良くなった事の表れ。

 つまりは、パーティーメンバーの全てに心の余裕が出来たと言う事。西の彼方に沈みゆくオレンジ色の太陽と、赤々とそれを照らす夕焼け空を見て、無事地上に上がり一日が終わる事を実感。シリルたちの緊張の色は解けて無邪気な子供の顔へと戻って行く。


「帰って来れたね 」

「昨日は出たり入ったりの繰り返しだったけどよ、今日は一日潜ってられたな」

「……外の空気……美味しい……」

「明日は地下二階層目指すか? ジェイサン頑張る」

「あはは、そうだな。戦闘練度も増せば明日は二階層にチャレンジ出来るかもな」


 周りの一年生は既に、四階層踏破にチャレンジしようとしいる事から、シリルたちの二階層チャレンジは決して早い訳ではなく、むしろ異例の遅さなのだが、そんな心的負担は彼らには無い。むしろ彼らにとってはやっと冒険の扉が開いたかの様に見え、今は強烈な力を秘めた挑戦者の瞳を煌々と輝かせている。


「なるほど、一日二日で良くここまで変わったね」


 大会運営本部……生徒会役員が詰める本部では、はしゃぐシリルたちを遠くに見詰める生徒会長、アーロン・ミレニアムと副会長エーデルトルト・バルデンの姿がある。


「彼らは船の漕ぎ方を知らなかった、そして漕ぎ方を覚えて海原を前にした。全てはこれからですわ」

「おや、突き放す様な言い方を口にする割には、エーデルトルトは楽しそうだね」

「楽しいに決まってますわ。だって私、あの子たち大好きですもの」

「そうだね、僕も同じだ。見てみなよエーデルトルト、疲れが吹き飛ぶようなあの彼らの楽しそうな顔を」

「あら、私たちだって初めてダンジョンを踏破した時は、みんなくしゃくしゃな笑顔で喜びましてよ。一番喜んでいたのは……さて誰でしたっけ? 」

「あはは、かなわないなあ。……おや、ビーティーが帰って来たね。彼らの戦果を聞いてみよう」


 二人が言葉遊びで戯れていると、乾いた土をツカツカとリズム良く鳴らしながら、ビーティー・ベアトリクスが本部のテントをくぐって来た。その表情はあくまでも冷たさを醸し出しつつも、はやる足音で心情がバレてしまう様な、ひどくアンバランスないでたちだ。


「ビーティー・ベアトリクス、戻りました」

「ご苦労様ビーティー。その勢いだと、僕らの催促を先回りしてでも報告したい事があるんだろ? 」


 シリル・デラヒエにご執心だねと言う空気を放つアーロンを軽く無視し、遠回しにからかわれている事を承知の上で、後にピクシー(妖精)から正式な報告がありますがと前置きし、ビーティーは淡々と語り始めた。


 ーー本日朝よりダンジョンアタックを開始したシリル・デラヒエ以下五人のパーティーは、地下一階層の全マッピング(地図化)に成功しました。その際に四回戦闘を行い、オーク二体とコボルド一体、骸骨戦士を一体撃破しました。戦闘に関しては逃走は無く四回とも勝利となりますーー


 顔を見合わせるアーロンとエーデルトルト、一日中ダンジョンに潜ってはいたものの……と、過小評価の粋をはみ出さなかった二人が、華々しい戦果を聞いて躍り上がった瞬間だ。


 ーー戦闘は、クエレブレ種ロックドラゴンのエステバンが肉体硬化して完全防御態勢の前衛役に徹し、騎士で登録されていたロミルダ・デーレンダールは魔法戦士にジョブチェンジしつつ司令塔に。悪魔召喚士カティア・オーランシェはシリル・デラヒエに守られながら魔法攻撃を遺憾なく発揮し、最後尾のカースド・ウォリアー(呪われた戦士)ジェイサン・ネスは後方からのサプライズドアタックを全て受け止めた後、前衛後衛の円滑なスイッチに貢献しました。ーー


「いいよ、すごく良い。皆が皆、機能してるじゃないか! 」

「ねえビーティー、それでシリル君は? シリル君はどうだったの? 頑張ってた? 」

「頑張ってました。悪魔召喚士のカティアをおんぶしたりお姫様だっこしたり……チッ!……」

「……ビーティー? 何か変な方向にスイッチ入ってない? 」


 ビーティーの背後から湧き上がる黒いオーラ、それが殺気だと気付かないアーロンやエーデルトルトではなかったが、とりあえず見なかったフリをしてシリルの活躍を満面の笑みで褒め称える。


 ちなみに、シリルの個人成績で言えば、本日の収穫は「銀のかけら」。ちゃんと街の道具屋で見てもらえば二万ペタは下らない拾い物なのだが、喜び勇んでダンジョン周辺に出来た露店で換金したその買い取り額は二千ペタ。……仲間たちからボロクソ言われ、意気消沈のまましょんぼりと帰宅したそうだ。




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