表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5


「護衛一、ささっと進めよ」

 薄暗く生臭い臭気が漂う地下通路で、雇用主から護衛二と呼ばれる男が悪態をついた。

 彼らは雇い主の商人から、何故か護衛一、護衛二と呼ばれているため、お互いのことをそう呼んでいた。

 言葉にもう一人の男――護衛一はムッとしたのか、足を止めた。


「此方は慎重に進んでいる」


「はい? 慎重に進むのはいいですがね、一さん。もうそろそろ、エレミー様の処刑が実行されたりしたりするんですが」

 嫌みったらしく発せられた言葉に、護衛一は自らの腰にかけられたナイフを何故か凝視した。


 一歩下がって、護衛二が溜息を吐いた。


「なあ、ほんと速く行かないとまずいだろ」


「……何故我々が雇い主の命令でもないのに動かなくてはいけないんだ」

 理性では分かっているのに、違う部分で許容できないという声だった。

 護衛一の苛立ちに、護衛二は深く溜息をつき、子供に言い聞かせるような口調で、しかし僅かながらの共感も乗せて、言葉を発した。

「命が掛かってるからだよ。エレミー様の命令で動きたいのはオレも同じだぜ。だけど、命令しないんじゃ仕方ない。結局オレらは独力で動くしかなかった。そこに現れたのがあのオッサン。オッサンの協力がなければ――認めたくー、はないが、助けられなかった」


「……そうだな、分かっている」

 溜息と共に擦れた声を護衛一は搾り出す。


「もっと気楽に考えろよ」

 護衛二は一とは長い付き合いなので分かっていた。一は雇い主からの命令以外聞かないという矜持があり、それを何十年にも渡って厳守していた。しかし幾ら雇い主のためでも、その自分の掟を破るのに抵抗があるのだろう。


「気楽か」


「そうそう。こんな機会めったにないぜ。大陸最大の帝国の一番上から、命令されるなんて。ああ今は違うのか。……皇帝の位についていた人間に命令されるなんて」


「あれが皇帝だったのか」

 護衛一は悲しげに首を振った。





「今頃、あの護衛共が俺の可愛い娘を助けに行っているだろうな」

 楽しげに壮年の男が笑った。美しいと喩えるには、顔の一つ一つの造詣が余りにも強すぎる。眉も、鼻のラインも、唇も、全てが苛烈な印象を抱かせる。

 大きく口を開けて、赤い果実を飲み込む。


「あくど過ぎます。これが娘に対する仕打ちですか」

 非難がましく、傍に控えていたメイドが言った。


「いい父親だろう? 好きな男のための行為を今まで助けてやったんだぞ。流石に死んだ振りまでは可哀想だったな。俺が死んだと聞いて、きっと泣いてた。まあ死んだと言っておかないと、油断しないだろうからな、エレミーは」


「……お泣きにならなかったと思いますよ。エレミー様は貴方様のことを、軽蔑してらっしゃるところがありましたから」


「ああ、問題はそこだった。あんなに可愛がって、可愛がっても、エレミーは俺に『ある程度』の愛情しか感じなかった。結局、あいつは自分のことで一杯一杯だった。ただ息子のことは別みたいだったけどな。……なあどこがいいと思う。息子」


 饒舌で上機嫌な主人に、メイドは醒めた視線を送る。


「……少なくとも貴方よりかは」


「そうか。くくっ」

 何を言っても上機嫌なのだろうと、メイドは推測した。前までは、そんなことを言うと異様に不機嫌になったくせに。


「エレミーにはもう仲のいいやつはいないな」

 確認するような言葉に、メイドは返事をするのも面倒になり無言を通した。


「これでのんびり二人で暮らせる」

 

「エレミー様はお許しにならないのでは?」


「諦めるさ。エレミーはもう何も残っていない。そんな時に、こういう状況になれば流される」


 何年越しの計画だったか、と前皇帝は指折り数え始めた。





 

長さを見誤り、少し短くなってしまいました。


完結まで遅くなりましたが、読んでくださった方本当にありがとうございました。

お気に入りや、評価などしてくださった方ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ