5.火星side③
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過去story
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男が連行された後。
ケレスとともに、現場にきた警察官に事情聴取されていた。
パラスは、運営スタッフに状況を伝えたときに
警察にも通報してくれていたようだ。
付近にいた人々は『何かあったのか?』
といった感じで様子を見に来る人もいれば、
大して気にも留めず素通りする人など様々だった。
「状況はわかったよ、だいぶ答えにくいことだったと思うが
…話してくれてありがとう」
「…いえ」
聴取した警察官は、冷静に話を聞きつつも、
落ち込んでいる心境を理解してくれたようだった。
ベスタとパラスは邪魔にならないところで、
自分を見守っていてくれていたのがわかった。
「もう、…行っても大丈夫ですかね?」
付き添ってくれていたケレスは、
この場から離れても大丈夫か警察官に尋ねる。
「ああ、もう大丈夫だよ。
親御さんにご連絡して、きてもらわなくて大丈夫かい?」
「連絡は、しないでほしいです…」
(これを機に過剰に心配して、外出制限されても困る…)
警察官が心配してくれているのは分かってはいたものの、
ここに親が来るのは何としても避けたかった。
すると、事情は知らないものの
何かあるのだろう、と悟ったケレスが警察官に話す。
「俺が、家まで付き添うんで大丈夫っす」
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聴取が終わり、ベスタ達のところへ戻る。
申し訳ない気持ちでいっぱいになりながらも、
2人に帰ることを告げた。
「気にしないで~俺らもちょうど観たいバンド
終わって帰ろうかなって思ってたとこだし」
「…すみません」
ベスタはおそらく気を使ってそう言ってくれているのが
わかったので、さらに申し訳なくなる。
「謝んなよ。俺らがそうしたいだけなの、だよな?」
「ああ」
ベスタとパラスの言葉に救われながらも、
やはり自分のせいで…という気持ちは拭えずにいた。
それを見越してなのか、
ケレスは「大丈夫だ」と隣でフォローしてくれた。
「俺は火星と帰るから。じゃあ、またな」
「了解~、また」
ベスタ達と別れると、会場からでたタイミングで
横にいるケレスがそっと話し出す。
「…迷惑かけた、とか申し訳ない、なんて思ってるかもしれねぇけど、
俺たちは自分の意志でそうしたいと思って行動してるだけだから」
「…」
「だから、甘えておけ。
あと、自分を責めるんじゃねぇ」
「…っ」
優しい言葉に、また泣きそうになる。
すでに会場から出ているが、
路上でまた泣きだしたら迷惑かかるため、
何も言わず、ただひたすら涙をグッとこらえた。
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ケレスとは一緒にライブや遊びに行く間柄だったので、
どちらの家の場所くらいは知っていたし、
奇遇にも帰る方向も一緒だった。
今回のことに限らず、一緒に帰ることになるだろうとは思っていたが
まさかこんな感じで帰宅するとは思っていなかったので、
お互い無言で帰る方向へ歩いている状態だった。
(こんなことにならなければ、
今日の感想とか言って盛り上がっていただろうな…)
なんでこんなことに…と思いながらも
先ほどのケレスの言葉もあり、
起きてしまったことを考えないようにしようとしていた。
「なぁ」
すると、ケレスが沈黙を打ち破るように話しかける。
「俺んち、くる?」
「…え?」
落ち込んでいるあまり目線が下向きだったのが、
一気に顔を上げ、ケレスの顔へ向ける。
「嫌か?」
「…いやとか、じゃない…ですけど」
「じゃあ決まりな」
「!!え、ちょっ、本当に…ですか…??」
「ああ、親御さんに連絡しておけよ」
強引な誘いに、かなり戸惑うものの
「わかりました…」と返事し、言われた通りに親に連絡した。
正直、このまま家に帰っても
一人で閉じこもりまた泣くことになっただろう。
(家族に心配されたくないしな…)
そうなるかもしれないと思い、
ケレスも言ってくれたのかもしれない。
そういったケレスなりの配慮に、
ありがたい気持ちと申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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とある、オートロック付きのマンションの一室。
ケレスの家に入ったのは、今回が初めてだった。
「お邪魔、します…」
「…誰もいねぇから、ゆっくりしな」
「え、そうなんですか…?」
「ああ、仕事でいねぇし」
実はケレスの家は母子家庭で、
母親が夜職(水商売)だという話を前に少し聞いていた。
なので、てっきり夕方くらいまではいるのかと思っていたが、
同伴等で家いないことの方がほとんどだと教えてくれた。
(色々、あるんだな…)
「今日も俺一人しかいないから、気にすんな」
「…寂しくないですか?」
リビングのソファで腰を掛けながら聞くと、
同じく横に座ったケレスは少し笑って答えた。
「だから、こうして呼んだんじゃん」
その言葉に普段だったら、笑い返したり
嬉しい気持ちになったりしたかもしれない。
でも今はただ「そう、ですか…」
と、俯きながら呟くことしか出来なかった。
そんな様子をみたケレスは
落ち着いたトーンで、静かに話しだす。
「すぐ、助けにいけなくてごめんな」
「!そんな、ケレス先輩が、きてくれなきゃ…俺…」
「俺も一緒についていけば、良かった」
「ちが、そんな…っ」
(こんなこと言わせたくなかったのに)
否定したいのに、言葉に詰まってしまう。
(謝ってほしくなかった)
先ほど抑えていた涙がこらえきれず、
ボロボロと頬に流れる。
「…っ、ぅう…」
ケレスは、火星の頬に伝う涙をそっと指で拭う。
あまりにも自然な行為に、驚きや不快なものはなかった。
それどころか今の自分にとって、
『救い』のように感じた。
震えながらも自分の両手を、まるで
すがるような気持ちで――ケレスの手の上に重ねて軽く握る。
ケレスは何も言わずに反対の手でゆっくりと
震えた身体を引き寄せて、抱きしめる。
「うぅ…っ……、ぅ……」
あふれだした涙は止まるはずもなく。
抱きしめられた腕の中で、優しい温もりも感じながら
うめき声を漏らし、ひたすら泣き続けた。
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