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プライオリティ  作者: ハヤシ
シーズン3
36/73

第1章 機密―めくるめく耳かき

 温暖な気候に恵まれ、四方を碧い海に囲まれた島国トウア――

 家々の白壁が青空に映える昔ながらの風情ある旧市街と近代的な高層ビルが建ち並ぶ新市街が混在する、経済的に落ち目といえど世界的に見れば、ガス、水道、電気、鉄道、高速道路、空港などインフラも整い、豊かな文明を持つ民主主義国家だ。


 そんなトウア国は、孤島もいくつかあるが、主に5つの島から成る。

 島は『地区』と呼び、首都トウア市は中央地区、それを取り囲むように南地区、北地区、西地区、東地区が点在し、中央地区からそれぞれ海底トンネルと橋でつながれていた。


 総人口は約3000万人。

 ただ、人口減少による労働力不足を海外からの移民や出稼ぎ労働者で補っており、300万人弱の外国人が在住している。

 その中でもシベリカ国からの出稼ぎ労働者が多く、シベリカ人は約210万人と突出していた。


 一方、そのシベリカ国は――トウア国の西海の向こうにある大陸の半分を占める広大な国土を持つ大国であり、膨れ上がる人口増加と貧富の差に頭を悩ませていた。


 貧しい地方出身のシベリカ人は仕事を求め、トウア国など外国に出稼ぎに行き、移民として異国の地に定住する者も多かった。


 海外で暮らすシベリカ人たちは一つの地域に集まってコミュニティを形成するようになり、やがてそれはシベリカ人たちが集まる街となった。


 もちろんトウアの各地区にも『シベリカ人街』がある。『シベリカ人街』から離れて住み、トウア人の中に溶け込んで生活しているシベリカ人も数多くいるのだが、最近、シベリカ人に対し、一部トウア人による嫌がらせが増加し、トウア人とシベリカ人に大きな溝が生まれつつあった。


   ・・・


 最近、増え続けるトウア人とシベリカ人の諍いが犯罪に発展することが多く、トウア国の警察組織である治安局治安部隊は大忙しであった。


 治安部隊は各地区に置かれ、それぞれ管轄内で起きた事件に対処しているが、その治安部隊を管理し、指導的立場に立ってまとめているのが治安局であり、首都トウア市に位置する中央地区管轄の治安部隊と同じ敷地内にあった。


 灰色の重厚なコンクリート建築が並ぶの治安局。その本館・最上階中央に位置する局長室では――局長ホッシュ・ルッカーが、セイヤ・シジョウから提出された『治安と国防に関するレポート』をうすく笑みを浮かべながら読んでいた。


「あの若造が私と同じことを考えていたとはな……」

 今年43歳になる気鋭のエリート官僚はそう独りごち、椅子に身体を深く預けた。


 ちなみにセイヤ・シジョウは、ルッカーが率いる『特命チーム』の隊員だ。

 一般隊員が局長と直にやりとりするなど通常ありえないことだが、ルッカーはそういった垣根は気にしなかった。むしろ、そういった壁はとっぱらいたいと考えていた。


 特命チームは、そのルッカーの考えを反映し、ルッカー肝いりで起ち上げられた局長直属の治安部隊の別働隊である。ただ、今は試運転中ということで、まだ規模は小さく、隊員もこのセイヤを含め3名しかいない。


 ルッカーは今現在、軍のトップらと組み、軍の最高指揮権を持つクジョウ首相を説得した上で、防衛庁長官と共に『ある作戦』を進めていた。これは超法規措置が絡んでいることから国家機密扱いとなっている。


 当初、この作戦を進めるに当たって、クジョウ首相は難色を示した。万が一このことが世間に漏れたら、世間の激しい批判に晒され、己の政権が倒れると及び腰だった。


 が、ルッカーは「もし漏れたとしても、多くの国民は納得し、我々がやったことを必ず評価します」と説得し、ようやく実行に移せることとなった。


「そういえば……クジョウ首相もセイヤ・シジョウも同じジハーナ人の子孫か」

 ルッカーはレポートを手に持ったまま物思いにふける。


 ジハーナ人といっても、今現在『ジハーナ』という国はない。トウアに住むジハーナ人は全員、トウア国に帰化しており、トウア国民として暮らしている。


 そう――かつて、ジハーナ国は不戦の誓いを立てた究極の平和国家と謳われていたが、軍を持つことをも否定した高すぎる理想は、国家主権をおざなりにすることとなってしまい、結局、諸外国の介入を許し、いいように分割・併合され消滅した。


 ジハーナ人は住んでいた場所を移ることなく、そのまま併合先の国の民となった。


 トウア国現首相ワギ・クジョウは――45歳という若さと品の良さそうな外見も人気の理由の一つだったが――出自がジハーナ人ということで、平和主義者からもてはやされ、世論調査でもそこそこ高い支持率を誇っている。


 クジョウは、父親がトウア国へ出稼ぎにきていた時にジハーナ国が消滅したため、そのままトウア国に残り、帰化したという話だった。


 またセイヤ・シジョウも同じく――祖父がトウアに残ることを選び、セイヤはトウアで生まれ育った。


 当初ルッカーは、クジョウについて「理想主義・平和夢想民族の子孫が我が国のトップか。困ったものだ」と苦々しく見ていたが、意外にもクジョウ首相は現実主義者であり、国防について真剣に考える首相だった。


 母国ジハーナが理想と共に消滅したからこそだろう。

 クジョウ首相は、ルッカーの言葉にも真剣に耳を傾けてくれた。


 しかし『平和民族ジハーナの子孫』という看板も大事にしたい首相は、『平和』から逸脱するような行為には慎重であった。それが超法規的措置となれば、なおさらだった。


 民主主義のトウア国において、政治家は国民の選挙で選ばれる。そのトウア国民は平和と人権を大切に思っている。

 よって、そういった民意を無視できないという首相の気持ちは分からないでもないが、何の手を打たず国が滅んでしまっては、元もこうもない。


 今、シベリカ工作員の関与が疑われるテロといっていい犯罪事件が多発しており、そのせいで治安悪化の一途をたどるトウア国に、多くの国民が危機意識に目覚めていた。


 ルッカーはセイヤ・シジョウのレポートを机に置く。その顔からすでに笑みは消えていた。

 ――後もう一押しだ。


「やられてもやり返すな」「富を差し出してでも戦いを回避せよ」は理想であるが、果たして本当にそれを貫ける『聖人』はトウア国民の中に何人いるだろうか。

 誰もが自分の身はかわいい。裕福でいたい。今現在の生活レベルを下げることはできない。

 実際、トウア世論は甘い理想論から脱しつつあった。


 ――冷徹な現実主義者なら務まるだろう。……セイヤ・シジョウにも手伝ってもらうか。

 それにセイヤ・シジョウがどの程度の男なのかも見極めたい。


 例の作戦を詰めるために、ルッカーはセイヤを呼んだ。


   ・・・


 ここは中央地区管轄の治安部隊『特命チーム』専用室。治安部隊と言っても、治安局本館の局長室と同じフロアーにある。本来なら一般の隊員など立ち入ることができない場所だ。


 ジャン・クロー、セイヤ・シジョウ、リサ・シジョウの三人は、ルッカー治安局長直属の遊軍的な性質を持つ『特命チーム』に所属しており、まだ試用期間とはいえ、専用の仕事部屋を与えられ、机を並べていた。

 特命チームといえど治安局に所属する公務員であり、デスクワークも多い。


「あれ、セイヤはどこに行った?」

「ルッカー局長に呼ばれてましたけど」

「え、またか。局長に目をかけられているんだな。……ここのチームリーダーはオレなのに」


 ジャンはちょっとだけ不満そうな顔をしつつも「ま、いいか~、面倒なことはセイヤにお任せだな」とおおらかな性格でチームを率いていた。


 このジャン・クローはただ今25歳。さぞかし男性ホルモンが充実しているのだろう筋肉隆々の大男である。動物に例えるなら『ゴリラ』がふさわしい。少々暑苦しいオーラを放っているが、赤髪で愛嬌のある顔立ちをしている。


 そんな大ざっぱなジャンと、慎重で細かいセイヤは割れ鍋に綴じ蓋的なけっこういいコンビだと、リサは生温かく見守っていた。


 セイヤのほうは中肉中背で、どこにでもいそうな無難という言葉がお似合いの青年だ。


 なお、リサはセイヤの妻である。


 二人とも現在、同い年の21歳。結婚してもう1年以上経つが、夫婦円満そこそこ仲よく暮らしている。


 そう――4年前、当時17歳だったリサは一緒にいた兄と共に銀行強盗事件に巻き込まれ、強盗犯に兄を殺されてしまった。その1年前には両親を交通事故で亡くしていたため、天涯孤独となったリサは未成年養護施設に送られ、そこで同じく孤児だったセイヤと出会った。


 治安部隊入隊予定だった兄の後を継ぐことを決心したリサは、公務職志望だったセイヤと治安部隊入隊を目指し、訓練を受け、特殊戦闘部隊=特戦部隊に配属された。


 特戦部隊にとってリサは初の女性隊員であり、最初こそ『マスコットガール扱い』で、マスコミに『特戦部隊ヒロイン・リサ』と勝手にもてはやされもしたが、射撃の腕を磨き、ジャンとセイヤと共に活躍するようになっていった。

 そのことがルッカー局長の目に留まり、この『特命チーム』に引き抜かれたのだった。



 そこへセイヤが部屋に戻ってきた。


「局長と何の話だ? お前、ここんとこずっと席を外しっぱなしでオレたちと別行動だよな」

 さっそくジャンがセイヤに絡む。


「ああ……ええっと、国防についての小難しい話ですが……興味ありますか?」

 セイヤはしれっと答える。


 案の定「いや、いい」とジャンは白けた様子でデスクワークに戻った。


 けどリサは分かっていた。セイヤが何かの機密案件に関わっていることに。

 だから何も訊かなかった。もちろん知りたかったけど、セイヤが話すはずがない。夫婦であろうと、そこはきっちり線を引く。自分たちはそういう仕事をしているのだ。


 しばらくして昼休みのチャイムが鳴った。


 ジャンは立ち上がると速攻で部屋を飛び出し、売店に向かった。

 リサとセイヤはお弁当なので、机の上を片づけ、お茶を用意して席に戻る。


 お弁当の中身は米を炊き海苔を巻いて握ったもの――この間、テレビで紹介されていた東のほうにあるどこかの国の伝統料理だという――に、昨晩の夕食の残りものを詰めてきた。


 ちなみに弁当はレトルトも利用するし、余裕のない時は作らない。食堂や売店も利用している。セイヤは要望は言うが、モンクは言わない。そして掃除やアイロンがけはセイヤの係であるし、洗濯や皿洗いは順番にやっている。家事はできるだけ公平に。お互い無理をしない、させない。これがセイヤとリサの夫婦間のルールだ。


「ちぇっ、あんまりいいのが残ってなかった」

 ジャンはコロッケパンや卵サンドやハムサンドやカツサンドなど8個のおかずパンと牛乳をゲットして部屋に戻ってきた。


「けっこういいじゃないですか。そうだ、時間があったら明日はサンドイッチを作ろうかな」

 リサは、ジャンが机の上に広げた数々のおかずパンをうらやましそうに眺める。


 が、セイヤはそれについて異議を唱えた。

「パンは血糖値が保たれないから、すぐにお腹空くぞ。血糖値が下がると集中力も持続しないしな。コメが一番だ」


「セイヤは相変わらず小難しいことを言うよな。食いたいものを食う。それでいいじゃん」

 あっという間におかずパン8個を早々に食べ終えたジャンは、牛乳を飲み干す。


「相変わらず食べるの早いですね」

 リサは呆れるようにジャンを見やった。


「先輩、よく噛んで食べたほうがいいですよ。そのほうが満腹感が得られるし、唾液が分泌されて口の中の健康も保たれます。また噛むことによって脳が活性化されるんですよ」

 セイヤも東の国のコメ料理を頬張りながら講釈を垂れる。


「……セイヤってほんと理屈っぽくて細かいよな。毎回言うようだけど、リサも大変だな」


 おかずパンが包まれていたビニール袋をゴミ箱に突っ込んだジャンは、机の引き出しを開けてゴソゴソと引っ掻き回す。そして「あった、あった」と言いながら耳掻きを手にしていた。


「まあ、セイヤが理屈っぽいのは今に始まったことじゃないし……毎回言ってますが、すっかり慣れました」

 リサは苦笑しながら、弁当をつつく。


「ふ~ん……」

 ジャンはすっかりくつろぎ、耳掃除を始めていた。


 隣の席でまだお弁当を食べていたセイヤは何となくイヤな予感がしたので、お弁当を持ちながらイスをずらし、ジャンから距離をとろうとした。


 そんなセイヤにジャンはニヤッと笑いかけ、突然、耳掻きのスプーン部分にホッコリと乗っていた耳垢をセイヤの弁当に向けて、ふ~っと勢いよく吹いた。


「あ~っ、何するんですか~」

 セイヤは弁当に蓋をしたが、すでに時遅しといったところか。


「ふりかけだ」

 ジャンは意地悪そうな笑みを浮かべながら、さらにこう言い放った。

「オレの目の前で愛妻弁当広げるヤツが悪いんだ」


「先輩って、たまに子どもじみたイタズラしますよね」

 リサは呆れ顔でつぶやき、そっと自分のお弁当に蓋をしつつも……耳掻きのスプーン部分に乗っていたジャンの耳垢の大きさに心惹かれるものを感じてもいた。

 チラっと見ただけだけど、かなり大きかった気がする。ちょっとウズウズしてきた。


「これはイタズラではなく、かなりタチの悪いイジメだ」

 セイヤは恨みがましい視線をジャンに投げかける。まだ弁当にはおかずが残っていたが、とても食べる気になれなかった。


 もちろん、ジャン先輩の耳垢が弁当まで届いたかどうかは定かではないし、距離からいって届いていない可能性も高い。せっかくリサが作ってくれたんだし、まだ満腹には程遠い。夕飯までにお腹が空きそうだ。どうしよう……食うか?


 セイヤが悶々と悩んでいる一方、ついにリサは「ああ、もうガマンできないっ」と言って立ち上がり、ジャンのところに来ると、無言でその手から耳掻きを奪った。


「ん? リサ、何するんだ?」

 ジャンの問いを無視し、リサは自分の席に戻る。そして隣の席に座っているお悩み中のセイヤの頭を抱え込み、いきなり自分の膝に置いた。


「え?」

 突然のことにセイヤも固まる。


「久しぶりだから、けっこうたまっているかもっ♪」

 リサは、セイヤの耳たぶを軽くひっぱり、ジャンの耳掻きでセイヤの耳掃除を始めた。


 ジャンは目を見開き、ついでに口もあんぐり開けたまま、リサがセイヤの耳掃除をする様を見つめていた。

 セイヤもいきなりのリサの行動に目を白黒させるしかなかった。


「いや……リサ、ここで?」

 セイヤとしてはジャンの耳掻きなんか使ってほしくはなかったが、しかし、リサの膝の上で耳掃除をしてもらうのは至福の時でもあった。


 そう、早くに両親を失ったセイヤとしては、母親に耳掃除をしてもらった記憶はおぼろげだった。膝枕で耳掃除をしてもらうことは長年の夢でもあった。


 けど結婚した当初「耳掃除してほしい」となかなか言えず――それでも、これ見よがしにリサの目の前で自分で耳掻きをし「上手く取れない」とぼやいてみたところ、「じゃあ、やってあげようか」とリサから願ったり叶ったりの反応があり、それからはずっとリサに耳掃除をしてもらっているのだ。


 今も、椅子に座ったままリサの膝の上に頭を乗せているため姿勢はキツイが、耳掃除の気持ちよさにジャン先輩の存在を忘れかけていた。ちょっと品のない言い方をすれば、リサの太ももはボリュームがあり意外とムッチリしていて、最高の膝枕でもあった。


「きゃ~、大きいのが取れたわよっ」

 リサは耳掻きのスプーンの上に乗っている『セイヤの大きな耳垢』に感嘆の声を上げた。

 そして、それをしばし眺めた後「さよなら」と名残惜しそうに耳垢に別れを告げ、ジャンに向かってフ~っと思いっきり吹いた。


「やられたら、やり返すのよ」

 もちろんジャンのもとまで耳垢が届いたかは定かではない。届いてない可能性のほうが高いが、要は気持ちの問題だ。


「……」

 リサにセイヤの耳垢を吹きかけられたジャンは無反応だった。


「もう片方の耳もたまっていそうだから、続きは帰ってからね。今夜も大漁よ」

 大きな耳垢が取れて満足を得たのか、ウズウズが収まったリサは、起き上がれとばかりに膝の上のセイヤの肩をポンと叩いた。


 セイヤは無言で頷く。今夜が楽しみである。


 そこでようやく、ジャンは我に返って立ち上がり、リサの膝の上からセイヤを起こし、胸ぐらをつかみ、吠えた。

「お前ら、夜な夜なそんなプレイをしていたのか~っ、あまりにうらやましすぎるぞっ」


「何でいつもそういう下品な言葉に変換するんですか。『プレイ』ではなく、ただの耳掃除です。それに夜とは限りません。昼間もやってもらうことあります。現に今だって昼だし」

 セイヤは面くらいながらもジャンに反論した。


 が、ジャンは聞いちゃいない。

「オクテのくせにオクテのくせにオクテのくせに、何でお前ばっかいい思いしているんだっ」


「じゃあ、先輩も耳掃除しますか?」

 リサは自分の膝をポンっと叩いた。


「え?」

 ジャンとセイヤは同時に声を出した。


「さあっ」

 さらにリサはポンポンッと太ももを叩いて、ここに頭を乗せろとばかりにジャンを誘う。


「いいのか?」

 思わずジャンはセイヤに向かって尋ねた。


「ダメに決まっているでしょ。リサ、何を言ってるんだ?」

 ジャンがリサの太ももに触れるなど、あってはならないことだ。


 セイヤが本気で怒りそうなので、リサも渋々あきらめる。「……冗談よ」と言いながら、名残惜しい気持ちを抱えつつ耳掻きをジャンに返す。


 そう、セイヤの耳掃除をするようになってから、耳垢を取るのがリサの趣味となり、大きいのが取れると……何というか達成感がもたらされ、快感を覚えるようになってしまったのだ。

 そんなわけでジャンの耳の中もぜひ拝見したかったが、ま、仕方ない。


「あ~あ、オレも耳掃除してくれる女がほしいよな」

 リサから耳掻きを受け取ったジャンは耳掃除を再開しようとした。


 が、耳掻きを耳の穴に入れる前にハッとした様子で立ち上がる。

「いけね……これ、セイヤの耳を掻いていたんだよな。洗ってこなきゃ」


「オレだって先輩の耳掻きなんて二度と使いたくないです。というか弁当のおかず、どうしてくれるんですかっ」

 部屋を出ていくジャンの背中にモンクをぶつけつつ、今度から『マイ耳掻き』を持ってこようと、セイヤは心にメモをする。


 そんな二人を尻目に、リサはさっさと弁当を食べ終える。


「さて、射撃行ってくるかな」

 弁当を片づけたリサは大きく伸びをする。穏やかだった顔が一転、厳しい表情となる。戦闘モードに入りつつあった。


「今度、ここにやってくるっていう軍の連中にも負けたくないしね」

 そう不敵な笑みを浮かべるリサの射撃の腕は治安部隊の中ではトップクラスだ。


 この特命チームは今のところ、ジャン・セイヤ・リサの特戦部隊出身の3名しかいないが、新たに軍から出向してくるらしい4名が加わる予定になっていた。


「じゃ、オレも」

 セイヤも気を引き締める。ちなみに……弁当は結局、残した。

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