8話 過去の記憶と未来への地図
「今度は、貴方の記憶を見せてくださいね」
そう言ってクラリスがスキルを発動すると、空中にスクリーンのように映像が浮かび上がった。
(ひええー!?僕の会社での勤務ぶりまで映ってるよお!?恥ずかしいー!)
「清水さん、社内では庶務課の小公子ってあだ名が付いてたんですね。好かれてますね。あ、頭撫でられてる」
営業部長から渡された、個包装されたフィナンシェの入った箱を持って配り歩く姿や、来客でお茶出しする姿。パソコンに向かう姿や、幸せそうな顔で昼食と食後のコンビニデザートを頬張る姿などが映し出されていた。
それからは布団に入って眠る姿の後、アルフレドとのやり取りが映った。
「若様、そこまで思い詰めていらしたのですね……」
エディはそう言って、しばらく言葉を失った。握りしめた拳が悔恨に震えている。
「あの、部屋にクラリスさんの絵があったので渡さなきゃと思って持ってきました。どうぞ」
クラリスは渡された絵の裏の走り書きに触れると涙をこぼした。空中の映像には、涙をこぼすまいと歯を食いしばりながら、走り書きをするアルフレドの姿が映っていた。
「アルフレドさん…!貴方こそ、優しくて素敵な方ですっ。血に塗れてるなんて、思わないで……!」
ヒューゴは娘にそっとハンカチを差し出した。
(なんで、なんでもう、会えないの……!?)
クラリスはスキルを中断して泣きじゃくった。
「それで、こんな時に言うのは何ですが、提案とお願いがありまして……」
和はヒューゴの目を見て口を開いた。
「セリン妃と同じ家にいるのは、アルフレドくんの体の貞操のためにもよろしくない気がするので、どこか住み込みの仕事を紹介して頂けませんか?下働きとか接客とか、なんでもやりますっ」
ヒューゴはアルフレドの体に残っていたバルドリックの闇ジョークの記憶を読み取って、頭を抱えた。
(あの冷血漢め。内面が繊細なあの子に対して何を教えていたんだっ)
「……なるほど。君の申し出はもっともだ。
あの家にこのまま置いておくのは、確かに危ういな」
「良かったあ……。僕の認識、間違って無かったあ」
エディは不安そうな表情をして2人の様子を見ていた。
「ヒューゴさんの領地内での就職の斡旋を正式にお願いする前にやりたい事がありまして……」
「これ、アルフレドくんが作っていた領地の良いところマップなんですけど。観光客向けに改良して、屋台の串焼き1〜2本くらいの値段で売れないかなあと思いまして」
和はテーブルの上に地図を広げた。
「アルフレドがこれを作っていたのか。見やすいな。観光客向けという発想は、今までになかったな」
「もちろん防衛上、隠した方が良いところは削る予定です。エディくん、助言してくれないかな?」
「承知しました。危険な情報は私が確認いたします。案内図として見せるなら、民が歩いて楽しい道を中心にしましょう。店や広場、休める場所を分かりやすく残してください。領地の強さは、隠し事よりも歩きやすさで見せた方がよろしいですしね」
和はエディに向かって身を乗り出した。
「アルフレドくんがここの屋台美味いって書いてくれてるから、これ載せたら観光客喜ぶよね?」
「…確かに。若様の食の嗅覚は確かでした。私が危険箇所を消しますので、そのままお使いください」
「よし、僕、屋台回って試食してくるよ!
美味い店は地図に載せて良いか、店主さんに許可取ってくるね。……ついでに領民の声も聞いて魔道具作成依頼もしてくるよ!」
「ふっ、良いんじゃないか?美味い店が揃えば、観光客も増える。
……報告を待つ」




