第二十五話 自分は主役を選んだ
僕は二択で追い詰められている気がする。主役になるか、このまま創作者になるか。さて、僕にはどちらがふさわしいか。どちらになりたいのか。
皆が僕の回答を待っている。それは、期待なのか失望なのか。昔の僕なら考えていたかもしれない。
この数日で、確実に自分のなにかは変わっている。この世界の一人のキャラクターとして、生きているような気がしているのだ。まあ、勘違いならそれはそれとして。
創作者というのは、最終的な願望として二つ存在すると思う。本来入れないはずの自分を無理やりねじ込んで、世界に入りたいという欲求。
もう一つは、自分が望む世界を見たいという欲求。どちらにしろ、その世界さえちゃんと見れれば、何も問題ないのだ。……と考察している。
つまりだ。僕が無理やりここで創作者になる必要性はあまりない。確かに、ここを作りあげたのは僕だから、ちゃんと結末まで作りあげるのが筋だろう。
でも、僕は他の人と違い、それを”体験”という形でここにいる。
その機会を棒にふるうのはどうだろうか。
しばらく、そんな感じで考えていると、ルマがぽんと肩に手を置き、静かに言う。
「そんなに悩まなくていいんだよ。どっちにしても、返してもらえると思う。それに、僕たちはどっちでも。創作者さんと居れたらそれでうれしいよ。」
なになに、この人。急にうれしいことを言ってくれるじゃあないか。びっくりしたよ。
さらに僕が沈黙していると、風馬がなれなれしくいってきた。
「お試しでもいいからさ、誰かに頼ってもいいんじゃないかい?」
風馬は僕の肩に腕を回してそういった。距離感近いし、何なんだこいつ。かっこいいじゃないか。流石、一軍の陽キャ様だ。
さて、そんな暇はない。僕らはまだ掃除を終えていないし、これから街へ行きたい。
だから、決めよう。今ここで。
僕は何になりたいか、この世界で。
「……お願い、風馬。僕らの物語を書いてくれ。」
「……おう。」
僕は、懐からあのノートを取り出した。それを恐る恐る渡す。なんだか、目を合わせるのが難しい。現実と架空とで分けてしまっている。よくないことだ。
そのノートを渡す手前、ふと思い出した。
僕がこの世界にいる理由って、責任をとれって話だったよな。この方法でもいいのだろうか?
「えと、そういえば皆さん。僕に責任をとれってことでしたが、この方法でもいいんですか?」
ダメと言われたら即行断る。うん。僕は約束は守るタイプだ。いたずらはするが。
四人は顔を見合わせて、最後に僕を見た。そしてにこっと笑みを浮かべて言う。
「別に構わない。」
「おう!俺はあんたの意思に従うまでだ。」
「ええ。私は元からそのつもりよ。」
「うん。」
あったかい。ここは我が家かもしれないと錯覚するほど暖かい。思わず涙が出そうだ。そんなことはないけど。
僕は小さくうなずき、そのままノートを風馬に手渡した。
風馬受け取るなり、何のためらいもなくページをめくる。そして今の物語を確認するなり、にかっとわらった。
「よし、頼まれたぜ。じゃ、俺はこの辺で。明日からちゃんと動くと思うから任せてくれよ。理人?」
「ああ。」
彼が、どういう理由でこの世界に来たのか。本当の目的は何なのかは知らないが、ひとまず”頼る”ことにした。この行動が、今後どのように働くかはわからない。これは賭けである。ギャンブルである。それも、自分の命がかかった大きな賭けだ。
しばらく、僕ら五名はここで立ち尽くしていた。なんとなく、この森に流れる風に身を預けたくなったというべきか、今の状況を整理したいというか。よくわからない。
僕は本来、主役よりも傍観者になりたいはずなのに、この異世界ではどうにもかなわないようだ。
そしてみんなはそれを受け入れて、同じく立ち尽くしている。
「てか、あいつなんだ?フウマ?」
「さっきも言った通り、クラスメイトです。同じ場所で学びを受ける……僕と同じ世界の人間です。ただ、なんでこの世界に来たのか、はたまたどうやって来たのかはわかりません。」
「フーン。」
勇者になるであろう、レオンは疑わしいといわんばかりに風馬が消えた後を睨む。だが、見えない敵もしくは味方に気を遣うぐらいなら仕事に戻ろうと考えたのか、僕の方を見た。
「だいぶ時間を食ってしまった。元の作業にもどるぞ。みんな。」
レオンの一声にアンナ、ケイル、ルマは振り返る。まるでプログラムされたように、だが目の前で生きているキャラクターとして。息をして、動いて、今から掃除をする。……そこだけ本当にファンタジー感が薄いのだけど。
それでも、僕はその一部になったわけだ。今日、このイベントを乗り越えて。
それがいいか悪いかは、未来の僕に尋ねよう。
主役になった気分はどうだい?ってね。
「おーい、リヒト。日が暮れるぞ~!」
ケイルの大きな声で僕の足も自然とそちらに向かった。ええと、とても気持ちがごちゃごちゃしているが、ここでは省いておくよ。
こうして、僕北条理人の本当の物語がスタートするのだった。




