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となりの優等生は恋を後回しにする  作者: 妙原奇天


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21/22

第21話 終わりの欄=白紙、と、在るのあとさき

 日曜の午前、空は紙やすりで軽く磨いたみたいに淡く、風は角を落としていた。

 視線の置き場所=天窓。合図なし。“写真のない写真”のみ。

 机の中央に白紙。角にQR。上に透過の丸。

 棒、輪、青—、黄点、緑四角、赤■——全部のカードは今日は脇に置く。在るが主役の日だ。


 名前を四拍で交換する。


「ななせ」

「みなと」

 タ、タ、タ、タ。


 言わない自由を起動。

 僕らは角丸付箋に二語ずつ、“在る”のあとさきを書く。


 白波:〈在る=続行〉

 僕: 〈在る=戻れる〉

 白波:〈在る=下がれる(罪ではない)〉

 僕: 〈在る=待てる〉


 静かなまま、天窓の影が拍の歩幅で机を横切る。

 光が薄くなる瞬間、胸の中の過剰拍が一つだけ上がりかける。

 黄橙の名づけ。〈熱=0.3/冷却=四拍×1〉

 代理拍=天窓。

 数える。タ、タ、タ、タ。

 戻れる。

 上がりきらない拍は、やがて在るの速度に戻る。


 白波がB寄りHBで小さな短冊を出し、机の白紙の端にそっと差し込む。

 短冊には、細い字で二行。


『終わり方は、もう知っている。

 だから今日は、終わらせない。』


 僕は笑いそうになって、笑いを四拍で均す。

 終わらせないは延長じゃない。在るの選択だ。

 終わりの欄=白紙は、“次”を強要しないで、“在る”を保証する。


***


 昼、地域センターの最終掲示を見に寄る。

 棒と輪、青—、黄点、緑四角、赤■、透過の丸、白紙。

 最後に一枚だけ、新しい紙が加わっていた。

 〈“在る”の運用——指示ではなく、存在の告知で〉

 署名欄は白紙。角にQR。

 誰の顔も写らない。やったことだけが残る。


 保健師さんが会釈する。

 「家の言葉、冷蔵庫で育ってるよ」

 成宮先生が丸を空中に描く。

 「学校の言葉も、家庭語に」

 如月が袖の黄橙点を弾く。

 「バンド解散じゃない“区切り”ってあるんだな」

 「音が鳴りっぱなしは音楽じゃない。休符が曲にする」

 「お前、最後まで標識の詩だったな」


***


 夕方、川面。

 視線=水。

 欄干の内側に挟んだ携帯版の透過の丸は、光を拾ってうすい輪のまま在る。

 風は弱く、鴨は相変わらず議論を放棄して流れる。

 僕らは青点検:良を確認し、黄=0のまま立つ。

 名前の四拍は、今日は要らなかった。すでに在るの速度が揃っていたから。


 白波が角丸付箋に二語。

 〈今日=在る〉

 僕は一語。

 〈了解〉


 写真のない写真を一枚。

 〈日:日/場所:川面/透過=在る/青点検=良/記録=顔なし〉


***


 夜。

 扉越し一分ではなく、窓越し零拍。

 声は使わない。

 壁の可視化シートの**“残”の欄は、前に描いた透過の丸のまま。

 その横に、小さな輪を一つ重ね、下に青い—を一本引く。

 〈在る=続けられる〉

 赤■には小さく〈罪ではない〉、緑四角には〈いつでも〉、黄点には〈待てる〉。

 棒は支え、輪は戻れる**。

どの記号も、何も消さないでそこに在る。


 最後に、白紙を一枚、シートの中央へ。

 角にQR。

 リンク先は、“やったことだけ”で綴られた全ログ。

 顔は写らない。在るが写る。


 ペンを置いて、呼吸を四拍に割る。

 タ、タ、タ、タ。

 終わりの欄=白紙は、光をうすく返す。


 ——ここで、物語は区切る。

 終わらせずに、区切る。

 在るの運用は、紙の外でも続く。

 家でも、校内でも、路上でも。

 青—は黄を重ねられ、緑で戻れ、赤で下がれ、透過で告げられ、白紙で受け止められる。


 生活は手順。恋は予定外。

 予定外は、消さずに重ねると長生きする。

 棒と輪と青—、黄点、緑四角、赤■、透過の丸、そして白紙。

 すべては、角を立てずにやったことだけを残すための道具だ。


 窓の外で、交差点の黄が一度だけ点滅する。

 僕らは各自の場所で、四拍だけ数える。

 タ、タ、タ、タ。

 ——在る。

 それで十分だ。

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