第76話 錬金術師は日光を避ける
私とテッドは引き続き移動をする。
日中は街や村の建物内で休む。
仮面と外套を購入してからは夜間のみ動くと決めていた。
本当は昼間に移動する方が都合が良い。
乗合馬車を使える上、目撃者が発生する関係で敵襲の可能性も減るからだ。
しかし、昼間の移動は私の消耗が激しすぎる。
仮面と外套で負担は軽くなったものの、それでも長時間の行動には耐えられない。
日数を経るごとに弱点が悪化しているようだった。
テッドがいなければ、とっくにどこかで行き倒れていただろう。
そうして旅を始めて七日目。
私は村の宿にて休息を取っていた。
窓から差す日光は布を当てて遮断し、ここから一歩も出ないようにしている。
そばに座るテッドが私の胸を叩いた。
「倒れるなよ。協力しないと伯爵は殺せないぜ」
「そんなに厳重な守りなのか」
「ああ、何から何まで徹底されている。忍び込むのは不可能だから、正面突破になるだろうな。命がいくつあって足りやしねぇよ。おまけに伯爵自身も戦闘の達人と来やがる。昔は英雄とまで呼ばれていたそうだ」
「そうか」
私は淡々と相槌を打つ。
近くの置いた水筒を掴むと、中に入れた果実の搾り汁を飲んだ。
独特の苦みを無視して胃に流し込んでいく。
久々の飲食だが、味覚まで変わっている気がする。
水筒を空にするまで傾けていると、テッドが意外そうにこちらを見ていた。
まさか彼も飲みたかったのだろうか。
申し訳なくなる私に、彼は苦笑気味に尋ねる。
「ここまで聞いて驚かないのか」
「厄介だとは思っている。だが、詳細を知ったところで考えは覚悟は揺るがない」
厳重な守りがあろうと、伯爵が元英雄だろうと目的は不変だ。
そこに妻の遺骨が届くのなら奪いに行くまでである。
私は水筒を置いて上体を起こすと、仮面から覗くテッドの目を注視する。
特徴のない茶色い虹彩だった。
「お、何だい?」
「昼は弱いが、夜間の私は無敵に近い。既にお前の実力すら超えている」
私がそう指摘すると、テッドは沈黙した。
一拍を置いてから大笑いし始める。
「ハハハ、確かにその通りだな! あんたはこの短期間で成長……いや、進化している。しかもそれが止まる気配がない。恐ろしい性質だ。地下牢で仲間になってよかったよ」
テッドは腹を押さえながら笑う。
よほど愉快だったらしい。
何が彼の琴線に触れたのか分からなかった。
テッドは私の背中を叩き、楽しそうに言う。
「頼りにしてるぜ? あんたなら伯爵にも負けないだろうさ」




