閑話 とある刀のお話
ある日、我は目覚めた。
ここが一体どこで、我は誰なのか全くわからなかった。
ただ一つ分かることがあるとすれば、我は今戦の最中にいるということくらいじゃった。
我を扱う武士は女、戦場におなごがいるなど滅多なことではありえぬのじゃが、このおなごなかなかに腕が良いと思われる。
その様はまさに天下無双一騎当千と思えるかの如く戦場を駆け巡り、仲間を庇いつつ敵の武士を斬り捨てる。
その時の我はなかなかに気分が良かったのを覚えておる。
戦が終わったのち、我の持ち主の女武士は城へと呼ばれ『殿』と呼ばれる者のそばに使える用心棒のような職についたのがわかった。
その後の女の活躍は目を見張るものがあったと思うておる。
殿を暗殺せんとする忍を先んじて斬り伏せ、他国に攻められた時などは先陣を切って敵を壊滅させ殿と国を守った。
その頃には我の意識もしっかりしたものとなり女に話しかけることもあった。
『のう女、何故武士などに身をやつしたのじゃ?』
「さぁてね、随分昔に剣の稽古をつけていただいた道場が他国の武士に攻められた時からだったか。たしかあの頃、私はなんとかしないとと思って道場の中にある入ってはならないと言われてた部屋に逃げ込みやり過ごすはずだったんだが私のなかでなにかが切れてね、皆の仇をとらねばと思ってその部屋にあった刀を手に取って道場に押し入った奴らを斬り殺したのを覚えてるよ。」
『成る程のぅ、それで?、道場の仲間は助かったのかえ?』
「いや、・・・道場の仲間は皆殺しにされてた。結果的に言えば助かったのは私ただ一人だ、だが他国の武士共も皆殺しにしてやった。信じられるか?、私一人だったんだぞ?。その時の私は何かにとり憑かれたかのように敵の斬撃を交わし、受け流し、そして切り捨てた。」
『達人の如き話じゃな、で、その刀は今何処に?』
「何言ってんのよ、アンタだよ相棒。」
女はそういい笑顔を浮かべた、だがその笑顔には悲しみが見え隠れしていた。
その後、我と女は戦場へと出陣しつづけ味方を助け、敵将を打ち取り、そして国のために戦い続けた。
そんなある日、殿が女にこう言った。
「お主のその刀、名のある名刀と見るが、ちと我にみせてはもらえぬか?」
女は二つ返事で我を殿に見せるために抜き、殿へと渡した。
それがきっかけとなり殿に異変が起きたのじゃ。
「ほほう、これは中々良い・・・・くっ、うがぁぁぁぁあああああ!?!?!???」
それは突然だった。
我を手にとった殿は苦しみだし、目が血走りまるで獣が如く声を上げ、女に斬りかかった。
「と、殿!、いかがなされた!?、お静まりくだされ!!」
「ウゥウウ、ガァァァァァアアアアア!!!!」
すぐに何事かと家臣達が集まり殿を抑えようとする、だが修羅の如く殿と呼ばれた人物は我を振り回し、取り押さえるために迫る家臣たちを斬り捨て始めた。
女はその様が恐ろしくその場から逃げることにしたようだが殿はまるで元の優しげな表情はなく、ただ目の前の獲物を狩るが如く悪鬼の形相をして女を追いかける。
家臣も様子がおかしいと思い城お抱えの陰陽師へと相談した、その時に判明したのが『殿が持っておる刀はなんだ!?、誰が渡した!!』
陰陽師はそう言った、渡したのは殿の横にいつも控える女であると、その女がいつも使っていた刀であることを家臣は話した。
「その女になにか変わったことは!?、何もなかったのか!?」
「女は特に何もなかった、何故そのような事を聞くのだ?」
「あれは『妖刀』だ!!、あんな物を持てば気が狂って当然じゃ!!、あの刀を殿から引き剥がさねば殿はあのまま妖刀の妖力に呑まれ『あやかし』となってしまうぞ!」
『あやかし』とは魔物のようなものでの、邪悪な力を受けすぎた物が化物と成り果てた姿を総称して『あやかし』と呼んでおった。
女はその話を聞いて殿を助ける為か近くにいた家臣の刀をとり殿へと向ける。
「殿、申し訳ございませぬ。この失態、我が命にかえててでもお助け致す!」
そういい殿へと斬りかかる。
だが殿はその鋭き剣閃を軽々と受け流し反撃する、だが女も手練の武士、この二人の戦いは激しさを増し二日間続く事になる。
その激しさについてこれる家臣はなく、陰陽師も何か結界のようなものを張っている。
そしてその戦いは唐突に終わりを告げる。
殿の体力が尽きたのだ。たとえ『あやかし』のように強大な力をもってしても元の人間はあまり強くなかったということだ。
女はその隙を見逃すことなく、流れる動きで我を持っている腕へと斬りかかりその腕ごと我を弾き飛ばした。
その瞬間、殿は気を失い倒れた。我はその場へと突き刺さり、女が駆け寄り我を取る。
「女!、その妖刀を離せ!!、その妖刀は人間には過ぎたものだ!」
「ならぬ!、こいつは私と生を共にした相棒だ。こいつは私が管理する。」
「たとえお主が管理したとてそれは妖刀、お主とて無事ではすまぬぞ!、それに此度の落とし前はどう付けるつもりじゃ!」
陰陽師は我を妖刀と呼ぶ、そして人間には過ぎたものだと、封印するべきだと言っておった。
だが女も引き下がらない、なにせ我は女の仲間を斬った武士を斬り捨て共に戦った友なのだから。
「落とし前か・・・、いいだろう、なら私の右腕くれてやるわ!」
そういうが早いか女は我を使い自身の利き手である右腕を即座に切り落とした。
『女!』
「ふっ、許せよ友よ、これは私の失態だ。」
『なれば妾もお主に力を貸そう、友に死なれては悔やんでも悔やみきれんからな。』
「そうか、助かる。」
女が切り捨てた腕へと我を突き刺し、陰陽師へと差し出す。
「これで落とし前はつけたぞ!、これ以上私に関わるな!」
「いいだろう、だがこの城、この国にお主のいる場所はないぞ。」
「殿にこのようなことがあったのだ、私は明日にはここを出ることにしよう。」
我は刺さった腕から血液を吸い取り、寄生を使い女へと戻す。
刺さった腕は瞬く間に枯れ果て、腕がなくなった肩口、開いた傷口は我の力で止血した。
これで女は死にはしない。
翌日我を持った女は城を出て流浪の用心棒として過ごした。
各国を周り、時には戦場へと雇われ、ある時は店の用心棒、ある時は山賊から村を守った。
そのようなことを続け、早10年が過ぎたそんなある日、ある噂が耳に入る。
『村の近くの山には『帰らずの穴』と呼ばれる洞穴があり、その中に入った者は帰ってこず、この世ではないどこかへと連れて行かれる』
という噂だった。
女はこの世に未練はないと思っていたのかその洞穴を見つけ出し中に入っていった。
『こんな怪しげなとこに入ってよかったのかぇ?』
「構わないさ、どうせこの世に未練はない、唯一ある未練といえば友であるお前を別の者に託せなかったことくらいだ。」
『ふっ、言うではないか、我が離れればお主は力がなくなり死んでしまうぞ?、その肩の傷とて我の力で抑えているのだから例外ではないぞ。』
「言っただろ?、この世なんかに未練はないさ、もし噂が本当で、この世ではないところに行けたのならば、その時にまた考えるとしようではないか。」
女と話している間に洞穴の出口が見え始めた、おかしなことだが洞穴には出口はないと聞いていたためにその出口の光は異様な感じがしたものだ。
洞穴を出るとそこは山ではなく森の中だった。
周りには特に何かあるわけではなく普通の森に見えた。
「何ら変わらない普通の森のようだな。」
『ただ単に洞穴を通り山の反対に出ただけじゃないのかえ?』
「ふむ、なら噂は噂だったということか。」
そう言いながら女は後ろを振り返って驚いた。
先程、洞穴の出口だと思いそこから出てきたはずが、見れば後ろには壁などはなくただの崖があるだけだった。
相当驚いたものじゃが女はあまり気にしていないのか「噂は本当だったみたいだねぇ」などと言いながら何処ともわからぬ場所を歩いた。
しばらく歩くと村のようなものが見え始める、だがそこにいたのは人間のような者達だった。
人間のようで人間ではなく、髪は金色、耳は長く目は翡翠のような色をしていた。
だが言葉は伝わるようである。
ひとまずこの村に泊まることにした、そしてその夜、女は死ぬことになった。
夜遅くに村の外に『あやかし』のような気配を感じた。
女と外を見れば外には異形の化物、鬼とも言えるような見た目、力強い4つの腕、かなりの強敵ながわかる。
その化物が村へと向けて10体程で歩いてくる。
女はすぐに宿から飛び出し化物と対峙した。
化物の攻撃をいなし、受け流し斬り付ける、だが化物はいくら切られても死ぬ様子が見られない。それどころか仲間の化物が集まりだんだんと劣勢になっていった。
だが女は諦めず、感情を殺し、修羅のように戦い続けた。
化物と戦い続けどれほどだったか、村人がその異変に気がついた。
だが気が付くのが遅すぎた。わが友である女は既に消耗仕切っており最後の化物を倒したところであった。
女の周りには30を超える化物の死体、そして血にまみれた女。
村人は感謝した、あなたがいなければこの村は壊滅していたであろうと、だがその言葉は女には届いていない。
女の意識は限界であった、血を流しすぎ、もう立っているのがやっとの状態だった。
村人に何か言われているがもう聞こえない友の声ももう聞こえない。
女は自分の最後を悟った。だが最後に友に唯一の未練だと言ったことを思い出し声を絞り出す。
「誰でもいい!!、誰か!、私の願いを聞き届けてくれ!、この妖刀を私の死んだのち、誰かへと、相応の力のある者へと渡してくれ!、頼む!!」
そう叫ぶと女は倒れた、そして最後に我と会話する余裕がでたのか、はたまた最後だからこそ我と話せたのかこう言った。
「あぁ、わが友よ、すまない。お前を誰かに託すことができなかったよ・・・」
『なにを言っておる!、まだじゃ!、まだ倒れるには早いじゃろう!、まだここに来たばかりでなはいか!』
「友よ、もうお前の声も朧げにしか聞こえぬ・・・、最後に我の願いを聞き届けてくれ・・・」
『最後などと言うな!、これからも共に旅をするのじゃ!!』
「友よ、私の血を、魂を、全てを吸い付くし、お前の糧としておくれ、お前と離れるのは寂しいのでな・・・、死ぬるとて、一人は寂しいものだ。せめてお前の中で生きさせてくれないか・・・」
もう女に喋るだけの力も残ってはいない、だがその目は今でも覚えている、あの信念の籠ったまっすぐな眼。
我は女の願いを聞き届けた。
『・・・わかった、我が友よ、今まで楽しかったのじゃ、いつか、また会う事があれば、また戦場を駆けようぞ!』
「あぁ、そうだな、ではさらばだ、わが生涯の友よ・・・」
そういう女を我は全て、血を吸い、魂を吸い、肉体を妖力へと転化し、吸収した。
その後村人は女のことを村の守り神として語り継いだ。
妖刀は村にいた僧侶の力で運ばれ、ある国の宝物庫へとしまわれる事になる。
その妖刀は宝物庫へとしまわれると同時に眠りについた。いつか、いつかまた、あの女のように我と共に戦場を駆け、その力を振るい、民を守るような、そして共に旅をし、友と呼べる、そんな者が現れるまで眠るのであった。
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・・・
・・・・
ある時、宝物庫にある者が来た。
その者からはなぜか邪悪な力を感じた。だがその中に信の通ったようなしっかしした意思を感じた。
そしてそいつから何かが流れ出した。懐かしいあの感じ、暖かな友の、懐かしきあの感じ。
それは我の元へとたどり着き我へと染み込む、嗚呼、これは血だ。
懐かしい、友に似た血を感じる。
そしてその手に握られ、力が流れ込んで来たことで目が覚めた。
『ふわぁぁああああ、久方ぶりの血じゃな。一体誰が我に血を吸わせたのだ?』
「おわっ!?」
我を持っているのは若き男、だが見た目がなかなかに奇抜じゃな。
黒い布でできた服、当時南蛮から来た者が来ていた服に似ていると思った。
にしても、我を持っても何ともなさそうであるな。
他に二人ほど見えるが何か話しているようじゃな。
『んん?、お主が新たな持ち主かの?、我は妖刀・・・はて、名前は忘れたのう。なんじゃったかな?、ここで眠って早300年、誰も我に近寄らんから全く面白みがなく眠りこけていたらいろいろ忘れたのう・・・』
「な、なぁ、こいつなんか喋ってるんだが・・・」
やはり我を持っても何ともなさそうじゃな、ん?、女が我に手を伸ばしてきおった。
その女が触れた瞬間、この女からはいい知れぬ恐怖、狂気、怖気が襲った。
この女はやばい。
女は「これは面白い」などと言ってニヤニヤ笑っておる、恐ろしや。
だがこの男はなかなかに面白そうである。この雰囲気も懐かしい。よし此奴に決めた。
『なかなかいい男っじゃないかぇ?、決めた。我はお主について行くことにする!』
そして男に寄生した。やはり我に寄生されてもなんともないとなるとあの女の生まれ変わりか、もしくは相性がいいのか。
まぁこのまま腐るよりもこの男についていった方が面白そうじゃ。
そして我はこの男、『義仲 昴』について行くことにしたのであった。




