第1章 学生時代―出会い
豊饒の海に囲まれ、温暖な気候に恵まれたトウア国。
総人口約3000万人。平和と人権を大切にする民主主義国家である。
旧市街にある住宅地は、石畳の路地に白壁の家々が連なり、昔ながらの面影を残しているが、新市街には高層ビルが建ち並び、自動車も行き交い、時には渋滞を引き起こし、近代的な様相を見せていた。電気、ガス、水道、鉄道、高速道路、空港などインフラも整い、経済力に陰りが見え始めるも人々はそこそこ豊かに暮らしており、世界的に見れば裕福な国だった。
一方、そのトウア国の西――広い海を隔てた大陸にあるシベリカ国は、膨れ上がる人口と貧富の格差に悩んでいた。
広い国土を持っていたが、そのほとんどは荒涼とした砂漠地帯だ。都市部から離れた貧しい地方では、富を求めて海外へ出稼ぎを希望する者も多かった。
人口減少によって労働力不足にあえぐトウア国は、そのシベリカ国から大量の労働者を受け入れており、今現在210万人弱のシベリカ人がトウア国で生活をしている。
そんなトウア国では『シベリカ人含め外国人の権利をどこまで認めるのか』が目下の課題となっており――
最近は「国民と外国人の垣根はないほうがいい。外国人にもトウア国民と同等の権利を与えるべきだ。差別をなくすことこそ世界平和へとつながる」という声が強くなり、トウア世論はトウア国政府に法改正を求めていた。
昔、西の大陸の国々が領土争いをしていた時代、広い海に守られていたトウア国は他国に侵略されたこともなく、幸運にも生き残ることができた。
今では大陸の国々もできるだけ戦争を回避しようという考えに落ち着いている。平和は誰もが望んでいた。
そんなトウア社会では平和教育と人権教育が盛んに行われており、ここトウア市内にある『第一未成年養護施設付設学校』も例外ではなかった。
「今日から私たちの仲間になるリサを紹介しましょう」
付設学校高等部の17歳クラス担任教師であるサギー先生が転入生を教室に招き入れた。
その転入生は先生の横に並び、ほんの少しだけ頭を下げる。
「……よろしく」
転入生・リサの挨拶は自己紹介もなく、それだけだった。
うつむき加減の無表情な顔に無造作に伸ばした長い髪。心浮き立つ春だというのに、何も飾りがついていない喪服のような黒いワンピース姿。冬を連れてきたかのように顔の白さが目立ち、それだけにその表情の硬さが強調され、近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
一番後ろの窓際の席をあてがわれたリサは、31名のクラスメイトの注目を浴びながら、誰にも視線を合わせることなく席に着く。
予めサギー先生はクラスの皆にリサのことをこう説明していた。
――リサはこの街で起きた銀行強盗事件の被害者であり、その時に兄を失ったと。
その1年前には両親を交通事故で亡くしているので、この1年の間に家族を全員失ってしまったと。
だから、リサのことを温かく見守ってあげましょうねと。
この公立未成年養護施設は、保護者がいない未成年の子どもを預かり、生活の面倒をみてくれるところであり、ここに入った未成年者は宿舎で暮らしながら、施設に付設されている学校で学ぶことになっている。
ちなみにトウア国の成人年齢は18歳とされており――18歳になった年の春には施設を出なければならない。
リサは今17歳。
1年前に両親を亡くした時は、かろうじて成人年齢に達していた兄がリサの保護者となったが、その兄も亡くなってしまったため、成人保護者のいない未成年のリサは法の定めによって施設行きとなり、施設に付設されているこの学校へ転入したのだった。
養護施設の敷地内には数棟の2階建て宿舎と小中高等部の校舎が並んでいた。海が近くにあり、坂道を降りていけば浜辺に出ることができ、小高い丘には青空に美しく映える白壁の家々が並び、なかなか趣がある場所だ。
今日も、リサが入った17歳から18歳までの少年少女らが集まるクラスでは、サギー先生が『平和道徳教育』に勤しんでいた。
教職員らが組織している団体『平和と人権を守る教職員連合会』の副会長でもあるサギーが一番力を入れている授業だ。
「平和は尊いものです。戦いを避け、話し合いで解決するには、まず己が武器を捨て、不戦の意思を示し、相手の警戒心を取り除かなくては真の信用は得られません」
サギー先生はよく見ればけっこうな美人なのに、服装はやぼったく、流行外れのメガネをかけ、堅物という言葉がぴったりな風貌だ。
そんなサギーの説教はとくとくと続く。
「ルイ、あなたのお祖父さまは戦争を起こして戦犯となりましたが、お祖父さまはご自分のなさったことを命で償われました。あなたも『戦犯の子孫』として反省していることでしょう」
先生から名指しされた『ルイ』という女の子は頷き、そのまま下を向いた。少しウエーブのかかった金髪が彼女の表情を隠す。
そこへ「武器は持つべき……」と、つぶやくような声がした。
シーンとした教室の中、平和を揶揄するような言葉は、サギーのところまで届く。
「誰ですか。今、発言した人は?」
サギーは声がしたほうへ視線を移した。
「あの時、素手でなかったら兄は死なずに済んだかもしれません……」
リサはさっきまでの死んだような目から一転、挑戦的な眼光を放ち、サギー先生を睨みつけていた。
「あなたですか、リサ。お兄さまを亡くされたことは気の毒に思いますよ。しかし平和に対する冒涜発言は許されません」
サギーは苦笑しつつも、鋭い眼差しをリサに返す。
が、リサは臆することなく、なおも反発する。
「私は事実を言っただけです」
一瞬、リサのその言葉にサギーは表情を無くしたものの、うすい笑みを浮かべるとこう言い放った。
「確か、あなたのお兄さまは犯人を捕まえようと立ち向かったというじゃありませんか。だから殺されてしまったのですよ。おとなしくしていれば殺されなかったのです。戦ったから命を落としたのです。戦いは不幸を招くだけ……」
ガタン――椅子の脚が床を打つ音。
続けて、床を蹴る足音が響く。
サギーの言葉が終わるか終わらないうちにリサは席を立ち、先生めがけて突進していた。その憤怒の表情は、凍っていた感情が一瞬で溶けて気化したようだった。
サギーの顔が笑みを貼りつけたまま固まった。
とその時、リサの手首を強くつかんだ者がいた。動きを封じられたリサは反動で後ろへよろける。「何を……」振り返ったリサの瞳に少年の姿が映る。
「今はガマンしたほうがいい」
リサから手を離し立ち上がった少年はそう小声でつぶやくと――
「リサのことを温かく見守ってあげましょうよ。先生もそう言いましたよね」
――その涼しげな眼差しをサギーに移す。
それを聞いたサギーも強張った表情を解き、少年へ目を向けた。
「え……ええ、そうですね、セイヤ。あなたの言うとおりです。さすが優しい不戦の民の子ですね」
そう言い繕うと、サギーはリサに向かって深々と頭を下げた。
「私も言い過ぎました。お兄さまのことは本当に残念でした」
しかし、それは口先だけ……形だけの謝罪に思えた。頭を下げているサギーの表情は見えない。
――兄さんを侮辱するな……。
リサは床に顔を落とし、口の中で小さなつぶやきを漏らす。
それが聞こえたのか聞こえなかったのか、少年は静かに着席した。
・・・
「さっきは、どうも……」
休み時間。席に座ったまま、頬杖ついて窓へ顔を向けていたリサに声をかけ、近寄ってくる者がいた。セイヤと呼ばれていたあの少年だ。
「その……手首、強くつかみすぎたかなと思って……」
サギーへ突進した時につかまれたリサの手首には、その跡がほんのりと赤く残っていた。
リサは頬杖をついたままセイヤを一瞥するものの、また窓のほうへ顔を戻す。
窓の外は、白壁の家々の隙間から空の色を重ね合わせたような碧い海が覗き、時折吹き抜ける海風が校庭にある木々の葉をカサカサと鳴らしていた。
「でも、すごい勢いだったから止めるにはああするしか……」
まだセイヤはごにょごにょと口を動かしていた。
「……不戦の民」
リサはふと、サギー先生が彼に言ったことを思い出し、昔、学校の歴史の授業で習ったことを手繰り寄せる。
――今も『不戦のジハーナ』の話は語り継がれている。
そう、不戦の誓いを掲げていたジハーナ国は軍を持たず、ジハーナ人はその誓いを守った究極の平和民族だった。
ジハーナ国は、トウア国と同じく海に囲まれた島国で、大陸の国々の戦争に巻き込まれることなく、恵まれた環境にあった。
近代に入った頃、人口減少による労働力不足に悩んだジハーナ国はその対策として外国から大量の外国人労働者と移民を受け入れ、彼ら外国人にもジハーナ国民と同等の権利を持たせることにした。
移民の場合は国籍が与えられ、その国の国民と同じ権利を有するが、出稼ぎ労働者は外国人として扱われるのが、世界各国の常識であり、外国人へ国籍を与えることに慎重の立場をとる国が多かった。
しかし人権にも篤いジハーナは、希望する外国人には国籍を与えるようにし、二重国籍も認めた。
だが、政治の場において外国人らに発言権が与えられるようになると、ジハーナ国はそれら外国から内政干渉を受けるようになり、徐々に主権が脅かされていき――
と同時に、力を増した外国人らを中心に自治を求めた独立運動が各地方で起きるようになる。
ジハーナ政府はその動乱を鎮めることができず、やがて、自国民の保護という名目を掲げて諸外国が介入してきた。
結局、ジハーナ国の島々は分割され、諸外国にそれぞれ併合されることとなり、ジハーナ人はそのまま併合先の新しい国の民となった。
当時、トウア国に出稼ぎにきていたジハーナ人の多くは、そのままトウア国に住み続けることを選び、トウア国もそれを許可し、永住権を与えた。
そして現在、その子孫は帰化してトウア国民となっている。
この少年はそのジハーナ人の子孫ということか――リサは頬杖をやめ、改めてセイヤに目を向ける。
セイヤは涼しげな雰囲気をまとった男子生徒だった。中肉中背、髪は短め、ありふれた格好の、どこにでもいそうな『無難』という言葉がお似合いの普通の少年だ。
ちなみに、同じ人種であるトウア人と元ジハーナ人に容姿の違いはさほどない。
リサにジッと見つめられ、セイヤは「え、何?」と戸惑っていた。
「あなたも犯人に立ち向かった兄さんをバカにしているんでしょうね」
冷めた口調でリサが吐く。
「いや、そんなことは……」
セイヤは視線を外し、言いよどむ。
「不戦の民なんでしょ?」
「……」
何も応えないセイヤに興味を失くしたリサは、また窓のほうへ顔を戻す。潮の香りを運んでくる海風が鼻腔をくすぐる。木々が鳴らす葉擦れの音に耳を傾け、さっきのサギー先生による不愉快な出来事を頭の隅に追いやる。
だが――
「……不戦というよりも……ムダな戦いをしないだけだ」
そんな声が聞こえ、リサは振り返る。
「兄さんがムダな戦いをしたってこと?」
勢いよく立ち上がり、眦を上げてセイヤに詰め寄った。せっかく鎮めた心が再燃する。
「違う。キミの兄さんの話はしてない。オレの話をしている。オレは譲ることができない本当に大切なもののためなら戦う」
遠慮気な声だったが、セイヤはリサへの視線を逸らさす、対峙した。
「譲れると思ったら、戦わないで譲る。そういう意味だ」
「つまり弱腰ってことね」
リサはバカにしたように吐き捨てる。この『不戦の民』とやらを怒らせてみたい。そんな暗い気持ちも手伝った。
が、そんな挑発には乗らずセイヤは静かに言葉を紡ぐだけだった。
「キミの兄さんは犯人を逃がすことができなかった……譲れなかったんだろう。だから戦ったんだと思う」
その言葉はリサの刺々しかった心を柔らかく包んだ。
瞳がうるみ、リサは涙があふれ出るのを止められず、慌てて顔を背ける。
セイヤは何も言わず、そっとリサから遠ざかった。
少年の気配がなくなった後も、リサはそのままの姿勢でただただ窓の外を見つめる。
窓から見える白壁の家々と碧い海が眩しく、陽光に霞み、忍び込む風がリサの濡れた頬をやさしく撫でていった。
・・・
それから放課後――
宿舎に帰ろうとリサが支度をしているところに「あの」と遠慮気な声がした。
振り向くと、一人の女子生徒が傍に立っていた。サギー先生から『ルイ』と呼ばれていた女の子だ。
「ええと……何というか……その……ありがとう」
口ごもりながらも、女の子は会話の糸口を探すようにリサを見つめる。
「?」
お礼を言われるようなことをしたかな、と怪訝な顔をしているリサに――
「私、実はサギー先生が苦手なの。だから、あなたが反発してくれて、その……何だかうれしくなっちゃって」
ルイという名の女の子はニカーッと笑った。輝くような金髪と青く澄んだ瞳が印象的で、かわいらしいピンク色のワンピースがとてもよく似合っていた。
リサは先ほどの『平和道徳授業』を思い出す。
――そういえば、サギー先生はこの子を『戦犯の子孫』と言っていたっけ……。
『不戦の民』に『戦犯の子孫』と、このクラスにはサギー先生のような平和主義者にとって、たまらない面子がそろっているみたいね。
クスッとリサの頬が緩む。
最初は遠慮がちだったルイも、表情がやわらかくなったリサにホッとしたのか、気取りなく話を続けた。
「あなたがサギー先生に突進していった時、行け~、殴っちゃえ~って、心の中でエールを送ったんだけど、セイヤが止めちゃって……さすが不戦の民よね」
ルイの言い方がおかしくて、思わずリサはふき出した。笑ったのは久しぶりだ。
――そういえば兄さんが死んでから笑ってない……。いえ、笑えない。
兄のことを思うと、綻びかけた頬が固まり、笑顔を引っ込める。
が、親しみを込めたままの流れを止めず、ルイはリサに自己紹介をする。
「改めまして、私はルイ・アイーダ。サギー先生が言っていたとおり、旧アリア国元大統領の、世で言われている『戦犯』の孫娘です」
――旧アリア国。
リサの頭の中で再び、今まで歴史の授業で習ってきたことが思い起こされる。
今現在アリア国は、シべリカ国の属国として支配を受けている。
西の大陸にあるシベリカ国と隣接していたアリア国はその昔、シべリカ国に戦争を仕掛けた。ルイの祖父にあたるアイーダ大統領は軍部の言いなりになり、シべリカ攻撃のゴーサインを出してしまい――結果、アリア国はその戦争に敗れ、アイーダ大統領は戦争犯罪人として処刑された。
アリア軍は解体され、現在の新アリア国にはシベリカ軍が駐留し、主権も奪われた状態である。
ルイの話によると、軍人だった父親も戦死してしまったそうだ。
戦時中、ルイは母親と共にトウア国へ疎開していたが、アリア国が敗戦したため、そのままトウア国に残ることとなり、シべリカ国もそれを許した。
やがてルイと母親は、トウアに帰化し、トウア国民として暮らすことになるが、その後、母親は病気で亡くなり、8歳で保護者を失ってしまったルイはこの未成年養護施設に送られ、以後、ここで生活をしている。
「アイーダ元大統領は軍部の言いなりになって、シべリカ国に戦争を仕掛けた――私はそんな単純な片づけられ方をされたくない。どんな事情があったのか調べたい。それが処刑されたお祖父さまや戦死したお父さまへの供養になる気がして……」
そう説明したルイは「将来は歴史学者になりたい」と夢を語った。旧アリア国のことを知りたい。ここを卒業したら大学へ進学するという。
上流階級に属していた母親から莫大な資産を受け継いだルイは、働かなくても生活するに困らないクラスの人間だ。
現在、未成年であるため、遺産は凍結されているが、成人年齢18歳に達した時、解除される。だから就職はせず、このまま勉強を続けるのだという。
戦犯になった祖父のこともあり、教室では目立たないようおとなしくしていたルイだが、しゃべってみると屈託のない明るい女の子だった。
でも祖父は処刑され、父は戦死したのだ。その上、あのサギーという先生に大切な家族を貶められている。
――ルイも心に傷を負っているに違いない。
リサはそんなルイに仲間意識を覚えた。
・・・
夕刻が近づき、校舎の白壁が黄昏色を映し出す頃、何気ないおしゃべりをしながら、リサはルイと共に女子寮へ帰った。
養護施設では、高等部の学生には個室部屋が与えられている。
が、そこはうす汚れた壁に囲まれ、パイプベッドと机と椅子、ロッカーがあるだけの殺風景な狭い部屋だ。
ルイと別れ、部屋に戻ったリサの顔はたちまち表情をなくす。
外をオレンジ色に染めていた陽光は部屋の窓には届かず、室内はうす暗かった。
灯りも点けず、ベッドに寝転ぶ。
何となしに心が沈む。
その後、食堂でルイと夕食を共にし、気分がいくらか上向いたものの――
夜、眠りに就くとまた『あの夢』を見てしまい――夢から覚めた後は落ち込んでどうしようもなかった。
その夢の中では、リサはいつも兄を追いかけていた。
でも決して追いつけない。兄はリサを置いて、どんどん先へ行ってしまい、やがて姿を消してしまうのだ。
リサはベッドに寝そべったまま天井を見つめた。
今もなお目に焼きついている、兄の体から吹きこぼれ、床に広がっていく赤い血。
――兄さんは私を助けようとて最後まで犯人に抵抗し、殺されてしまった。それなのに私は、倒れている兄さんに近寄ることすらできなかった……。自分の命惜しさに『動くな』という犯人の言葉に従ってしまったんだ。
この夢を見る度に、いつもリサは自分を責めた。罪悪感に心がつぶされそうになる。
――でも、犯人と戦った兄さんは勇敢だった。
せめてそう思いたかった。兄は正しいことをしようとしたのだと。
そこでふと、セイヤの言ったことが思い出された。
『キミの兄さんは犯人を逃がすことができなかった……譲れなかったんだろう。だから戦ったんだと思う』
あの時、リサはセイヤのこの言葉に救われた気がした。
「ルイとセイヤか」
二人の顔を思い浮かべながら、ようやくベッドから起き上がる。部屋の窓から、ぼんやりした光が差し込み、朝が来たことを知らせていた。
リサは学校でも宿舎でもルイと一緒に過ごすことが多くなっていった。
宿舎ではお互いの部屋を行き来し、おしゃべりに興じた。殺風景な室内もルイがいてくれると華やぎ、陰鬱になりがちなリサの心に灯を与えてくれ、癒しとなってくれた。
一方、セイヤとは――宿舎の棟は男女別々で異性の部屋への出入りは禁じられているため、学校の休み時間に、ルイと一緒に言葉を交わす程度のつきあいだ。
その休み時間でさえ、セイヤは黙々と独りで学科の勉強をしていることが多かった。ほかの生徒と親しげに話す姿はあまり見られず、どうやらセイヤの友だちはルイだけのようだった。
リサも積極的に友だちを作ろうとは思わなかったし、ルイも『戦犯の孫娘』としての遠慮からか周囲から距離を置いていた。
よってクラスメイトらも、皆に馴染もうとしないセイヤとルイから引いていた。もちろん、転入初日からネガティブな感情を爆発させ騒がせたリサからも。誰も問題人物とは関わりたくないだろう。
何となく浮いた存在の3人は周囲にバリアを張りながら、ただただ無難に日々を送っていた。