第四十二楽章 偽りの村
思い立ったが吉日とはよく言ったもので、タウラスは翌日を待って《中央》へ向かう船にサジタリウスとアクエリアス共々密航(切符を買う金があるなら食糧を買っている)。船内の食糧庫から最低限飢えないで済む程度の食糧を失敬しながら潜伏を続け、半月を経てついに《中央》へと降り立った。
「で、ここから《逆十字聖騎士団》の領地である《エクスカリバー》へはどう行けば良いのだ?」
サジタリウスの疑問に、タウラスは無言で空を指差した。
「飛べと?」
「どっかに入国案内みたいなのがあるだろうし、それを探そうぜ。鎖国しようと思ったらめっちゃ楽だけどな、あの国」
人の出入りを遮断して空高く飛んでしまえばそれで済む。案外中は楽園かもしれないと益体も無い事を考えながらタウラスは周囲を見渡した。
「お、あれじゃないか?」
港に水上飛行機を停泊させ、一列に並ぶ人間をエルフやドワーフが案内していた。
「あ、一列に並んで下さいね?観光希望ですか?それとも移住を?」
「え?えーっと……」
ここでタウラスはとんでもない事を思い出した。少なくとも以前交戦したセーラと小春の2人には自分の面が割れているという事実に。
「お、おおおおお……俺達はそのぉ……そうだ、傭兵の仕事がねーかと思って来たんだが」
「あ、軍事の方ですね?でしたら面接を行いますのでこちらの列になります」
エルフの少女に案内されながら、タウラスは気になっていた事を訊ねた。
「そうだ嬢ちゃん。今、《エクスカリバー》にいるお偉方って誰がいるのかな?」
「確か今日はアルベルト様がセーラ様とセルヴィ族長を連れて《中央》の方へ何か視察に行っておられますが」
(《勇者》は留守かい!)
直接アルベルトに面会して食糧支援を頼む作戦が根底から崩れた。だが考えようによっては、あの苛烈な性格をした美少女騎士に顔を付き合わせた途端に斬られるという心配はしなくても良いとも言えた。
「もしかして、アルベルト様に御用時でしたか?」
「あー、まあな。でもまあいないってんなら仕方ない。出直す……」
「大丈夫です。お客様でしたら宿のほうへ優先的に入って頂きますので」
「いや金がねえのよこっちは」
何時帰って来るか分からない《勇者》を待つ為に金など出せないというのが、タウラスの正直な感想であった。
「大丈夫ですよ。お客様ですからちゃんとおもてなししますし、折角ですから観光でも如何ですか?」
口調はにこやかだが、逃がすつもりはないらしい。実はこっちの素性が完全にバレていてそのまま引きずり込まれて八つ裂きコースではないかと疑ってしまうが、彼女の無垢な目を見ているとそういうのでもないかと考えてもしまう。
(まあ敵情視察も必要だろう。この際そういう事にしておけ」
サジタリウスに言われ、タウラスは腹を括って頷いた。
同じ頃。アルベルトはセーラとセルヴィを伴い、久しぶりに会うエミリオと談笑……とはいかなかった。
「税収に応じないとか、そういう村をいちいち見て回るのも王様の仕事なのか?」
「まあ若輩の王で舐められてるってのもあるだろうしな。それとは別に俺の好奇心もある」
エミリオはニヤリと笑って少し馬の足を緩めた。アルベルトの方はというと、初めて乗る馬(セーラの操るエクレールに相乗りした事はあるが)に悪戦苦闘していた。リンドヴルムやサラマンダーがどれだけこちらを気遣ってくれていたのかを今更思い知ったアルベルトであった。
「好奇心?まあ貴方の言う事だから碌な事じゃないでしょうけど」
「ひでえなセーラ!まあ何だ、その村は天使が守っているらしくてな」
「天使?」
そう聞いて一瞬頭に過ったのは何故か小春とケーナだった。後別な意味でマオも。
「要するに天使が守ってくれてるから王に守られる必要はない、だから税金も払わないという事らしい。そんなに吹っかけてるつもりはないんだがなぁ」
「物の価値なんざ何処までも主観的だからな。エミリオの感覚で安くてもあっちからしたら高いとかあるだろ」
「かもな」
エミリオはあっさり認めつつ、後ろを同じ様に馬で付いてくるミランダとガーベラに振り返った。
「2人とも大丈夫か?何なら休憩にするが」
「心配は無用だ。私とて騎士の家系、馬の扱いは慣れているからな」
「私も大丈夫だ。何時か遠乗りする日も来ると思って練習に励んでいたんだから」
その割にガーベラは少し辛そうだが、意地でも止まるつもりはないらしい。仲が良い事だとアルベルトが自分を棚に上げて感心していた時、セルヴィが鋭く叫んだ。
「っ!?アル注意して下さい!二時方向から何かが高速で……!」
「何!?」
アルベルトにとっては右手が動かず死角となる方角だ。咄嗟に《レーヴァテイン》を抜こうとするが、それよりも早くセーラが剣を抜いて回り込んだ。
「はああっ!!」
「うにゃーーーー!?」
セーラの一閃をまともに喰らい、弾丸のように飛び込んで来たピンクの塊は間抜けな声をあげて地面を転がる。一体何が何なのかと困惑する間にそれは何とか起き上がった。そこでようやくアルベルト達はそれが人型で人間の子供位の大きさだと分かった。
(ほう、このような地域にまだ有翼魔人がいたとはな)
「テュポーン、知ってるのか?」
(ああ。ハルピュアは鳥型の魔族が人間に近くなったものだが、有翼魔人は逆に人間が魔族化し翼を得た存在だ。だが元々が人間故にその体の構築には大きな無理が生じていてな。極稀にしか生まれない上に生存能力も低いので、我輩も此処まで大きく育った個体を見かけるのは初めてだ)
言われてアルベルトは頭を抱えている有翼魔人というらしい存在に目を向けるが、正直ワーアビシニアンに翼を生やしたようにしか見えない。ただよく見てみればピンク色の柔らかそうな髪と猫耳が随分と可愛らしく、背中から生えている翼は確かに天使と呼んでも遜色のない見事なものだった。
「んー、お前が村の連中が言っている天使か?」
「そうだよ。モモは天使だから、村を守るんだって」
「……?」
モモというらしい有翼魔人は元気良く答えるが、その返答に違和感を覚えてアルベルトはセーラ達と顔を見合わせた。
「ちょっと待ってくれ。モモは天使だって誰が言ったんだ?」
「え?村のみんな」
(……有翼魔人が天使として迎えられたという話はついぞ聞いた事がないがな。あそこはある意味で選民思想が服を着て歩いているような世界だ)
テュポーンが呟くように言い、アルベルトはいよいよもって訳が分からなくなって来た。
「じゃあモモはもう行くね。お前達が村に近づくなら、モモが皆を守る為に戦うから!」
「あ、ちょっと待ってくれ!もう少し状況を整理……ああ行っちまった」
来た時と同じく、猛烈なスピードで飛んで行く後姿を見送りアルベルトは頭を抱えた。
「……どう見る?」
「どう見ても魔族の子供が自分を天使だと言い張って村を守ってるのよ?しかもそれを吹き込んだのは当の村人達。これってもう答え、出てるんじゃない?」
セーラに言われ、アルベルトは答え合わせをするようにエミリオ達にも目を向けた。
「……せーの」
何の気無しにミランダが音頭を取り、アルベルト達は一斉に言った。
『村人に騙されている』
それしかなかった。
「しかしテュポーン、人間と魔族が交じり合う事がヤバいならルキナはどうなるんだ?」
(彼女は特別だ。竜族の我輩がこう言うのも何だが、奇跡としか言えないな)
本来なら交わる事は愚か同じ部屋で暮らす事そのものが無茶だと付け加えたテュポーンに、アルベルトは小さく苦笑した。
「じゃあ何か?俺が今こうして全ての種族との共存を訴えるのも無意味だって言いたいのかよ」
(そうは言っていない。今まで無理だったからこれからも無理とは限らんさ。我輩達竜族は生まれつき強大な力を持つが故に停滞した種族……だが人間は脆弱であるが故、その身に無限の可能性を秘めた種族なのだと思うのでな。存分にやれ)
テュポーンの言葉に納得し、アルベルトは次なる疑問に取り掛かった。
「それでだ。さっきのモモが村人に騙されているとした場合、そうする事で村人には何のメリットがある?」
「とりあえず思いつくのは用心棒だな。人間の傭兵を雇えば決して安くない報酬を支払う事になるし、それなら何も知らない魔族を騙して使うほうがよっぽど経済的だ。まあバレたが最期どんな目に遭うかはお察しだが」
ガーベラの解説にアルベルトは軽く納得しておく。心の中は大荒れも良い所であるが。
「それでどうするのだ?」
「とりあえず村の様子を見たい。それで状況によっては……優しい嘘も必要かもな」
真実が常に正しいとは思えず、ミランダの問いにはそう答えた。
「そうね……とりあえず行くだけ行って見ましょう」
セーラにも同意され、アルベルト達は改めて馬を走らせた。
同じ頃。タウラス達は《エクスカリバー》の食堂へ通され、メニュー表を渡されて困惑していた。
「なあ、本当に幾ら食べても良いんだろうか」
「提示してきたのは向こうだ。後から代金を請求されても払えんと何度も念押しもした。なら問題ないだろう」
サジタリウスは既にハンバーグとサラダをパンと一緒に注文しており、アクエリアスの分を選んでいる最中だった。何かとつるむ事の多い男だが、こうまで豪胆というか何も考えてない様子だとタウラスとしては色々と物申したい気持ちになる。彼も考え深い方かと言われるとそうでもないのだが。
「ああもうこうなりゃヤケだ!次は何時食えるか分からんし、食えるだけ食っとくか!」
「その意気だ」
とりあえずガチョウの丸焼きを注文し、アクエリアスのサンドイッチも一緒に頼んでからタウラスは周囲を見渡した。
「お待ちどうさま」
メイドを基調としている制服を纏った可愛いウェイトレスが運んできた料理を受け取り、タウラスは少し気になった事を訊ねる事にした。
「なあ嬢ちゃん。あそこの子供達って親を待ってるのか?」
ウェイトレスは一瞬首を傾げながらもそれがリオン達の事だと分かり破顔した。
「あの子供達は孤児なんです。元々は《北国》で生きる為に盗みを繰り返していたそうですが、アルベルト様がその損害を肩代わりする代償として《逆十字聖騎士団》に引き取ったらしいですよ?私はその後でこの国に移住しましたから、詳しい事まではよく知らないのですが」
「ふーん、いやあんがと。さてさて……俺もしっかり頂きますかね」
分厚いチキンカツに齧り付きながら子供達の様子に目を凝らす。1番年上らしい少年が弟や妹に好き嫌いをしないよう諭しながら、自分はさり気無くニンジンを避けようとしたのを妹に指摘されて冷や汗を流しているのを見て思わず笑いそうになってしまった。
「此処の子供達は飢えてないんだな」
「はい。この国にいれば、誰もに最低限の食事と寝床が保障されます。それ以上を望むのであれば相応の労働が代価となりますが」
それは当然の事だ。その昔幼かったタウラスが見てきたのは、その日の食事を親兄弟と争った醜い日々だったのだから。
「は、はは……何なんだよ。俺がしてきた事は何だったんだ?」
ウェイトレスが立ち去り、チキンカツを咀嚼して飲み込んだ後でタウラスは泣き笑いの顔になって呟いた。
「理想の世界はもう此処にあるんじゃねえか。どんな国のどんな子供も飢えない世界が欲しくて戦って……でもそれはもうあったんだな」
サジタリウスは何も言わずにサラダをかき込む。タウラスはこういう時に無闇矢鱈と前向きな励ましをしない仲間をありがたく思いながらスープを啜った。
「美味ぇ、本当に美味いなぁ……」
カボチャを潰して作ったポタージュは甘く、そして温かかった。
アルベルト達が辿り着いた村は、ぱっと見は牧歌的で長閑な村だった。
「……と、言うには少しばかり物々しいな」
村人達は手に鍬を持ち、或いは狩猟に使うだろう弓を構えている。その先頭にはさっきのモモが仁王立ちして身構えていた。
「まず俺が話を聞きに行ってもいいか?同盟国とはいえ、まだ《勇者》の名前が価値あるものなら」
「分かった。頼む」
エミリオと軽くハイタッチを交わし、アルベルトは友好的な笑顔を心がけながら村の入り口に立った。
「失礼。俺の名は《逆十字聖騎士団》団長、《勇者》アルベルト・クラウゼンだ。先日《中央》と同盟を結んだのは諸君等も知っての通りだが……その件で少しばかり妙な話を聞いたので、好奇心と野次馬根性も込みで足を運んだ」
さて、どう出て来るか。そう考えた途端、怯えた表情の村人が矢を放つ。矢は即座に背後に控えていたセーラが飛び出し、手甲を付けた左手で叩き落した。
「で、出て行け!この村は《中央》ではない、つまり余所者であるお前達に立ち入る権利なんてないんだ!」
「モモ様、天使モモ様!やって下さい!!」
最初から話し合いの余地はなかったらしい。アルベルトは今更ながらに頭痛が酷くなるのを感じつつ、《エクスピアティオ》を抜き《レーヴァテイン》を召喚した。
「任せて!こんな奴等、モモがちょちょーいとやっちゃうから!!」
さっきと同じくモモが弾丸のように体当たりを仕掛けてくる。だがアルベルトは騒がずに《エクスピアティオ》を寝かせる事で刀身を盾にした。
「ふぎゃっ!?」
頭から刀身に頭突きしてしまい、モモはたんこぶを頭に作りながら尻餅をつく。しかし魔族ならではのタフさで立ち上がり、バレリアと同等のスピードでパンチを連発してきた。
「速いな……だが、レイナ程じゃない!」
レイナが放つ弾幕と比べれば十分対応出来る速さだ。アルベルトは即座に《エクスピアティオ》を盾にしながら互いの間合いを計っていく。
「アル!」
「っ!?」
セーラがモモの背後に回り込み、彼女の背後から迫っていた矢を剣で叩き落す。モモを援護した村人の攻撃かとも思ったが、それにしては射線がどう見ても『モモごとアルベルトを殺す軌道』であったのが気になる。
「あっちは私達が引き受けるぞ!」
「おいミランダ!殺すなよ!?」
「当然だ!」
ミランダとエミリオが剣を抜いて駆け込み、その後ろでガーベラが魔法を放って援護する。数こそ多いが、所詮は技術も経験もない素人集団だ。エミリオどころかミランダ1人でも十把一絡げの相手であった。
「だとしたら、俺はこっちに専念出来るって訳だ!」
「凄いね!モモと此処まで戦える人は始めてだよ!」
「そりゃどうも……っと!」
次々と繰り出される拳の連打と蹴りの嵐を全て《エクスピアティオ》の刀身で受け止めながらアルベルトは間合いを計る。モモの攻撃は手数も重さもあるらしく、当初アルベルトが想定していた以上の勢いで力が溜め込まれていた。
「うにゃー!これで終わり!」
樹齢何百年というような大樹の傍まで追い詰め、モモは会心の笑みを浮かべて両手を振り被った。
「終わりか……お前がな!!」
《エクスピアティオ》の刀身が眩く輝き、閃光は強烈な衝撃波となってモモに叩きつけられた。
「うみゃあああああああああ!?」
白い羽を撒き散らしながらモモは地面を転がる。少しやり過ぎたかと微妙に後悔しつつ、起き上がらない彼女の首に手を当てて脈がある事は確かめた。
「も、モモが負けた……!?」
「嘘だろ!?」
まだエミリオやセーラに打ち倒されていない村人達が驚愕の声をあげる。それは彼等の切り札たるモモが余りにも容易く打ち倒されたように見えた事と、アルベルトに目立った外傷がない所為だろう。
(レイナの特訓がなかったらもうちょい梃子摺ったぞ……マジであいつには感謝だ)
無表情にスパルタな自動人形の特訓により、今のアルベルトは相手の攻撃を見切る力が格段に上がっていた。そこに持ち前の身体能力が加われば、それこそ絨毯爆撃でもされない限り回避は容易かった。
「た……助けて下さい《勇者》様!」
唐突に村人の1人が武器を投げ捨てて土下座した。その変わり身にアルベルトは思わず困惑してしまう。
「今までその魔族に脅され、仕方なくあの様な事を……!誠に申し訳ありませんでした!!」
次々と武器を捨てて地面に額を擦り付ける村人達に、アルベルト達は当惑して顔を見合わせた。
「え、皆……どうしたの?」
突然の豹変に付いて行けないのはモモも同じだった。いや、彼女が1番混乱していたかもしれない。ダメージが抜け切らず、思うように動かない体を何とか動かしながら村人へ近づこうとしたその時だった。
「き、消えろ魔族!」
「きゃっ!」
モモの額に命中したのは大人の拳程の石だった。それを皮切りに次から次へとモモ目掛けて石が投げつけられる。
「魔族って何の事?モモは天使だって皆言ってたじゃ……」
「黙れ魔族!自分を天使だと偽って俺達に近づきやがって!!」
石の中に尖った物があったのか、モモの頬が切れて血が流れ落ちる。その光景を見た瞬間、アルベルトの中で何かが音を立てて切れた。
「ッ……いい加減にしろ!!」
《レーヴァテイン》がアルベルトの怒りを受け、蒼い炎を放つ。その凄まじさに村人達は一斉に後ずさった。
「失せろ……!俺が理性を保っていられる間にさっさと全員失せろ!!!」
蜘蛛の子を散らすように逃げ出していく村人を睨みつけ、アルベルトは《レーヴァテイン》を元に戻した。
「……ま、先にキレたのがアルでよかったわね。全員命があって」
苦笑気味にセーラが呟き、エミリオは同意しながらもやり場のない怒りを示すように村の柵を蹴り倒した。
「ねえ……」
振り返ると、モモは頬を涙で濡らしてアルベルトを見上げていた。
「モモは天使じゃないの?魔族なの?」
「……」
何と答えれば良いか分からず、アルベルトは無言でモモを見つめる。それだけでも彼女は全てを悟ってしまったらしい。
「ッ!」
「お、おい!?」
歯を食い縛り、モモは自分の翼に手を伸ばす。ブチブチと音を立てて羽が引き抜かれ、根元が赤く染まった羽が撒き散らされた。
「モモは天使じゃない……モモは天使じゃ……!」
「もういい、やめろ!」
モモの腕を掴み、アルベルトは彼女の顔を正面から見た。
「モモ、お前の名前は何だ?」
「ふぇ?……モモ」
「そうだ、お前は天使なんて名前じゃない。モモだろ?」
正直苦しいにも程があるが、アルベルトには他の言い方が思いつかなかった。
「モモは、モモ……?」
「ああ、お前はモモだ」
確かめるように縋りつくモモを抱き締めてやりながら、アルベルトは己の無力を強く憎む。そんな彼にセーラがそっと近寄った。
「アル、今回は一旦戻って日を改めない?」
「そうしようぜ。今回は俺も冷静に『税金払え』って言えるか分からんし」
セーラとエミリオに言われ、アルベルトは力なく頷きモモを抱えたまま立ち上がった。
「悪い、エミリオ。今度は俺達じゃなくて城の兵士を動員してくれ」
「分かってる。今回は、悪かったな」
ぽんと肩を叩かれてアルベルトも少し笑う。心の底には鬱屈としたものを抱えてはいたが。
アルベルト達が立ち去った数刻後。村を白い衣を纏った一団が訪れていた。
「この村に何用ですかな?」
長老が恐る恐る近寄る。一団の中で唯一衣に紋章を刺繍した男が一歩進み出た。
「この村では魔族を飼っていたそうだな?」
「め、滅相もありません!私共はあの魔族に脅されて仕方なく……」
「だが人間以外の種族と関わり共に暮らした事に変わりは無い」
議論をするつもりはないらしく、男は杖を振り上げた。
「聖オスケイアよ、その慈悲深き懐に罪の子羊を迎え入れ給え。願わくばその罪が浄化され、貴女の良き僕となる事を……」
背後の一団から次々と火や雷の魔法が放たれ、村を建物も人間も畑も関係なく焼き払っていく。ものの数分と経たずに村は焼け野原となっていた。
続く




