3.※
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火星side(※過去story)
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※一部、センシティブな描写あり。
苦手な方は閲覧注意です。
高校入学して間もない頃。
様々な部活所属の上級生たちが、
新入生歓迎の名目で部員を募集し、
1年生たちに「うちの部に入らない?」
と、声を掛け勧誘している。
そんな中で1年の火星は、
愛用しているベースを肩にかけて歩き出す。
目指すは、軽音部へ―――。
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「こんにちは!入ってもいいですか?」
火星は軽音部の部室を見つけ、
中に人がいるのか確認するために声を掛ける。
返事が返ってこないので、ノックしてもう一度声を掛ける。
「あ~?いいよ~」
すると、気だるい感じの声が返ってきた。
返事が返ってきたので、勢いよく部室のドアを開けた。
「失礼します!」
ドアを開けると、3人の男たちが座っているのが見えた。
「なに、…入部希望?」
おそらく気だるい感じで最初に返事してくれた人だろう。
そう思いながら、問いかけに答える。
「はい!入部希望です。見学してもいいですか?」
「今、忙しいから後にしてくんない?」
最初に返事した人ではなく、
その隣にいた人が少し睨むようにして言った。
「そうなんですか!邪魔しちゃってごめんなさい」
申し訳ないと思い、深々と頭を下げる。
「別に忙しくないし、いいんじゃないの~。
ケレス、下級生に意地悪してもなんも特になんないよ~」
「意地悪じゃねぇ…」
ニヤニヤしている先輩?にちょっかいをかけられた
ケレスと呼ばれた人は少しイラついているようだった。
「じゃあ、何~?カッコつけ?ダッサ~。
…あ、俺はベスタね。よろしく~。」
「よろしくお願いします!」
自己紹介してくれたベスタが、
最初に気だるそうにしながらも返事してくれた人だった。
「で、この意地悪でダサくてしょうもないのが、ケレス。
あとこの無口なのがパラスだよ~。」
「悪口で他人を紹介するな」
ケレスは、若干うんざりしながらベスタに話す。
「2人とも通常運転だから気にしないで~」
ベスタはそんなことはお構いなしといったように
ケレスを華麗にスルーし、さらに話しかけてくる。
「君は、なんて言うの~?」
「火星です!皆さんは2年生?ですか?」
「そう~、部員は今のところウチラだけ」
ベスタと2人で和やかに話していると、
ケレスはジッと火星を見て冷たく告げた。
「俺、女ならお断りだから」
話していた2人は、ケレスの言葉に一瞬フリーズした。
そして先ほどまでの和やかな雰囲気とは打って変わり
一気に部室内は気まずい空気になったが、
火星は、勇気を振り絞り口を開いた。
「あの…俺、男ですけど……」
確かに俺は、長髪に中性的な顔立ちで小柄なのもあり、
私服だとたまに間違われることもある。
しかし制服着用時はズボンを履いているので、
まさか、学園内で女に間違われるとは思わず、
驚きと気まずさに伏し目がちになる。
「…」
「…ぷっは!!!何それウケる~!!!!アハハ~!
見たらわかるじゃん!!!!!バッカじゃねぇの~!!!!」
今度はケレスがフリーズし、
隣にいたベスタは大笑いしながら揶揄した。
ベスタの大きな笑い声で、ハッとしたケレスは
瞬時に火星を見て睨みつけて「紛らわしいんだよ!」と怒った。
「アッハハハ~おもろすぎ~」
「お前もうるせぇぞ!」
大笑いしているベスタにもケレスは怒るが、
笑いが止まらないようでカオス状態になっていた。
「え、えっと、紛らわしくてすみません?」
慌てて謝罪しながらも、
疑問を感じたのでケレスに問いかける。
「なんで女の子だと入部ダメなんですか?」
「…別に関係ないだろ」
理由を言わないケレスに、
ただ単に苦手なだけかな…?なんて考えていると、
笑いをどうにかして沈めたベスタが、
代わりに答えてくれる。
「あ~、ケレスはこんな性格だけど、
意外とイケメンだしモテるから」
「なるほど…トラブルを避けるため、ですね」
(モテると、大変なんだなぁ)
後々聞くと、実はこれが全ての原因ではなく、
過去ケレスの歴代彼女たちが手に負えない人たちばかりで
色々振り回されて大変だったらしい。
そして次第に女性と関わると、
ろくなことがないと感じるようになり、
この時には近づいてくる異性を、
わざと遠ざけるようにしていたようだった。
「いちいち余計なこというな……」
「別にいいじゃん~」
そんなケレスの事情は多分知っていたと思われるが、
ニヤニヤしながらベスタは、冷やかしていた。
「確かに、ケレス先輩はカッコいいですもんね!」
そんなことは何も知らないので率直に思ったことを話すと、
ケレスは気まずそうにそっぽを向く。
「照れてやんの~」
「…うっせぇ」
ケレスとベスタのやり取りに、思わずクスッと笑ってしまう。
(やっぱり、この部活に入りたいな)
「ケレス先輩、ベスタ先輩。あと、パラス先輩も……」
声をかけられた先輩たちは、火星に視線を向ける。
3人を一通りみて、さらに続ける。
「俺、入部届け出してきます!
なので、よろしくお願いします」
軽く会釈して、微笑んだ。
「…勝手にしろ」
「はい!」
ぶっきらぼうに答えるケレスに、明るく返事した。
(部活、楽しみだな…)
―――これが、俺と軽音部の先輩たちとの出会いだった。
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入部して間もなく、先輩たちと
部活動しながら雑談も交えていると、
ケレスと好きなインディーズバンドが同じということがわかり、
次第に部活以外でも交流するようになった。
「ケレス先輩!今度近くの箱の、行きます?」
「ああ、いく。火星もチケット取った?」
最初の頃と違い、ケレスは冷たく当たることもなく
気づけば仲良い先輩・後輩の関係性になっていた。
「取りました!じゃあ、一緒に行きしょ!」
「そうだな、集合場所はまた連絡するわ」
やがてライブハウスで好きなバンドが来ると、
一緒に行くまでの仲になり、距離は近くなっていた。
学園生活も問題なく平和で、部活も楽しい。
誰が見ても充実した日々だな、と感じていた。
そう、あの時までは―――。
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時は少し経ち、初夏。
大型連休にあやかり、あちこちでライブや
野外フェスなどのイベントが行われていた。
その中でも野外フェスは小さなライブハウスとは違い、
広い会場で多くの来場者が様々なバンド演奏を観に来る。
世間はGWということもあり、学園もお休みのため
火星たちも野外フェスに来場していた。
「少し暑いですけど、楽しいですね」
「火星は、初めてか?」
この日は例年より暑かったようで汗をかいている人も多く、
じわじわとくる暑さと会場の熱気に圧倒されながらも
今まで感じたことない雰囲気に、ワクワクしていた。
「はい!野外は初めてですね。
一緒に行く友達もいなかったので……」
隣にいたケレスが聞いてきたので
答えたものの、少しむなしくなる。
「…そうなんだ~、俺らと一緒で大丈夫だった?」
ベスタがそう聞くと、慌てて答える。
「もちろんです!誘ってくれて嬉しいです」
お礼を言いながらニコッと微笑むと、
ケレスは火星の肩にポンっと手を置く。
「よし、楽しむぞ」
「そうしよ~」
ケレスに続き、ベスタもニッと笑い返事する。
ベスタの隣にいるパラスも軽く頷いた。
(良い先輩たちだな…)
改めて軽音部に入って良かった、と思ったのだった。
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複数のライブステージを観つつ、
露店のフードやドリンクで軽食をとり
休憩しながら会場を楽しんでいた4人。
「トイレ、行ってきても大丈夫ですか?」
そんな中、先輩たちに声をかける。
「ここで待ってるから、行ってきな~」
「迷わずいけそうか?」
ベスタが返事した後、ケレスが少し心配なのか尋ねる。
「大丈夫そうです、マップみたら近くにありそうなので」
入場したときに貰ったマップを見ると、
今いるところからそんなに離れていなさそうだった。
「そうか、迷ったら連絡しろよ」
「はい!じゃあ、行ってきます」
そう告げると、先輩たちを待たせるのも申し訳ないので
急ぎ足で目的地に向かった。
「あ、あった…」
目的の場所を見つけ、急いで用を足す。
並んでいたら別のところ探さないと、と思っていたが
混んでいるどころか誰もいなかった。
空いていてよかったな、なんてぼんやり思いながら
そのまま先輩たちが待つ場所へ戻ろうとした次の瞬間―――。
ドガッ!!!
意識がぐらっと傾き、同時にみぞおちに鋭い痛みが突き刺さる。
一瞬の出来事に何が起きたのかわからないまま、
状況がつかめず混乱する。
ただ前かがみになりながらヤバい状態になっているのは
確かだと思いつつも、痛みで身体が言うことを聞いてくれない。
「な、に…して……っ」
顔を見上げようとすると、グイっと腕をとられ
個室トイレに引きずられる。
みぞおちを殴ってきた男が個室のドアに鍵をかけ、
火星の背後を覆うようにが立つ。
そして後ろから片方の手で口元を覆い、
もう片方の手で両腕を拘束するようにグッと抱き潰される。
「~~~んんっ!!!」
(力強くて、動けない…!!)
男は筋肉質の大柄の男のようで、
小柄の火星は動くこともできず、
逃げようにも逃げられない状況だった。
焦りと恐怖で混乱状態のなか、
男はさらに追い打ちをかけていく。
「今から俺の言うことを聞け。
そうすれば、すぐ解放してやる」
耳元で囁かれる声に、恐怖で背筋が凍りつく。
(こわい、たすけて)
悲痛な思いとともに、
恐怖からか目から涙が落ちた。
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「さっきから狙っていたんだ…どうやって男子トイレに
連れ込もうか考えていたが、まさか男だったなんてなぁ」
逃げる余地などなく、口元と両手を
手ぬぐいみたいなもので拘束される火星。
男の目的は、恐喝ではなかったようだ。
「連れ込む手間がかからなくて、ちょうど良かったぜ」
男だと分かった時点で、引いてくれたら良かったものの
好都合だと考えるなんて、理解が追いつかない。
「穴があれば、なんでもいいからな」
「!」
(き、気持ち悪い……!)
世の中にはこんな下劣な野郎がいるなんて、
同じ男としてもゾッとする。
(早く、隙をみて逃げないと、ヤラれる……!)
このままじゃ合意なしに犯される、と思いつつも
何かしようとしたら、暴力を振るわれる可能性も高い。
(このまま、されるがまま、は嫌だ…っ)
ベルトをカチャカチャと外され、
履いていたボトムズが少し下がる。
大事な部分に触られそうになった、その時。
「火星?大丈夫か?」
聞いたことのある声に、火星はビクッとする。
(ケレス、先輩…!!)
しかし、口元を拘束されていたので声を出せない。
(でも、気づいてもらうには、今しかないっ!)
震えが止まらなかったが、
すかさず後ろに襲おうとしている男の足を、
勢いをつけて、グッと踏んだ。
「イッ…てぇ!!おい何しやがる!」
足を拘束されていなかったのが、不幸中の幸いだった。
―――ゴッ!!!!
よろめいた瞬間に、すぐ振り返り勢いをつけて、
男の大事な所に思い切り蹴りをいれる。
「~~~ッ!!てめえ!!!」
今度は男が痛みで前かがみになり、
倒れこみながら怒鳴り声をあげる。
ケレスは怒鳴り声から、
まずい状況なんじゃないかとすぐ気付いたようで、
息をひそめて近くにはいるようだった。
その隙に背を相手に向けず、急いでドアの方に向かう。
後ろで手を拘束されていたため見えない状況だったが、
震える手でなんとか指先を使って鍵を開錠した。
「火星?!」
―――バタッ!
ドアが開いた瞬間、
逃げようとするがベルトを外されていたため、
ボトムズが少し落ちてしまい足に絡みつき、
後ろに倒れこんでしまう。
「んん~~~っ!!」
「!!!」
かなり最悪な状況だと瞬時に理解したケレスは、
急いで駆け寄り、倒れた火星を抱えむ。
「怖かったな…もう大丈夫だ」
「…っ」
駆け寄ってくれたケレスを見た瞬間に
来てくれたから良かった、助かったという安心感と
未遂とはいえ、まだ自分を犯そうとしていた男が
近くにいるので恐怖もあり、涙が止まらない。
「ぐっ…許さねぇ…ぞ!!!」
男はうめき声を出して声を荒げているものの、
悶えているのか、個室から出てこない。
ケレスに抱きかかえられ、
すかさず2人は隣の個室に逃げた。
鍵をすぐ閉め、外にいるベスタに電話をかけながら
口と手の拘束を解いてくれる。
(先輩……っ)
「うぅ…っ、す、みませんっ、俺……」
「火星は悪くない、何も悪くないからな」
(涙が、震えが、止まらない……)
そんな中でもケレスは優しく背中をさすって、
何度も落ち着くように安堵の言葉を投げかけた。
そして数コールで電話に出たベスタに、
ケレスはこのかなり危うい状況を簡潔に伝えた。
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その後、ベスタ達と運営スタッフも駆けつけ
男は取り押さえられた。
電話で状況を聞いたベスタは、すぐに駆けつけて
男が逃げないようにしてくれたようだった。
そしてベスタのそばにいたパラスは、
近くにいた運営スタッフに状況を伝え、
スタッフと共に後から駆けつけてくれたようだった。
ケレスはその間にも、震えて泣いている火星を
そっと抱き寄せて、落ち着かせるようにしてくれていた。
(俺のせいで…こんなことになってしまった……)
しかし結局、俺は先輩たちがきても
感情がぐちゃぐちゃのままで、
静かに泣くことしか出来なかったのだった―――。
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