第5話 森の帰り道
空が朱に染まり始める頃、二人は森の小道を歩いていた。
かごの中には薬草がぎっしり。山鳩の声が遠くで響き、道端には淡い花が揺れている。風が頬を撫で、夕方の匂いが鼻をかすめた。
「……結局、一日中働き通しだったね」
「まさか白紙の予言に、こんなに忙しくされるとは思わなかった」
エルは苦笑しながら、ちょっとだけ背伸びをする。
「でもさ、予言に言われてやったんじゃなくて、俺が“やる”って決めて動いたことだから……」
「疲れたけど、不思議と嫌じゃなかった?」
「うん、そう。それ」
セリナは歩調を少し緩め、横目でエルを見た。
「ねえ、今日のこと、明日の予言にどう書かれると思う?」
「“今日もよく動いた(済)”とか?」
「“自由行動、案外使える”とか」
二人は顔を見合わせて、ふっと笑った。
「けどさ、本当はわかってるよ。今日みたいな日は、滅多にないって」
エルの声が、少しだけ静かになった。
「だからこそ、忘れないようにしとこうかなって。自分で決めて、自分で動いて、誰かの役に立てた日があったって」
「……それ、いい記録になりそう」
セリナの声はやわらかかった。エルの手元の予言書は、いまだに白紙のままだ。
けれど、彼の足取りは少しだけ軽かった。