表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
プライオリティ  作者: ハヤシ
シーズン3
46/73

第5章 国会襲撃

 国会議事堂に向かって、サンルーフ付のクルマ1台とコンテナを乗せたトラック2台が疾走していた。


 仲間と共にトラックのコンテナの中に潜んでいるサギーは笑みをこぼしながらマシンガンを撫でる。久々の本格的な戦闘を前に高揚していた。しばし公安の監視下に置かれていたが、ようやく公安の監視がゆるくなり、連中の目を盗み、この戦いに参加することができたのだ。


 ――やっと決着がつけられる。


 サギーはゾクゾクしていた。これが自分にとって最後の戦いになるだろう。


 トラックの前を走るクルマは狙撃を目的として改造されており、サンルーフから携帯ロケット弾が撃てるようになっている。外目からはクルマの屋根に帆に包まれた大きな荷物を載せているように見えているはずだ。


 国会議事堂近くまではスムーズに事が運んだ。パトロール隊に見咎められて、検問を受けることもなかった。


 そう、パトロール隊は今、あちこちで行われているシベリカ人による暴徒化したデモ隊やそのデモを襲撃する愛国市民グループの連中に手を焼き、大忙しだ。


 デモ隊に紛れ込んでいる工作員は武器を持ち、治安部隊と戦っている。この騒ぎに乗じて、一般人の犯罪も増えている。


 中央地区管轄の警察捜査隊も特戦部隊も『シベリカ人街』で起きた『シベリカ加工食品工場』の事件の処理があり、手一杯の状態だ。

 しかも特戦部隊は『シベリカ加工食品工場』でその戦力をだいぶ削がれたらしい。実に好都合。今回の作戦実行において、特殊戦闘部隊がネックだったが、上手くいったようだ。


 全国で同じような事件が起きているので、ほかの地区の治安部隊が加勢に来ることもない。


 ただ気になるのは、治安局長直属の特命チームの存在だった。


 諜報員によると、その特命チームには軍から出向してきている隊員もいて、特戦部隊よりも手強いとのこと。そして、そこにはセイヤとリサもいると聞いていた。それ以上の詳しい情報は入っていない。


 ――彼らもだいぶ成長したようね……。元担任として誇らしいわ……。


 サギーは未成年養護施設で教員をしていた頃を思い出す。


 施設の付設高等学校の17歳クラスにリサが転入してきてから、何事も淡々と受け流していたセイヤが変わった。サギーへ盾突いてくるリサに加勢するかのように、セイヤは論戦を挑んできた。そして、おとなしく従順に見えていたルイも密かに牙を研いでいた。


 彼らには『絶対平和教育』が通じず、リサとセイヤは治安部隊へ入隊し、ルイはシベリカに楯突く厄介な存在となった。


 サギーの頬がにわかにほころぶ。

 もちろん彼らは敵なのだが、不思議なことに彼らのことは嫌いではなかった。


 ――そう、彼らはシベリカに脅威を抱き、決して下に見なかった。


 その後も、彼らが関わると自分たちの工作はたいてい失敗に終わった。


 でももうこれ以上負けるわけにはいかない。こちらは命をかける覚悟がある。ここにいる工作員全員がそうだ。

 一方、彼らにはそこまでの覚悟はないだろう。

 そこが勝負の分かれ目となる。


 それよりも一番注意を払うべきはトウア国防軍である。軍の戦闘部隊を相手にするとなると非常に厄介だ。


 ――でも……我々が国会に突入した時点では、軍はまだ動けないはず。


 サギーは考えを巡らせる。


 トウア国では、国内で起きた事件については治安部隊が対応することになっており、軍を動かすことは超法規的措置になる。

 明確な戦争行為となる攻撃を受けるまで軍が動くことはない。動かすにしても議会を通し、首相の承認がいる。それがトウア国の法となっている。


 というか議会を開きたくても今回は無理だ。襲撃を受けて、それどころではなくなるだろう。


 本当におめでたい法だと、サギーはほくそ笑む。


 ――ま、攻める我々としてはその甘さに助けられているのだけど。

 あまりの可笑しさについ噴き出した。


 シベリカ工作員がトウアの理想主義者たちを利用し『軍こそ平和を乱す悪の権化であり、軍をなくすべきだという絶対平和主義』をトウア世論に浸透させ、教育にもそれを持ち込み、長い年月をかけて育んだ。


 結果、トウア国民は自国軍を警戒するようになり、簡単に動かすことができないように法で縛った。

 ジハーナ人といい勝負のゆるい民族だ。……いや、傲慢とも言える。周囲の国を下に見て、飲み込まれることなど想像もしないから無警戒でいられたのだろう。


 だから、シベリカ中央政府はトウア国に目をつけたのだ。


 今回の任務は国会を襲撃し、首相や大臣らを殺害し、トウア国の命令系統を一時的に混乱させることだ。


 その後、多くの一般シベリカ人が虐殺される手筈になっている。同胞の殺害は心苦しいけれど、大義のための多少の犠牲は仕方ない。そして、シベリカ軍が自国民保護という名目を掲げて、混乱状態にあるトウア国の侵略を開始する。


 ――軍が動く前に片づけなければ……。

 サギーはマシンガンを抱え直し、その銃身へ軽く口づけをした。


 隣に座している男がサギーにチラリと目をやったが、また視線を戻し、そのまま目をつぶった。その男の左の口もとから頬にかけて大きな傷跡があった。


 そこへトラックに伴走するかのように、2台のバイクが近づいてきた。

 1台には少女が、もう1台には少年が乗っていた。


「サラ、キリル……来たわね」

 バイクの音を聞きつけたサギーはその方向へ顔を傾ける。


 サラ、キリル――彼らは『シベリカ加工食品工場』で暴れた後、こちらに合流することになっていた。


 この二人は『トウア人の子どもへの無差別銃撃』でも活躍し、治安部隊を蹴散らし、逃走を果たした優秀な工作員だ。身体能力はずば抜けている。トウア国の治安部隊や軍の特殊部隊にも引けを取らない。

 特にサラは天才だ。少女だと侮れば痛い目に合うだろう。


 ――ああ、早くトウア国が壊れていく様が見たい……その時、やっと私はラクになれる……。


 そんなサギーの、マシンガンを抱く防護手袋の中の左手薬指には指輪がはめられていた。それはシベリカからの出稼ぎ労働者としてトウア国で過酷な条件下で働き、そして亡くなってしまったサギーの婚約者からの贈り物だった。


 そのひっそりとした小さな輝きは手袋に隠れ、誰の目にも触れられることはない。その輝きはサギーだけのものだ。


   ・・・


 トウア国会議事堂は歴史を感じさせるアンティークな雰囲気の石造りの美しい建造物だ。左右対称に第一本会議場と第二本会議場とに分かれ、その部分はそれぞれ3階建てとなっており、地下は国会議員専用図書館、1階には事務室と議員食堂、2階は本会議場と委員長室、3階は議員控え室と本会議場傍聴席がある。


 その第一・第二本会議場の間の中央部には塔がそびえ立ち、3階中央広間から螺旋階段で最上7階まで行ける。4階は資料館、5階6階は吹き抜けとなっており、7階は展望室だ。そこにはトウア建国記念碑が置いてある。展望室からは海も望める。


 国会が開かれていない期間は一般人も国会議事堂を見学することできるが、今は国会開会中なので、一般人の立ち入りが許されるのは中央塔の7階展望室のみだ。


 重装備の特命チームと特戦部隊を乗せた輸送ヘリ2機は、その国会議事堂を目指していた。


 そこへ『現在、国会議事堂へ向かう不審なクルマとトラック2台が連なって走行中』という通報が入ってきた。停車するよう呼びかけても無視し、そのまま走り去ったという。


 その2分後、国会議事堂前にバリゲートを張っていた警護部隊の列が銃撃された。さらに正門にロケット弾が打ち込まれ、警護部隊は壊滅状態となる。


「ロケット弾? まるで戦争だな」

「こりゃ完全にシベリカ国が絡んでいるな」


「ま、確固たる証拠がなきゃ、あの国はしらばっくれるだろうよ。兵器の密輸も世界のあちこちで行われているらしいからな。今じゃ、装甲車を破壊できるロケット弾も携帯できるようになったし、国家が直接関わってなくても、ちょっと大きいテロ組織なら簡単に戦争レベルの犯罪を起こせる時代だ」


 ヘリの音に負けじと『ゴリラその1』と『ゴリラその2』がお互い、がなりたてるように話しているのを、セイヤは覚めた思いで聞きながら、ルッカーの言葉を思い起こしていた。


 ――『犠牲がなければ、世間はきれいごとというぬるま湯につかったまま、厳しい現実と向き合おうとしない』――


 今も国会議事堂では多くの命が奪われているだろう。


 国会議事堂正門にロケット弾が打ち込まれたという知らせを受けてから1分ほどで、輸送ヘリは国会議事堂上空に着いた。


『ゴリラその1』『ゴリラその2』とセイヤは大型防弾盾を、『メガネ』『クール』とリサは機関銃や小銃を背負う。


 できるだけ早く国会議事堂に入り、テロ集団を殲滅しなければならない。

 特命チーム6名は上空からファストロープ降下で次々に降りていき、着地と同時に行動を開始した。


 なお、ファストロープ降下の訓練を受けていない特戦部隊はヘリが着地するまで待ち、特命チームより遅れて、国会議事堂へ向かうことになる。


 特戦部隊より先に地上に降り立った特命チームは国会議事堂正門から表玄関を目指した。


 建物の1階にある窓は全て鉄格子がはめられてあり、第一本会議場がある議事堂の中に入るには表玄関か裏口の2箇所の出入り口しかない。


 正門に到着し、表玄関へ続く道を行く特命チームはあまりの惨状に足を止めた。


 クルマとトラックに乗ってきた敵は32名いたが、国会議事堂に侵入したのは26名だという。


 正門に続き、ロケット弾が打ち込まれたという表玄関は破壊され、そこには負傷した多数の警護隊員らが横たわっていた。


 手足がちぎれ、内臓が飛び出した損傷の激しい死体もあちこちに散乱しており、コンクリートの地面が血だまりになっている。


 敵と思われる死体も転がっていた。ロケット弾の被害を免れた残りの警護隊員は逃げずに、敵の国会議事堂への侵入を阻止しようと戦ったようだ。


 その傍らには、敵が乗ってきたと思われるトラック2台とクルマ、バイク2台が乗り捨てられていた。破壊された表玄関からは未だ粉塵がパラパラと落ちてくる。


 セイヤとリサは、正門から表玄関まであちこちに転がっている死体を凝視した。地面は血で染まり、人間の肉片が飛び散っている。顔は背けなかった。


「へえ……お前ら、エグい死体を見慣れているようだな。特に女、いい度胸じゃねえか」

 意外そうに『ゴリラその2』が、セイヤとリサを見やった。


「必ず、被害者の姿を頭に刻み込みます。そうすれば、自分の手を血に染めるのに躊躇しなくなりますから。躊躇すれば負けます」

 リサは無表情に答え、小銃を持つ手に力を込めた。


「もしかしたら、まだ戦争したことのない軍隊より、オレら治安部隊のほうが悲惨な死体を見慣れているかもしれません。ま、それだけトウアの治安は悪くなったということです」

 セイヤも何の感情も込めず淡々と応えた。


 それを聞いた『ゴリラその2』が眦を上げ「フン、オレらも……」と言いかけたところ、めずらしく『クール』がつぶやいた。

「守秘義務」


「おっと、いけねえ……」

 ハッとしたように『ゴリラその2』は口をつぐみ、それ以上しゃべろうとせず『ゴリラその1』を追った。


 セイヤは何かを察したように『ゴリラその2』の背中を見つめる。そして思う。ルッカーも自分もすでに血塗られた道を歩んでいるのだと。

 だからこそ、この殺戮が行われた光景を己の目に焼きつけた。


 これら殺害された警護隊員や護衛官たちは、世間の目を覚ますための生贄とされたのだ――ルッカーと、それを黙認した自分に。


「おい、足を止めるな。負傷者は後から来る救助隊に任せる。行くぞ」

 振り返った『ゴリラその1』が怒鳴る。


 特命チーム6名は周囲を警戒しつつ、中庭を抜け、表玄関から国会議事堂へ入った。

 目指すは2階にある第一本会議場だ。


 本日、そこで重要法案の採決があり、クジョウ首相はじめ国会議員らが出席している。

 第一本会議場の出入り口には護衛官がいるので、敵26名はそう簡単に突破できないはずだ。


 議事堂に入ると、あちこちで銃声が聞こえた。


 護衛官が第一本会議場を死守するべく戦っていた。

 しかし護衛官の装備はあまりに軽い。武器は拳銃のみ、防弾ベストは着用しているもののヘルメットを被っていないので頭を狙われた。あるいは胴体を銃撃され失神させられてから、近づいた工作員らに頭を撃ち抜かれた。


 ありとあらゆるところで命が流れ、消えていく中――

 特命チームは狙撃担当と、大型防弾盾を持つ防御担当に分かれた。


 狙撃担当:『メガネ』『クール』『リサ』

 防御担当:『ゴリラその1』『ゴリラその2』『セイヤ』


 そしてそれぞれ狙撃担当と防御担当とでバディを組んだ。


『ゴリラその1』と『メガネ』

『ゴリラその2』と『クール』

『セイヤ』と『リサ』


 こうして一同は、第一本会議場へ向かった。


 1階廊下には護衛官の死体はもちろん、敵の死体も転がっていた。無慈悲な殺戮が行われた廊下は血の海だった。


 第一本会議場へ行く階段は二か所ある。一つは一般人が使用する表階段。もう一つは議員とスタッフのみ使用できる非公開の裏階段だ。


 二手に分かれ、一般用とされている階段を『ゴリラその1』『メガネ』、非公開の階段を『ゴリラその2』『クール』、セイヤとリサが行くことになった。


『ゴリラその2』の持つ大型防弾盾に『クール』は身を潜めながら、裏階段に潜んでいた敵を次々に撃ち倒していった。

 セイヤとリサはそれを援護し、背後を警戒しながら2階へ上がる。


 そこにも多くの護衛官と敵の死体が散らばっていた。

 が、目をやる間もなくセイヤとリサ、『ゴリラその2』と『クール』は、跳弾による被害を防ぐため廊下の真ん中を進んでいく。


 その時、大きな爆発音が床を揺るがした。第一本会議場のドアが数カ所が爆破され、今まさに敵が入ろうとしていた。


 そこに笑みを浮かべているサギーの姿があった。


 あの『少女』もいた……それから、少女と共に逃げたあの少年も。

 セイヤとリサが取り逃がした犯人二人がそこにいたのだ。


 さらに、その後に続いた男の顔を見て、思わずリサは顔を強張らせ、その男を凝視する。


 男の左口許には大きな傷跡があった。

 忘れもしないあの傷跡……兄を殺した銀行強盗犯と同じだ。


 ただ……ほかにどこかで見た顔のような気がした。が、誰に似ているのか、すぐには思い出せなかった。


 当時、リサの兄を殺した犯人は覆面をしていた。リサの兄が格闘の末、犯人の覆面を剥がそうとした時に口許と頬が見えただけだ。顔は見ていない。


 しかし、リサは確信した。あそこにいる男が兄を殺した犯人だと。

 

 間違いない。ついに見つけた。リサの顔は憎しみと狂喜に歪む。頭が一瞬スパークする。


 ――今ここに、セイヤとリサが捕まえたい人物が全てそろっていた――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ