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マスターズ・リーグ ~傭兵王シリルの剣~  作者: 振木岳人
◆ よろずやシリル開店
16/85

16 生徒会長の視線



「はあっ!? お認めになられると言う事ですか? 」


 王立フェレイオ学園の学園長室、アンヌフローリア女史の素っ頓狂な叫び声が廊下まで轟く。

 よろずやシリルの件についてその詳細を報告して、学園長であるエノキダ・ダンジョウの裁可を仰ごうとしたのにも関わらず、この学園の最高責任者はベランダに作った特製青空茶室で茶をすすりながら、彼の好きにやらせなよと言い放ったのだ。


「社会生活に馴染めないどころか、率先して人と関わり合いをもとうだなんて、なかなか見どころのある少年じゃないか」

「お言葉ですが学園長、課外活動の時間を利用した営利目的の活動なんて、前代未聞です! 」

「あはは、一回一ペタなんだろ? 今どき一ペタじゃネギ一本買えない額だよ」

「金額の問題じゃありません! 課外活動部の新設にあたって申請も無ければ認可もありません。これがまかり通ってしまえば他の生徒に示しがつきません! 」

「……おや?」


 ダンジョウはその緩い表情の緩い瞳の奥でアンヌフローリアを見つめながら、鋭く頭を回転させる。

 学園長に向かって猛然と食らいつくこの学年主任の真意がチラリと見えたからだ。


 ……なるほど、アンヌフローリアさんは彼の背中を後押ししてるのか。本心では彼の決断を応援しながら私に対しては真逆の事を言う。いやはや恐れ入った、私が許可すると見込んでワザと学園長のお墨付きを取りに来たんだね……

 

 クスリと笑ったダンジョウ、しかし彼の顔から緩みはあっという間に消え、厳しく鋭い表情に変化した。


「一学年の学年主任兼シリル後見役アンヌフローリア・ボーマルシェ、精霊王との兼ね合いもあり高度な政治判断をもってよろずやシリル部の件は学園長権限で許可する。よって今後は彼の課外活動にも協力する事を命じる! 」


 いきなりピシャリと言われたので、一瞬たじろいだアンヌフローリアではあったが、業務命令はあくまでも命令。承知しましたと一言口にして、踵を返し学園長室を退出して行った。


 (……嘘のつけない人だ、口元が緩んでましたね……)


 彼女の後ろ姿を好意的に見つつ、再びずるずると茶を楽しみ始めたダンジョウであった。


 そして場所は学園長室のちょうど真下。

 扉に「生徒会室」とプレートが付けられた部屋ではまさに、真上の学園長室と全く同じ話題が議題となり、集められた生徒がけんけん轟々と議論を重ねていた。


 生徒会室に集まったのは七人、コの字に並べられた机の右側は課外活動部武道派代表の二人そして左側は課外活動部学術派代表の二人、その真ん中の長机に位置する三人が生徒会執行部役員。いずれをとっても学園内ではエリート中のエリートであり、「マスター」取得どころか英雄連盟入りすら噂される猛者ばかりだった。


「名誉ある学園内で営利活動など言語道断! 」

「ましてやその内容が、武道でも学術でもなくよろずやなどと、学園創設の理念すら汚す行為ではないでしょうか? 」

「課外活動として認められていないのに、勝手に活動を始める行為は、生徒の自治に悪影響を及ぼします」


 武道派代表や学術派代表の生徒たちが顔を真っ赤にしながら生徒会執行部の役員たちに食ってかかる。

 主張している内容は至極ごもっともで怒りに満ちているのも確か。これらの意見を汲み取って生徒会執行部が動けと言う事なのだが、何故か執行部役員側の中央に座る人物はとても涼しげで、まるで吹き荒れる暴風雨の中を鼻唄を歌いながらスキップでもしているかのよう。

 彼の名前はアーロン・ミレニアム。王立フェレイオ学園生徒会長であり、ここ数年は輩出される事の無かった【英雄連盟(マスターズ・リーグ)】入りを確実視されている生徒だ。


「皆さん、ちょっと待ってください。ここで生徒会執行部側で集めた情報を公開させてください」


 緑がかったサラサラの金髪をふわっと揺らしながら、アーロンは隣に座るウサギの獣人の女生徒に発言を促した。


「風紀委員会委員長のビィーティー・ベアトリクスです。我々風紀委員会が秘密裏に調べた一年B組のシリルの素性に関して、報告させていただきます」


 異常なほどに目が鋭くそして冷たい空気を放つこの風紀委員長は、私が発言している間は余計な口を挟むなよとでも言いたげに部活動代表たちを一瞥し、淡々と報告書を読み上げ始めた。


 ーーシリルこと一年B組のシリル・デラヒエは精霊界における不動の頂点、精霊王エリーゼ・フィオ・デラヒエの息子である。だが本人は十六年前の天使蹂躙の際の戦乱孤児で、精霊王に拾われた人間だと証言している。

 彼の証言が正しいのかそれとも、学園側の公式見解である精霊王の息子なのかは分かりませんが、到達者デラヒエの名前が冠されている以上精霊界と彼との関係性は深く、影響力は多大なものと判断されます。

 成績は論外と言っても過言ではなく、まず字の読み書きが出来ません。そして体力は平均以下で得意な武道も剣術も特殊技術もありません。完全なる放任主義の元、野生児として育ったらしく社会生活も今回が初めてのようですね。


 開いた口を塞ごうともせず、唖然としたまま報告を聞き入っていた部活代表者たち。

 新学期初日の講堂異臭騒ぎや今朝の中庭の一件は噂や人伝いに伝わって来たが、まさか騎士王ボードワンの数々の伝説に必ず登場する精霊王が深く関係しているとは……。

 代表者たちのその愕然とした表情を楽しみながら、生徒会長アーロン・ミレニアムは再び優雅に口を開く。


「多分この件は学園長権限で許可が出るだろうね、だってそうだろ? まるで何も出来ない野生の子犬がこの学園に入って来たんだ。これがどう言う意味を持つかわかるかい? 」


 全くと言って良いほどに静まり返った生徒会室。アーロンは一通り生徒を見回した後に立ち上がり、一同に背を向けながら窓際へと移動した。


「ふふふ。彼の希望かそれとも精霊王の差し金かは分からないが、この学園に無能者が入ってこれる訳が無い、本人も送り出した国も恥をかくだけだからね。だがしかし彼は入って来て自分の無能を恥じる事無くポジティブに動いている」


 窓の外を見詰めるアーロン、どうやら学園の敷地外、高い壁の向こうを見つめているのだが、だんだんとその表情が険しくなって行く。どうやら何かしらの不審な点に彼の警戒感が反応しているようだ。


「シリル・デラヒエ、面白そうじゃないか。僕はね、彼の好きなようにやらせてあげようと思うんだ。多分ダンジョウさんもそう思ってる。……そう言う事さ」


 ……それに

 この単語を最後にアーロンは語るのをやめた。

 まだ【相手】にその気が無いのか、どうやら偵察活動だけで学園の敷地内には入って来ず、相手側もアーロンの殺気を察知したのか、ジワリジワリと退却を始めたからだ。


 彼が「それに」と言う単語の後に繋げようとしていた言葉は、結局生徒会室にいる者たちに告げられる事は無かったのだが、もし口にしていたならばこう続いた。

 「学園内の自由人なんか気にしていられなくなるよ、多分近々血の雨が降るからね」と。

 学園内の笑い話やゴタゴタなどが軽く吹き飛んでしまう様な、本当の事件が始まろうとしていたのだ。



 ◆ よろずやシリル開店

   終わり



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