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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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四十六話【幕間】

 新羅(しらぎ) (ゆずる)は邪魔だった父親であり、新羅カンパニーの総帥を殺害し、その後釜に座った。


 父親には何人もの愛人がおり、その間には譲の異母兄弟にあたる人物が何人も居る。それは父親が死後、自らの座を求め争わせるように用意した優秀な子供たちだったらしい。


 だが今や、武力は新羅にある。解放者(リベレーター)と呼ばれた特殊部隊養成学校の計画が頓挫し、残された者達を傭兵として雇い入れた。


「新羅 譲は放蕩息子」それが新羅家の認識であり、父親に反発するために、わざと成績を落とし、二枚も三枚も落ちる不良高校へ進学し、ヤクザまがいの事をしてきた。


 だが一ノ瀬(いちのせ) 雪子(ゆきこ)と出会い、突然ある男に渡された飲み物を飲み干した時から、特殊な能力『異能』に目覚める。



 そして一目惚れした一ノ瀬 雪子は、裏社会で有名な暗殺者だった。


「いやぁ~しっかし、嬢ちゃんがまさかあの一ノ瀬雪子とはね……そもそも男だって、もっぱらの噂だぜ?」


 元リベレーターの突撃兵、梶元 勇気は銃を片手に笑う。


「名前からして女だと思うのが、普通じゃないのか?」


 梶元の発言に、新羅は不思議そうに一ノ瀬を見ながら、二人はキョトンとした表情になる。


「名前だけ男にして活動する女の殺し屋だって居るからな」


「ターゲットを油断させる為に、可愛い名前の女の子を装う、男の暗殺者もいるよ?」


 新羅の知らない世界の話を聞き、梶元と一ノ瀬がクスクス笑う。


「まぁそもそも、嬢ちゃんみたいな暗殺者って、現代じゃかなり少ないからな。普通は殺し屋か傭兵をやるだろ」


「私は暗殺者として育てられたからってだけだよ?」


 新羅の異能は少し特殊だ。大抵の記憶操作系の能力者がアバウトな記憶操作を得意とする中、新羅の異能は能力のターゲットを一人とするかわりに、対象の記憶を詳細に覗ける為、新羅は一ノ瀬すら覚えていないような記憶を隅々まで見ていた。


「梶元、あまり俺の彼女に質問するな。お前の仕事は俺達の身を守る事だろ」


「へいへい。雇い主様には叶わねぇな……っで、あんたが恐れる殺し屋ってのはいつ来るんだ?」


 新羅は梶元の言葉にムッとする。つい一月前まで、気晴らしで殴っていた男が、取り巻きの不良を軽くいなし、梶元達の襲撃を生還した男の姿を思い出し。


「ハッ! 俺があんな男を恐れるかよ!」


 そう虚勢を張りながら、新羅は自然と俯き、日向恭一の鋭い目を思い出し身震いする。


 今までヤクザの息子というだけで、気に食わないと殴っていた相手が突然逆襲してきたのではなく、まるで身にかかる火の粉を払うよう、暴力に慣れた様子で反撃し、あまつさえ送り出した刺客を払いのけた。


 そして一ノ瀬 雪子の記憶を覗いて知った事実、日向は両親を殺し、何人もの人間を殺してのけた殺し屋であり。何よりも一ノ瀬が本人の心は別として、好意的な感情を抱いている。


 一ノ瀬 雪子は幼い頃より、一流の暗殺技術を叩き込まれ、孤児院の中でも天才として知られているが、彼女の心は既に常人とはかけ離れた感性を持ち、心は壊れていた。


 そんな中で現れた同年代の異性、日向は一ノ瀬には無い『お人好し』な面がある。


 新羅は一ノ瀬の記憶を見て、彼女の目の前で不器用ながら、人助けをする日向の姿に好感を持っている事を知り、一ノ瀬が持つ日向に関する感情や好意を記憶と共に書き換えた。


 一ノ瀬がこれまでに惚れた男、彼女にとって強いトラウマを作り出したフランス人『シヴェール』と、彼女にとって強い憧れを抱かせた『日向 恭一』の記憶と感情を『新羅 譲』との思い出に書き換え、一ノ瀬の蒼い瞳は常に新羅を追うようになる。


「譲くんどうしたの? 暗い顔してるよ?」


 新羅の黒髪を撫で、一ノ瀬の蒼い瞳が愛する人を心配するように、新羅の不安を露にする顔を覗き込む。


「あぁ、大丈夫だ雪子。俺が雪子を守るから」


「私も譲くんを守るよ」


 一ノ瀬と新羅が甘いムードに包まれると、護衛としてその場に居なければならない梶元は深いため息を吐いた。


***


 別荘の一室、新羅は一人で護衛も居ない暗く静かな部屋へ入ると、彼の視界に一瞬テレビの砂嵐のように視界が歪む。


 すると新羅の目の前、小さな一人掛けのソファーに中学生くらいの全身黒ずくめの男が音もなく現れる。


「やぁ新羅くん、えっと……一年ぶりかな?」


 中学生くらいの男──相場(あいば) (りゅう)はフードの下に暗い影を落としながら笑う。


「いや、1ヶ月ぶりだ。あんたが俺に『記憶操作』の異能を与えてから、丸一月音沙汰無しだ」


「音沙汰無しでも異能は完璧に使えるように、脳ミソに直接使い方をレクチャーしたでしょ?」


 新羅は顔をしかめ、頭に響く『ファミチキください』という言葉に苛立ちを覚える。


「チッ……こいつ、直接脳内に……これでいいか」


 相場のレクチャーには必ず、おふさげが仕込まれており、新羅がツッコミをするまで、何度でも脳内に言葉を反響させる悪辣な趣味をしていた。


「うんうん! 今キミの記憶を見たけど、ちゃんと異能の使い方を理解しているね。現状キミは『新羅100%』のムキムキだ」


 飄々とした態度で冗談を言い、深く影の差す口元が厭らしく歪むのを、新羅は見逃さない。


「記憶操作の異能を持つキミに最後(・・)の質問だ。キミは本郷恭介をどう思う?」


「ムカつく奴だ。殴られても卑屈に笑って、ヤクザの息子だからって、周りがビビりやがる。だから俺がイジメてやってたのに、俺の雪子を横取りしやがった」


「うんうんそうだね。でも共通点も多かったんじゃないかな? 巨大な親の影が、何者でもない自分にレッテルを貼る……新羅カンパニー総帥の息子、放蕩息子──新羅譲と長尾組の若頭で次期組長の息子、いじめられっ子──本郷恭介」


 二人の少年の奇妙な共通点は、これだけではない。


 新羅、本郷は共に父親を憎み、憎悪しており、そして二人とも父親を殺した親殺し。


「そして極めつけは……一ノ瀬雪子という共通の女性に惚れた……フフっ偶然にしても恐ろしいよね」


「なにが言いたいんだ相場」


 新羅の言葉にひとしきり笑った相場が小さく息を吐く。


「ふぅ~友達、いやむしろ本郷恭介と新羅譲は、親友(・・)になれたんじゃないかって思ったんだ」


 相場の言葉に新羅は絶句した。頭の中にふつふつと沸き上がる怒り、それが暗雲のように思考を覆うようだった。


「ふざけんな。アイツと友達だ? ましてや親友なんてあり得ない。あんな……」


 ふと新羅の怒りの中に、妙な感覚を覚える『なぜ、自分はこんなに本郷が憎くてたまらないんだ?』と。


「初めて見たときから、顔が気に食わなかった。態度が気に食わなかった。殴ってやったらスッキリした……」


「まるでプログラム(・・・・・)されたような感情の動きだよね~別に人を嫌いになる理由なんて、そんなものなんだろうけど、キミは今まで、一目見ただけで殴りたくなるほど嫌いになった人間は居たのかい?」


 新羅は元々温室育ち、金銭にも余裕があり、苦労などしたことがない。


 強いて嫌いなものは、新羅背後に差す父親の影を見て群がる人間だが、新羅は普段から取り巻きを連れていたが、取り巻きに怒りや憎しみを覚えたことがない。


 本郷だけだ。本郷だけ、見ていて怒りを抱く。


「もう一つ質問だ。キミは一ノ瀬雪子のどこに惚れた?」


「一目惚れだよ。出会った時に気付いた。彼女しかいないと」


「ふふっ一目惚れで、異能を渇望するほどの情熱を注いだ? キミのように富も名誉もある新羅カンパニーの御曹司が? 美女なら飽きるほど見てきただろう」


 新羅はまるで暗に、自分の行動に疑問を持たせるような言葉に不信感を抱きながら、自らの行いを省みるよう、新羅はゆっくりと目を閉じた。


「疑問だろう。キミには最期の餞別(せんべつ)をやろう……キミにしか知り得ない、あったかもしれない未来(・・)だ」


 相場が新羅の頭へ触れた瞬間──新羅の頭に存在しない記憶(・・・・・・・)が流れた。


 新羅と本郷、似た境遇に産まれ、互いに肉親を恨みを持ち自然と仲が良くなっていき、やがて一ノ瀬と出会い、三人が仲睦まじく学校に通う姿。


 そして相場は、新羅の前から二度と姿を現さなかった。

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