第14話 満月の夜。再び、月の妖精に出会う僕。
食事中、突然泣き崩れた柊さん。
過去の罪に苛まれ、今幸せな自分が許せないと言い出した。
しかし、母さんはそんな柊さんをぎゅっと抱きしめる。
絶対に離さないと。
「アリサちゃんは、とっても優しい子ね。優しいからこそ、過去の事に引っかかっちゃうのよね。でもね、貴方は幸せになるべきなの。そうじゃなきゃ、わたしが許さないわ。誰が何を言おうとも、アリサちゃんの味方なの。ウチの義娘を悪く言うなら、只じゃ済まさないわ!」
「お、お義母様……。良いの? 人殺しのわたしが幸せになっても?」
……母さん! 恋人飛び越して嫁扱いなの!? う、嬉しいけど、それこそ、柊さんの都合無視してない?
「ええ、良いに決まってるわ。第一、アリサちゃんが殺したくて殺したんじゃないわよね?」
「いいえ。アイツ、わたしと同じ境遇の子達を使い捨て、見殺しにした上に自分でも殺して喜んだアイツだけは、わたしは自分の気持ちで殺しました……」
僕が知らない柊さんの過去。
それは、僕の予想以上に壮絶だったようだ。
……子猫のチビちゃんが大事に弔って貰った時に、言ってたのはこの事なのかな?
日本では子猫でも大事に弔ってもらえるのに、『あの子』は弔えなかった。
そう言っていた柊さんの顔はとても寂しそうだったから、僕はよく覚えている。
「そ、それは……」
父さんも言葉を濁すし、ミワは青い顔で何も言い出せない。
しかし、僕は柊さんを救いたい。
僕は勇気を出して、柊さんに呼びかけた。
「そ、それでも、僕は柊さんが幸せになって良いと思う。いや、僕が幸せにしてみせるよ! 敵討ちだったし、殺さなきゃ柊さんも殺されていたんでしょ? 酷いヤツがもっと悲劇を生み出す前に止められたんだ。子供を殺して喜ぶ奴なんて、どうなっても良いよ。僕は、そんな奴を殺した事すらも悲しむ柊さんの事が好きなんだ!」
「マモルくん……」
「我が息子ながら、上出来よ! そうよ、アリサちゃん。貴方は戦って生き残ったの! 生きていれば良い事もあるのよ? そう、貴方は今日、わたし達の家族になったの。これから、一杯楽しい事しましょ? ね、まずは美味しくご飯食べましょ。早く食べないと、せっかくの料理が冷めちゃうわ」
僕の言葉、そして母さんの言葉で顔を上げる柊さん。
「あ、ありがとぉ。ありがとぉ」
母さんの胸に顔を押し付け、柊さんは泣く。
しかし、それは後悔や苦しみではなく、嬉しさからの涙であって欲しい。
そう、僕は願った。
◆ ◇ ◆ ◇
「おねーちゃん、真っ白でとっても綺麗だったよ。おにーちゃん、残念だったね」
「もう、ミワちゃんったらぁ。今度、わたしの胸揉んだら、お風呂には一緒に入ってあげないよ?」
「あ、ごめんなさい、おねーちゃん」
泣き止んでご飯を食べた柊さん。
ミワと一緒にお風呂に入って、今はホコホコしたパジャマ姿。
ピンクベースのパジャマがとっても可愛い。
長い黒髪を纏めている姿も珍しい。
また、コンタクトを外しているので、灰色がかった蒼い瞳でミワを笑いながら揶揄っている。
……ミワの奴めぇ。何処を触っているんだぁ!
「ミワ、あんまり調子に乗るなよ? ただでさえ、今日は柊さんに無理言っているんだからね」
「はーい!」
テヘペロと謝るミワ。
ちゃっかりと柊さんに抱きついているのだから、困ったものだ。
「わ、わたし。変なところを触られなきゃ、別に気にしてないわ。き、今日は色々と嬉しかったし……」
「そ、それなら良いけど……」
その後、僕もお風呂に入った。
同じ浴槽に、柊さんも入ったのかと思いながら。
……の、のぼせちゃいそう。
風呂上り、何か飲み物を飲もうと台所に向かうと、一人ビールを飲んでいた父さんがいた。
「父さん。今日は色々とありがとう。柊さんの事を大事にしてくれて、僕嬉しかったんだ」
「ま、まあ。息子の恋人をないがしろにはしないさ。それにあんなに良い子はまず居ないぞ? 絶対に逃がすなよ、というか、幸せにしてあげなさい」
僕は、父さんに感謝の言葉を言う。
父さん、酔っているのか恥ずかしいのか、赤い顔で僕の頭を撫でてくれながら、柊さんを大事にしろと言ってくれた。
「もちろんだよ! そういえば、父さんは警察で聞いたんだろうけど、母さんは何処から柊さんの事を調べたんだろう?」
「それは、母さんから直接聞きなさい。パパだってマモルが生まれた後にやっと種明かししてくれたんだ」
笑いながら、僕の疑問に答えてくれない父さん。
どうやら、母さんには柊さん並みに秘密がありそうだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「眠れないぁ」
興奮が冷めやらないのか、今日は眠れない。
時計を見れば午前0時過ぎ。
ベランダに出る窓を覆うカーテンからは月明かりが漏れる。
「そう言えば、柊さんの本当の姿を見たのも満月の日。あれから二カ月も経つんだなぁ」
既に7月中頃。
来週後半からは期末試験があり、その後は夏休みが控えている。
「ちょっと風にでも当たろうかな?」
僕は涼もうとベランダに出てみた。
「あ!」
「マモルくん?」
僕がベランダに出ると、そこには先客がいた。
月明かりに照らされ、夜風に長い髪をなびかせる美少女。
儚げにみえる月の妖精。
柊さんがそこに居た。
「こ、こんばんわ。柊さんも寝られなかったの? ミワ、寝相悪いから起こしちゃったの?」
「ううん。嬉しくて、眠るのが勿体なくなっちゃったの」
とても柔らかい笑顔を僕に向けてくれる柊さん。
僕は、またドキリとした。




