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16.5話 しふれの日記

章終わりには毎回ちょっとした小話でも書いていこうかと思います。

よろしくお願いします。

「……まじか、この子。寝ちゃったよ」


 シフレちんは、ベッドの中で不安気な表情のまま寝落ちしてしまった。

 せっかく、『ネミコ・エニロチコ』という大親友が泊まりに来たというのに。

 ま、いいけど! 別に不貞腐れてなんかいませんけど!


「……ホンットに、シフレちんの頭の中は、リオちんのことばっかだねぇ……」


 うちは、時たま怖くなる――シフレちんの、リオちんへの恋心は、常軌を逸している。

 話を聞く限り、レグナソルテ家とエリオード家がお家同士が仲が良かったこと、リオちんの方が先に生まれていたこと、シフレちんとリオちんはリスドラルークに至るまでずっと同じ学校に通っていること……シフレちんの人生において、リオちんのいない時は無かった。

 だからこそ、怖くなる――もし、リオちんへの想いが成就しなかったとしたら。シフレちんは、果たして正気でいられるのか。


「……大丈夫だよ、シフレちん。さっきはからかっちゃったけどさ。うちも、応援してるから……」


 ……シフレちんにとって、うちはどの程度の存在なんだろう。

 そんな考えがふと過ぎり……それ以上は考えちゃいけない気がして、うちは思考を強制的に他のことへ向けようと、シフレちんの部屋を歩き回った。

 すると、机の棚の中に一冊、やけに古びたノートがあるのが目に付いた。

 背表紙に指をかけて、そっと棚から抜き取ってみる。


「……日記帳?」


 それは、古い日記帳だった。字の痕跡から察するに、シフレちんが小さい頃……多分、まだ年齢が一桁台の頃の。


「……うーん。いくら大親友のうちとはいえ、勝手に日記を読むのはな〜……。いやでもな〜……ちっちゃい頃の日記だし……いいんじゃないかな。うん。いいと思う。よし」


 うちは適当に納得して、その日記帳を読んでみることにした。

 ごめんねシフレちん。この中身は絶対口外しないと約束するので。……シフレちん本人にも、読んだことは言わないことにしよ。


「さてさてどれどれ。読んでいきますか」


 幼少期のシフレちんの日記は、当たり前だけど、今と比べるとだいぶヘタクソな字体と文章で書かれていた。

 流石に原文ママを脳に入れてもなんのこっちゃなので、読み解いて噛み砕いていく。

 その内容が、こんな感じ。


『今日は、リオと遊んだ。昨日はリオの魔法使いごっこだったから、今日はあたしの家族ごっこにしてもらった。あたしがお嫁さんで、リオが旦那さん。くまさん(多分ぬいぐるみのことかな?)はあたしとリオの赤ちゃんってことにした。いつかホントになるといいなって思いながら遊んだ。リオにもいつかホントの家族になれたらいいねって言ったら、リオもホントの家族になりたいねって言ってて、嬉しかった。とても楽しかったです。』


『今日は、リオとお医者さんごっこをした。リオがお医者さんで、あたしが看護士さん。患者さんがいなかったので、近所の猫ちゃんを患者さんにした。いっぱい猫ちゃんを撫でられて、よかったです。』


『今日は、好きな本の新しいやつが出るので、リオと買いに行った。ガンマンウェスタと堕天使レグナの、新しいやつです。新しいやつでは、ウェスタがレグナにキスをしていました。いつもウェスタごっこもリオとするけど、リオは一緒に読みながら、これは流石に恥ずかしいからごっこはしない、と言いました。残念です。』


「……見事にリオちんのことばっかだね。昔っからシフレちん、変わってないんだね」


 うちは、パラパラとページをめくりながら、微笑ましさと苦笑いの混じったような、そんな笑い方をした。

 ホント……シフレちんの人生は、やっぱり、幼い頃からリオちんのことばっかりだ。そしてそれはきっと、今も変わってない。

 ……もし。もしも、リオちんがシフレちんの気持ちに応えられなかったとして――シフレちんは、どうなってしまうんだろう。

 うちは、その最悪の可能性を振り払うように、日記帳のページをめくった。


「……ていうか、小さい頃はやることやってんなシフレちん。一緒にお風呂入ったりしてんじゃん」


 まぁ、幼少期の頃だから、性の区別もそんなについてないだろうけど。

 そんなことを考えて、最悪の事態は考えないようにして、どんどんページをめくっていく。


「わ、この日、凄いね。リオちん川で溺れて死にかけて、シフレちんが人工呼吸で助けてる」


 川遊びしていたら、リオちんが深みにハマって溺れて、呼吸が止まってしまっていたらしい。そこで、シフレちんがたまたま習いたてだった人工呼吸をリオちんに施して、蘇生した……という内容が書いてある。

 この震えた字体に、やけにふやけたページを見れば、何となくわかる。きっとこの日の日記を幼い頃のシフレちんは、泣きながら書いたんだ。もし、リオちんが死んでしまっていたら――その最悪を考えてしまって、怖くなって震えて、泣きながら……。


「……でも、それってつまり、シフレちん、とっくにリオちんとファーストキスは済ませてる……という見方もできるな」


 未来の視点から能天気に、うちはそう呟いた。

 その人工呼吸が、リオちんとのファーストキス(多分)であることもすっかり忘れて、震えながら日記を書く幼いシフレちんの気持ちを笑い飛ばすみたいに、能天気に……そう呟いた。

 ……もしも、シフレちんの恋が実らなかったなら――そんなうちの不安も、こんな風に、能天気に語れる日が来るのかな。シフレちんがリオちんと付き合って、結婚して……そんな二人と、うちもいつまでも仲良くして……そんな幸せな未来が、うちら三人にありますように。

 そんなことを考えていると、いつの間にかうちは日記帳を閉じて、胸の前で抱きしめていた――その時。


「……ネミコ?」


 ……と、突然、頭上から冷たく重たい声がうちを呼んだ。

 うちは震えながら、振り返る……と、そこには、いつの間にやら目を覚まし、日記帳を勝手に読むうちを、それはそれは冷た〜……い視線で睨む、シフレちんの姿が……。


「……シフレちん、ダメじゃんこんな時間に起きちゃ。ほら、早くねんねしな? お肌が荒れるよ?」

「何読んでるの?」

「……日記帳っすね」

「どうして読んでるの?」

「……シフレちんが寝落ちちゃったから……手持ち無沙汰で」

「だから、読んだの? 手持ち無沙汰だったから、友達のプライバシーを侵害したの?」

「……そんな風に言わないでよ。うちとシフレちんの、仲じゃない……」

「親しき仲にも礼儀あり、って知ってる?」

「……うっ、うるさいうるさいうるさい! 『今日はリオと遊んだ! 昨日はリオの魔法使いごっこだったから、今日はあたしの家族ごっこに』――」

「ちょっとコラッ、朗読しないで人の日記をッ!」


 ……この後、割と本気のゲンコツを脳天に落とされて、うちは涙目になりながら、シフレちんの隣で眠りについたのだった。

 ……怒ってても一緒のベッドに入れてくれるシフレちん、優しいね。

 ずっと、ずっと……友達でいようね、シフレちん。

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