↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
24/85

24 一閃の先に見たもの



 【獄門(ごくもん)】

和文化における処刑方法の一種で、首を刎ねた後にその首を公衆の面前に晒すと言う屈辱も含めた死刑である。


 エノキダ・ダンジョウが何故そう呼ばれたのかに関しては十六年前に遡る必要があった。それはつまり、第一次天使蹂躙の際に起きた出来事こそが「獄門のダンジョウ」と言う伝説を作り上げたと言う事である。


 当時のマスターズ・リーグは今の階級制とは違い、騎士王ボードワンが掲げた旗の元に各種族の精鋭部隊が募って成立した組織である。

 サンクトプリエンツェの領主でもあったサムライ・マスター、エノキダ・ヒョウマ率いるサムライトルーパーズももちろんマスターズ・リーグに参加したのだが、ヒョウマの弟で当時十六歳だったダンジョウはマスターズ・リーグには参加していない。エノキダの血を絶やしてはならぬと兄のヒョウマから厳しく禁じられていたのだ。

 齢(よわい)十六にして兄ヒョウマから「あいつは剣聖だ」と言わしめたダンジョウは、彼が望むと望まないと、一族の将来を想って温存されてしまったのである。


 だが、血気盛んな十六歳は兄や親や親族の厳命や説教や泣き落としを無視して、彼は単身戦場へと旅立ってしまう。


「バカやろ、誰がこんな楽しい事を大人だけにやらせるかよ」

「サムライってのはな、どれだけ死ぬか生きるかの境界線に立っていられるかってのが、粋(いき)な生き方なんだよ」


 そう仲間内にうそぶいていたダンジョウは、結果として伝説を残したのだ。

 マスターズ・リーグ……それもサムライトルーパーズとウサギの獣人の戦闘部隊である聖峰特殊作戦群、更にリザードマンのチーム・ドレッドノートで組織された南岸方面大隊が壊滅の危機に瀕した際、「獄門のダンジョウ」がそれを救ったのである。


 ■「エル・ナ・ミモザの丘攻防戦」

 大陸南を西岸側に進撃し、マスターズ・リーグ本体と衝突している天使群に対して側面挟撃を敢行しようとしていた南岸方面大隊は、最終決戦場にたどり着く前に、天使群の大規模別働隊と鉢合わせしてなし崩し的に遭遇戦が始まってしまう。天使群も本隊に対しての側面挟撃戦を狙っており、エル・ナ・ミモザの丘は別働隊同士の思わぬ潰し合いの場となってしまっていた。

 総力的には地上人側が圧倒的に不利で前衛のリザードマン部隊が粘っているものの起死回生の策は無く、後はジリジリと天使群に押されたまま壊滅を待つだけの状態。


「ここで全滅など出来ない」

「我々が本隊に合流しないと、挟撃どころか本隊が全滅の可能性だってある」


 打開策も無いまま、恐慌状態に陥りつつあった南岸方面大隊がミモザの丘を東に向かって押し戻されている時、その時に奇跡が起きた。南岸方面大隊の背後にあるヨルニヨンド渓谷の入り口からもうもうと全軍撤退を意味する紫狼煙が上がったのである。


 一人二人が狼煙に気付いた後、それが南岸方面大隊全体に伝播するまでさほどの時間もかからなかった。援軍もしくは体制立て直しを意味しているのではなく有無を言わさぬ撤退なのだと、全軍は血相を変えて後退を開始したのだ。

 そしてヨルニヨンド渓谷の入り口に差し掛かった時に戦士たちは恐るべき光景を目の当たりにしたのである。

 進軍中には無かったのだが、渓谷の入り口には何と、岩の上やら地面やら槍に刺さったものやらと……辺り一面にズラリと天使の首が飾られていたのである。


「渓谷内部まで向かえ!ひたすら走れ、走るんだ!」


 崖の上からダンジョウがそう叫び、戦士たちの撤退を急かしている。


 もちろんこれは天使群をおびき寄せる罠であり、本来なら狭い渓谷の狭間におびき寄せられれば、さすがの天使も何か罠があると感じて躊躇するのであろうが、彼の企みは見事に成功した。

 獄門……つまり、晒された天使の首総数五十六体分の恨めしそうな表情が天使群の逆鱗に触れ、頭に血の昇った天使たちは罠だと分かりつつも渓谷へ突入を開始したのである。

 それなればもうあからさまな知略の勝利。両側を崖に阻まれた狭い道に勢いだけで飛び込んだ天使群は、まんまと上から落ちて来た巨石に潰されて壊滅状態。形勢は完全に逆転したのである。


 そう、「獄門のダンジョウ」とはその時に広まった名前。

 全滅の危機に瀕していた南岸方面大隊の戦士たちは心から彼に賛辞を送り、後々まで語り継がれる事となったのである。


 だがしかし、伝説となった当の本人は、出陣を止められていたのに勝手に参戦してしまったバツの悪さもあるのか、乱破衆(忍者団)の助力を得ただけの事で我は新参者だとうそぶき、そのままそそくさと戦場から姿を消した彼は、再びその剣を第一次天使蹂躙で振る事は無かった。

 マスターズ・リーグはその後、騎士王の死と言う悲しみを乗り越えて、天使群を見事大陸西岸まで押しやったのである。


「勝ち戦なんざクソ面白くもねえ、勝手に喜んでろっつうの。サムライには死線を越えるかのギリギリこそが至高よ」


 これも当時、ダンジョウの口ぐせであった言葉だ。

 つまりはその後の追撃・殲滅戦が彼の矜持には合わなかったから姿を消したと言えるのだが、真相は今も闇の中であり、ダンジョウを含めた当事者たちは決して口を開こうとはしない。

 案外、兄のヒョウマから大目玉を食らって伝説なんぞ金輪際思い出したくもない気分なのかも知れないし、そもそもが伝説や自分の過去になどまるで興味が湧かない性格のかも知れない。

 確実な事は、王立フェレイオ学園が開校された際に若いダンジョウが学園長に任命されたと言う事実。ダンジョウならば、彼ならば間違い無く第一次天使蹂躙を教訓に誕生した精鋭部隊、マスターズ・リーグの頂点に立てるだけの実力を有していたはずなのに、周囲の期待とは裏腹に教育者と言う彼にとって一番似合わない道を進んだと言う事が実は、エノキダ・ダンジョウにまつわる最大の謎だったのである。


 ーーそして時は今。

 獄門のダンジョウと呼ばれたサムライは再び天使と対峙した。

 奇策も何も通用しないいきなりの遭遇戦、彼の立った場所から後退する事だけは絶対に許されない防衛戦。

 愛刀、備前スターファイターを顔の右に縦に持ち上げて左肩を天使に向け、八双の構え……陰の構えや木の構えとも呼ばれる鎧武者の構えをとり、天使と向き合ったダンジョウだが、何故か天使に対する違和感が胃をくすぐり始める。


「……おや?」


 あの時の圧倒される様な敵意、闘う前から肌でビリビリと感じたあの、絶望的な力の差が見られないのだ。

 対峙しているのは「あの」天使。間違いなく恐怖と血の嵐と死をもたらす地上人にとっての災厄であるはずなのに、負ける気が一切しないのである。


 ……自分がそれだけ強くなった、そんな傲慢さなどダンジョウは持ち合わせてはいない。常に己の剣と向き合って生きるサムライに過信や増長などあり得ないからだ。そうであるならばこの目の前に立つ天使は、あの天使の姿形をしながらも、実は天使では……ない?


 刹那の時間にそれを見抜いたダンジョウは、気味の悪い高音域で威嚇を繰り返す天使に対し、八双の構えのまま電撃的に突進。

 誰もが目で追う事の出来ない残像の世界の中で、天使に向かって備前スターファイターを左肩から右脇腹へと振り降ろした。


 ……きえええいっ!……


 もちろん辺りに響いたこの声は天使の悲鳴ではない。肩口からばっさりと二分割された天使がその場にどうっ! と崩れた時に、辺りに響いたダンジョウの気合いの声。

 生徒会長のアーロン・ミレニアムがエバーラスティング・ヒールの防御陣を張り、その中で生徒会副会長のエーデルトルト・バルテンと風紀委員長のビーティー・ベアトリクスが負傷した衛士たちを後送する最中、誰もが瞬いた瞬間に全ては決したのである。


「むう? 」

「アーロン、何が起きた? 私には何も見えなかったぞ」

「いや、僕にも見えなかった。ビーティー、君には何か見えたかい? 」

「君たちと同じだ。サムライ……恐るべしだな」


 ダンジョウの電光石火の一撃が一閃である事すら分からかった生徒会メンバーは、目を白黒させながら茫然自失。

 そしてそれは、ちょうどメルローシュ先生に促されて、講堂に遅れて避難しようとしていたシリルと、赤竜の姫であるアルベルティーナ・ララ・ヴァルマの瞳にもしっかりと焼き付いていたのである。


「すごい……」


 サムライがサムライたる所以、サムライの真髄を垣間見て度胆を抜かれた生徒たちが、あらためて我らの学園長をほれぼれと見詰め始めた時に、中庭にダンジョウの声が轟いた。


「見るな! ……見るんじゃないっ! 」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。