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魔女は竜と謳う  作者: Fe
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第四十三楽章 彼女の決意

モモを連れて《エクスカリバー》へ戻ったアルベルトだったが、とりあえずモモにも何か温かいスープを飲ませようと食堂へ足を運んだ時だった。


「な、何なんだこの物々しい空気……?」


普段は様々な種族が集い舌鼓を打ち、常に笑顔と笑い声の絶えない場である筈の食堂。それが今では静まり返り、リリィが殺気立った表情で《アバリス》を構えていた。その射線上に立っているのは会った事のない、左手がボウガンになった男だった。


「……あ、あの……リリィさーん?」


思わず謙ってしまう位に今のリリィは怖い。普段の飄々としていながらも救いようのない変態ぶりが完全に鳴りを潜め、如何なる時も決して狙いを外さない《アバリス》の砲身が小刻みに震えていた。それだけでも今のリリィがどれだけ拙い精神状態なのかは考える間でもなかった。


「済まん小春。ちょっと止めて来てくれないか?俺だとあいつが聞く耳を持つかどうか……」


「ええ、分かったわ」


小春が歩み寄り、ポンと優しく肩を叩く。全く反応がないのが逆に怖いが、小春は臆する事なくその耳を引っ張った。


「もぎゃっ!?こ、コハルさんいきなり何しますか?」


「貴女が何をしているの?食堂で戦闘を始めようとするなんて」


「どうせなら耳を引っ張るよりも優しいキスを……いやいや冗談です。一割くらい」


九割は本気だったらしい。どっちの意味での本気かは知らないが。


「それで、何が理由?」


「いやそこのいけ好かない大男がウェイトレスの女の子を舐め回すように見てましたのでカチンと」


「何が理由?」


「いやそこのいけ好かない大男がウェイトレスの」


「何が、理由?」


とうとうリリィが膝をついた。小春も何気に苛立っていたのか、アルベルトはリリィだけでなく小春にも恐怖を覚え始めていた。


「……済みません。その件は後でお話します」


そう言って《アバリス》を担ぎ、リリィは足早に食堂を後にした。


「それで」


アルベルトは大男の背後にいるもう1人に目をやった。そっちには見覚えがあったのだ。


「遥々《エクスカリバー》まで何の用だ?《ゾディアック》さんよ」










一旦食堂の空気はムードメーカーであるマオやバレリアに仕切り直して貰い、アルベルトは執務室にタウラス達を案内した。


「で、何しに来た?まさかわざわざ飯を食いに来たというだけじゃないだろ」


もしそうなら馬鹿馬鹿しさに免じて全員放免してやると思いながらアルベルトは問いかけた。彼の背後では護衛としてセーラが控えており、その手は《アスカロン》の柄にかけられていた。


「まあその……何だ。食い物を恵んでくれないか?」


「……は?」


アルベルトは思わず間の抜けた声をあげて硬直した。固まっているのはセーラも同じで珍しくぽかんとした顔を見せていた。


「こんな事をあんたに頼むのもアレ過ぎて何だがよ。こっちも霞を食って生きてる訳じゃない上に、《ウロボロス》は夢想家の老いぼれや嫉妬に狂うしか脳のないガキが主流で金策に関しちゃ無能揃いでな。お陰で主力の俺達は理想を追う前に今日の飯を確保しなきゃならん」


「それで俺達にタカりに来るって本末転倒じゃないのか」


「それを言われると弱い」


タウラスは苦笑しながらも深く頭を下げた。


「最悪三日分で良い。男十二人分……どうしても無理ならせめてアクエリアスの分だけでも用意しちゃ貰えないか?」


アルベルトは困ってしまう。追い返したい気持ちもあり、この場で処断してしまいたい気持ちもあり、助けてやりたい気持ちもあるのだ。


「副官もいないし、貴方の好きにすれば良いんじゃないかしら」


セーラは優しく微笑んで言った。


「アルがその理想を追う限り、私は貴方を守る。もし此処で食糧援助を受けた彼等が再び貴方と対峙したとしたら、その時は私が3人とも斬り捨ててあげるわ」


「頼もしい騎士だこって。だが俺の決断の責任は、俺自身が取るさ」


アルベルトも力強く笑い、タウラス達に向き直った。


「二週間分用意してやる。出来ればその間に気持ちを改めてくれると助かるが」


「ほ、本当か!?ありがてぇ、この恩は必ず返すぜ!!」


サリを呼んで事の次第を話すと、何とも言えない顔で苦笑いしつつもすぐにパンと野菜と肉をバランス良く用意してくれた。


「この恩は必ず返す、か。本来なら殺し合う間柄で何を言ってるんだろうな」


「どうかしら?案外本当に返しに来るかもしれないわよ」


「どうだかな……そうだといいが」


食糧の袋を抱えて帰って行く3人を見送り、アルベルトは複雑な顔で笑った。









その後、コルトンの説教や嫌味を何とか聞き流してアルベルトは小春とリリィを執務室に呼んだ。


「どうしたんですかアル。まさか今からコハルさんと2人ベッドでお楽しみなのを私に見せ付けるという新しいプレイをごぶふぇ!」


椅子を投げつけて黙らせ、アルベルトは「食堂の一件だ」と告げた。


「あれまそっちですか。まあ放置されるよりは私も混ぜて欲しかったのでありがたいですが」


「混ぜっ返すな!つーかお前はレズなのか両刀なのかどっちだ!?」


「コハルさんがいるならアル限定でOKです」


何とも微妙な返答が返って来た。


「アル、アルも脱線してるわ」


「す、済まん小春……」


話と空気を仕切り直し、改めてリリィと小春に椅子と茶を勧めてアルベルトも腰を下ろした。


「まあ何から話したもんですかね……端的に言えば似てたんです」


「似てた?」


サジタリウスが何に似てたのかと思うと、リリィは自嘲するような笑みを浮かべた。普段の彼女からは珍しい位に感情を露にしている事が良い事かどうかは判断がつきかねたが。


「ええ似てました。母を弄んだあのクソ野郎に」


一瞬聞いて良い話なのか迷う。恐らくはリリィの過去、それもかなり突っ込んだ話になるのは目に見えていたからだ。


「どうせ聞いたんですから最後までお付き合い下さい。あ、コハルさんは辛かったら耳を塞いで結構です」


「……」


耳を塞ぐつもりがないと言外に訴える小春にリリィは軽く苦笑し、茶を一口飲んだ。


「私が《南国》の出身だというのは御存知でしたね。ていうかアルは夏休みに訪れてますし」


「ああ。家に案内はされなかったから、どういう家かは知らないが」


「案内出来るようなもんでもないですしね。テセアラは大雑把に分けて三つの区画に分かれていますから」


リリィは指を折りながら数え始めた。


「まず貴族階級が暮らす上流区画、次に商人が主に暮らす中流階級、最後に私が生まれたスラム街です。港町って人の出入りが激しいから後ろ暗い奴とかが潜り易いんですよ」


だんだんと拙い話に転がりかけていると感じ、アルベルトは一瞬止めるべきか迷う。とはいえ此処で止めるのはリリィの信頼(信用かもしれないが)を踏み躙ると考えて踏み止まった。


「私の両親もそんなクチだったんでしょ。定職にも就かずにフラフラと適当に釣った女に貢がせて生きてるクソみたいな男と、そんな男に釣られた間抜けな流れ者の娼婦の間に私は生まれました」


「……」


「酒浸りのどうしようもない男でしてね。外を出歩いちゃあ女引っ掛けて朝帰りするような野郎でした。母もそんな男の何処がよかったのか、必死に体を売るわ内職するわでボロボロでしたよ」


サリに茶のお代わりを淹れて貰いつつリリィは全てを嘲るように笑った。


「そんな日々にも何時か終わりが来るものでしてね。私が14になった頃、女を釣り損ねたあの男が私に手を出そうとしたんです。それを母が隠し持っていた銃でズドン……余りにも呆気なかったですね」


何時か私が殺すつもりだったのに。凄絶な笑みを浮かべてリリィは言い切った。


「まあそんな訳で、昼間の食堂にいたのはその男に余りに似た男でしたので。ちょーっと冷静さを欠きましたかね」


「欠き過ぎだこの馬鹿!こちとら物凄い寒気がしたわ!!」


アムドゥシアスと一対一で戦うより万倍怖かった。


「昼間の男、もしかしたらアイツがどっかでばら撒いた種の産物かもしれませんけどね。まあだからって戦う事を拒む気はないですが」


「何でだ?もしそうなら、腹違いでも兄だろ」


「だからです。あの顔は見てるだけで虫唾が走りますし、まるで私に殺される為に生きてるみたいじゃないですか。だったら遠慮なくぶっ殺すのが筋ってもんでしょ」


狂気に満ちた笑顔で言うリリィに、アルベルトは内心で戦慄していた。まるで普段の飄々とした態度が全て偽りだとでも言うような有様は、彼にかつてない程の恐怖を与えていたのだ。


「り、リリィ……」


「あ、冗談ですから」


そしてズッコケた。顔色の悪かった小春もアルベルトと共に椅子から転げ落ちる。当のリリィは何時もと変わらない飄々とした掴み所の無い態度で笑っていた。


「こ、こ、この……!」


「ニワトリですか?」


「やっぱりお前はお気楽変態ガチレズ駄目女だよ!!!!」


この日、生まれて初めてアルベルトは女性を足蹴にした。










それから数日後。特に大きな問題もなくのんびりとした時間が流れていたある日の事。


「《南国》のアルタード帝国から会談の申し入れ?」


「はい。書状にはそちらの都合がつく日取りで構わないので、謁見して欲しいと」


サリの読み上げた書状を自分でも読み、アルベルトは頭に疑問符が溢れかえるのを感じた。


「これってもしかしなくても馬鹿にされてるか?」


「馬鹿にされてるわね。会談を申し入れておきながら此方に出向けなんて、普通に考えれば喧嘩を売ってるとしか思えないわよ」


とはいえ、とセーラは溜息混じりに付け加えた。


「アルタード帝国は結構国自体の歴史は長いのよ。中身は内乱と革命が起こる度に行われる虐殺で1人の王の治世は余り長くないのだけど」


「それ駄目じゃねえか」


「全くね。で、現皇帝のオーネスト・カブランはそんな中にあってかれこれ60年近く治世を行っているの。これはあの帝国では異例の長さになるわ」


十代で即位したとしてももう70越えの老人である。アルベルトはふと世界会議にそんな爺さんがいたかと考え込んだが、セーラはそれを察したのか首を振った。


「流石に長旅に耐えられるような歳でもないしね。居城に引き篭もって、外交や政務の大半は長女のユーディット王女が受け持っているわ。確か私達より少し歳上くらいだけど凄く綺麗で利発な人よ」


「ちょっと待て」


とんでもない事を言われた気がしてアルベルトは眉間を揉んだ。


「60年近く皇帝やってるんだよな?それで第一王女が俺達と同年代?どんだけ盛りが付いてんだその爺は」


「……驚くのはまだ早いわよ。末っ子の第三王女は14歳だから」


色ボケた老人の凄みを感じたアルベルトであった。


「それで、この会談はどうする?」


「実際俺達が弱小なのは事実だしな。一応顔は出すが、跪いてはやらないさ」


アルベルトが何かを企んでいると感じたセーラは面白がるように笑みを浮かべた。











三日後。アルベルトからの返信を受け、帝国首都・ゴリアテの宮殿は大わらわとなっていた。


「全くお父様は何をお考えなのかしら……いきなり相手に喧嘩を売るような書簡を送って、戦争になったら勝ち目はないのに」


「ユーディ姉様、何を馬鹿な事を言ってるの?アルタード帝国が負ける訳がないって将軍達は皆言ってるわ」


美しい金髪を腰まで伸ばした王女、ユーディットは自分の後ろを付いて来ながら言ってのける末妹に苦笑した。


「……そうねキュア。そう信じたいものだわ」


実際のところ精々が街周辺の魔物狩りしかした事のない兵士が大半の帝国軍では、《北国》を圧倒し魔王すらも打倒する程の軍事力を誇る《逆十字聖騎士団》と正面から戦える道理は何処にもない。かつてこの帝国が《南国》で威容を誇ったのはもう何十年も昔の事なのに、自分の父親はそれを分かっていない。そればかりかまだ幼いと言える妹や配下の将兵にまでその勘違いを増長させているのは許しがたい事だった。


「今の世に立つ《勇者》アルベルト・クラウゼン……噂通りの人なら良いのだけど」


若干16歳にして国を興し、その先頭に立って生きる少年が如何程の傑物か、ユーディットは期待半分不安半分といった面持ちで謁見の間へと向かった。







《エクスカリバー》を港上空に停泊させ、乗組員には上陸許可を出したアルベルトはオリーヴと小春(大使であるセーラを他国との折衝に連れ回すのは如何なものかというコルトンの進言を受け入れた結果)を伴いゴリアテの宮殿へ向かっていた。


「こう言ったら何だが、趣味悪くないか?」


「否定出来んなぁ。内乱が起こる度に前の文明やら文化やらフルリセットかけてまた新しく作ってるから、長く帝国やってる割に歴史が浅いんよ。そやからこうやってハリボテの栄光と見栄張るくらいしか自慢になるもんがないんやわ」


無駄に豪華というか、ゴテゴテに色々と装飾された宮殿は非常に目に悪い。手前味噌かもしれないが《エクスカリバー》のほうがよっぽどデザインとして洗練されているようにも思う。


「まあそんな国やけど、お上はともかく下は結構栄えてるよ?ユーディット王女殿下が外国との商売に積極的やから、大体の商人は皆この街で取引するし」


「税収だけでもとんでもない額が入りそうだな」


最近になって貿易等の事も勉強する科目に含まれているアルベルトは軽く頷いて言った。オリーヴは嬉しそうに笑い、「正解」と返した。


「それに商人が集まるって事はその情報も集まるからな。何処其処の地域でこの品物が不足してるって話が分かったら、今集まってる商人で品物を扱ってるのを探して国が買い上げるってやり方も可能やしな」


「という事は、ユーディット殿下とは王族というより商売人と話すつもりで行くべきか」


「お、段々とアルも商売人になってきたやないか。ウチは嬉しいでー!」


わざわざ腕にしがみついてくるが、オリーヴの体はケーナや小春達と比べると凹凸に乏しい為に余り慌てるという事もない。


「んー、流石にコハルやセーラ様と普段からいちゃついて百戦錬磨のアルにはもうこれじゃ通じんか」


「色々と誤解を招く言い方はよせ!」


「せやけど、アルを好いてる女の子みーんな引っ張るんやろ?」


確認するように小春のほうへオリーヴが目を向けると、小春は微笑んで頷いた。


「……まあ、徐々にな。俺も色々と追いついてない部分が大きいんだ」


軽く息をつきながらも笑みを浮かべ、アルベルトは軽くオリーヴの頭を撫でた。


「という訳で頼りにしてるぜ?歩く嘘発見器さんよ」


「その言い方やとウチの存在価値が目しかないみたいやないかーい!!」


じゃれ合いながら進んでいく3人を、街の人達が生温かく見守っている事にはアルベルト達の誰も気付いていなかった。









それから三十分後。謁見の間に通されたアルベルト達は膝を折る事なく玉座に座った老人とその傍らの椅子に座った2人の王女を見据えた。


「此度は招きに応じて参上した。《逆十字聖騎士団》団長、アルベルト・クラウゼンだ」


あえて敬語を廃し、あくまでも対等だと内外にアピールしながらアルベルトは声を張った。


「しかし今回の一件、そちらから会談を申し入れておきながら此方に足を運べという言い草……些か礼儀に欠けるのではないか?」


「そうですね。その事は申し開きしようもありません。申し訳ありませんでした」


ユーディット王女が丁寧に頭を下げ、アルベルトは内心では少々面食らっていた。此処まで腰の低い要人というのは考えていなかったのだ。


「了解した。そちらの謝罪の意図は受け入れたので、本題に入ろう」


主導権を渡さないように畳み掛けながらアルベルトは相手の意図を予測する。自分達を取り込むつもりか、はたまた便利屋扱いして何かしらの難題を吹っかけてくるかと構えているとユーディットはたおやかに微笑んだ。


「そうですね。同盟は既に《中央》と締結されているようですし、此方とは貿易の契約を結びませんか?そちらの特産品等をこの国で売買する場を用意致しますが」


「生憎とこっちの売り物は軍事力しかないんで。何処かの傭兵でもやるかと皆で頭抱えてますわ」


それにしてもさっきからユーディット王女ばかりで肝心の王様が喋っていないと、アルベルトはさり気無く目をそちらに向けた。


(ね、寝てやがる……!)


思わず顔が引き攣りかけるのを何とか我慢し、アルベルトはその後も話を続けた。そんな彼を第三王女のキュアリートが興味津々で見ていたのには気付かないまま。








オリーヴの目に頼らなくても有意義な会談となったのは素晴らしい事なのかもしれない。王はともかく彼女は信用出来そうだし。










その後、足労させた侘びとしてユーディットは《エクスカリバー》の補給物資を大量の用意してくれた。オリーヴにも品をチェックして貰い、問題がない事を確かめていたところ……とんでもない大問題が起こった。


「えーっと、確か第三王女のキュアリート王女が荷物に紛れ込んでたと?それも侍女付きで着替えも持って?」


「せや」


アルベルトは酷くなる頭痛を堪えながら、執務室の来客用ソファーに座って何故か「えっへん」とでも言いたげなキュアリート王女を眺めた。


「それで、何の用で密航を企てた?いやこれ国際的にはもう密入国なんだが」


「前からユーディ姉様に、キュアはもっと色々学んで見聞を深めなさいと言われていたの。なので早速見聞を深める為にこの艦に乗せて貰う事にしたのよ」


「帰れ」


アルベルトの返答は端的であった。


「嫌よ。もう置手紙もしてきたし」


「よし今すぐ《エクスカリバー》を反転……いや俺が直接送り返す」


疲れが溜まっているのもあり、アルベルトも案外容赦がない。それにキュアリートは小柄(恐らくナオやマオと同じ位)なのもあって、猫のように摘み上げられてしまうのだ。


「きゃあっ!こら放しなさいよー!」


「冗談じゃない。こちとら他国の姫を誘拐したなんて話にされたら大問題だ」


巻き込まれて涙目だった侍女も一緒にリンドヴルムに乗せ、アルベルトは一直線に宮殿へ戻った。








そして三十分後。何故かアルベルトはげっそりと疲れきった顔でご機嫌のキュアリートを連れて《エクスカリバー》へ戻って来ていた。


「どうしたのアル?キュアリート王女を送って行ったと聞いたけど」


「……正式に親善大使として送り込まれて来やがった」


城から出たがらなかった彼女が始めて自分で行きたいと願った場所だからと、ユーディットは頭を下げてアルベルトに頼み込んだのだ。おまけに補給物資の上乗せまでされては流石のアルベルトも首を横には振れなかった訳で、考えてみれば最初から彼女の掌の上だったのかもしれない。


「綺麗なお姉さんだと思ったらとんだ食わせ者だったぜ、あのお姫様」


「あら、食わせ者じゃない王族なんて存在しないわよ」


サリに新しい部屋を用意するよう指示を出し、キュアリートを送らせてからアルベルトは深く溜息をついた。


「でも考えようによってはチャンスよ。彼女の目を通して異種族の共存がどういう物かを見て貰いましょう」


何処までも前向きなセーラに頷き、アルベルトは疲れを癒すようにソファーに座り込んだ。


「そういえば、キュアリート王女が第三王女って事は、第二って誰なんだ?」


「ああ、レオノ王女の事?彼女なら先日嫁入りが決まって城にはいないわ」


ユーディットより年下でキュアリートより年上という事は、まだ15~18の筈である(ユーディットが19歳だという事は教えて貰った)。すると相手は誰なのかと考えていると、セーラは苦笑しながら告げた。


「ディグマ・ゴードン卿、確か今年で49歳だって話よ」


「……」


顔も知らない王女に心底同情したアルベルトであった。










             続く

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