第3話 相談して、余計わからなくなるやつ
祠は、村の端っこにある。苔むした石段を登った先、小さな社の中に、よれよれの解釈者ジジイが住んでいる。
「白紙、とな。ふむふむ……それはつまり、“自由の兆し”じゃな」
「いや、自由って言ってもですね」
「そもそも予言とは、“指針”であって、“命令”ではないのだよ。風は吹けども草は任意に揺れる、そういうことじゃ」
セリナとエルは並んで正座しながら、謎に深そうな声で語る老人の話を聞いていた。が、エルの表情はすでに困惑の極みである。
「で、じゃあ、こういうときはどうしたら?」
「うむ、何をしてもいい。されど、何もせずともよい」
「それ、助言になってないって知ってました?」
セリナがこっそり耳打ちしてきた。「この人、前も“雨が降るとも晴れるとも限らん”って言ってた」
エルは予言書を抱えながら、祠を後にする。
結局、わかったのは「何もわからないままでいいらしい」ということだけだった。
「……どうする、今日」
「ほんとに、何でもいいんでしょ?」
「そう言われると、逆に困るやつ」
沈黙が少し続いたあと、セリナが笑って言った。
「じゃあ、行ってみようか。意味とか目的とかはあとでいいから、とりあえず。あんたが決めるんでしょ?」
エルは白紙のページを一度だけ見て、ポーチに戻した。
「じゃあ、とりあえず井戸の裏行って、適当にぐるっと回ってみるか」
「理由は?」
「気分。あと、行ったことないから」
二人は歩き出す。小さな歩幅の、その最初の一歩が、たしかに“誰にも指示されなかった足跡”として、エルの中に刻まれていた。