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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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今回は間に合った!


京屋敷にいた面々は急いで町奉行所へ走った。

町は、ところどころにバラック小屋が残っていた。

昔、官庁街だった場所には巨大寺院の本堂みたいな建物がいくつか建てられている最中だった。そのあたりを中心に新しい商店も建ち始めている。国民政府の関連施設になるという。


町奉行所の門前には人垣が遠巻きにできていた。三郎たちは人垣をかき分けかき分け最前列までたどり着く。門先には変わり果てた幕府の役人が晒され、暴徒は興奮した様子で騒いでいる。

役人の中に三郎の見知った顔があった。顔見知りかは重要ではない。ここは戦線ではないし、奉行所の役人はほとんどが地元の人間だ。奪うだけなら殺さなくたっていいじゃないか。

三郎は梅若に言った。「私の感じる憤りは、覚悟がないからでしょうか。」

あっけに取られていた梅若が我に返り、ぎりぎりと唇を噛んだ。梅若は視線を移すことなく、隣の信徳丸に話かける。

「ねぇ、信徳丸。僕たちは、大将の傍に置いてもらえなかったけど、どうしてだと思う?」

「そりゃ、お前、俺たちのことを誰よりも信頼しているからだろう。」信徳丸が梅若を見る。

「そうだよな。本拠地を任された僕は、信徳丸より信頼されてるってことだよな。」

「は!?何抜かしてんだよ。京都の方に切れ者が必要なだけだろ。」

「ハハ、そういうことか。」梅若は寂しそうに笑った。それを見た信徳丸が言う。

「俺は、お前が奈良にいることで、安心して京都の仕事に専念できた。」少し照れている。

「ありがとう。信徳丸、八千流、ちょっと力を貸してくれないか。」

「「当然!」」

三人は、三郎を残して、さっと散って行った。

少年団は同時に神々を召喚する。

「太歳八神 天乙太白 日月星 堅牢地神 五竜王 殊仁波十二冥道 天神地祇八百万神 我等に力を!」

若草色の光の柱が五本伸びた。うち二本の根本には傀儡がある。有らん限りの力でめいっぱい呼んだので、光の柱が天に届いた瞬間、辺りは眩い光に覆われ、誰も彼も目が眩んだ。

(たちまち)明神 冥助を垂れ 万邪を退(しりぞ)け 禍を除き給え

 鬼は神とまみえること能わず 凶悪は消え 不遇は永久に滅し 喜祥集いて ×× ××」

呪詛が始まり、光は檻を作り、棺となり、暴徒を押しつぶそうとする。

真っ白な世界で、呪文は間断なく続いた。

梅若は暴徒に向かって話しかける。

「ねぇみんな、人々が怯えているのがわからないか?

僕等がしたいことは、人々から怖れられることじゃなくて、受け入れられることだろう。みんなの有り余る力は人々から感謝されることに使おう。そうだ、僕と一緒に東海道の戦線に行こう!

そっち側に敵をいくらか引き付けて、国民軍本隊を戦い易くするんだ。どうだろう?」

梅若は呪詛を続けながら、相手の反応を待つが、なんの答えも返ってこない。

「なんで誰も何も言ってくれないのさ。」梅若が不服そうにぶうたれた。

信徳丸がすかさず突っ込んだ。「当たり前だろ!」

白い世界が雪崩を打って壊れ始めた。

視界が戻って来ても目が痛い。

京都の頭は大の字に寝転がって、解放感に浸る。「兄ちゃんたち、上手だな。」

「そりゃぁ、僕等も命懸けですから。」梅若は苦笑した。

「僕と一緒に来てくれますか?」

梅若は頭に手を差し出す。頭はその手を握った。


みんなで役人のお墓を作って手を合わせて、武器と金子は貰っていく。

梅若が三郎に言う。「どうせ取り返しはつかない。せめて有効活用させてもらうよ。」

それから信徳丸に向かって、「危なっかしいから全員まとめて連れて行く。道々仲間を集めながら、楽しくやるさ、大将のことは頼んだ。」

「おぅよ。」

「あーぁ、行きたかったなぁ大将んとこ。」梅若はがっくり肩を落とした。

「いいだろう、代わってやんねぇ。」新徳丸は意地悪く言ったが、梅若のしょぼくれ具合に可哀想になった。

「――― お前しかできない御役目だよ。」

二人は笑い合って再会を誓う。

「「必ずまた会おう!」」

梅若は陰陽師等を率いて京都を発った。


京屋敷に戻って

信徳丸がぼやく「あいつ、手勢を根こそぎ持って行きやがった。」

「大丈夫!私がいるでしょ?」と八千流が自分の胸を叩いた。

「戦場に女なんて連れて行けるかよ。」勘弁してくれよ。信徳丸の目が死んでいる。

「は?少年団に男女の区別はなかったはずだけど!」

「それはそれ、これはこれ。足手まといになるだろ。」

八千流がぐいっと信徳丸の胸倉を掴む。

「は?いつ私があんたたちの足手まといになったっていうのよ。銃の引き金くらい、女だって引けるわよ。姫様を取り返すんなら、私は絶対に役に立つから!」

「いや、だって心配だろ。一応女なんだから、不名誉な目にでも遭ったりしたら嫌だし・・・。」顔をそらしてモゴモゴと言う。

八千流は嬉しそうに胸倉から手を放す。

「私にも守る名誉があったか。平気よ、いざとなったら、これがあるから。」町奉行所から持って来た刀を見せた。

「なんならこれもあるし。」胸から小さな印籠を取り出して中身を開けて見せた。中には粘っこい茶色い何かが入っていた。信徳丸はこれが何か知っている。少年団特製の附子毒。

「匂いを嗅いだら目がチカチカしたから、まだいける。ところで、これってどうやって差すの?」八千流は解けた刀の下緒をぶらぶらさせて聞いた。

信徳丸はため息をついた。「もう、俺が大将に叱られるじゃないか。」

そう言うと奥へ引っ込んで、自分の筒袖に段袋の袴、短刀と小銃を持ってきた。

八千流は別の部屋で着替えをする。戻ってきて刀を袴の帯に差し込んだ。それからどうするの?と言うように下緒を持って信徳丸を見る。そうじゃないし。信徳丸は八千流を抱きしめた。

「本当に来るのか?」

八千流は一瞬目を白黒させたが、信徳丸の背中に腕を回す。

「行くよ。また置いて行かれるのは嫌なの。」少年団は、八千流をおいて薩摩に行き、そのまま国民軍に参加し、奈良に戻ることはなかった。

「俺たちが大将のところに行っても何の役にも立たないかもしれない。」

「私たちは私たちなりのやり方をすればいい。どうせそれしかできないんだから。」

「戦場では守ってやれないかもしれない。」

「わかってる。」八千流は信徳丸の背中を優しくとんとんと叩いた。それでいいんだよ。

信徳丸は八千流を放す。二人はバツが悪そうに笑いあう。信徳丸は誤魔化すように、八千流の腰から刀を抜き取る。

「扱えない武器なんて持つもんじゃない。」代わりに懐刀を渡した。

それから銃の構造と撃ち方を教える。

三郎も一緒に勉強する。三郎は与力時代に触っていたので、思い出し作業になる。

座学のあと、洛外に出て試し撃ちを数度した。あとは旅ながら復習することにする。

明朝には京を発つことに決めた。

めっちゃたくさん神様召喚してます。人間の数が足りないので、神様の数で勝負。八百万+星の数ほどおいでになりました。

清子は初期で4柱で、最近は誰も召喚しません。呪文もただの光牢です。どうでもいいか。

これらの神様は、とある一つの都文(土御門陰陽道の祭文)からとってきているんですけど、殊仁波って?ですよね。殊仁で須弥(山)かなと思い、仁波で岡仁波斉(山)(カイラス)かなと思い、カイラス山は須弥山だと言われているので合体したのかな?とすると読み方はシュニラ?などとあれこれ想像します。須弥山は仏教で12冥道神は道教でしょ。あなた方の泰山府君は泰山にいるんじゃないんですか?

12冥道神とは言っていますが、泰山府君を単体で取り上げることは、土御門家の特権です。



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