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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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五人の貴公子

かぐや姫的な何か。

機密掛

「これから第二回人身御供(ひとみごくう)選定会議を行います。

前もって伝えてありますが、大樹公の希望により御供は徳川一門から選出します。

関さんの推しは誰ですか。」

「はい。私は田安家達殿です。理由は水戸系でないことです。大樹公に忖度してみました。」関さん、はっきりものを言いすぎです。関白殿下は、血の承継が済めば御供を戦地に送ることに決めている。

「水戸は止しますか、あれは修羅の国ですから。穏やかな人柄がよいでしょう。」

忖度、忖度。

「坂下さんはどうですか。」

「私は尾張系の松平義武殿を推します。売りは前京都守護職さんの実弟ということです。前守護職さんは主上のお気に入りです。」

遷都により京都守護職は廃された。西国統治の軍事機能は大阪城代が果たしている。容保は会津へ帰って養子に家督を譲り、病気療養中である。

「あぁ、前守護職さん繋がりとなれば、巫女様も気に入るかもしれませんね。」

「では、知立さん。」鳴海の代わりに入って来た新人。

「私は越前系支流から松平直春殿がよいと思います。理由は前越前藩主の推しだからです。あの方の人を見る目は確かだと思います。」

「春嶽殿か。正論を言うだけなら誰でもできます。」

「土山は、久松系の松平勝元殿を推薦します。老中の伊予守様の弟君です。きっと英邁です!」

「あー、御供に英邁さは微塵も必要ありません。」殺処分です。

「あと出てないのは越智系松平ですね。茂武殿はどうでしょう?」と石部。

第二次征長時の浜田城落城の苦い記憶が蘇る。

「事柄の性質上健康体を望みます。」

「病弱なのは現藩主の大樹公の弟君です。茂武殿は前藩主の子です。」


「で・・・これからどうしたものか。」大輔は言った。

「とりあえず、写真か肖像画を巫女様にお見せしてはいかがでしょうか。」

「御乱心なされたらどうする、書記、石部の発言だと書いておくれ。」

「お言葉ですが大輔様、我等の任務は何であるかお考え下さい。避けては通れないことがあるでしょう。」石部が反論する。

「そうです。考え得る選択肢の中で成功率が高く、穏当な方法だと思います。」

「わかった。関も同意見と記録しておくように。」

一同ため息をついた。


内侍所

睡蓮は、清子の前に御供候補者の肖像画や写真を五枚並べて、一枚一枚つらつらと人物説明を始めた。

「・・・・・」

「はい。この中で旦那様にするならどの殿方がよろしいですか?」真顔で聞く。

「!?」清子は面くらう。

小萩が目を輝かせて絵写真を眺める。「なかなか見目麗しい貴公子ばかりではありませんか。いいなぁ羨ましい。」

「なんで?私は巫女だし、ずっとここで過ごすんでしょ?」清子は言った。

「殿方がこちらに移ってこられるのですよ。実際は別に御殿を用意するのだと思いますが。

だいたい、大御神さんは子持ちの女神なんですから、私たちばかり結婚できないなんておかしいのよ。」小萩が楽しそうに言った。

「小萩、口を慎みなさい。大巫女様のお仕事は血統を残すことでございます。大巫女様はこんなにも若くて美しい。獣は沢山子を産むものです。きっとすぐにお勤めを果たされることでしょう。」

風がざっと吹き込んで、絵写真が散らかった。

「左様か。好きなようにせよ。」



困った機密掛は、御簾越しに対面の場を設けた。

御供候補たちは自由だった。

「年増。」とお子様に言われ、

「美姫?」不躾に御簾を持ち上げられ、

「見返りは?」と要求されて、御乱心。

・・・お年頃の間違いでしょう!

雲間放電が始まり、大輔はお見合いを中止せざるを得なくなった。

問題は御供にだけあるのではない。事が事だけに、詳しい事情を伝えられなかった点にもある。

それから何日も小糠雨が降り続く。

大輔の首は繋がっている。事前に、今回は少々荒れそうですと神祇官と関白殿下に申し出てあったし、御供候補たちの無礼な態度も報告してある。しかし現状を改善しないわけにはいかない。

大輔は内侍所へ巫女様の様子を聞きに行く。

「ふさぎ込んで食も細くなり、見ていて可哀想です。」小萩は涙ながらに話した。

大輔は胸をうたれる。己の保身ばかり考えている自分と引き換え、なんて優しいのだろう。まるで菩薩。

どうか罪深い私を救ってください。

大輔は厠に立つ。少しして小萩がやって来る。

大輔は小萩を厠に引き込んだ。


厠から一人立ち去る小萩を睡蓮は呼び止める。

「小萩さん、獣の鳴き声が聞こえませんでした?どこに隠れているのかしら。」

「あら、御免遊ばせ。私ちっとも気づきませんでした。」小萩はそそくさと立ち去った。

「白々しい。」睡蓮は笑った。


睡蓮が話したのか、他の誰かが話したのか、その日の内に小萩のことは内侍所女官全員に知れ渡っていた。清と穢、軽蔑と羨望が入り乱れ、内侍所以外には漏れなかった。



大輔は対処に困って、神祇官に相談に行く。神祇官も困って関白に取り次いだ。

関白は考える。男の側からしてこの結婚は得か損か。

男はいずれ処分されるが、これは隠しておけばいい。城持ち大名にはなれないけれど、金の心配はいらないし、美人妻だ。今時城持ち大名なんて苦労ばかりなのだから、話し方次第ではないか。

これは事前の根回しの問題だ。関白は昔の誼を頼んで前守護職に手紙を書いた。

前守護職は清姫のことを殊の外憐れんでいた。


しばらくすると松平義武から清子に贈り物が届くようになった。

因みに御簾をまくり上げた野蛮人からも贈り物は届く。取り次ぐことはない。

機密掛は当面のところ前守護職の弟に期待することにした。

小糠雨は止まない。


小糠雨ですからね。降っているか降ってないかわからないやつです。

修羅の国。水戸は天狗党の後遺症をかなり長く引きずります。これは酷くて、耕雲斎の息子の復讐が始まります。水戸学や弘道館を賞賛するからにはこの歴史も弘道館で紹介されていることでしょう。水戸学の学派争いと天狗党は切り離せません。

田安は勿論16代様を、容保の弟は義勇よしたけと言って借用しました。その外は不存在です。義勇てまたアレな名前です。美濃高須藩主。大人ですが早世です。病弱で隠居も早く、これから展開する義武の話とはるで違う人物です。高須四兄弟は五兄弟だった。

 ところでお前は何の話をしているんだ?ロクな人間がいないんだけど。四章は、ほぼ創作で陰陽道の滅びについてです。前話の晴雄が養子をとったのは事実です。それにより晴明公のY染色体はこの世から消滅しました。私は3ミリ以下のものには気付きません。

美濃高須藩は岐阜県です。美濃と尾張と桑名の境にありました。

ただ容保は少年時代までは江戸詰めなので、みゃーみゃー言わないし、ずーずーも言わなかったと思います。幕府の施策です。


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