第1章 学生時代―進路
あれから半年が経ち、木々の葉が色づく中秋の季節となった。
兄をあのような形で失った悲しみと罪悪感は今も癒えないリサだったが――
ここ『未成年養護施設』はリサと同じく家族を亡くした孤児が集まっており、離れた宿舎には小さい子どもや幼児もいる。そんな子たちが元気にやっている中、いつまでも鬱々していられないと思えるようになっていた。ルイやセイヤに余計な気遣いをされたくもない。
表面上はリサも普通の明るさを取り戻していった。
そんなある日の授業の合間の休み時間。
ざわつく教室の中、リサの席に寄ってきたルイは――
「前々から思っていたんだけど、その格好、もうちょっと何とかしたほうが……」
そう言って、隣の机の隅に浅く腰を置いた。
「ん?」机に頬杖ついたままリサはルイに視線を流す。
「髪は手入れしているの? 伸ばしっぱなしのように見えるし、服だって……いつも黒系ばかり」
確かに服は自然に暗い色のものを選んでしまうし、そもそも『おしゃれをしたい』だなんていう気持ちはどこかに行ってしまったな――と思いながらも、リサはこう答えた。
「今の私には髪や服のことなんて、どうでもいいんだ。そんなことにお金かけてられないというか……もう18だから春にはココを出て行かないといけないし、今からできるだけ節約しておかないと」
「あ……そうだよね、私は生活に困らない分、恵まれているよね」
ハッとしたルイは床に目を落とした。その声は萎んでいった。
リサは頬杖をやめ、慌てて付け足す。
「その、ルイに皮肉言ったんじゃないからね」
でも、ルイは顔を下に向けたまま横に振る。
「リサの言うことはもっともだよ。私の場合、本当は施設に頼らなくても、お母さまの遺産で充分暮らしが成り立つの。けど成人保護者がいないからトウア国の法に従って、今は仕方なく施設のお世話になっているだけだから……気楽に考えてた……」
ルイがヘンな気遣いを見せ始めたので、リサはそんな空気を吹き飛ばすように伸びをした。
「ルイは偉いよ。アリア国について研究するっていう目的があって進学するって決めているんだもん。私なんてまだ何も決めていない……」
本当にどうしよう――今、初めて焦りを感じ、リサは天井を仰ぐ。
「リサは何かやってみたいことないの?」
ふと顔を上げたルイは何気なく問うた。
「……やりたいこと……」
その時、様々な思いが押し寄せ、兄のことでリサの脳裏は覆い尽くされる。
――私はあの時、兄さんと一緒に戦いたかった。でも、私にはそんな力もなかった。
――もし私に戦う力があったら……。
――兄さんは「悪化していくトウアの治安をなんとかしたい」といつも言っていたっけ。
――兄さんは犯人を逃がしたくなかった。それが兄さんの譲れない思い。
――ならば私も治安部隊に入って、兄さんの後を継ぎたい。
――それが私の使命。やりたいというより、やらなければならない。
そこへ「何の話をしているんだ?」とセイヤがやってきた。
リサの思考が打ち切られる。
「セイヤ、あなたは卒業後のこと決めている?」
ルイはリサから視線を外し、セイヤを話の輪に入れた。時たま、セイヤは気が向くとこうして声をかけてくる。
「ふ~ん、そういう話をしていたのか。ルイは大学に進学するんだっけな。リサは?」
セイヤは立ったまま、ルイが腰を置いている机に掌をつき、リサに目を向ける。
「私は治安部隊に入る」
リサは宣言するように答えた。
――兄の遺志を継ぐ。これこそが自分の進むべき道だ。
リサの眼は爛々と輝き、まるまっていた背中はいつの間にかピンと張っていた。
リサの答えに、セイヤのほうは絶句していたが――
ルイは一瞬の間を置いたものの「……うん、応援するよ。お互いがんばろうっ」と寄りかかっていた机から身を離し、リサの手を取りエールを送った。
もちろんルイだって、聞いた瞬間はあまりの意外性にびっくりし、女の子なのに治安部隊だなんて……とは思ったが、今まで何となくボンヤリとしていたリサの瞳が生き生きと力強くなっていることに気づき、素直に応援したくなった。
治安部隊はトウア国の警察組織で、様々な部隊があり、さらに専門性が問われる分野は班分けされている。女性ならではの仕事もあるはずだ。
なのにセイヤは水を差すように、こんなことを言ってきた。
「治安部隊に入るには、まず治安局の付設訓練校を卒業しないといけないだっけ……。訓練校は無料だし、寮もあって、訓練期間中の生活も国の税金で面倒みてもらえるし、将来は公務員として安定的な生活できるよな」
「ちょっと~、いかにも計算高いっていう言い方して……リサのこと茶化している?」
ルイはセイヤを睨みつけた。
「いや、茶化してなんかないよ。計算高く現実的に考えるって、何の後ろ盾もないオレたち孤児には必要なことだろ」
「じゃあ、セイヤは将来どうするの?」
「……治安部隊という道もありか」
「え?」
ルイとリサが同時に訊き返す。
「オレが求めているのは安定した収入。となるとやっぱ公務員だよな。治安部隊は部署によっては危険があるけど、公務職の中では競争率が低いしな」
「つまり、そんな理由で治安部隊入隊希望ってわけ?」
ルイは呆れたように首を横に振る。
「手堅く現実的に将来を描いているだけだ」
そう言うとセイヤは今までルイに向けていた視線をリサに移し――
「怒っている?」と遠慮気に訊いてきた。
「別に……あなたの将来について私が口出しすることじゃないから」
リサはサバサバと答える。
ほかの人があんな言い方したら不愉快だけど、なぜかセイヤが言う分には許せた。
それに『不戦の民の子』が、いざという時に犯罪者と戦いを強いられる治安部隊を希望するだなんて、あのサギー先生はどう思うかなと、ちょっと愉快な気分だった。
・・・
それからまもなく――。
リサの想像通り、サギー先生とは『進路』をテーマにした課外授業の時に衝突した。
サギーは何人かの生徒に希望する進路を訊いて回り、リサの「治安部隊を希望する」という話にも一応の理解を示した。
「お兄さまの遺志を継ぎたい――よく分かりますよ。がんばってください」
何かと反抗的なリサについては適当に流しておこう、というのが本当のところだろう。しかしセイヤも治安部隊希望だと知ると、サギーは異を唱えた。
「セイヤ、あなたには合わない気がします。あなたは理系の学科の成績がいいし、手先も器用だと聞いてます。技術系のお仕事が合うと思いますよ。なのになぜ治安部隊なのですか?」
「公務員になりたいからです。ほかの公務職は競争率高いけど、治安部隊ならよほどのことがない限り入れます。それとも……軍隊にしようかな。あそこも競争率低いから」
さらにセイヤは皮肉を込めてこう続けた。
「全国の先生方の教育のおかげか、治安部隊と軍だけは競争率が低いですよね。公務員になれるならどこでもいいオレにはありがたいです」
すると、サギーは血相を変え、セイヤを問い質した。
「何を言うのですか。あなたは『不戦の民の誇り』を持っていないのですか?」
「オレは消滅したジハーナ国の民ではなく、生まれた時からトウア国民です」
「トウアも平和主義国家ですよ。軍備は年々縮小されてます。軍人なんて将来性のない職です」
そう言うとサギーは演説するかのように、手振り身振りでさらに熱く語り始めた。
「ええ、軍隊などないほうがいいのです。軍の力が強かったから、軍にそそのかされたルイのお祖父さまは旧アリア国大統領として間違った判断をされ、シベリカ国に戦争を仕掛け、戦犯になったのです。そして軍人だったというお父さまも戦死したのです。諸悪の根源は軍なのです。世界の平和のためには、戦争を起こす軍をなくさねばならないのです」
サギー先生の話は、戦争を起こしたという旧アリア国やルイの処刑された祖父や戦死した父親のことにまで及んだ。
ルイは何も言わず、ただ視線を下に落とす。
しかし、これにはリサが黙ってなかった。クラスの皆の前でこんなことを言われ、ルイが傷つかないはずがない。
「他国から国を守る軍も、治安部隊と同じくらい重要な仕事を担っていると思いますが」
リサは席から立ち、先生だけではなくクラスメイトらにも訴えるように発言した。
「あなたは戦争をしたいのですか」
サギーはリサをにらんできた。その目には恫喝の色がこもっていた。
「他国が理不尽なことを要求し、攻めてきたら戦うしかないでしょ」
リサは剣呑な空気をまとわせ、サギーに論戦を挑む。
兄をバカにしたのと同じ、ルイの祖父や父をチクチクと否定し、ルイを傷つけるサギー先生が許せなかった。
この女は自分が唱える正義のために、人を傷つけることを何とも思ってない。
「話し合いで解決するのです。軍は必要ありません」
例のごとく、先生は理想論しか唱えない。
「キレイごとです。軍を持たなかったジハーナ国は消滅しましたよね?」
「ですが、不戦を貫いたジハーナ人は戦争で死なずに済んだのです。そして彼らは新しい国で命を繋ぎ、普通に生活を営んでます」
サギーは『不戦のジハーナ』を持ち出し、いかに彼らが素晴らしい理念を持っていたかを語るも、そこに「あの、ちょっといいですか」とセイヤが割り込んだ。
「シべリカ国に吸収されたジハーナ人は差別されているって話ですよ。それにシベリカの法の下で兵役につかされているし、結局、不戦を貫いた意味がないですよね」
「いえ、戦争を回避したのですから、それだけでも意味はあります」
サギーは声を張り上げた。セイヤに痛いところを突かれたようだ。
「先生は民族差別を認めるんですか? 戦争よりはマシだと?」
「いえ、もし民族差別が行われているとしたら遺憾なことです。世界から差別がなくなることを祈りましょう。それにはトウア国が世界に先立ち、お手本を示さねばなりませんね」
が、今度はリサが冷笑を浮かべ、痛烈な皮肉を吐いた。
「先生のおめでたい考えが世界に通用するといいですけどね」
――兄さんも「この頃のトウア世論は理想に偏り過ぎている」と言っていたっけ。
リサは、サギー先生と同じようなことを言うトウア世論に危惧を抱いていた兄を思い出す。
しかしそんなリサの態度が癇に障ったのか、サギーはリサの席へツカツカやってくると――
「平和をバカにする態度は許しません」と平手打ちした。
その音は妙に響き、教室内は静まりかえった。ルイはハッとしたように顔を上げ、リサへ視線を移す。
リサは頬に手をやり黙り込んでしまった。その手の指の隙間から、リサの頬が赤く染まっているのが見て取れた。けっこう強く叩かれたようだ。
そこへセイヤのいつになく低い声がした。
「平和主義者が暴力で相手を黙らせるんですか。先生の言動は矛盾してますよ」
ハッと我に返った様子のサギーはすぐさま「ごめんなさい」と謝罪し、頭を下げた。
しかし「戦争は殺人をよしとする究極の悪であり、軍は悪を行う手先だ」と持論を曲げることはなかった。
そのうち教室内の空気が落ち着きを取り戻し、サギーは気を取り直すように話題を変えようとした。
「……では、話を先に進めましょう。他の人の……」
だが、セイヤがそれをさせなかった。そのままサギーを問い詰める。
「治安部隊も時には犯罪者を殺すこともあり得ますが、それも悪ですか?」
サギーは一瞬、言葉を飲み込んだものの、諭すように言葉を紡ぐ。
「犯罪者であれ、殺せば一生重い罪を背負います。人殺しをし、血に染まった手でご飯を食べることができますか?」
こう問えば、たいていの人は黙る。
しかしセイヤは意に返さず、こう続けた。
「それでは隊員は正当防衛が許されず、犯罪者に殺されても仕方ないと言うのですね」
「凶悪な犯罪者を出さない社会にすることが大事なのです」
「ある程度自由が担保された社会であれば、凶悪犯罪を行う者は必ず現れます。決してゼロにはできません。それが現実です。その凶悪犯に対し、正当防衛として殺人を犯すことは許されますか?」
セイヤは同じ質問を繰り返していた。
「いかなる理由があろうと殺人を行った者は幸せになる資格はありません。それだけの罪を背負うのです」
サギーの言っていることは一見正しいようで、しかし質問には答えていなかった。
「任務の上で殺人を行った軍人や兵士、治安部隊の隊員は幸福を追求する権利がないと? でも、先生のその考えこそ人権侵害になるのでは?」
「……時間がありません。この議論は一旦終わりにしましょう。進路の話に戻します」
サギーは話を打ち切ろうとした。
だがセイヤはサギーを逃がさない。
「先生、答えてください。人の希望する進路を散々批判しておきながら、都合が悪くなったら逃げるなんて卑怯ですよ」
「……」
サギーは強張った顔のまま、何も言葉を発しなかった。
セイヤもじっと先生の言葉を待つ。
教室が緊張と静寂に包まれる。
そして――授業終了のチャイムが鳴った。
サギーは誰にも視線を合わせることなく、早々に教室を去った。その顔は能面のように何の感情も表れていなかった。
教室内はどよめいていた。セイヤがサギー先生を言い負かした、と。
ルイも驚いていた。皮肉をつぶやくことはあっても言い合いを避け、無駄な戦いをしないセイヤが、先生に対して明確な反抗的態度をとり、しつこく攻め立てた。
いや、かつて一度だけ――サギーがここに赴任する前のことになるが――セイヤは派手なケンカをし、その時も反抗的な態度をとったことがあった。しかしそれ以降、基本的にはおとなしく従順ないい子を装っていた。
そこでハッとしたルイはリサを見やる。リサのほうはサギーに殴られた頬に手を当てながらセイヤを見つめていた。
ルイは視線を再びセイヤに戻す。
――セイヤったら、リサを殴ったサギー先生が許せなかった?
そもそもセイヤの「治安部隊に入りたい」という希望も意外すぎる。もしやリサが入ると言うからそうしたのだろうか。
――セイヤはリサのことを……。
何かがつかえたように胸が圧迫される。自分でも気づかなかった奥底に秘めた情があからさまになっていく。
――そしてリサもセイヤのことを……。
ならば友人として二人の恋の応援をしよう……という気になれない自分に愕然とした。
・・・
それからのサギーは平和教育を行う時、セイヤ、ルイ、リサを無視しながら淡々と授業をするようになった。
が、この教室ではサギーの授業をまじめに聞こうという空気はうすくなっていた。
セイヤはこれ以上、先生を追い詰めることはせず、無視されるのをいいことにほかの学科の勉強をしていた。
リサはセイヤが気になり始めるものの、振る舞いは普段と変わらなかった。
ルイは――リサと微妙に距離を置くようになってしまった。リサのほうはセイヤに気が行っているので、ルイの態度に気づいていないようだ。
でも、ルイはそんな自分がイヤであった。リサはルイの祖父や父を擁護し、サギーと闘ってくれたのだ。
リサとセイヤだけは、ルイを『戦犯の子孫』として特別視しなかった。二人とも大切な友だちだ。
特にリサは初めてできた気を許せる同性の友人だった。
そう――リサが転入してきた当初、サギーに反抗したリサに、ルイは興味を持った。
サギーの教えに疑問を持つ者なら、旧アリア国のことも色眼鏡で見ない――そう考えた。だからリサに近づいたのだ。そして思った通り、リサはルイの心に寄り添ってくれた。
これはもうハッキリさせるしかない。セイヤの口から「リサが好きだ」と聞けば、自分の気持ちにもけじめがつく。
放課後、ルイは学校の裏庭にセイヤを呼び出した。
空はすっかり黄昏れ、陽光は淡く、もうすぐ雲に陰ろうとしていた。
「話って何?」
葉を落としつつある樹の許に佇んでいたルイへ、セイヤが駆け寄ってくる。
「リサのことが好きなの?」
セイヤが足を留めたのと同時に、何の前降りもなくルイは訊いた。
「え、いきなり何?」
セイヤは目を白黒させる。
「そう思ったから。で、どうなの?」
ルイはそっけなく問いを重ねる。
一瞬の間を空けて、セイヤは答えた。
「……もちろん嫌いじゃない」
「それって、ずるい答え方だよね」
「……」
口を閉じるセイヤに、ルイも沈黙で返す。
その微妙な空気に耐えられなくなったかのように、しどろもどろになりながらセイヤは説明した。
「いや……その……ただ、リサのことがちょっと心配なんだ。あいつは何だか危なっかしい。治安部隊を希望するなんて、いつか危険な目に合いそうな気がするから……」
あたふたしているセイヤを見て、ルイは苦笑した。
「リサを放っておけないのは好きだってことだよ。就職先を彼女に合わせるくらいに」
するとセイヤはちょっと視線を外し、こう応えた。
「オレは……安定さえ得られれば、就職先はどこでもいい。だから公務職の治安部隊を選ぶのもありなんだ。トウアではこれといった差別は今のところ感じないけれど、やっぱり……自国という後ろ盾を失ったジハーナ人の子孫としては、新しい国での安定した暮らしと家族の安全が一番の願いなんだ。それさえ叶えられるなら、後は何もいらない」
そんなセイヤにルイは突っ込んだ。ごまかしようがない質問をあえてぶつける。
「いらないという中に『リサの安全』は入らないんだね。『リサの安全』はセイヤにとって何番目の願いに入るのかな? リサのことは、あなたの優先順位の何番目?」
「え……」
困惑の色を浮かべ言いよどむセイヤを見て、ルイは微笑む。これでハッキリした。
「ヘンなこと訊いてゴメンね。先、帰るね」
ルイは。おろおろと突っ立っているセイヤを残し、急いで宿舎に戻った。
そして――ベッドに潜り込み、声を殺して泣いた。
夕食までには笑顔を取り戻さなくては。泣いたことをリサに気取られないようにしなくては。
そんなことを思いながら、涙がセイヤへの想いを洗い流してくれるのを祈った。
・・・
秋が足早に過ぎ去り、冬の寒波が支配する頃。
治安部隊訓練校の入校試験が行われ、リサとセイヤは入校資格を手に入れた。
試験は実に簡単だった。健康診断をパスすれば、後はそこそこの体力と運動能力と学力があれば入校許可が下りる。
リサは体力作りに励んだ。暇を見つけては浜辺へ下り、走り込んだ。治安部隊の仕事はとにかく体力勝負だというので、体を鍛えることから始めた。
その話を聞いたセイヤも、たまにランニングにつきあうようになった。早朝あるいは夕方、波の音を聞きながら二人で黙々と走る。
いつしかリサは、セイヤが浜辺に来ることを期待するようになり……しかし、そんな自分を戒めた。
こんな浮ついた性根では到底、兄の遺志を継ぐことなどできない。
芽生えた何かを砂に埋めるようにリサは足を動かす。
余計な感情に惑わされたくない。
そのうち、海の冷たい潮風が心に燈りかけた何かを消し去っていった。
その間、ルイも第一希望のトウア国立大学を受験し、合格を勝ち取っていた。
未来への切符を手にしたルイは、いくらか落ち着きを取り戻した。自分にはやりたいことがあるのだ。
セイヤへの気持ちは完全に蓋をした。
そう、ルイは彼らと友だちでいられるほうを選んだ。二人とギクシャクして関係が破たんするほうが耐えられなかった。
二人との縁は大切にしたい。リサとセイヤは進展なさそうだが、あれこれ口を出すことは控え、遠くから見守ることにする。
こうして、三人の学生生活は終わった。
リサ、セイヤ、ルイは18歳になっており、この春、施設を出て、それぞれの道を歩む。
ルイは大学に進学し、街で一人暮らしを始め、セイヤとリサは治安部隊訓練校に入校し、そこに付設されている寮で生活を送ることになる。
卒業の日、海風が香る空は雲を端に寄せて、青に染まっていた。




