17 点火魔法!
……ごくり
固唾を飲み込む音が鼓膜を大きく揺さぶるほどに、静寂が支配する運動場。
一年B組の生徒たちとメルローシュ先生が拳にギリギリと力を込めながら、前のめりになって一人の少年を見詰めている。
その少年の名はシリル・デラヒエ、つい最近まで山野草を採り、川で魚を取って生きて来たその日暮らしの少年だ。
……ごくり
……ごくり
最近仲良くなった悪魔召喚士のカティアとドラゴンのエステバンも、真剣な眼差しのシリルを固唾を飲んで見守っている。
『全能神フェレイオの子供にて、炎を司る神イグスに命じる。創生と終焉のともし火を前に、東の門をくぐれ』
脂汗を額に浮かべて眉間にギリギリと皺を寄せ、邪念が浮かび上がる隙さえ無いほどに手の平の先に何かが出現する様なイメージで脳内を全て統一させ、シリルはとうとう口を開く。
「……イグニション!」
シリルがそう叫んだ瞬間、ロウソクの灯りほどの小さな火の玉が、ぽんと言う可愛い音とともに指の先に点灯した。
「……やった、成功だ! 」
ごく一部の生徒を除き、その場にいるほとんどの生徒が歓声を上げた。
「シリル、シリル良かったな! 魔法だぞ、魔法が出たんだ! 」
「……シリル……良かったね……」
エステバンもカティアもまるで自分の事の様に喜び、魔法を発現させたシリルを祝福した。“ドン底シリル”と揶揄されて反論すら出来なかった少年が今、夢の階段を一歩登ったのである。
「みんな、みんな……僕やったよ! 火の玉が出たよ! 」
本人も小さな火の玉を凝視しながら、ワナワナと身体を震わせて喜びを噛み締めている。
「これなら、これなら食事の度にいちいち火起こししなくて済むね! これは最高だあ! 」
(……そうじゃねうだろ! そこじゃねえだろ! ……)
クラスメイトたちの盛大にずっこける音が轟く中、シリルはホクホク顔で頬を赤らめていた。
■ シリル・デラヒエ
戦闘力: 平均以下
体力: 平均以下
学術: 名前が書けるようになった
魔法: 点火魔法イグニション(家庭調理用種火)
◆ 閑話休題編1
終わり




