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プライオリティ  作者: ハヤシ
シーズン3
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47/73

第5章 兄の敵

前回までの話


 サギーらシベリカ工作員は国会を襲撃。

 それを追う特命チーム。第一本会議場前、ついに工作員らを捉える。

 そこには、サギーのほか、子どもたちを襲い、特戦部隊を殺傷し逃走を果たした少女と少年、そしてリサの兄を殺した左頬に傷痕がある男がいた。

 リサの顔は憎しみと狂喜に歪み、頭が一瞬スパークする。



 が、すでに男はこちらに銃口を向けていた。

 リサの反応が遅れる。


 男の銃口が火を噴く。

 セイヤの盾が銃弾を防いだが、衝撃で思わずよろける。


 即座に『クール』も撃ち返す。しかしその時にはもう、彼らは本会議場に入ってしまった。


 彼らの後を追う『ゴリラその2』『クール』とセイヤとリサだったが、もう一カ所のドアの陰から敵がマシンガンを乱射してきた。盾で防ぐものの、その弾幕に足止めさせられる。


 と同時に、表階段から来た『ゴリラその1』と『メガネ』の姿が見えた。『メガネ』がすかさず、その敵を狙撃する。

 敵のマシンガンが止んだ。


 特命チーム6名は再び合流する。本会議場からは爆発音と銃声が響いていた。


 大型防弾盾の陰に身を伏せ、警戒しながら本会議場に入ろうとすると、再び盾に銃弾が浴びせられ、足止めを食う。


 敵の弾倉交換時を狙い、銃弾が止んだ直後『メガネ』と『クール』、そしてリサがすばやく攻撃する。『クール』とリサの射撃は正確だった。あっという間に敵を仕留めていく。


 もう特命チームの足を止める者はいない。 


 しかし本会議場に入った時――

 目に飛び込んできたのは、両手を上げるクジョウ首相の頭に銃口を押し付けるサギーの姿だった。


『メガネ』と『クール』は固まってしまった。この位置からの狙撃では、ほんのちょっとでもずれれば首相に当たる。


 サギーの引き金にかけた指が動こうとした時――


 パン――


 リサの銃口が火を噴いた。

 サギーの手から銃が落ちる。


 混戦状態にもかかわらず、サギーは撃たれた右腕を押さえながら、その銃弾が飛んできた方向を見据えた。


 リサとサギー、お互いの視線が絡み合う。


 いや、リサはフルフェイスのメットを被っている。リサだと分かるはずがない。

 なのにサギーはなぜか頬を緩め、微笑んだ。


 一瞬、毒気を抜かれたリサだったが、視界の隅に『あの少女』がこちらに銃口を向けている姿が入った。

 銃弾はリサへ向かって放たれたが、すでにそれに気づいていたセイヤの盾がリサを守る。


 サギーと『少女』――リサはどちらを先に仕留めるか迷ってしまった。その迷いの一瞬がリサから攻撃の機会を奪った。

『少女』は混戦の中に消える。


 間一髪でサギーの攻撃を免れたクジョウ首相は足をもつれさせながらも、サギーやほかのテロリストから遠ざかるように逃げ、こちらとは反対側にある出入り口へ向かっていた。そこを出ると、2階から3階へ本会議場傍聴室の通路につながる階段があり、中央広間へと続く。

 サギーは右腕を負傷しながらも、クジョウ首相を追いかけていた。


 リサはサギーを目で追い、銃口を向けたが、狙いが定まらない。


 その時、別方向からクジョウ首相に銃口を向けている少年の姿に気づき、すかさずリサは少年へ発砲した。中央百貨店おもちゃ売り場で子どもたちを無差別に銃撃し、少女と共に逃走したあの少年だ。


 少年はリサの銃弾を受け、倒れた。

 そこでリサの弾が切れる。


 装弾している間にクジョウ首相は第一本会議場から中央広間へ続くドアへと姿を消していた。サギーもその後を追ったようだ。


 ほかの者は残った敵との応戦で手一杯だった。大型防弾盾を持つ『ゴリラその1』と『ゴリラその2』に守られながら、『メガネ』と『クール』も残りの敵と応戦していた。


 本会議場では手榴弾も使われたらしく、国会議員の8割以上が負傷し、そのうち3割はすでに息がない様子だった。重傷者も多い。無傷または軽傷の議員らはイスの下に身を伏せ、ガタガタ震えてていた。


「首相が第一本会議場から出ました。腕を負傷した敵1名がその後を追ってます。オレとリサも追います」

 セイヤが『ゴリラその1』に連絡を入れた。


『分かった。オレらもすぐ追いかける。すぐ特戦部隊が加勢に来てくれるはずだ』

 無線機から『ゴリラその1』が応えた。 多くの議員が残っている中、第一本会議場にいる敵をそのまま放っておくわけにもいかず、今は特戦部隊の到着を待つしかなかった。


 セイヤとリサは盾で身を隠しながら、本会議場の壁際に沿って大回りをし、クジョウ首相とサギーを追って、第一本会議場を後にした。階段を上がり、3階にある本会議場傍聴室につながる一本通行の路を進み、傍聴室を抜けて中央広間に出る。


 広間の真ん中には、上へ行くアンティーク調の螺旋階段があり、中央塔の最上7階まで上れるようになっていた。

 ちなみに3階中央広間から下へ行く階段はない。通常はエレベータを使うが、今現在、緊急事態ということでエレベータは止められている。


 2階の第一本会議場を出てから、3階の傍聴室を経て、中央広間のこの螺旋階段まで血が点々と続いていた。

「この血はサギーの……」


 階段の手すりに耳を当てると振動音が聞こえる。誰かが階段を上っているようだ。

「中央塔に登ったか」


 今日は第二本会議場は休みなので、そっちの通路へつながるドアは鍵がかかっていて抜けられない。エレベータは止められているので、逃げ道は中央塔へ上るこの螺旋階段しかない。


「行こう」

 リサが促したが、セイヤは躊躇した。

「もうすぐゴリラたちが来る。ゴリラたちを待とう」 


「でも急がないと……首相が……」

「……」


 セイヤは逡巡していた。

 ――中央塔に上っている間、背後から敵が来たら、リサとオレだけで対処できるのか。


 彼らは命を捨てる覚悟で臨んでくる。おそらく生きて帰ろうとは思っていない。


 だからセイヤはとても不思議だった。

 彼らはどうしてそこまでして国に尽くすのか?

 彼らの動機は何だ? 洗脳でもされているのか?

 シベリカとはそこまでして命をかけるに値する国なのか?

 その彼らの一人であるサギーは何を考えているのか?



 その時だった。第一本会議場へつながる通路口のドアから身を潜め、こちらを狙う銃口がリサの目に映る。セイヤの持つ盾は別方向に向いている。

 リサは即座に撃った。


 その銃弾は相手の銃身へ当たり、敵の手から銃が吹っ飛ぶ。リサはなぜか……死んだ兄が力を貸してくれた、と思った。


 銃声を聞いたセイヤはリサの前に立ち、すぐにその方向へ盾を向けた。 


 相手の姿を確認してリサは一瞬、息を呑む。その男の左口許から頬にかけて大きな傷跡があった。


 男が銃を取りに行こうと動く。が、それを許すリサではない。


 リサの放った銃弾は男の右足を貫通し、男は勢いよく床に転んだ。

 さらにリサは近づき、男の左足を撃つ。


 男が呻いた。

 その声を聞いたリサは口角を歪ませ、笑みを浮かべる。


 ――この声……こいつこそ、間違いなく兄さんを殺したあの犯人だ。もう逃がさない。


 リサはすぐさま駆け寄ると、男の左手と右手の甲も撃ち、両手を粉砕する。ついでに腕にも数発、弾をぶち込んだ。


 銃弾を打ち込む度に男の体がピクッピクッと動く。が、もう声を発することはなく、空気が漏れる音だけが口から吐かれる。


 両足両手を撃たれた男は全ての自由を奪われた。

 男が横たわる床を這う血を踏んづけ、リサは冷たく男を見下ろす。


 ――ラクには死なせない。


 かつて、兄の体から血が吹きこぼれ、床に広がっていった様を思い出す。心の奥底に封じ込めたはずの、あの光景が甦る。


 殺してもよかったが、痛みで苦しませるほうが、より重い罰となるだろう。生かして確保し、厳しい取り調べを受けてもらう。いずれは自白剤の使用条件が緩和され、この男も対象となる。薬の副作用で悪夢を見続け、長い長い地獄を味わうといい。


 リサは乱暴に男の腕を引っ張り、うつぶせにし、後ろ手に手錠にかけた。

 男は小さく呻いたものの、大声を上げることはなかった。


 その間、セイヤは周囲を警戒し、左手で盾を持ちながら、拳銃を構える。

 左口許に傷のある男――以前、リサから話を聞いていたセイヤは、あれがリサの兄を殺した犯人だと察していた。


 だからリサの過剰な攻撃を止める気は全くなかった。すでに血塗られている自分にそんな権利はない。キレイ事を言う資格もない。

 ずっと抱えてきた憎しみを犯人にぶつけることで、少しでもリサの気が済むのであればそれでいい。


 とその時、『ゴリラその1』から連絡が入った。やっと特戦部隊が第一本会議場へ到着したという。

 特戦部隊がそこへ向かう途中にもまだ敵が潜伏していたらしく、銃撃戦となり、時間を取られてしまったようだ。本会議場に残っている敵の殲滅と議員たちの保護を特戦部隊と『ゴリラその2』と『クール』に任せ、すぐにこちらに向かうとのことだった。


『ゴリラその1』から、先に行ってクジョウ首相を守るよう指示を受けたセイヤとリサは中央にある螺旋階段に目を向ける。


「さ、サギーのところへ行きましょう」

「ああ」


 左口許に傷のあるこの男はもう動けない。後から来る仲間が確保するだろう。今はクジョウ首相を救うことが優先された。


 本会議場での敵はもう残り少なく、特戦部隊が加勢に入ったというから、あそこにいた敵はほぼ全滅するだろう。おそらく、あの『少女』も――。


 リサは銃を、セイヤは盾を持ち直した。もう背後から敵が追いかけてくる可能性は低い。その場合は『ゴリラその1』と『メガネ』が片づけてくれるはずだ。


 議事堂に入った敵の数は26名。彼らのターゲットは首相を含め国会議員たちだ。当然、国会議員らがいる第一本会議場に戦力を集中させる。予めどこかに潜むとしても、後から加勢に来る治安部隊を足止めするために、外の出入り口から第一本会議場へつながる通路の周辺で待ち伏せするだろう。だから中央塔に敵が潜んでいる可能性は皆無と考えていい。


 もちろん、一般客もとっくに避難しているだろう。国会が開催されている期間、一般人の立ち入りが許されるのは中央塔7階展望室だけだが、そもそもこの期間の一般客は少ない。


 今、中央塔にいるのは首相とサギーのみだ。


 ――サギーとの対決が二人を待っていた。


ここに出てくる国会議事堂の造りは日本のものを参考にしてます。

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