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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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立ち上がれ、民草よ!


二時間後、陰陽師等が四十人程集まった。帯刀をし、弓をもち、何故か小銃を担いでいる。

三郎が不思議に思い、「その銃はどうしたのですか?」と尋ねる。

「奉行所からふんだくってきた。」

「いつ!?」

「さっき。」

慌てて梅若を見る。

「よーし、お前等よくやった。追っ手がかかる前に出発だ!」梅若は笑いながら言った。

「そんな下手打つかよ。残らず始末したよな?」「思ったよりもあっけなかったぜ。」一同に笑った。三郎に蘇る襲撃の記憶。

梅若は動じない。「上々だ。しかし人のすることに絶対はない。即刻京都に出発だ!」

「「「「オー!!!」」」」


みんなで町中を大手を振って歩いた。道行く人々は物々しい一団に道をあけた。いつもなら、他人が楽しそうに買い物をしている中、道端で居心地悪く場借りしているのに、今は堂々と肩で風を切って歩けた。

豊後橋で月を見上げる。巨椋池の上で上弦の月が白く冷たく輝いている。時折涼しい風が吹いてくる。月は冷え冷えとして、池は黒々として、夜空か水中か見分けがつかない暗闇に引きずり込まれてしまいそうだ。

「昔はあそこに成敗所があったよな。最期にこんなきれいな月を拝めるなんて心が洗われるねぇ。」一人の陰陽師が昔を懐かしんでいる。

別の陰陽師が憎まれ口をたたく。「悔いたところで遅いがな。憐れ明日には首と胴はおさらばさ。」

更に別の陰陽師が戯けて言う。「おお怖、怖くてちびりそうじゃ。」

それを聞いた別の陰陽師が、漏らしそうな陰陽師を追いかける。「穢らわしい、俺が祓ってくれる。悪霊退散!」それがおかしくて他の陰陽師も追いかけ回した。「悪霊退散!」みんなで空騒ぎする。


旅慣れしている一行は驚くほどの速さで京屋敷についた。

みんな流石に疲れているのであっという間に眠りに落ちた。

梅若と信徳丸が何やら話込んでいる。三郎は陰陽師たちの素行について不安を口にする。

梅若が「あなたは何しに大将のところにいくんですか?大将に姫様を取り返してくれって頼んで、あとは高見の見物ですか。士気が下がるよ、覚悟がないんなら帰ってよ。」

「いや、それは・・・。」と三郎。

「じゃぁ問題ないでしょ。」梅若がそっけない。

「だが梅若、手綱は締めないとな。大将の沽券に関わる。」信徳丸が釘をさす。

「わかってるよ。」口を尖らせた。本当は突かれたくない頭痛の種。


翌朝目を覚ますと、陰陽師たちがいない。

信徳丸が朝粥を用意してくれた。

「皆さんどちらに?」

「軍資金稼ぎだよ。」信徳丸が言った。

嫌な考えが浮かんで匙がとまる。その様子を見た梅若が憤慨する。

「筮占だったり、護符売りだったり、芸能だったりそういうのだよ。ちゃんと京都の陰陽師に許可をとってする筋の通った商いだよ、何を考えたんだよ!」

いつになったらまとまった金になるのか想像もつかないが、三郎はほっとして粥を口に運ぶ。

「ごきげんよう! 信徳丸、勝手に入るわよ。」上がり端で懐かしい声がした。

三郎は振り返る。「八千流ちゃん!」

「旦那様!お久しぶりです、ご無沙汰してます、おかげさまです!」八千流が賑やかに言った。すっかり働く女性が板についている。

「今日は暇なのか?」信徳丸がごく自然な感じで聞く。

「違うわよ。『母が危篤なんです。』って言ってお休みを頂戴したのよ。」

「何で?」梅若が突っ込む。

「は?あんたたちと一緒に行くために決まっているでしょうが!」

ブフッ。ゲホッゲホゲホ。お粥が三郎の変なところに入った。

「どこで知った?」信徳丸が怪訝そうに聞く。

「町奉行所が暴徒に襲われたっていうから、野次馬に行ったら見知った顔が何人もいるじゃない?そいつらとっ捕まえて聞き出したわよ。」

「「「!?聞いてないよ。」」」


早朝の四条河原

奈良の陰陽師たちは、京都の陰陽師たちに、二三日縄張りで仕事をさせてくれるよう頼みに行った。・・・はずだった。

「公儀は儂等に干からびて死ねと言う。儂等がいったい何をした。

 あんた等はこの絵の美人を知っているか?当然知っているよな。ご宗家の姫様だよ。」

三郎が寝ている隙に持ち出した聖母子の絵を掲げる。

「宗家は公儀に力でねじ伏せられて姫様は朝廷に人質に取られた。それから宗家は朝廷に言われるがまま。陰陽寮まで潰されて、本当に涙なしでは語れない。

 その姫様が陰陽師の苦境を案じて御所を脱して奈良においでになり、儂等に実学を教えて下さっていたんだよ。」

「ちょっと待った、なんで奈良なんだよ。おいでになるなら京都だろうが。」京都の陰陽師の当然の指摘。

「それは・・・お前、うちの若様といい仲だからよ。」・・・嘘じゃないね。

「「「おおぅ、そうだったのか!」」」京都人納得。

「それが公儀にバレて、連れ戻されなさった。儂等も学問の大切さがやっとわかってきて、これからって時だった。公儀は儂等からどれだけ奪えば気が済むんじゃぃ!怒った若様は姫様を取り返すべく、戦いに身を投じなさった。

もうすぐ大戦が始まる、儂等は姫様のため、若様のため、そして儂等自身のために立ち上がる。

あんた等はどうする?儂等と一緒に立ち上がらないか?」

「姫さんも若さんも可哀想や。」「一丁やったろかい!」

「「「ワァ―― 」」」

陰陽師だけではなく、興味本位で話を聞いていた其の外の河原者も立ち上がった。

ということで、武器を調達しようという話になり、またしても町奉行所を襲撃する。

京都は国民政府と公儀の二重支配の地になっている。町奉行所は、京都に唯一残る公儀の出先機関で、規模も縮小され、主な仕事は在京不良公家の監視である。

卑賎民が百人程に膨れ上がって奉行所を襲った。わずか30分ほどで、在庁していた役人、奉行を含めた十人ほどが血祭りにあげられた。

京都の陰陽師のボスが役人を門先に並べて演説をぶつ。

「世間は俺たちのことを穢らわしいと眉を顰める。だがよく見てみろ、公儀の方がよっぽど穢らわしいとは思わんか。奴らは自分たちの利益を守るために同じ日本人に銃口を向けている。本当に穢れているのはどっちだ。公儀はそれを隠すために我等を利用しているにすぎない。愚民どもよ、目を覚ませ。

 もうじき国民政府が選挙を行う。為政者を国民の中から国民自身が選ぶのだ。俺たちの、俺たちによる、俺たちのための政治が、今、始まろうとしている。

 ところがだ、この度、公儀は国民軍を抹殺することに決めた。俺たちの希望の灯を消してなるものか、立ち上がれ名もなき者たちよ、そして共に戦おう!!!」

「「「オー!!!」」」

豊後橋は今の観月橋です。巨椋池と浮島と月、綺麗だったでしょうね。

うーん、陰陽師が小難しいことを言いすぎている。陰陽師と言っても、免許状を持っているのはごく一部でその人たちが其の外の陰陽師に仕事を教えていたと思う。護符の作成販売、筮占、暦販するくらいだから文字の読み書きはできたでしょう。でも、それ以上の教養はないと思われます。「人民の、人民による、人民のための政治」って言っちゃってますね。こんなキャッチーな言い回しは思いつかないとしても、虐げられている民草からは自然発生的に似たような考えが浮かんで来るんじゃないかな。

陰陽師が河原者と似たような扱いを受けるのは、穢多村とそれ以外の人々の間に穢れを祓うことができる存在を緩衝材として置いたからじゃないかな。


 考えがまとまらないうちに書き進めると、納得いかない話になってしまうのでそういう時は立ち止まることにします。義武さんの回がそうでした。これから修正をかけていきます、ご迷惑おかけします。

 

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