↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/48

先に部屋に行ってなさい

「師匠、お屋敷の掃除が終わりました!!」


 第二の魔王(セカンド)の声が、響き渡る。


「師匠、買い出しに行ってきました!! 昔なじみのおじさんが、野菜を安く売ってくれました!」


 毎日のようにして。


「師匠、腰をお揉みします!!」


 なぜか、メイド服でロングのウィッグを着けた彼は。


「師匠、本日の御夕食ディナーは、イェリアブルーのソテー、野菜添え、芳醇な(モェリュ)ソースアメリケーヌです!!」


 見事なまでの従者となっていた。


「……弟子はとらんと言った筈だけど」


 女装姿の第二の魔王(セカンド)は、誘惑するかのように流し目で、俺の方を視て口端を曲げる。


「公認でなくても構いません。ただ、貴方の傍にいさせて頂ければ、ボクとしてはそれで満足です」


 王侯貴族に呼び出された勇者三人組の代わりに、屋敷の管理を任されている俺は、ほぼほぼ日々の雑務をこなせていない。毎夜のように日課ボードゲームをプレイし、コイツの作る美味い飯を食べるだけだ。


 ……勇者のヒモか、俺は?


「で、なんで女装してんの? 趣味?」

「あぁ、コレですか」


 Ⅱ号の私物であるメイド服を着た彼は、スカートの端をつまんで持ち上げ、ニコリと笑ってお辞儀をする。


「趣味です……というのは冗談ですが、『レイラ・オブシヴィアン』嬢が、大の男嫌いとのことだったので男装は止めにしました」


 レイラ・オヴシヴィアン……確か、Ⅲ号のことだったか。


「男装? 男じゃないのか?」

「さて、どちらでしょうか」


 ウィンクをして、彼は窓枠に腰掛ける。


「ところで、師匠。先程、荷物をまとめていらしたように見受けられましたが……どこかに長期のお出かけでも?」

「いや、ココから出ていくんだ」

「ほう」


 歩き出した俺の後を、トコトコと魔王が付いてくる。


「あの小娘たち……失礼、勇者殿たちとの生活に嫌気が差したようには、見受けられませんが? むしろ、(たの)しげにボードゲームに興じていたご様子。

 にも関わらず、なぜ?」


 探りを入れてくる目線。


 当然、人類の敵である魔王に『お約束と誓約(フラグ・エンゲージ)』……俺の能力チカラのことを話すわけにはいかない。第二、第三の魔王が目覚めた以上、これから先、お約束(フラグ)の塊みたいな勇者三人娘と一緒にいるのは危険だ。


 じっと見つめていると、彼は片手を胸に当てて「えへん」と咳払いをした。


「ご安心ください! この第二の魔王(セカンド)、最早、貴方様の力の信奉者! 例え、この身が朽ち果てようとも、決して秘密を口外したりしないと誓います!」

「……お前、これ以上、俺と一緒にいたら本当に美少女魔王と化すぞ」

「え?」


 倒した魔王が美少女でしたなんて、ありふれてるお約束だからな。しかも、コイツは、意図的に性別を隠しているから“流れ”によっては、元の性別から変化することが容易に考えられる。


「ともかく、俺はココから出ていく」

「では、ボクも」

「ダメだ、残れ」


 第二の魔王(セカンド)は、頬を膨らませる。


「ボクは、あんな子供たちに興味はありません! 貴方にかれているんです! この館に残っても、なんの意味もありません!」

「……勘違いするなよ」


 俺は、その細い首を掴んで絞り込む。


「お前は、一度、俺に敗けた。生き死にを握ってるのは俺だ。子犬みたいに尻尾振ってキャンキャン吠えてれば、ひとさじの憐憫を与えられ、寿命を伸ばしてくれるなんて思ったりするな。

 俺はお前に興味なんてない。だから、容易に殺せる」


 こひゅっと喉から音が漏れて、突き放すと、咳き込みながら倒れ込む。


「俺がお前を殺さないのは、俺が勇者じゃないからだ……魔王を殺すのは、お約束(勇者)だからな」


 まぁ、これくらい、念入りに脅していけば十分だろう――と思ったら、数歩歩いただけで付いてくる。さすがは魔王、人間の脅し文句なんて通用しないらしい。


 嘆息を吐いて、やり方を変えることにした。


『おい、メイド』

「え、ボクのこと? はい?」


 俺が、飾られている壺を地面に叩き落とすと、破砕音がして粉々に砕け落ちる。


『この壺を視てみろ……随分と酷い不始末をしてくれたものだな……数千万はくだらんぞ、この壺は……御主人様わたしの大事な壺だ……』

「は!? えっ!? いや、今、自分で壊し――」

『お仕置きが必要かな?』


 その瞬間、目の色が変わる。


「ご、御主人様……も、申し訳……ありませんでした……」

『主人の大事な壺を壊すなんて、はしたないメイドだ。もしかして、自ら“お仕置き”を望んでいるんじゃないのか?』


 近づいてささやきかけると、耳朶じだが赤く染まって身体が震え始める。


『……先に部屋に行ってなさい』


 そう言うと、こくりと頷いた彼は、そそくさと俺の部屋へと駆け込んだ。


 さて、コレで、時間稼ぎとしては十分だ。一生、部屋に来ない御主人様を待って、やきもきしてもらうことにしよう。


 悠々と階段を下りた俺は、玄関扉を開き――鉄の壁を視た。


「……勇者殿は、ご在宅か?」


 魔王討伐の任を受けた征伐騎士団クルセイダー……銀鎧を身に纏った彼らは、野太い声で言った。


第三の魔王(サード)の件で、ご相談に参った。お目通り願いたい」


 もう、お約束(フラグ)が立ってるのか――帰ってきた勇者三人組の姿も視えて、ため息を吐いた俺は彼らを招き入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。