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魔王は、大抵、美少女になる

 ひとつの長椅子に、三人で腰掛けている勇者たち……対面の長椅子には、鎧を身に着けたままの征伐騎士団クルセイダーが座り込む。


「勇者様、第二、第三の魔王が現れてから、民草の間では不安が渦巻いております」

「は、はぁ……」

第二の魔王(セカンド)に至っては、所在は不明のまま……また、何時なんどき、ヤツの魔の手が無辜むこの民に及ぶやもしれないのです」

「どうぞ~、お茶です、どうぞ~」


 その第二の魔王(セカンド)本人が、笑顔を振りまきながら茶を出している。お約束の効力が消えたのか、あの部屋からは脱出していたらしい。


「えっと、あの、そのぅ、つまり、わたしたちに、えっと、第二の魔王(セカンド)を討伐して欲しいと、そういうことでしょうか?」

「いえ、如何いかに勇者様と言えども、所在の及ばぬ者を斬ることは出来ぬでしょう。我々とて、霧や霞を斬れなどとは申しませぬ」

「んじゃあ、どういうつもりよ?」


 壁に背を預けて突っ立っている俺に、ちらりと騎士は目線を向ける。


「……人払いを」

「あの人は、構いません。あんなぬぼーっとした面をしていますが、シエラたちの恩人でありますがゆえに、この場にいてもらっても問題ない。というよりも、この場にいてもらわないと困ります」


 数秒の沈黙の後に「承知しました」と頭を振る。


「では、第三の魔王(サード)の件なのですが……既に我々の手で捕らえており、地下牢におります」

「「「えっ!?」」」


 驚いて立ち上がる三人組、俺は趨勢すうせいうかがうためにじっとする。


「実は、ヤツは、自ずから投降してきたのです。人間と争う意思はないと言って、地下牢で本を読んでおります」

「じゃ、じゃあ、ソイツの目的はなんなの?」


 Ⅲ号の問いかけに、唸るような声が返ってくる。


「わかりませぬ……しかし、捨て置くわけにもいかず……一度は、処刑を実行しようとしたのですが、民衆の反感を買いまして……」

「え、あの、その、処刑なんて聞いてないです。そ、それに、民衆の反感を買うだなんて、どうして?」

「申しわけありませぬ、騎士団にも面子というものがありまして、勇者様にもご相談せず手柄に目が眩み……民衆の反感を買った理由につきましては、なんといいましょうか、そのう……」

「魔王が“美少女”だったんだろう?」


 正解だと言わんばかりに、騎士の動きが固まった。


「どういうことですかどういうことですか。シエラにもわかるように、そのムダに低い声で説明してくれませんか。お願いしますありがとうございます」

「……お約束だ」


 ぼそりと、Ⅱ号にささやく。


「魔王の美少女化だ。

 不文律ワードに書いてあるが、昨今では珍しくもなんともない、実は魔王は美少女でしたというものがあるらしい。それに魔王はカリスマ性がないと務まらないから、魅了チャームの呪文を習得しているというパターンもある」

「そちらの青年の仰るとおり。

 あまりにも可憐な令嬢の姿であるもので、兵の間でも彼女の信奉者が現れており……その上、昨今の王のご様子がおかしく、まるで第三の魔王(サード)を実の娘のように可愛がる始末」


 俺は、ぼそっとつぶやく。


「確定したな、王は第三の魔王(サード)に操られている」

「えっ、な、なんでわか――うわ、顔、めっちゃかっこいい!! 好き!!」

「コレもまたお約束だ。王が魔王に操られているのは、黄金パターン。そのうち、悪政を振るい出して、この国が乗っ取られるぞ」


 目覚めた直後に急襲してきた第二の魔王(セカンド)は、所謂いわゆる、己の実力に自信のある肉体派。対する第三の魔王(サード)は、己の論理ロジックに信を置く頭脳派といったところか。


「えと、あの、それって、どうすればいいんでしょうか……」


 知らん。俺には関係ない。


 と言いたいところだが、俺のお約束と誓約(フラグ・エンゲージ)のせいで、第二の魔王(セカンド)第三の魔王(サード)が目覚めたとしたら、この不始末くらいには決着をつけておく必要がある。


 面倒くさい。こういうことが嫌だから、目立たないように生きてきたのに。不文律ワードで、この勇者三人組が敗北をきっして死亡するお約束を視てしまったせいで、とんだ目に巻き込まれたな。


 まぁ、仕方ない。俗世も情も、捨てきれなかった俺が悪い。陰ながら、第三の魔王(サード)を討伐して終わらせる。表舞台での名声はすべて勇者連中に押し付けて、これ以上のお約束(イベント)発生はなしだ。


「で、あんたは、勇者様になにをして欲しいんだ?」


 俺の問いかけに対して、騎士はそっと依頼事項を提示した。


「魔法学園に通って頂きたい」

「……なに?」

「ザンクト・ガレン魔法学園の一般生徒を装い、王の娘として通っている第三の魔王(サード)を秘密裏に討伐して頂きたい」


 征伐騎士団クルセイダーの代表は、大きな頭を下げた。


「どうか、勇者様!! 魔王を!! 魔法学園に通う魔王を討ち果たして頂きたい!! お願い致します!!」


 呆然とする三人組の後ろで、俺は面倒事に匂いを嗅ぎ取ってうんざりとした。


「……学園モノかよ」


 新たなお約束が――始まろうとしていた。

この話にて、第一章は終了となります。

ここまで読んで頂き、本当にありがとうございました。


次話より第二章となりますが、引き続きお読み頂ければ幸いです。

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