第10話 僕の戦い。柊さんを泣かせたりはしない!
「し、死にくされぇ。このクソガキがぁ!」
コンビニを襲う強盗犯。
彼は人質にしていた幼女を放り出し、ナイフを振り上げて僕に飛び掛かってきた。
……よし! ここは僕の間合いだ!
僕は、爺ちゃんから何度も教え込まれていた技を繰り出す。
まず右手の持っていた教科書でいっぱいのカバンを、フルフェイスヘルメットを被っている犯人の顔を目掛けてアンダースローで投げつけた。
「ち、ちきしょぉ!」
犯人は、思わず振り上げたナイフを持った手で顔目掛けて飛んで来たカバンを払おうとする。
教科書で一杯なカバンだったので、重さは凶器級。
完全に払いのけきれずにカバンがヘルメットに当たって、犯人は仰け反った。
「ぐぎゃ!」
……今!
視線が上に上がった犯人の足に目がけて、僕は足元にあった子供用の買いカゴを右足で蹴り込む。
そして蹴り込んだ勢いで、前に踏み込んだ。
足元がおろそかになっていた犯人、僕が蹴り込んだ買い物カゴに足を引っかけた。
……ここ!
左前半身になり、ナイフを避けながら犯人に触れるくらいまで接近した僕。
犯人のナイフを持つ右手首を、自分の右手で掴んだ。
そして犯人を握った右手を捻りながら引っ張る。
トドメに左手で犯人の後ろ襟を掴みつつ、左足で転びそうになっている犯人の軸足を刈り切った。
後はひょいと引っ張れば犯人、自分が突っ込んできた勢いのまま、宙に舞った。
くるりと空で回った犯人。
どすん!っと後頭部と背中をしこたま床に強打して倒れる。
「ぐぅぅ!」
……フルフェイスヘルメットだから、あのくらいじゃ死なないでしょ? 少しくらい痛い目にあったらいいんだよ! 本気で殺す気なら垂直に落とすぞ!
僕は倒れている犯人の右手をねじり上げながら、腹ばいにさせる。
犯人が取り落としたナイフは、遠くに蹴り飛ばしながら。
「い、痛い!」
「まだ文句を言いますか? このまま、背中から体重載せて息の根止めちゃいますよ?」
僕は犯人の背中に膝を置き、少し体重を乗せる。
脅しを受けて犯人はびくりとする。
「ええ、そのように警察が来るまでは大人しくしてくださいな。じゃないと……」
「わ、分かったぁ。だから、腕をお、折らないで。い、痛い!」
少しねじり上げがきついのか、更に悲鳴を上げる犯人。
僕は、一切油断もしないで膝に乗せた体重を増やす。
「ぐ、は、い、息が」
「ですから、大人しくね」
僕は、動きを止めた犯人に乗せた体重を少し減らした。
「ふぅぅ」
犯人が観念したのを確認して、僕は大きく深呼吸をする。
上手く爺ちゃんから教わった技で犯人を無力化できた。
「あ、柊さん!?」
僕は、犯人から眼を外さずに視線を少しずらす。
そこでは、人質にされ投げ飛ばされた幼女を上手くキャッチしていた柊さんが居た。
「おねえちゃん、怖かったよぉ」
「うんうん。貴方お怪我ない? 何処も痛くないの?」
幼女だけでなく柊さんも泣きながら、幼女をぎゅっと抱きしめている。
「おねえちゃん、ぎゅーが痛いよぉ」
「あ、ごめんね」
「おねえちゃんも泣いてるの? おかしーよぉ」
「うん、おかしいよねぇ」
そこに幼女のお母さんが走り寄り、二人で幼女を抱え込んで三人仲良く泣いていた。
「良かった。誰も不幸にならなくて。あ、犯人さん、貴方も強盗未遂で済みましたね」
今になって膝がガタガタ震えながらも、僕は無事に事件を怪我人無しに解決できたのを安堵した。
◆ ◇ ◆ ◇
「どうして警察の到着を待てなかったんだ! お義父さんの教えや技は、危険な事をさせるためのものじゃないんだぞ!?」
「パパ。あんまり、マモルを責めちゃダメですよ。犯人も人質も自分も全員無事に事件解決できたんですもの。マモル、よくやったわ」
「心配させて、ごめんなさい。父さん、母さん」
犯人と共に関係者として、警察に連れていかれた僕と柊さん。
事情聴取後、僕は迎えに来た母さん、警ら活動から帰って食た父さんからミッチリと叱られている。
「マモル、お前は元々優しすぎて自分を犠牲にしがち。中学校時代のイジメも友達を庇ってから始まったのは、どうしたものかと俺も思ったさ。でもな、お義父さんの道場で鍛えたお前はイジメを乗り越えた。そこで安心してたのに……」
「まあまあ。パパは心配性なんだから。でもね、マモル。刃物を持った相手を制圧するのは、高等技術。いくらお父さん譲りの『眼』があっても、まだ白帯の貴方が本来なら立ち向かってはならない相手なの。無茶と無謀は違う。今度の事は無謀に近いわ」
「ご、ごめん。ぼ、僕……」
今頃になって恐怖がぶり返してきた僕。
頬を涙が幾筋も流れる。
「でもね、よくやったわ。パパは立場上褒められないから、ママが褒めてあげる。自慢の息子ね。小さい子の命、そして犯人の命を貴方は救った。これは立派な事よ?」
「もうママには困るなぁ。マモル、俺は警察官としてはお前を褒められない。だがな、パパとしてはとっても誇らしい息子だよ!」
涙が止まらない僕を、母さんがぎゅっと抱きしめてくれた。
また、警察制服姿の父さんも僕の頭をゆっくり撫でてくれた。
……母さんの匂い。久しぶりだけど、安心しちゃう。父さんの手も、とって暖かいや。
「植杉くん、良かったね」
僕の背後では、涙声の柊さんがいた。
なお、柊さんは事件解決後、直ぐに宗方先生に連絡をしていた。
おかげで、警察での持ち物検査で大変な事にはならなかった様だ。
……女子高校生のカバンから拳銃が出たら一大事だものね。
「で、マモルちゃん。後ろの女の子は誰かしら? 随分と親しいみたいだし。うふふ、彼女を守るためにがんばったのかしら? マモルちゃんにも『春』が来たのね!」
「え、えっとぉ!」
さっきまで僕を優しく抱きしめてくれていた母さん。
いきなり口調を変えて下品に笑いながら、視線を柊さんに向けた。
……し、しまったぁ!




