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ある日、俺は殺し屋になった。  作者: タスク
第二章
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四十五話

 ここ数日の出来事を思い返すと、相場に仕組まれていたのかと考えさせられる。


 数多出会った能力者たち。


 煌 瞳『歪んだ妄想(バロック)』の異能者。


 ウォルト・D・ニール『夢の国』の異能者。


 掵生 レイ『獣化』の異能者。


 他にも栫井の『蕀』や羽籠の『リフレイン』氷華先生の『絶対零度』ソルジャックの『HiGH&LOW』カルロスの『肉体強化』など様々な能力者と戦ったり、見聞きしていたが、実際に死体となった姿は掵生が初めてだった。


 記憶操作系の能力者を殺せば、記憶を操作した被害者がどのようになるのか、未知数ではあるが、相場の二つ目の預言に『一ノ瀬を助ける』とある以上、結果は彼女に良く出ると考えよう。


 学校では久世とアルヴァスの助けによって、一ノ瀬を発見できた。


 夕暮れが沈み始める放課後の屋上。一ノ瀬の状態を知らない久世に、また寒い屋上で俺は待たされている。


「お待たせぇキョウくーん!」


 白い息を吐きながら、久世がやってきた。


 その隣には、金髪の派手な髪に蒼い瞳、雪原を思わせる白い肌の生徒が、胸元に光る赤い宝石のペンダントを撫でている。


 たしか体育館で見た新羅と話してた女の筈だ。


「あ、あの千佳ちゃん……彼は?」


 彼女の声を聞いて驚いた。見た目こそ派手に変わっているが、声は変わらない一ノ瀬だ。


 そして彼女の言葉に久世は驚くが、一ノ瀬は今、新羅の能力によって記憶を操作されている。


「キョウくんだよ! ほら、つい最近私たちの部隊に来た……本当に覚えてないの?」


「うん……私たちの部隊って『第十四番分隊』だよね? 彼に見覚えはないかな」


 俺は驚愕した。そして数週間前に、失踪した日の夜に出会った時の事を思い出す、その時一ノ瀬は「だれ……?」と俺に問いかけていたのだ。


 ただの寝惚けた様子だと思っていたが、あの時から一ノ瀬の記憶は書き換えられていたのだろう。


「おい一ノ瀬、お前組織(・・)について覚えてるのか」


 一ノ瀬は俺に声を掛けられ、ビクリと肩を震わせ、お前と呼ばれて怪訝な目をする。


「キミに関係無いでしょ?」


 以前の一ノ瀬なら、たとえ嫌いな相手が居たとしても、笑顔を絶やさなかっただろう。だが今、目の前の一ノ瀬は、明らかな嫌悪感を示している。


「雪ちゃん、そう言わずにキョウくんも、私たちの仲間なんだから」


「うぅ、千佳ちゃんがそう言うなら……もちろん、組織の事も覚えてる。仲間の事だって、エドゥアルドさん、アイリスちゃん、コニーくん、千佳ちゃん、佐野くん……どう?」


 久世にえっへんと胸を張って見せるが、見事に俺だけ名前が抜けていた。


「他にも、昔居た仲間も、シヴェールさん、リヒャルドさん、アニュスさんだよね?」


 過去も現在も記憶は正常なのだと、久世の頷きで分かる。


 記憶の混乱や、一時的な喪失の類いではない。ならば何故一ノ瀬は組織を裏切ったのだ。


「どうして雪ちゃんは、組織の仲間を撃ったの? 皆心配してるよ? 戻らないの?」


 久世が友達を諭すように、優しく一ノ瀬の肩を掴みながら、蒼い瞳を覗き込みながら問いかける。


 一方の一ノ瀬はバツの悪そうな顔で、久世から目を逸らし数秒の沈黙の後、ぽつりと言葉を漏らす。


「真実……真実の愛を見つけたの……」


 ゆっくりと出された言葉に、俺は吹き出しそうになるが、久世と一ノ瀬の目は真剣だった。笑っちゃダメな所だったらしい。


「とても素敵なことだね。どんな人?」


「優しくて、カッコ良くて、頼り甲斐がある……私の大好きな幼馴染み」


 どういう設定なのか、一ノ瀬は新羅を想いながら、蕩けるような潤んだ瞳で久世を見つめる。


 一ノ瀬には新羅を好きで好きで堪らないように、記憶を弄ったのだろうが、どうして俺の記憶を消したのだろう。


 よく考えれば、全ての記憶を消せば、楽だろうが赤ん坊同然になってしまう。かといって自分に都合のいい記憶だけを弄るにしても、一ノ瀬と新羅には大した接点がない。


 一ノ瀬が口走った幼馴染みという設定、それが物語るように、恐らく一ノ瀬雪子という人間は、出会って日の浅い人間を信用しないのだろう。


 新羅には記憶を操作する以前に、他人の記憶を覗き見る副次効果があったのだと思う。そこで俺の記憶を消さなければ、新羅を好きにさせられない理由があったのか、新羅(あいつ)の事だから、俺への私怨で記憶を消したのかも。


「雪ちゃん羨ましい……じゃあ雪ちゃんは組織(・・)は戻らないんだね……」


 久世の悲しそうな顔を見ると、一ノ瀬の「真実の愛」とやらを盲信する姿に苛立ちを覚える。


「一ノ瀬、冗談じゃ済まされねぇぞ。とにかく一度戻れ、話はそれからだろ」


「千佳ちゃん……」


 俺の言葉を華麗にスルーした一ノ瀬は、久世を抱き締めて小さく頷いた。その答えに、久世は顔を伏せながら、頬に一筋の涙を流した。


 夕暮れの日の屋上、一ノ瀬 雪子は明確に、組織への裏切りを決意し、久世と今生の別れを済ませる。


「撃たないのか久世……」


「撃てるわけ無いでしょ? 私たち、友達なんだよ?」


「前の一ノ瀬なら、迷い無く久世を撃っただろうな」


 俺の乾いた声が、屋上に吹く冷たい風にかき消されてしまう。だが俺には秘策がある。


 おかしくなってしまった一ノ瀬を元に戻す方法、それはただ一つ、新羅(しらぎ) (ゆずる)を殺すことだけだ。


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