ep102 溢れ出す白いモノ
密かに着いてきたビーナと共に"遺跡"を探索することになり、目的地である"四方攻め"の部屋を目指す。
「というか、一緒にいたいだけなら入口で声を掛けてくればよかっただろ」
「それだと今日は1人がいいとか言って断ったかもしれないでしょ?」
まぁ……魔石を稼ぐだけでなく、"宝石板"の開封もしてみようと思っていたからな。
もしかすると危ないものが出てくるかもしれず、そうでなくても秘密にしておきたいものが出てくる可能性もあって彼女の同行を断っていた可能性は高い。
その"宝石板"はどうするかな。
今後も昨日と同じように数を稼げるとなれば、その分だけどんどん開封しないと貯まる一方になる。
明確な理由は不明だが"格納庫"には入らないし、となれば部屋のスペースを圧迫するだろう。
かと言って"四方攻め"の部屋を周回しないことにすれば、魔石をなるべく確保したい俺の事情を知っているビーナが不審に思うかもしれない。
この分だと明日以降も着いてきそうだから……いっそ彼女には教えるか?
"金戦華"よりも俺の事情を優先するとは言っていたし、あちらに不利益を与えるわけでもないはずなので秘密にしてくれそうではあるよな。
ただ、報告される可能性も考えないわけにもいかないか。
真似されて俺が稼げなくなるのはなるべく避けたいので、"宝石板"が現れる条件だけは偽っておこう。
しばらく進み、"四方攻め"の部屋に到着する。
その部屋の中心には昨日置いていったゴーレムがそのまま立っており、実験中であることを伝える看板もそのままだった。
まぁ、感知範囲に入った時点で俺にはわかっていたが……それを見てビーナが聞いてくる。
「あら?もうゴーレムを出しておいたの?」
「いや、あれは昨日置いていったやつだ」
「え?……あぁ、実験中って書いてあるわね。何の実験?」
「いつまで残るかって実験だ。少なくとも半日は残るようだな」
それを聞いて彼女は驚く。
「え、半日!?外から持ち込んだものって、動かしたりしてないとしばらくして消えるはずなのに……」
「うーん……もしかするとだが、俺のゴーレムが"遺跡"から魔物として扱われているのかもしれないな」
俺はそんな予想を立ててみた。
これまでに聞いた話から、ゴーレムという魔物は魔石を核として様々な"単一の物質"で構成された存在だ。
俺のゴーレムも構成自体は同様であり、俺が操っているということ以外に差異はないと思われる。
となれば、その存在自体は外から持ち込んだものではなく、"遺跡"で発生したゴーレムと同じ扱いになっていてもおかしくはない。
それを説明すると、ビーナは顎に指先を当てて考え込む。
「確かに、普通のゴーレムが勝手に消えるなんて話は聞かないわね。そうなるとアンタのゴーレムが消えていない以上、同じように扱われてるって考えられなくもないか……」
「だろう?そうなると深い層で長い間過ごすことになっても、浴場のような建物を出して他人を気にせず休めるってことになるな」
「大手のグループに知られれば拠点を作ってくれって頼んできそうね。というかウチがまず頼むでしょうし」
深い層で長期間過ごすのなら、休息は非常に重要なものであるはずだ。
"金戦華"であれば女ばかりというのもあり、外部の目を気にせず休める建物は欲しがってもおかしくはない。
テントぐらいは持ち込んでいるそうだが、やはりしっかりした建物のほうが安心できるだろうしな。
他のグループだって、女ばかりではないにしても欲しがる可能性は十分にあるだろう。
まぁ、今のところはスレッタさんのこともあるので深い階層に行くつもりはなく、頼まれたとしてもお断りする予定だが。
なのでビーナにはこう言っておく。
「今のところは頼まれても断るから、上には報告しないようにな」
「あー、そっか。わかったわ」
彼女は俺の事情を把握しているのであっさり頷くも、この件を秘匿できるのかと懸念点を挙げた。
「でも、昨日から置いてあったんなら他の冒険者が見てるでしょ?そこから話が伝わって、アンタがゴーレムとして作ったものは長時間消えないって広まりそうだけど」
「普段ここに近づく奴は少ないんだろ?それに1階にいた冒険者なら夜は町へ帰ってるだろうから、見た奴がいても一晩中あそこにあったって証明はできないし大丈夫じゃないか?」
「あぁ、それもそうね。で、この実験っていつまでやるの?とりあえず半日は普通のゴーレムと同じ扱いだとしても、ずっと残るとは限らないわよね?」
「ああ。だからもうしばらく置いておきたいんだが、長期間残る可能性を考えると流石に目立つのはまずいな」
一晩ならともかく何日にも渡って残るとなれば、目撃者は増えてこのことは広く知れ渡ってしまうだろう。
なのでゴーレムは別の形にと考えるも……俺はあたりを見渡すとビーナに尋ねた。
「"遺跡"の中で落ちていても不自然じゃないものってあるか?」
「あぁ……私が知る限りだけど、ここって人工の建物みたいな割に人が使うような物ってないのよね」
そう。
彼女の言う通りここには物がなく、何なら石ころの1つも落ちていない。
あるとすれば他の冒険者が置いていった物で、それもしばらくすれば消えてしまう。
「もっと下の階なら事情は違うんだけど……」
どうやら5階以降は雰囲気が変わるらしく、自然に転がっていそうなものならその辺に転がっていても目立たないそうだ。
その環境は気になるが、今は置いておくとして。
となると……ゴーレムとして何かを作っても、ここに存在することが不自然なものになってしまうということか。
「うーん……」
「壁とかに偽装しておけない?」
「光る壁なんて作れないぞ。そんな材質のゴーレムを呼び出せないんだから」
「あぁ、そっか」
「……」
ビーナの提案にそう返してみたものの、俺は1つの手を思いつく。
俺のゴーレムは召喚しているものだと説明してある彼女の前では実行できないが、"遺跡"の壁を素材として俺のゴーレムに出来ないだろうか?
可能であれば、壁などに偽装することも不可能ではないだろう。
問題として、それを実行した場合に"遺跡"へどんな影響を与えるのかという点があるが。
無害ならともかく、崩壊でもされると大勢の人間を巻き込んでしまうよな。
「………………あ」
「?」
再び俺は思いついた。
"宝石板"だ。
あれを開封して出てくるものの中には大きな物である場合もあり、だからこそ人目につくのを承知で開けた場所で開封することもあると聞く。
その場合、"遺跡"の中で開封すれば外へ持ち出せなくなるリスクがあるものの、それよりも秘匿性を重視するのなら"遺跡"の中で開封するほうを選ぶ場合もあるそうだ。
なので俺も秘匿性を重視して"遺跡"の中で開封しようと考えていたが、それをゴーレムの存在できる時間を確かめるために利用できないだろうか?
方法としては……どこかの部屋でそこから出せないようなゴーレムを作り、それが"宝石板"を開封して出てきた物だということにするのだ。
そうなるとその部屋は使えないか使いにくくなるが、この階のなるべく人が来ない部屋を選べばいい。
来た人間がいても下手に手を出されないように、特殊な形にして"宝石板"から出たものだと明示しておけば……その場へ置いたままにしておけるだろう。
「何か思いついたの?」
「ああ。それは……」
俺はビーナに思いついたことを説明し、それを聞いた彼女は疑問を持った。
「それはいいけど……じゃあ実際には"宝石板"を開封しないの?」
「いや、今日はそれが目的だから開封はするつもりだが」
「じゃあ、"宝石板"から出てきたものが本当に大きかったらどうするのよ」
「そのときは別の手を考えるだけだ。ゴーレムが"遺跡"の中で存在できる時間は、別に急いで確認しなければならないわけでもないしな」
「そう。じゃあ何処でやる?部屋から出せない状況にするってことなら、なるべく小さい部屋のほうがいいんでしょうけど」
「ああ、その上で人が来ない場所だな。えーっと……ここはどうだ?」
俺は地図を出し、フロアの端にある正方形に描かれた部屋を指す。
「いいんじゃない?若手ならもしもの時のために救援を呼びにくい端の方は行かないし、1階を余裕で歩き回れる冒険者なら2階へ行くでしょうからね」
「よし。じゃああそこに出しておいたゴーレムは消して行こう」
こうして、"遺跡"におけるゴーレムの存在可能時間を追加で調べる方針は決まり、前日に出しておいたゴーレムを"格納庫"に仕舞うと俺達は次の実験場所へ向かった。
目的の部屋に到着すると、そこは四畳半といった広さの部屋だった。
その前を通る通路も狭くなっており、幅は2mほどしかない。
「何のための部屋だ?」
「さあ?似たような部屋が並んでれば個人が寝泊まりする部屋でもおかしくないけど、こんな所に孤立してるしねぇ……まぁ、そもそも"遺跡"が人のために作られてるとは限らないんだけど」
「部屋の配置だけでなく、通路も利便性が考えられてるわけじゃなさそうだしな。考えても仕方ないか」
選んだ部屋の本来の用途は脇に置いておくとして、俺達は早速実験に取り掛かることにする。
中に何もないことを確かめ、部屋から出ると少し離れた場所に壁を作っておいた。
大量の酸が溢れ出たという話も聞いたので、似たようなものが出た場合の備えてのことだ。
その壁は部屋の入口を挟んで反対側にも作っておき、双方の壁は上部に向こう側を確認するための隙間を作っておく。
そうして壁の裏に陣取ると、荷物から"宝石板"を出して石の"手"に掴ませた。
「その手に"宝石板"を割らせるってことね」
「ああ。何が出てくるかわからないし、すぐに逃げられるようにしておいてくれ」
「了解」
ビーナがそう言って頷き、それを受けて俺は"宝石板"を持った"手"を部屋の中へ向かわせる。
俺は運搬用のゴーレムを足場にして壁の上から覗き込み、合図を出して"宝石板"の開封を始めた。
「よし、じゃあ始めるぞ。3・2・1……今っ!」
ガッ、パキィィンッ!
そのタイミングで"手"は"宝石板"を叩き割り、それによって予想よりは高い割れる音が聞こえてくる。
さあ、何が出てくるか……と思っていたその瞬間、
ドザザザザァアアアアッ!
と、白い"何か"が部屋から溢れ出した。
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