第11話 我が家のパワフル女性陣に捕まる柊さん。
「ごめん、柊さん。母さん、言い出したら止まらないんだ。父さんも、母さんの暴走は中々止められないし」
「ま、まあ。しょうがないわ。あの時、あそこの場所からは逃げられなかったし」
僕は柊さんに謝る。
急遽、柊さんを我が家にご招待することになってしまったからだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「で、マモルちゃん。後ろの女の子は誰かしら? 随分と親しいみたいだし。うふふ、彼女を守るためにがんばったのかしら? マモルちゃんにも『春』が来たのね!」
警察署で母に抱かれながら、別の尋問を受けた僕。
柊さんとの関係を追及されるも、女友達ということで説明をした。
「そういえば、学校が臨時休校中にお友達のところに勉強にに行ってたっけ? お友達の話を聞いてなかったけど……。へぇ、やっぱりそうなんだぁ」
「ちょ! か、母さん! 僕と柊さんは、そんな関係じゃ、な、無いんだから」
「嘘ね。心拍数がかなり上昇しているし。で、母さん達にお友達を紹介してくれないかしら?」
抱きつきかれているから、僕の心拍数は母さんに筒抜け。
このまま言い訳を話していてもしょうがないから、僕は柊さんを両親に紹介した。
「こちら、同じクラスの柊さん。『友達』として仲良くしてもらってます」
「わ、わたくし、柊 愛理紗と申します。植杉くんとは入学以降、『友達』として助けて頂いていますの」
「ふーん。二人とも『友達』を強調するんだ。まあ、良いわ。アリサちゃんっていうのね。すっごく可愛いの。ねえ、今回のお礼も兼ねてウチに遊びに来てね」
僕から離れた母さん、今度は柊さんの手をぎゅっと握り、キラキラとした眼で彼女を見る。
そして、絶対逃がさないという雰囲気だ。
「お、おい。ママ。いきなり何を言い出すんだ? ふぅ。す、すまない。柊さん。ウチのママ。暴走列車でこうなったら止まらないんだ」
そんな様子の母さんに呆れる父さんはため息を付き、柊さんに頭を下げる。
柊さんは、僕に視線を向けて助けてというが、母さんを倒すのは僕には心理的にも物理的にも不可能だ。
……だって、合気道の腕。僕よりも母さんの方が強いんだもん。父さんも昔、絶対に母さんとはケンカしないって言ってたし。
僕は首を振り、柊さんに深く謝った。
「ごめん、柊さん。僕では、もうどうしようもないよ」
「そ、そうなのね。お母様、ではまた機会がありましたらお伺い致しますわ」
「ありがと、アリサちゃん! じゃあ、早速明日から家のお片付けと迎え入れ準備ね。息子の彼女訪問! これは一大イベントよ!」
柊さんは眼を白黒しているが、これが母さん。
暴走列車は止まらないのだ!
◆ ◇ ◆ ◇
「で、今日。待ち合わせの場所をここにしたのは、ど、どうしてなのかしらぁ!? にゃ、んにゃぁぁ!」
「柊さん。表情と口調が一致していないよ?」
柊さんをお迎えする今日、土曜日。
僕は、お互いに知っている場所を待ち合わせ場所とした。
そこはかつて自動車に撥ねられて亡くなっていた子猫、チビちゃんを連れて行った公園、地域猫が多数たむろする場所。
そう、猫好きな柊さんにとっては「聖地」なのだ。
「だ、だってぇ。植杉くんの家に行くから、気合入れて服を選んだのにぃ。ね、猫ちゃんにスリスリされたら抱かない訳にはいかないじゃないのぉ! 毛だらけになっちゃうぅぅ! にゃ、にゃにゃぁぁ!」
「そこは安心して。猫の毛を取るためにガムテープや粘着コロコロは、沢山持ってきているからね」
柊さん、今日はお嬢様ファッション。
素敵な白いワンピースを上品に着こなしている。
……多分こーなると思ってたから、準備してて良かったね。
「け、計画的犯行なのぉ! う、植杉くんの策士ぃ あ、ここ掻いて欲しいの? え、君も?」
「だって、せっかく柊さんに無理言うんだもの。このくらいの役得はプレゼントしてあげないとね。あ、既にウチには少し遅れるって写真付きで送っているから安心して、存分に猫ちゃんを堪能してね」
「ひ、ひきょうものぉぉ!」
柊さん。
口では怒りながらも、多数の人懐っこい猫に囲まれて幸せそうな表情だった。
……少しでも柊さんの心を癒せたら良いね。
僕は、柊さんの目新しい表情を見て微笑んだ。
◆ ◇ ◆ ◇
「いらっしゃいませ。猫ちゃん、好きって聞いてたけど、良かった? では、ようこそ。植杉家へ!?」
「お、お母様。この度はお招き頂き、ありがとう存じます」
全部お見通しって感じな母さんに出迎えられた柊さん。
一瞬、表情を引きつらせるも、即時お嬢様の「仮面」を被ってご挨拶をする。
「あらあら。そんな外向きな顔を今日はしなくても良いのよ、アリサちゃん? 貴方、かなり無理しちゃっているの分かるんだけど? あ、玄関口でお話してたらダメね。マモル、応接間にご案内して」
「う、うん。柊さん、上がって」
「は、はい。お母様、これは皆様でお食べ下さいませ」
柊さんにお土産のお菓子を貰った母さん、「そんなに気を遣わなくても良いのに」と言いながら受け取る。
「そうそう。パパは急用が出てて、しばらくは帰ってこないの。気にしないでね」
「は、はい」
柊さん、僕の顔を一瞬見て「どうなっているの、貴方のお母様?」とテレパスを飛ばしてくるのだが、僕も「変な母さんでごめんね」とテレパスを返した。
……まあ、視線で無言の会話なだけなんだけどね。
「お姉ちゃん、いらっしゃいませ。アタシはマモルおにーちゃんの妹、ミワって言います。小学五年生なの! お兄ちゃんを宜しくお願いしますね」
「は、はい。み、みわちゃん?」
「アタシ、お姉ちゃん欲しかったんです。アリサお姉ちゃんって呼んで良いですか!?」
今度は応接間で待ち構えていたのは、母さん譲りのパワー押しで柊さんに迫る妹。
またまた柊さんは僕へ「困るんだけど?」という視線を送るが、僕は首を振るしかない。
……我が家の女性たちの暴走は誰も止められないんだよぉ。
「え、ええ。良いわ、ミワちゃん」
「ありがとー。じゃあ、お兄ちゃん抜きで遊ぼうよ、お姉ちゃん!」
「おい、ミワ! 柊さんは玩具じゃないんだぞぉ!」
妹に抱きつかれて、困っているけれど嬉しそうな柊さんの表情を、僕は今日二回見た。
そして、その様子に思わず微笑んでしまった。
「う、植杉くん。笑っていないで、わたしを助けてよぉ?」
「はいはい!」




