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魔弾の錬金術師は復讐に生きる ~亡き最愛の妻は吸血鬼だった~  作者: 結城 からく


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第77話 錬金術師は受け入れる

 数日後、我々は夜の森に紛れていた。

 向かう先には黒い館がそびえ立っている。

 崖際に建つそれは、外界を拒絶するような雰囲気があった。

 実際、そのような意図を考えた立地だろう。


 その館こそ伯爵の住まいだった。

 別荘のうちの一つで、最も厳重な守りが敷かれた要塞である。


 樹木にもたれるテッドは、煙草をくわえながら笑う。


「ようやく到着したな。情報屋の話が正しければ、ここで間違いないだろう」


「伯爵は室内にいる。私達の存在にも気付いているようだ」


 私が即答すると、テッドは不思議そうに首を傾げた。


「この距離でどうして分かるんだ?」


「気配と視線だ。明らかな強者がこちらを見ている」


「とんでもない察知能力だな。いや、それは向こうも同じか」


 テッドは肩をすくめて紫煙を吐き出す。

 この段階に至っても、彼に緊張や焦りは見られない。

 相変わらず軽い言動が目立つ男だ。


 ただし仮面から覗く双眸は恐ろしいほどの眼力を発揮していた。

 常に周囲の危険を見極めようと動いている。


 私は右手を顔の前に持ってくる。

 肥大化が進行し、元々の倍ほどの太さにまでなっていた。

 包帯の隙間からは陶器の質感を持つ黒い皮膚が見える。


 この変貌は既に全身を侵蝕していた。

 各所で肥大化が始まっており、骨格も変容している。


 現在の私は大幅に背丈が伸びている。

 巨人種の血統だと言っても疑われないほどだ。

 街中でも目立ちすぎてしまうため、街や村に立ち寄ることもなくなった。


(吸血鬼という種の完成……私はそれに近付いている)


 テッドと行動を共にしてから、漠然と抱いていた予感。

 それが確信に変わったのは二日前だ。

 軋む肉体が急速に馴染んでいく感覚があった。


 以降、私は変貌を心底から受け入れた。

 人間であることにこだわらず、目的意識だけを優先した。

 僅かに残っていた躊躇を完全に捨て切った。


 結果、変貌は劇的に加速し、私は黒い肌を持つ長身の怪物に成り果てた。

 見た目だけでなく能力も強化されている。

 テッドが感知できない部分を認識できたのもそのためだ。


 昼間はやはり衰弱してしまうものの、体内から闇の魔力を放出することで日光を防げるようになった。

 おかげで苦痛も緩和している。

 肉体の生存本能が、弱点を克服しようと努力していた。


(衝動も感じない。あと一息なのだろう)


 肉体が根底から塗り変えられて、容態が安定しつつあった。

 変貌の激しい時期を過ぎたらしい。

 ここからは緩やかに完成するのだと思う。

 私はそれを直感的に理解し、当然のように受け入れていた。


 妻の遺骨を奪還できるなら、怪物の人生も悪いものではあるまい。


「それで、どうする。このまま突入するのか」


 テッドの言葉で我に返る。

 私は館を一瞥して頷く。


「そのつもりだ。どうせ居場所は割れている。正面から向かうのが手っ取り早い。妻の遺骨も既に到着しているようだ」


「魔力でも探知したのかい?」


「そうだ。微細だが感じる」


 私の見解を聞いたテッドは、迷いもせずに背中を叩いてきた。


「よし、あんたの言葉を信じるぜ。夜明けまでに片を付けるぞ」


「分かった。頼りにしている」


「それはこっちの台詞だ」


 テッドは屈託なく笑うと、館へと進み出した。

 私はそれに付いていく。

 長きに渡った復讐の旅が、終焉を迎えようとしていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もはや容姿が想像つきませんね笑
[良い点] 今話のラスト、悪魔城ドラキュラシリーズでドラキュラとの決戦に臨むベルモンド一族の勇者を連想しました。 (この物語の主人公は吸血鬼ですけども。  ……まあ、悪魔城ドラキュラシリーズでも主人…
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