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幕末京都の御伽噺  作者: 鏑木桃音
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新政府




第二次禁門の戦いは、幕府軍に江戸からの増援が来たことにより勝敗が決まった。

援軍の進軍速度は思いの外速かった。

 将軍は、フランスから軍事顧問団を招聘して軍隊の近代化を図っていた。幕府の旗本常備軍はすべて銃隊に再編成されている。そして幕政は、譜代大名で構成される幕閣が後景に退き、小栗忠順(ただまさ)、栗本(こん)、平山敬忠、山口直毅といった有能な親仏派軍事幕僚が支えていた。

 薩長軍は慌てて退却を試みたが、大坂から来た幕府軍と山崎及び鳥羽・伏見で交戦となった。伏見では、追い詰められた薩長兵が奉行所に立てこもり、幕府軍がこれを取り囲んで、高台の御香宮から激しく砲撃を浴びせた。薩長兵は、あるいは自刃し、あるいは無謀な特攻を試みて銃弾に倒れた。

将軍率いる幕府軍には、錦の御旗が翻っていた。


京はまたしても焼け野原になった。

主上は落涙し、江戸への遷都を決めた。


幕府は、火事で消失した江戸城の本丸跡地に御所を造営し、将軍は西の丸に入った。

ここに真の公武合体がなり、江戸は東京になった。


第二次禁門の戦いは、征夷大将軍の面目躍如となった。

しかし将軍は、政に諸藩侯との合議制を取り入れることを決める。何故なら、将軍は既に知行宛行(あてがい)権を喪失しており、征夷大将軍というだけでは人々を従わせることができないからである。歴代どおりにしたくても決してできないと覚悟した。

将軍が採った政権運営方針は次のとおりである。

①朝廷の権威を前面に押し出す。

②国の意思決定機関として公議所を設け、参加者を議奏、武伝、関白、国事御用掛、諸藩侯とする。議長は将軍。

③行政部門(幕府)の近代的合理化を進める。


 賢い将軍は、第二次禁門の戦いが下級武士や下級朝臣の権利獲得運動の結果であることを理解している。また、諸藩侯以下にも優秀な人材がいることも理解している。しかし封建支配層以外の者に公議参加資格を与えれば封建制度は壊れてしまう。そして、今の公儀の求心力を客観的に推し量って、それらの勢力を取り込まなくとも諸藩侯の支持があれば国家権力を維持できるとの判断に至った。


 心配なのは②である。諸藩侯に公議所への参加を要請しても誰も出席しなければ、新生公儀の権威に傷が付いてしまう。

 そこで将軍は、先の戦争責任としての薩長処分を利用した。罰として、薩長に形式上版籍奉還をさせ、その軍を名目上御親兵とさせた。その上で藩主を知藩事にして公議所への参加を要請した。戦犯者に公議所参加資格を与える、思い切った寛大処分である。幕府が変わったことを諸藩侯に知らしめるには十分な効果があると思われる。

 さらに、第一回公議の議題を、国政運営費についての各藩の金納負担とその負担割合とした。

幕府は声を大にして言いたい、国政に口を出すなら金も出せ、権利は義務を伴うのだ。

 第一回公議所の諸藩侯の出席率はよく、国政運営費の負担は、とりあえずは知行高に応じることに決められた。同時に、全国で株仲間を廃止し殖産興業を奨励し外貨獲得に励むことと、参勤交代の廃止が決められた。

 金納負担は、米本位制度からの脱却を促し、各藩で徴税方法が金納に変わっていった。金納は作物の出来不出来に関わらず一定額なので、農民は税を加重されたことになる。農民の不満が藩主に向いた。

 殖産興業の奨励は藩の貧富の差を広げることになる。

 幕府に支払われた負担金は幕領での殖産興業に注入された。幕府としては日本国のためを思ってしていることであるが、他から見れば幕府ばかりが利益を得ているように見え、不満を持つ藩が現れた。負担金を払わない藩は公議所参加資格を奪われる。幕府は負担金を払わなくても、幕命に従っていれば、それ以上の問題とはしなかった。しかし公議所参加資格を奪われた藩の被支配者層は自分たちの代表(?)を国政に関与さられないことを不満に思う。

 多くの藩が、下級藩士の下剋上と重税に苦しむ民衆の暴動に悩まされる。中には政権を奪われる藩も現れる。幕府はそうした藩に派兵する。平定後は朝廷の直轄領とし、幕府から知藩事を派遣する。派遣された知藩事は幕僚であり、公議所参加資格はなかった。

 いつまで経っても、戦の火種は尽きることがない。



――― 果てしなく広がる殺伐とした()



常娥(じょうが)(月の女神)は、夫が手に入れた不死の薬を、こっそり全部飲んでしまいました。すると体はみるみる軽くなって浮き上がり、月まで昇って行ってしまいました。

常娥は、今も、月の御殿で一人きり。無辺の天空を眺めながら、自分のしたことを深く悔い、帰りたいと泣いているのでした。


「ねぇ?常娥は、どうして不死の薬を独り占めしてしまったのかしら。」


「さぁ?夫を困らせたかったとか。」


「夫の気を引きたかった女心?

 こんなことになるなんて、思いもしなかったでしょうね。


                         ・・・お馬鹿さんね。」







今回はanother worldの説明回です。

明治維新は民主主義の最初の結実です。

幕府では明治政府がしたような抜本的な改革を断行することは、なかなか難しいでしょうね。

やはり廃藩置県(強力な中央集権)はしたいだろうと思います。

 お誂え向きに江戸城が火事で焼けています。神のサイコロ的にはこんな展開もありだったのかもしれませんね。

 常娥は中国の月の女神です。道教で神様になっています。道教の不老不死を求めるので、陰陽道の現世利益を求めるところと通じます。陰陽道は道教の影響を受けています。常娥の夫は太陽を射落とした男です。設定が格好良しです。日本の神話伝説とはスケールが違います。

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