第7話(累計 第54話) 模擬戦 最終戦! 海兵隊のお兄さんも手ごわいぞ。
「最終戦、開始するぞ。マモル、連戦になるが大丈夫か?」
「はい。これで最後なら大丈夫です。まだバッテリーも六割は残っていますし」
海兵隊とのパワードスーツ模擬戦。
三連戦は流石にきついが、これで最後というのなら根性入れる。
僕はスーツの操作腕から自分の腕を抜き、ヘルメットのバイザーを開けた。
そしてコクピットに持ち込んでいたドリンクをゆっくりと飲む。
また、汗まみれの顔をタオルで拭った。
わずかな休憩時間に、僕は敵の情報を見る。
「えっと、最後の相手は実戦経験あり。中東でゲリラを撃破したと」
ユウマくん情報によれば、最後の試合相手。
ダニエル・フォスター少尉、今回来ているパワードスーツ小隊の小隊長さん、25歳。
一般大学から軍に入り、パワードスーツ操縦の資格を取得。
配属された中東某国でゲリラとの戦闘を経験。
その後、小隊長になったとの事。
「これまでの相手とは格が違うよね。実戦経験済みだもん」
僕は、相手機体の足運びから技量を把握しようとする。
そんな時、向こうから通信が入った。
「あ、あー。聞こえるか? こちらはダニエル・フォスター少尉。今までの部下の無礼、謝らさせて頂く」
「は、いえ。ご丁寧に日本語でのご挨拶及び謝礼、ありがとうございます。無礼なぞ全くございません。逆に若輩者の僕の方が無礼をしてしまい、申し訳ありませんでした」
今まで殺気を放っていたはずなのに、落ち着いた声で自分より年下の子供に対してもちゃんと謝れるフォスターさん。
良い人だし、落ち着き具合からして戦うのなら手ごわいと思った。
「そうか。なら良い。しかし、先程までの挑発を言うガキとはずいぶんと違うな。なるほど、無礼には無礼で返すタイプかな?」
「いえ、普段はそんな事も無いんです。ただ、今回は彼女が見ているので張り切ってしまい、馬鹿なところをお見せしてしまいました。しかし、日本語でお話しできるのですね、少尉。つい、難しい言葉でお話してしまい、ごめんなさい」
「いや、大体分かるから大丈夫だ。軍に努めている私の母方の伯母が日本人と結婚していてな。幼い頃は、よく伯母のところに遊びに行って可愛い従妹とも遊んだものだ。そこで日本語を覚えただけさ」
……日本人と結婚した伯母さんか。あれ、最近似たような話を身近で聞いた覚えが?
若くても部隊を率いるだけの人格者。
僕なんて足元にも近づけない、自信と実力をわずかな会話から僕は感じた。
「私は遠くからしか見ていないが、君らは二人も女性連れかつ全員が未成年とも聞く。こんなところで訓練をするのだから色々な事情があるのだろうが、絶対に死ぬなよ。親が悲しむに違いない」
「はい。僕の人生目標は曾孫に囲まれての大往生なので、死なないように頑張ります。では、遺恨無き戦いを致しましょう」
「ああ。私も部下の敵討ちはしたいしな。では」
通信後、機体を軽くお辞儀をさせて、所定の場所まで移動するフォスター機。
実に気持ちの良いお兄さん。
おそらく僕が今まで戦ってきた中で、爺ちゃんを除けば最強の相手だろう。
……あ、母さんはどうだろう? 母さんが爺ちゃん以外に負けるイメージ無いけど? ヤーコフは、格闘じゃそこまで強く無かったよね。
「では、最終戦開始!」
「ダニエル・フォスター参る!」
「植杉 マモル、行きます!」
教官の掛け声と共に、フォスターさんも僕も外部スピーカーをオンにして叫んだ。
「えー! 嘘や! ダニー兄ちゃんなん??」
「うわー。某、リナ殿と知り合いとは調べつくせなんだでござるぅ!」
「ん? え? どういうことなの、リナさん? あの人の事を知っているの?」
観客席からのリナさんの声が、コクピット内スピーカーから響く。
また、それに対してのユウマくんとアーシャちゃんの声も僕の機体に届いた。
……なるほど、世間は結構狭いんだね。フォスターさんの伯母さんってリナさんのお母様なんだ。
しかし、勝負は非情。
僕は、自分の勝利を祈り、機体を操った。
◆ ◇ ◆ ◇
「ふぅふぅ。流石は小隊長さんですね。とても強いです」
「それをいうなら君の方が凄いぞ。どうしてスーツオペレーターになって二カ月程度の君がそこまで動けるんだい?」
僕とフォスターさんとの戦いは、長丁場に入った。
僕の間合いを見切ったのか、迂闊に踏み込んでこないフォスターさん。
また僕もフォスターさんの攻撃を上手くいなし、有効打にしない。
どちらも打開策が無く、ただただバッテリーと推進剤の残量が減っていくだけだ。
「しょうがないですね。少尉、有効打が一撃入ったら勝ちのサドンデス形式で勝負しませんか? このままなら、バッテリー残量からして僕の負けです。教官良いですよね?」
「そうだな。素人の少年相手にバッテリー切れで勝つというのもプロとして情けない話だ。よし、私は乗った! 大尉、お願いします」
「こちらも了解した、マモル。大尉、良いですね?」
「Roger Sergent major」
僕は、皆に一撃勝負を提案してみた。
元々M3の方が機体重量的にも重いために、バッテリー消費が激しい。
更に僕は短期戦とはいえ、二連戦を終えた状態。
既にバッテリーも残り二割を切っているのだ。
「ありがとうございます、教官、少尉、それに大尉。では、僕は得意の無手になりますので」
僕は模擬専用の棍棒を放り投げ、左半身になりつつ左機械腕を前に出す。
爺ちゃん直伝の構えだ。
「潔いな、少年。では、私はナイフを使わせてもらう。もちろん高周波電源は入れないぞ」
フォスター少尉の機体も棒を捨て、ナイフシースから高周波ナイフを右機械腕で抜いた。
そして右機械腕を前にして構えを取る。
「マモルくん、がんばれー!」
「マモル殿、勝利祈願するでござる!」
「ウチ、どっちを応援したら良いんや? ダニー兄ちゃん? マモルはん? 困るぅ」
アーシャちゃん達の応援の声も遠くから聞こえる。
しかしコクピットの中は、どくどくと大きく耳に伝わる僕の心臓の音と激しい呼吸音。
後はモーターの駆動音だけが聞こえる。
「はぁはぁはぁ」
一瞬たりとも気を抜けない戦い。
網膜投射型ヘルメット内は熱い空気が籠り、汗が頬を流れる。
眼に汗が入らないようにしたいが、ヘルメットを脱がないと顔を拭えない。
喉がカラカラになっていて、僕はつばをごくんと飲み込んだ。
「では、双方準備は良いな? サドンデス。勝負開始!」
僕と少尉の機体は、衝突する勢いで接近した。




