愛良ちゃんと青い人のようなもの(クイズつき)
語り手は明日谷大和君、変身をする前の一人称は「俺」で、人前だと「僕」に、「キラナデシコ」に化けると「私」に代わります。
ではきらめく世界をお楽しみください。本日もお読みいただき、ありがとうございます。あなたに良きできごとが起こりますよう、心からお祈りします。
「うきゃっきゃ」
なんて似合うんだろう、愛良ちゃん。彼女は学生服を着て、赤ちゃんを抱きしめている。俺も学生服なんだけど、まるで俺と愛良ちゃんが中学生夫婦になってしまったように見えるじゃないか。
――見えないって? ほ、ほっといてくれ。
これで俺が告白できれば、文句はないんだがなあ。理世が眠っている間にしてみようかな。い、いや、理世が起きるかもしれない。愛良ちゃんへの告白は誰もいない場所でやりたいんだ。
「大和君、この子の親を探すなら、警察に向かえばいいんじゃないの」
「うへ、う、うん」
妄想に気を取られ、つい「はい」と述べてしまった。
――いけません、大和さんが赤ちゃんから離れると、クスミが狙いに行きます。
姫のお声が聞こえた。
「ね、ねえ、大和君」
俺はうなずく。
「今ね、変な声が聞こえたの。この子を警察署に届けたらだめだって。何かに狙われるって」
愛良ちゃんにも声が届いたのか。語っている相手は愛良だろうか?
「最近、不思議な声が聞こえるの。昨日、熱を出して寝込んでいたときも、私であって私でない声が聞こえた。その声がなければ、私は今頃、この世にいなかったかもしれない」
俺は顔に力をこめてうなずいた。太陽が愛良ちゃんの髪の毛を白く照らす。理世は「あぷうぷう」言って、愛良ちゃんの優しい手をふわふわ握る。
「愛良ちゃんが公園にいたのも、愛良ちゃんでない声が聞こえたからなの?」
俺が尋ねると、彼女はうなずいた。理世も「あぶあぶ」言って、愛良ちゃんの胸に手を触れる。大きさはおそらく、アルムの世界にいる由良と同じ。
「大和君はこの子をどこで見つけたの?」
アルムの世界とは言えない。言っても信じてもらえないだろう。
「公園で、この子が泣いていたから気になって」
「じゃあ、この子のお母さんは捨てたのかしら」
「い、いや、違うと思うよ。た、たぶん、何か理由があったんだよ、何か」
汗、すごいや、わきの下だけでなく背中、尻にもびちゃびちゃ水滴を感じるよ。
「あああ~」
理世が空飛ぶわたあめを見たかのように、指をさした。
「ね、ねえ、何かわかったのかな」
愛良ちゃんが俺に尋ね、うなずいた。
「行ってみよう」
理世が指をさした場所は一件の喫茶店だった。名前はCharlock。アルムの世界にあった喫茶店と同じ名前で、外装もそっくり。何かがおかしいんだ、俺たちがいる場所。真正面には交差点があり、青信号がただ働いている。右にスーパーマーケット。シャッターは開いており、どのお店も電気がついていない。太陽がまぶしいからだろう。左には書店、車が何だいも止まっており、店内はおそらく活況だ。
「ここね、理世ちゃん」
愛良ちゃんが尋ねると、赤ちゃんは首や手を動かした。太陽は険しい表情を浮かべ、光をシャルロック室内に入れる。俺たちがドアを開けた。
「いらっしゃいませ」
メイド姿の女性が一人、頭を下げる。アルムの世界にいたメイドと同じ姿だ。影と光がくっきり分かれているお肌、緑色の髪の毛、キラキラ輝いているけれど、まぶしくはない瞳、顔のどこにもない鼻。愛良ちゃんが俺の後ろに隠れた。
「お二人様ですね。ご注文はいかがなさいますか」
メイドはぱちぱち瞬きを行い、頭を下げ、整った声を出し、メニュー票を見せる。じいっとメイドが俺たちを見下ろす。
「じゃあ、オレンジジュースとケーキで」
「僕も同じで、この子は赤ちゃんだから、オレンジジュースだけで」
理世が眠りについていた。
「オレンジジュース3つ、ケーキ2つ、オーダー入りました」
メイドは真っ黒い厨房に入っていく。光は窓から差し込む太陽だけ。理世の母親はやってくるのだろうか。
ドンテンドンテンドンテンテン♪
いきなり耳に響く音楽が流れ、愛良ちゃんが理世をはさみながら俺に抱き着いた。俺は愛良ちゃんの肩に手を触れる。うわ、あ、温かい。
べちょり。
一人のお客様がシャルロックに入る。真っ青な人間の形をした「何か」だった。愛良ちゃんは小さく高い声をあげ、理世を強く抱きしめ、俺に体を摺り寄せた。メイドが歩いてくる。驚く様子もない。
「お客様、ご注文はいかがなさいますか」
「君を殺したい」
俺と愛良ちゃんは青い人から目をそらせられなかった。
「はい、君を殺したいですね、オーダー入りました」
ちらりと、青い人は俺を見る。顔がない。
「あなたたちはどうしてここにいるのです?」
青い人が俺たちに語りだした。俺たちは何度も瞬きをする。震える。
「あなたたちはどうしてここにいるのです?」
「こ、この子の親を探しに」
俺が答える。愛良ちゃんの吐く息がはっきりと聞こえる。
「かわいい子だ、この子は桐島理世ちゃんか。親はこの店の奥にいるよ。父親は潤平で母親は楓。ニャムサスという猫を飼っているんだね。今、おなかの中には二人目の子がいて、名前を芹那と決めるだろう。早く親御さんの元へ行かせてあげたいが、そのためにあの無機物を殺さなければならない」
「こ、殺すって」
愛良ちゃんが言葉を漏らす。
「請求書を破り、ウェイトレスを殺さねば、私やお前さんらはここから出られない。おお、殺すという単語はなんと嫌な響きだろう。ここに来る前、生き物を殺しあう小説を読んだのだけど、死は生クリームを一口で舐めるがごとく、簡単に消費されている。私も一口チョコレートをつまむよう、あの子を始末する。君たちの死も生クリームのようなものだ。私はクリームよりもせんべいの生き方に憧れる。しかし神は私を一口で召し上がりたいようだ」
青い人は俺たちと向かいあって座った。俺たちは何も言えない、ツッコミも追いつかない。
「あの子に私は惚れてしまった。けなげでかわいくて、返事もよいし、笑顔だ。いるだけでヴィーナスと手を握る気分だ。告白をしたが、あの子はなんていったと思う」
青い人がふうっと息を吐く。
「あなたが好きです。オーダー入りました。何かがおかしいのだよ。気づいた。あの子は人間に見えて、実は人ではない何か、ロボットの類じゃないかと気づいた」
愛良ちゃんが俺の手を握った。俺も彼女の手を強く握る。青い人の後ろから、ウェイトレスが空っぽのコップ3つをトレイに乗せ、歩いてくる。
「気を付けろ、あの子に請求書を渡された後、数字入力を間違えると、君たちは」
あむっ。
青い人がウェイトレスに食べられた。
「君を殺していい、お待たせしました。お客様、オレンジジュース3つとケーキ2つです」
メイドの口回りに青いクリームがついている。愛良ちゃんと俺は生クリームが地面に落ちる速さで、無機物な女にうなずいた。オレンジジュースやケーキはない。
「お会計はこちらです」
愛良ちゃんと俺が伝票を見る。あれ、伝票でなく領収書だ。
「お金をいくら支払えばよいのですか?」
「料金をお支払いするとき、1つの英単語に1つの数字のみ入力可能です。正しい数字を入力すれば、代金を支払った結果となります」
ウェイトレスが愛良ちゃんに顔を近づける。二人とも瞬きをせず、じっと見つめあっているだけ。ウェイトレスの横顔が愛良ちゃんと比べると、明らかにおかしかった。愛良ちゃんには凹凸があるのに、ウェイトレスはない。
「さあ、代金をお支払いください」
姫たちの声が聞こえない。あっちで何かあったのだろうか。アドバイスがほしいものだ。あんたはどう? 知恵を与えてくれないか?
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。領収書は暗号となっています。頭の体操として、ぜひ解いてみてください。簡単な足し算と論理で突き詰めれば、答えにたどり着きます。答えは後日発表します。
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