19 酒の肴にされました
「頂きます」
軽く両手を合わせて食べる前の挨拶。道具屋夫婦は不思議そうな顔をする。これにも慣れてきた。
バトソンが二人に俺が教えた意味を説明。納得するとしてくれた。恵みに感謝するのは大事です。
ウチとは違い、ご飯が豪勢だ。多分、リリアが来た影響だろうが、孫に美味しい物を食べて欲しいと言わんばかりに料理が並ぶ。
黄色と薄茶色、緑が彩り、香ばしい匂いが食欲をそそるご飯物。おそらく炒飯ではないだろうか。さっそく軽く深さのある小皿へと食べる分だけよそう。ぱらっとした出来栄えだ、絶対美味いやつ。
口へ運ぶと玉子と豚肉ではない。別のお肉だろうか、だがこの油味がある味が懐かしく感じる。少し辛味があるのは胡椒だろうか、この辛味も食欲をそそる。
そもそもここへ来るまで主食はパンだった。こんなに温かい食べ物を食べるのはこの世界に来てだから約三日ぶりくらいだろうか。
まさかこんなに恋しくなるなんて思わず、一生懸命食べていると嬉しそうにおばさんは小皿を差し出す。
「美味しいかい? ほら、山菜の漬物だよ」
「あ、ありがとうございます」
「何言ってんだよっ。漬物なんてババくさいのよりこっちの肉の方がいいだろうが。ほれ、どんどん食えよ」
「あ、ありがとうございます……」
なんか親戚のばあちゃん家に行った時を思い出す。色んな美味しい物食べさせてくれたっけ。
「――んで? どうして遅くなっちまったんだ? リリアちゃんもいるんだ、危ねぇだろ」
しみじみと思い出にふけていると、話は遅れた理由へと進む。
「実はねぇ――」
今日遭遇した出来事を話していく。
「――なるほどな。ぐすっ、リリアちゃんっ……立派じゃねえか!!」
少し鼻をすすりながらも豪快に笑った。
「……ホントねぇ。怪我とかしなかったかい?」
「はい。大丈夫です」
「お母さんの後ろで隠れてたあの頃より、うんと立派になって。おばさん、リリアちゃんならきっと立派な魔術師になれるよ」
「ったりめぇだろ。ホワイトグリズリーを倒したんだろ? なれるに決まったらぁ」
おじさんは酒も進んできたようだ。顔も赤くなっていく。
「ヨッテ、飲み過ぎだよ……」
「うるせぇっ!! これが飲まずにいられるか。リリアちゃんの勇姿に……カンパーイ!!」
このおじさんはヨッテという人らしい。そのおじさんは完全に出来上がっており、酒瓶を突き出すとバトソンは巻き添いにする。
「ほれバトソンッ! おめーさんも飲め飲め!」
「明日に差し支えるから――」
「んだとっ!! リリアちゃんの勇姿を祝う酒が飲めねーってか!」
バトソンさんには申し訳ないと、何とも言えない表情で二人を見て心の中で謝る。
するとおばさんが近寄り耳打ちしてくる。
「こりゃあ長くなりそうだから、先に風呂に入って休んできなさい。バトソンさんはほどほどに抜けさせるから……」
「す、すみません、ご馳走様でした……」
よろしくと軽くお辞儀をするとその場を後にしてお風呂を頂く事にした。
 




